ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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ゲーム開始前のファイヤー寮寮生達
「やっぱりラズ先輩は俺達の自慢の寮長だあああああああ!!」

同士討ち解禁後のファイヤー寮寮生達
「おいおいおい、やっぱりラズ先輩は俺達の敵だったんだあああああ!!」


第44話:蒼穹が裏切りに染むる時

 ※※※

 

 

 

『ねえ、なんか遠くからすっごい悲鳴が聞こえてくるデスよ!?』

『……煙が上がっている。移動中の救護ロボロトムが5台確認できた』

「……どうやら最悪の事態が起きてしまったようね」

『黄色の生徒達が集まって、あちこち探してるデース!!』

「ありゃ私達を探してるんだわ。絶対気取られるんじゃないわよッ!!」

『1人、身を隠しながら接近してきてる奴がいる。遮蔽物が邪魔で撃てない。だがあいつは確か──』

 

 レモンは時計を見て歯噛みした。

 残り制限時間は15分程度。それまでに残っていた寮生の人数が多かった陣営の勝利となる。

 それまでにいずれかの寮の生徒が全滅すれば、もっと早くゲームは終わる。

 やり過ごせば、このまま無事にゲームは終了する。

 

「他の面子も集めろ!! 他寮の生徒でも良い!!」

「もしかしたら、束でかかった今ならレモン先輩にだって勝てるかもしれねえぜ!!」

「俺ァバジルに浮気すっぱ抜かれたんだッ!! ちょっと5股しただけなのに!!」

「ゼラが居なけりゃ射撃部でエースは俺だったのに!!」

「俺、あの兎女に特許で先越されたんだ!! 許せねーッ!!」

「俺なんて学園の敷地で単車(モトトカゲ)で爆走しただけなのにしょっ引かれたんだぜ!! ひどすぎるぜ!!」

「私、ネイルが長すぎとか難癖付けられたのよ、レモンに!! あいつ前から思ってたけど何でも完璧でウザいのよ!!」

「今ならレモン先輩を斃せる!! あのいけ好かない顔に一杯食わせられる!!」

「推薦組を潰せ!! レモン寮長を潰せ!!」

「潰せ!! 潰せ!! レモン寮長を潰せ!!」

「奪え!! 奪え!! ハタタカガチを奪え!!」

 

 そんな声がサンダー寮生の集まった場所から発せられているが、幸いイクサ達の聞こえる場所ではなかった。

 此処まで来れば勝利も何もレモンには関係無い。ひたすら無事に終わらせればいい。

 他寮の生徒が合流からの総力戦を重きに置いたのに対し、ひたすらレモンは生存と隠密に重きを置いた。

 これが結果的に余計な敵を寄せ付けなかったのである。

 

(これでやり過ごせば良い……ッ!! 今のままでは動くに動けない……ッ!! この状況で寮生に私を討たせるのは最の悪だわ……確実に()()響くッ!!)

 

 

 

 ──しかし。それは逆に、別の脅威を呼び起こすことになるのだった。

 こちらがやり過ごそうと思っていても、運営側から動向は筒抜け。

 

『──ッ!! な、何デス!? 変なニオイがするデス……!! ッて何デスかあれ!?』

「どうしたの!?」

『く、臭い匂いと共に、ヘドロ!! ヘドロの海がこっちにくるデース!!』

 

 こちらの隠れ家を狙うようにして汚泥が迫ってくる。

 あまりにも唐突に現れたそれに一行は困惑を隠せなかったが、鼻を強く摘ままなければ正気が保てないような匂いが間もなく漂って来た。

 全員は思わずその方向を双眼鏡で確認すると、それがずるずると独りでに動く”生物”であると認識する。

 

「うげぇっ!! 何だこの匂い!?」

「鼻が曲がるーッ!! おかしくなるーッ!?」

「……こ、これは、ヤバいのデース!!」

「……正気を保ちなさい! 間違いなく敵よ!」

 

 生物の死骸が腐ったような悪臭だった。

 思わずイクサも叫んでしまうほどである。

 

(まさかこれ、ポケモンか!? 特性が”あくしゅう”の……!!)

 

 そう彼が推測するまでもなかった。

 間もなく答え合わせと言わんばかりに、その近くには黒い装束の生徒が一緒に歩いてくるのが見える。

 

 

 

「いーひっひっひひひひいひぃーっ、そろそろ推薦枠の誰かが裏切ると思ったんですがあ、流石ぁ、レモン寮長おおおおお、人選は完璧でしたねえぇえええ!?」

「この不愉快極まりない声は……ッ!!」

「でもまさかぁ、このままゲームを穏便に終わらせよう……だなんて思っちゃないでしょぉおねぇぇえ、いーひっひひひひひ……ッ!!」

 

 

 

 不気味なノイズ混じりの笑い声が響く。

 黒いフードの下から伸びているのは、ノズルとゴーグル。即ちペストマスクだ。

 その素顔は分からない。だが、ひたすらに嫌悪感と不気味さを感じさせる。

 それを見たデジーは、鼻をつまみながら叫んだ。異臭が既に辺りに充満しきってしまっていた。

 隠れ家から出てきた彼らは、巨大なヘドロの海を前に驚愕することになる。

 

「出てきたわね……バンデット、いえ……生徒会執行部、幹部格」

「あんたは……確か、書記のグローリオ先輩……!!」

「いいいいーっひひひひひひ、お久しぶりですねえええ、デジー君……ッ!! まあ今日はぁ、貴女に用があってきたのではあああ、ないのですけどねえええええ!?」

 

【技術科3年”生徒会書記”グローリオ】

 

 不気味な笑い声を辺りに響かせるグローリオ。

 この学園に於ける生徒会幹部は寮長クラスと同級とされる。

 レモンと張り合えるかどうかはともかく、少なくともラズやシャインとは渡り合えると見做されているのだ。

 その中でも特に厄介極まりないと言われているのが、このグローリオだった。

 

「うう、ボク、あの人苦手ーッ!! てか、生徒会の上層部は皆苦手だーッ!! くっさ!! 何これ!?」

「ああ、申し訳ない!! わたくしのベトベトンの匂いですねええぇぇえええ? ちょっと独特ですが、クセになるでしょおぉおおおお?」

「げぇっ……吐きそうだ……!!」

 

 イクサは最早立っていられなかった。

 そして視界を上に挙げると、グローリオの背後にあるヘドロの海に巨大な眼球が浮かび上がっているのが見えた。

 成程、あれがベトベトンの「目」なのだと理解して更に気分が悪くなる。

 

(ベトベトン……!! 体力と攻撃と特防が高い毒タイプで……、うげぇっ、ヤバい、匂いで鼻が曲がる、気持ちが悪くなってきた……!!)

 

「レモンさん、何なんですかあの人……ッ! おえっ、鼻が曲がる」

「製薬会社の御曹司よ。あんまり評判が良くないところのね。あいつの親、昔ミッシング・アイランドとか何とかそんなところにいたみたいよ」

「御託は結構おおおおお、わたくしぃ、プレイヤーキラーですのでぇぇぇぇぇ? 貴方のポケモンを頂戴しに参りましたあああああ」

「残り時間が少なくなると見るや否や、直接獲りに来たわね」

「はてはてええぇぇええ? 何の事でしょおかぁああああ? 私はああああ……プレイヤーキラー、たまたま近くに居合わせたのが貴方達というだけですよおおおおお、いーひっひひひひひひぃーっ」

 

 これで完全に生徒会の目的がゲームの名の下に合法的にオーデータポケモンをせしめることが目的であったことが明るみになった。

 尤も、これでも彼らは白を切るだろうが──

 

「いーっひっひひひひひぃぃぃーっ。残り時間を楽しみましょう、有意義にねぇぇえええ」

「……たかがベトベトン1匹で、どうするつもりかしら」

「こっちは5匹、そっちは1匹、幾ら何でも戦力差が大きいけど、何か裏があるのか?」

「勿論! 何も無しに来るわたくしではないのでぇぇぇええ、いーひっひひひひ」

 

 巨大なベトベトンに──グローリオはオージュエルの光を翳す。

 そして、彼の手にはオーカードが握られていた。

 今この場に出ているベトベトンのオーカードだ。

 

「ッ!? 待って、何をするつもり!?」

「ご存じでしょうがぁぁあ、同じポケモンのオーカードを使ったらどうなるか、聞いておきましょおおお」

「確か()()()()()()()、ですよね? レモンさん」

「ええそうよ。赤色に赤色を重ねても赤色のまま。赤い光に赤い光を当てても赤い光のまま。何も変わらない」

「それが今までの定説ですねぇぇぇええええ。しかし、これがオーライズを超えたオーライズ……その名もギガオーライズぅぅううううううーっっっ!!」

「!?」

 

 ベトベトンの身体に鎧が纏われた──かと思いきや、更にその身体は肥大化していく。

 

 

 

「この強化版・ギガオーバングルと、同じポケモンのオーカードでぇ巻き起こす、化学反応ぉおおおおおおーっ!!」

 

【ベトベトン<ギガオーライズ> ヘドロポケモン タイプ:毒】

 

 

 

 最早それは鎧なんてものではない。

 ベトベトンを更に一回り醜悪にしたかのような巨大な怪物だった。

 

「ギガって何だよ、ギガって!?」

 

 イクサは驚愕した。オーライズに”その先”があったことも、そしてそれが今までのオーライズとは異なるものであることも。

 そもそもオーライズとはあるポケモンに別のポケモンのタイプと特性を重ね合わせて変化させるためのギミックだ。

 しかし、今このベトベトンは自身と同じオーカードでオーライズをした。つまりタイプと特性が変わらないなら、そもそもオーライズをする旨味など無いはずなのである。

 現にイクサも試したことがあったが、何も変化が無かったことを思い出す。

 

(もしかして、もしかしなくても、ゲーム的にはタイプ一致テラスタル……みたいなもんか!!)

 

 ギガオーライズとやらの詳細は分からないが、此処で自分達が使う事が出来ないギミックであることは確かだった。

 一先ず取る行動は1つしかない。ベトベトンは巨大だが、動きは非常に遅い。

 

「パモ様ッ!! 臭いだろうけど……”オーラジャミング”!!」

「ぱももももっ!」

 

 強烈な電磁波がベトベトンを襲う。

 しかし──効いていない。

 オーライズによって生み出された鎧を分解し、オシアス磁気の粒子へと還すオーラジャミングが全くと言って良い程通用していないのだ。

 

「な、何で!?」

「──ギガオーライズにはぁぁあああ、”オーラジャミング”なんてものは効きませぇぇぇええん」

「……イクサ君、気を付けて。こいつのギガオーライズとやら、今までの私達の常識とは大幅に違うわ」

「会長は……このゲームをギガオーライズの実験場にするつもりだったんだ……!!」

「だからギガって何なんだよギガって!!」

 

 ベトベトンは巨大な腕を振り上げる。各自はそのまま散り、ターゲットを分散させることにした。間もなく周囲はヘドロに覆われる。

 悪臭が更に拡散していく──

 

「何でも良い、こいつさえどうにか出来ればゲームセットよ。ハタタカガチ!! ”10まんボルト”!!」

「ムダですよぉお、いーっひっひっひひひひぃーっ!! 私のベトベトンに、そいつの電撃が何処まで効くやらぁあああ!!」

 

 雷がベトベトンに落ちる。

 しかし、その巨大な身体はあっさりとあのハタタカガチの電撃を受け止めてみせる。

 

「こいつ、細工したわね……!! 大方、ドーピングアイテムでも使ったのかしら」

「何のことでしょぉぉおおおおーっ!? いーっひひひひひーっ!!」

「此処であいつに何を糾弾しても無駄デスよ! って、ああ!」

 

 双眼鏡で周囲を確認したバジルが大声を上げた。

 周囲から一般生徒達が迫ってくる。騒ぎを聞きつけてこちらへやってきたのだ。

 当然狙いはレモンのハタタカガチである。

 

「や、やべーデス、レモン!! サンダー寮の寮生達が迫ってくるデス!! 他の寮の生徒もちらほら見えるデス!!」

「……ッこんな時に!」

「手分けをしましょう。それしかありません」

 

 言ったのは──イクサだった。それを肯定するようにレモンも頷く。

 

「ゼラ、バジル。後ろ、頼めるかしら」

「……おやすい御用デス!!」

「御意」

 

 すぐさま、サンダー寮最強コンビがその場を離れて、敵の群れが迫る戦地へ飛び出す。

 そして、残るはイクサ、デジー、レモンの3人。

 対するは巨大なギガオーライズベトベトンであった。

 

「大した信頼ですねぇぇええええ。いーっひひひひぃぃいい、風紀委員長の人徳がなせるのでしょうかぁああ?」

「ハッ、そんなんじゃないわ。物事は、もっとシンプルなのよ」

「しかし、他の寮はそうではなかったようですよおおおお?」

「ッ!?」

 

 ドローンロトムが二台、空中から降りてくる。

 そして、映写機のように空中にホログラム映像を映し出した。

 そこにあったのは──ボロボロになって倒れるラズ、そしてシャインの姿だった。

 服が燃え、焼け焦げ、火傷だらけのラズ。

 そして身体の一部が凍り付いているシャイン。

 その両者が、誰から攻撃を受けたかなど明白だった。

 

「ッ……ウソでしょ!? ラズさんに、シャインさんも……!」

「ひどい……こんな……!」

「……これはどういう事かしら」

「おっとぉおお、行間を読めというのは、一般人には難しかったですかねぇぇええ、はい巻き戻し」

 

 リモコンのスイッチをポチポチと押すと──映し出されたのは目を疑うような凄惨な映像だった。

 

『ラズ寮長を潰せぇぇぇーっ!!』

『シャイン寮長を引きずり下ろせぇぇぇーっ!!』

『おい!! このボールは俺のモノだぞ!!』

『痛いッ!! やだ、髪が焼けてッ……イヤぁあぁああああ』

 

 この世の地獄だ。

 ラズとシャインを集団で襲い、叩きのめす寮生達。

 そして、ラズは一切の反撃をせずに、アマツツバサはすぐに陥落。

 その後、寮生同士でそのボールを奪い合う内戦に発展する。

 一方のシャインは、抵抗こそしたものの、結局は力尽きてしまったようだった。

 その光景を見て、レモンは立ち尽くす事しかできなかった。

 

(これ、ラズを攻撃したの、側近のあいつよね……!? シャインへの謀反を扇動したのは秘書の子じゃない! どうなってるの!? ()()()()()、寮長を裏切ったって言うの!?)

 

「バカね……戦うって言ったじゃない……ライバルって言ったじゃない……貴方達が、こんなの、あんまりだわ……!」

「如何だったでしょうかぁぁああ? これが人間の本性! 人間とは切っ掛けがあれば、いとも容易く裏切る生き物なのですよぉおおおお!? いーひっひっひひひぃーっ、貴方達も、裏切ればハタタカガチが手に入るかもしれませんよ?」

「ッ……!」

 

 びくりと肩を震わせるレモン。もしも、の可能性が彼女の足をすくませる。もし、今彼らが裏切ったら、と嫌な想像が浮かんでしまう。

 倒せるか倒せないかだとかそういう問題ではない。きっと、もう何も信じられなくなってしまうという恐れが浮かぶ。

 

「裏切りません」

 

 しかし、疑わせなどしない、とイクサは彼女の肩を真っ先に掴んだ。

 確かに言いたい事は沢山ある。怯えで手は震えている。

 凄惨な裏切り、そしてシビルウォーを前に、彼はトラウマがぶり返しそうになったくらいだ。

 だがそれでも今は、隣に居る彼女を安心させてやりたかった。

 

「……僕は、レモンさんの騎士(ナイト)ですから」

「ッ……」

 

 イクサは前に踏み出した。顔を曇らせる彼女の肩に手を置き、宣言する。

 それを聞いて、デジーも自信たっぷりに笑ってみせる。お前の言う「本性」などクソ喰らえだと言わんばかりに。

 

「そーだねっ。強がりで見栄っ張りで、後小言がうるさいし、腹に幾つも物持ってるし、何なら転校生を独り占めしようとしてるのが気に食わないけど……可愛くて強い私の寮長さんだもん」

「……貴方達」

「自信持ちなよ、レモン先輩!」

 

 デジーは彼女の背中を叩いた。

 

「ボクは……先輩に受け止めて貰ったの、とっても感謝してるんだからねっ。こうやって、生徒会の幹部にリベンジする機会も貰えたし?」

「ゲームに勝利して生徒会の思惑を砕くんでしょう? ……そう言って下さいよ」

「……そうね。こんなふざけたゲーム、ささっと終わらせてしまいましょう、二人とも!」

「いーっひっひひひひひいぃ!! まさかまさか、この私に勝とうだなんて思ってるんじゃあないでしょうねぇぇえ?」

「勝てるよ。()()()()()()()()()()()()。学園最強の寮長に鍛えて貰ったから」

 

 イクサは隣に居る彼女の手を取る。無意識ではあった。だが、彼女を守ろうという思いが自然とそうさせたのだ。レモンも迷わずそれを握り返す。

 

 

 

「──パモ様……いけるよね?」

「ぱももももっ!!」

 

 

 

 ──オーデータ・ロワイヤル、最後の攻防戦が始まる。勝利条件は、残り10分の攻防を制する事だ。

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