【閲覧注意・長文】何度も言わせるな 傑はおそらく遺書を遺して呪詛師討伐後に自殺した

  • 11/225/12/14 14:30:37

    今朝から任務に向かったはずの傑から、出発直後に変なテンションの電話があったんだ。

    「おとといの夜からきのうの朝にかけて、見てはいけないものを見てしまった。
    むやみに言い触らすといけないと思われることなので、自分の判断で最善を尽くそうと思う。
    自分がどうにかできなかった場合は、学長(おれ)と悟に対応を願う」

    明らかに傑の言い方が普段と違ったので、同行しているはずの補助監督に俺から連絡を入れた。
    ……気の毒に、その補助監督もひどく慌てていたぞ。
    傑は「極秘任務に切り替わった」という名目で本来の任務先とは違う場所にその補助監督ごと飛んで行き、
    元の任務とは全く関係ないはずの知らない女と、かなりハイレベルな交戦を開始したところだったらしい。
    「補助監督は巻き込まない形で帳が降ろされたが、帳の中がどうなっているかは外から分からない」という話だった。

    悟(お前)に電話が繋がらなかったので俺だけ現地に先着したが、その頃には、おそらく帳の中の戦闘は終わっていた。
    傑の呪力や呪霊を閉じ込める方向に強化された帳で、傑の残穢と、おそらく女の残穢、それから傑の呪霊がひしめいていた。
    呪霊には一切主従関係がないようだったから、傑の生命は……、おそらくそういうことだな。


    俺の呪骸はいくらでも出入り自由だったから、それを通して帳の中を見たが、……どう考えても人の亡骸らしいものが残っているような状況ではなかったぞ。
    帳の中央部に『遺書在中 この土の下 夜蛾先生と悟へ』と彫られた鋼板の杖が刺さっていて、呪骸を何体か使い潰してなんとかそこだけ掘り出させた。
    掘り出せたのはこの鋼板プレートだ。普通の工業製品を入手し、なんらかの呪霊を活用して文字を彫り込んだんだろう。

  • 22/225/12/14 14:31:42

    『2人へ
    かなり嫌な予知夢を見ました。人に伝えると全呪霊に離反されて生命に関わるという直感があるので、命懸けで書き遺そうと思います
    これを埋めた後、遠からず自分は呪霊に襲われて死ぬはずです。出来る限りのことはしました。後を託します

    この遺言を恩に着るのであれば、夏油家の両親の保護を頼みます。呪霊操術を生み出した家系は、今後はより危険視され狙われるはずです

    悟へ
    これからできれば五条家当主以外にも広く情報が入るような役職を持ち、宿儺の指か宿儺自身を無害化または無力化する方向を探り続けて下さい
    天元様の同化を妨害した黒幕と復活したい宿儺がつるんでいます

    夜蛾先生へ
    天元様に極秘で「天元様が同化を行えなかった場合、呪霊操術の対象になるのではないか」を問い合わせてください
    今後、同様の術師が生まれた場合には「天元様の同意がない限り術式の対象とせず、死後遺体もまともに残さない」代わりに「術師として生存を保証する」縛りを制度として確立するのが一番穏当な気がします
    この直感も稚拙で穴があると思うので、ブラッシュアップはお任せします
    同化を妨害した黒幕は遺体泥棒が即強化になる系の術式持ちです。先ほど倒せはしましたが、こいつを一度倒せば解決なのか確証が持てません』


    ……俺は、今から夏油の親の保護と天元様への問い合わせに動く。

    悟、お前には即座に現地の帳の確認と呪霊の跋除を頼みたい。
    かなり酷な指示だが、……下手な1級術師でもやられるようなレベルの呪霊が、何体も何体も、狭苦しい帳の中にひしめいてるんだよ……。

  • 3二次元好きの匿名さん25/12/14 14:44:10

    悟が夜蛾からの電話に即応できなかったことを、あとから死ぬほど後悔する世界線の話
    もしくは、呪詛師ヤった後に何故か速攻自決した傑の思考について、予知夢関係で何かの縛りを受けたのか延々と考え続ける世界線の話

  • 4二次元好きの匿名さん25/12/14 14:51:46

    夏油は羂索に死体遺さなかった最善を尽くしてて立派だね

    五条が即電話に出てりゃあな
    あーあ一生後悔するんだろうね

  • 5二次元好きの匿名さん25/12/14 14:57:19

    自己犠牲の夏油と後手後手の五条夜蛾

  • 6二次元好きの匿名さん25/12/14 14:59:11

    ボロボロになりながら杖を土に挿す夏油の描写だけ先に思いついたから、ひとまず2レスかけて長文で書き出してみた
    まだその後のストーリーまでは書き出せない
    誰がどう考えてどう動くとかで箇条書きにできる以上のものを思いついたら、それも後でSSにしてみたいな

  • 7二次元好きの匿名さん25/12/14 15:09:27

    これからのこと

    五条と夜蛾は夏油が最後に交戦した呪詛師(=香織)を徹底的に調査する
    →記録上香織の死「後」に生まれたことになってる幼児の悠仁を発見、体内に宿儺の指を宿した檻だと即見抜いて、倭助と一緒に即保護
    →夜蛾・五条とも、利用されたこどもと老人を即殺するメンタリティじゃないので(高専ではなくおそらく五条家内で)生かすはず

    ……ここから話が繋がらん
    どうしようかね‥‥‥?

  • 8二次元好きの匿名さん25/12/14 15:29:41

    鋼板に遺書を彫って埋めたのか

  • 9二次元好きの匿名さん25/12/14 16:15:47

    俺は悟さんの家で、爺ちゃんと一緒に守られながら育った。
    呪術の現場には出れないけれど、現場で起きるかもしれない悲惨な物事と、悲惨な物事をどう防ぐかについては叩き込まれながら。
    俺らの身の上とは関係ない「完了済み」の任務の末路は、開示できる範囲でもいくらでもあるお家だったから、教育材料は困らなかっただろう。

    爺ちゃんは資料を読ませられて震えあがって、ずっと俺が現場に出ることに強硬に反対し続けた。
    それでも強くなりたい俺についに折れて現場に出してもらえるようになったのは、俺の10歳の誕生日の翌日だった。
    「強くなりたい者へ、魂を曲げさせるような振る舞いは、それはそれで御法度だから」と、悟さんは爺ちゃんに言ったらしい。

    俺は、高専に入学するまでは悟さんと恵が一緒についてくる任務でしか出させてもらえていなかった。
    悟さんがそうするべきだと判断したのだから、たぶんそれで正しい。

    知るべきでない相手に知るべきでないことが伝わった場合、ここの業界ではかなり悲惨なことになる。
    力量を正確に測れない者が力量の及ばない相手に対峙した時も、それはおそらく同じこと。

    高専に入学して2ヶ月が過ぎた頃に爺ちゃんは病死した。
    最期に俺しかいない場所でぼやいた。

    「悟さんは善人で、俺らは立場の割にかなり恵まれたんだろう、そのこと自体は絶対に忘れるなよ。
    ただ、俺達が保護された時に悟さんに言ったことを、お前にも言っておこうと思う。
    1000年の間、誰にもどうしようもなく放置された物のツケが何故かお前に及んでいる、その程度の業界にお前は遺される、……そのことも忘れるなよ」

    俺は呪術高専東京校1年 虎杖悠仁
    表向きは『夏油傑さんが最期に交戦した呪詛師の息子』兼『術師の見込みがあるので五条悟が内弟子にしたヤツ』
    爺ちゃんが死んだ日、俺の周りに血縁のある身内は誰も居なくなった。

  • 10二次元好きの匿名さん25/12/14 16:30:09

    書けるかどうか分からないなりに一応ストーリーらしきものは思いついたので、当面の間は折を見てスレを保守してもらえるとありがたいです
    スレ主の環境は割と規制を受けがちなので

  • 11二次元好きの匿名さん25/12/14 16:36:46

    五条家で育ってるし伏黒とも顔を合わせてるからこの場合、悠仁と恵は幼馴染って事になるのか…?

  • 12二次元好きの匿名さん25/12/14 16:40:01

    宿儺の指飲んでないなら呪力無しで色々厳しいと思うがそこはどうしたんだ

  • 13二次元好きの匿名さん25/12/14 16:47:04

    >>12

    真希さんと同じルートかもね

  • 14二次元好きの匿名さん25/12/14 16:50:45

    爺ちゃんと仁さんが普通の人間だったっぽいこと考えると虎杖の身体能力も羂索の改造(宿儺の指込)由来だからな

  • 15二次元好きの匿名さん25/12/14 17:22:33

    これってもしかして前スレとかがある感じ?めっちゃ面白いからあるなら見たいです!

  • 16二次元好きの匿名さん25/12/14 17:25:31

    メロンパンはどこに潜伏してるんやろか…

  • 17二次元好きの匿名さん25/12/14 18:57:42

    夏油の遺書では羂索は倒したらしいけど脳が無事なら生首でも元気な奴だから一旦倒されたフリして夏油の死後に何とか呪霊ひしめく帷から脱出した可能性もあるんだよな…

  • 18二次元好きの匿名さん25/12/14 20:12:55

    >>15

    このスレと同じ世界線の他スレがあるかという意味のお尋ねなら、答えは「残念ながらなし」です

    ただ他の方が書いたスレで、未来予知を受けたと思しき夏油が思わせぶりに殉職をした系統の複数のスレがインスピレーションの元にはなりました


    これまで、リアルで休職したり失職したり復職したりしながら、調子がいい時にSSを書いてきました

    スレ主が書いたものと客観的に証明できるものはないけど、「他にSSスレを書いたことはある」とは答えさせてもらいます


    現時点ではフルタイム労働者かつ調子が悪い時にエターする可能性が多分にある状況のため

    そういう意味でも「書けるかどうか分からないなりにストーリーらしきものは思いついており、折を見て保守して頂けると助かります」という言い方になっているので、このことは重ねて断言させてもらいます

  • 19二次元好きの匿名さん25/12/14 20:40:12

    おもしれぇ〜スレだ……

    今回は高専夏油が予知夢をって展開で進んでるけど、
    離反後夏油もしくは離反直前の夏油が予知夢みてたらまた話変わりそう

  • 20二次元好きの匿名さん25/12/14 20:42:28

    (違う世界線の話で、スレ主が最近立てたと客観的に証明できるSS関係スレが1スレだけあるので、それは御紹介します
    ただこれは再掲載&挿絵募集スレで、元SSスレのスレ主だとまでは客観的に証明できない状況ではあるので、それは御承知おきください

    きのう別スレにて、このカテではスレ主を名乗った挿絵募集はもうしないと明言しています
    他所様のスレでこの挿絵募集スレを持ち出すと感覚的にマジ鬱陶しいと感じる現況です
    少なくとも当スレが現行かつ「この」レスが読まれて認識できている内は、雑談スレを含む他所様のスレで挿絵募集スレの話題持ち出しは控えて頂けますと助かります

    当スレ内では話題に出すことまでは禁止しません
    スレ主が恐れるのは「募集を終えた話題が『他所様のスレ』で何度も擦られて話題に出されること」ですので、そういう意味でルール化させて頂きます
    上記御理解下さい)

  • 211/225/12/14 22:43:39

    『その日』の内に行われた後付けの誤魔化しと、急に大事に巻き込まれた大変気の毒な小心者の補助監督の話をしよう。

    夏油傑の殉職は、『天元様からの極秘任務』を『学長の夜蛾経由で受けた』結果、『極秘で討伐するべき呪詛師と戦って相打ちになった』ことになった。
    天元と夜蛾正道と五条悟が全員で口裏を合わせて考えたストーリーは、それがあるべき『正史』になった。

    夏油に同行していた補助監督は、遺品たる鋼材プレートの文面は全く読んではいない。
    ただし、帳の外側からプレートを呪骸に発掘させた夜蛾が、視界共有で即座に顔色を一変させた様子は見ている。
    夜蛾は「申し訳ないが、今の君には教えられない重大事案が起きた」とだけ言ったので、特級術師関係でロクでもない事態が起きたことだけは把握した。

    当日中に、その補助監督は、夜蛾と五条の念入りな監督の下で、夏油が相打ちで討伐した呪詛師『虎杖香織』の調査に着手している。
    呪詛師『虎杖香織』の身元はすぐに割れたので、夜蛾と悟と無理矢理つき合わされた補助監督は、その呪詛師の自宅に直行した。
    呪詛師の義父ということになってしまった『虎杖倭助』は、突然押しかけた3人に極めて協力的で、おまけに『香織』の『没後の所業』について重要な証言を行った。
    『香織』が生んでしまっていた息子という『虎杖悠仁』は、祖父と共に、悟の判断で即座に五条家に保護された。

    夜蛾と悟は続けて天元のところで『将来産まれるかもしれない呪霊操術使いへの対応』を話し合おうとして、……そこで、忌庫番の『誰だコイツ』という怪訝そうな視線を受けた補助監督は、あまりの話題に遂にキャパオーバーした。

    「こんな話題を知ったまま高専に在職したくありません!! このまま付き合わせるならいっそひと思いに死なせて下さい! それか全部忘れた状態で退職させて下さい!!」

  • 222/225/12/14 22:45:08

    だから、縛りの言い出しっぺは、事態の重みに耐えかねて、忌庫番の妙な視線を浴びつつ、薨星宮の手前で失禁しながら学長の足に縋りつき、強者2人に精一杯懇願した補助監督の方。
    決して夜蛾や悟が『忘れるか死か』を強要したわけでなく、どう見ても補助監督側の発案で縛りは結ばれた。

    ――夏油が殉職した任務に同行し始めた時から、退職を懇願する直前まで、その間に起きたこと全てを忘れる。
      思い出す条件は、夜蛾正道と五条悟が、呪術高専東京校の学長室内で「夏油傑が殉職した任務の一切を思い出せ」と2人同時に言った時。

    特級術師が殉職する事案に関わったことと、自分が忘却したくて恐ろしくて「忘れさせろ」と騒いだことそれ自体は覚えておく趣旨の縛りだった。

    かくして補助監督は即座に退職して、一般社会に転職した。

    夜蛾も悟も、その補助監督のみっともない態度のことと、その結果交わされた縛りの内容を、意図的に正確に言い触らした。
    だから、その『元』補助監督は、呪術界で何かしら価値を見出されることはなく、争いにも巻き込まれず、記憶狙いの襲撃を受けることもなかった。
    たまに夜蛾か五条から間接的な安否チェックを受ける程度の、その程度の小市民として生を全うしている。

    退職した当人は、もちろん、何が起きたか決して思い出そうとはしなかった。至極当たり前の帰結である。

  • 23二次元好きの匿名さん25/12/14 22:53:18

    >>8

    ええまあ

    紙に書くと呪霊に速攻やられそうなんで


    鋼材に刻んで埋めるのも実は博打です

    地中を掘り返して物を壊す系をやる呪霊がいたら、遺した文が誰にも伝わらずにアウトでした

  • 241/525/12/15 00:31:02

    「今はとにかく休め七海
     任務は悟が引き継いだ」

    「……もう、あの人1人でよくないですか?」

    あるべき運命が変わったのは、その後輩の『殉職』があって幾日か経った頃。
    特級術師夏油傑が、地図にも載らないど田舎の任務に派遣されるはずの前の晩のこと。

    ――仲間(じゅつし)の屍を生まないような手立てがあればいいのに、なんて、取り留めないしかし強い思考を思いながら床に就いたこと。


    それは本来その『世界』の中であるはずのない情報だった。
    誰かの目線、夏油傑ではない何者かになった。
    あるはずのない漫画本31巻+派生本3巻分を夢中になって隅から隅まで一気読みする、そんな夢。

    公式ファンブック/逝く夏と還る秋/夜明けのいばら道/0巻/1巻~30巻

    夢の中で、夏油は夏油ではない何者かになっていた。
    どうしてか分からないけれど、高専生ではない『誰か』になった夢。
    とにかく「すべてを読まねばならない」と思いながら、それしか考えられない境地で、インクの香り湧き立つ紙の単行本のページをめくった。
    集英社刊行、芥見下々著の何もかもを吸収するつもりで、隅から隅までを覚えようとした、夢の中ではそれが正しいと思った。

  • 252/525/12/15 00:32:24

    夢から覚めた時、『本来見てはいけないものを見た』と思った。
    何もかも伝えてはいけないのだと直感した、それは世界を歪ませることだった。

    併せて、この記憶を丸ごと抱えたまま生きてもいけないと思った。
    世界の中で『あの記憶』を抱え込んだまま生き続けることは、同様にこの世界を歪ませる事だった。


    特級の呪術師の命を捧げてできる範囲のことは何だろうか、と思索する。

    何がどうあろうと猿(ひじゅつし)は嫌いだ。
    でも、あの『知ってしまった』漫画本の通りに破綻して、2017年に親友(さとる)の手にかかって死にたくは無いと一番に思った。
    それが巡り巡って悟のあんな死に方に繋がるのだと知ってしまったから。

    夢を見て目覚めた朝、その日。
    当初指令された通りに旧■■村に行き、漫画の筋書き通りに幽閉された双子を発見して、しかし村人は殺さずに双子を高専に繋げた。

    「君たち、私を大恩人だと思うのなら、私が言うことを丸ごと覚えてほしい
     明日の夕方よりも後、夜蛾という先生に『だけ』そっくりそのまま伝えるんだ、いいね?
     夜蛾先生に『だけ』伝えてほしいことがあると言えば、先生は誰も聞き耳を立てられない場所を用意してくれるから
     ……伝えてほしいことはね、『枷場菜々子と美々子は呪術の恐ろしさだけを教え込んだ上で呪術界から遠ざけるべき双子です、少なくとも夏油傑のことは追いかけさせないようにしてください』
     そういう伝言なんだ、……詳しいことは話せないんだ、……ごめんね……」

    伝言の内容があまりにもあまりな内容だったのでえらい嫌がられたが、それでも、最終的に双子はその伝言を了解して『縛り』を結んでくれた。
    本来、夏油傑のためにああいう無惨な死に方をした双子だからこそ情が湧いて、夏油傑は意図して運命を捻じ曲げた。

  • 263/525/12/15 00:34:08

    双子を高専に送り届けてから、高専の図書館に向かった。

    呪術高専にはその性質上、全国各地の色々な地図やら電話帳やらが単純に資料として集積されている。
    勉強熱心なふりをして東北近辺縛りの特級・一級呪霊関係の任務記録一式をごっそり借り出し、その中にただの資料の体で北上市・仙台市の番地付地図とタウンワークを紛れ込ませた。

    地図とタウンワークの中に取りあえず変な残穢がついてないことを確認してから、冊子を開かずに置いた。
    虎杖姓を認識して調べた瞬間相手に伝わるとか、いかにもありそうな話だったし。

    とりあえず高専と繋がりのある鉄鋼工場の電話番号を調べ、『今後の任務で必要だから』という理由で突撃し、自費で鋼板の杖と板を買った。
    呪術的に何の加工の無い頑丈な資材を買うだけの話だから、急な話でも工場側は何も言わなかった。

    寮の部屋の中で念のため帳を降ろし、手持ちの呪霊で鋼板に文字を刻めることだけは確認した。
    これが今生最期の睡眠になると覚悟して熟睡した。

  • 274/525/12/15 00:36:04

    すがすがしい朝だった。本来は東北の『と』の字もないような場所の任務に出る朝。
    夏油傑は補助監督の手を掴んで言った。

    「極秘任務に切り替わりました。予定とは違う場所に急行します、呪霊に乗ってください」「え!?」

    呪術高専所蔵のタウンワークには『電話番号』と『回線契約者の番地』が掲載されており、番地地図付の地図と照合すれば家の場所は分かる。
    高速度の呪霊に乗りながらようやく借り出した本を開く。

    北上市の方のタウンワークに『虎杖倭助』があることを確認し、番地から家の場所を当てた。
    だからその家がある辺りに小物の呪霊を先行してばらまき、『額に縫い目がある奴を見つけたら自壊しろ』と指示した。
    そして北上市内で『その女』を見つけた。夏油目線では、相手にとって非常に不本意であってほしいタイミングだった。

    抱え込んだ呪霊の中に鋼板を2種忍ばせていた。
    1つ目は『遺書在中 この土の下 夜蛾先生と悟へ』と刻んだ杖。
    2つ目は、ある程度の文字を刻んだプレート。
    『2人へ
    かなり嫌な予知夢を見ました。人に伝えると全呪霊に離反されて生命に関わるという直感があるので、命懸けで書き遺そうと思います
    これを埋めた後、遠からず自分は呪霊に襲われて死ぬはずです。出来る限りのことはしました。後を託します


    悟へ



    夜蛾先生へ



    戦闘前の段階では、これ以上の情報は遺せないと思った。
    彫るべき文章は練り上げている。願わくば『この女』を始末して、その後で、遺せる範囲の情報を遺して、……そして帳の中で、自分は。

  • 285/525/12/15 00:37:12

    不審がる恩師との電話を無理やり切りつつ帳の中へ駆ける。

    きっと、親友と恩師の中で、夏油傑はどこまでも『術師の使命に殉じた高専生』として遺るだろう。
    猿嫌いの側面はおくびも見せずに死んでいった、一般出身の割にとてつもなく強かった高専生として。

    ……それはそれで腹の立つことには違いない。
    ただ、そうしたペルソナへの憤りが、負の感情が、これから引き起こす『何かしら』の原動力になるのなら、それで良いとも思う。

    あの単行本のように遺体を弄ばされた挙句親友の死を招くような事態は、どうあっても嫌だった。

  • 29二次元好きの匿名さん25/12/15 00:40:04

    経験的に月曜0時代はアクセス規制を受けないので投下はできるのですが、それ以外の曜日では深夜帯更新は期待せずに頂けますと嬉しいです。

  • 30二次元好きの匿名さん25/12/15 03:12:19

    夏油が夢の中で現実世界とリンクして漫画という名の予知夢を見た感じか…
    上手く呪霊が夏油の遺体を跡形もなく消しとばしてくれたならいいが倒されたフリでそのまま遺体を持ってかれた可能性もあるのが怖い…
    奴なら縛りの穴を易々と抜けてきそうだし…詳しい記述はないけど吹き飛ばされた夏油の右腕が元通りになってたあたり多少の損傷ならどうにか出来そうだし…

  • 31二次元好きの匿名さん25/12/15 07:15:45

    普通にどうなるのか気になる世界線だ

  • 32二次元好きの匿名さん25/12/15 12:33:45

    保守

  • 33二次元好きの匿名さん25/12/15 18:34:39

    明らかな誤字を発見したので取り急ぎ

    タウンワーク:求人情報誌
    タウンページ:職業別電話帳
    ハローページ:個人別電話帳

    夏油が倭助の番地を調べるのに使ったのはハローページです
    うろ覚えで書くもんじゃないですね……

  • 34二次元好きの匿名さん25/12/15 19:00:54

    ひとつ謎掛けをしよう。


    1.『夏油傑』の肉体は、離反した呪霊達に喰われて完全に喪われた。
     帳の外から全く出ずに消え去って、ただのひとかけらも持ち出されることはなかった。

    2.『虎杖香織』の肉体もまた同じ。
     この世界において、以後、『虎杖香織』という女が生存しているように振舞うことはない。

    3.『五条悟』と『夜蛾正道』は、『虎杖香織』=『額に縫い目のある呪詛師』という情報を把握した。
     過去を辿る中ですぐ『加茂家に生じた御三家最大の汚点』の情報に行き当たっており、彼の名誉は『うかつにも、没後、呪詛師に乗っ取られてしまった術師』という看板に塗り替える形で僅かながらに回復された。

    4.『額に縫い目にある呪詛師』は、以後、この世界において、『五条悟』『夜蛾正道』が健在である限り、彼らの視界の中には出てこない。

    5.『羂索』は死んではいない。
     少なくとも公式ファンブックの74~75Pの記述とあからさまには矛盾せず、かつ、原作0~30巻中に出てくる有様とは間違いなく異なる形になっており、なおかつ、『死んではいない』。


    謎掛けはひとつ。
    上記1.~5.の文章が矛盾せずに全て成立する状況とは何か。

  • 35二次元好きの匿名さん25/12/15 19:06:21

    >>34

    1、2が過ちでなく、『虎杖香織』の脳のひとかけらも残らなかったのならそもそも『羂索』が『虎杖香織』に寄生していない……?

    けど虎杖悠仁は誕生しちゃってるんだよな

  • 36二次元好きの匿名さん25/12/15 19:18:40

    改めて誤字補正を含めて謎掛けを再提示しよう。


    1.『夏油傑』の肉体は、離反した呪霊達に喰われて完全に喪われた。
     帳の外から全く出ずに消え去って、ただのひとかけらも持ち出されることはなかった。

    2.『虎杖香織』の肉体もまた同じ。
     この世界において、以後、『虎杖香織』という女が生存しているように振舞うことはない。

    3.『五条悟』と『夜蛾正道』は、『虎杖香織』=『額に縫い目のある呪詛師』という情報を把握した。
     過去を辿る中ですぐ『加茂家に生じた御三家最大の汚点』の情報に行き当たっており、彼の名誉は『うかつにも、没後、呪詛師に乗っ取られてしまった術師』という看板に塗り替える形で僅かながらに回復された。

    4.『額に縫い目のある呪詛師』は、以後、この世界において、『五条悟』『夜蛾正道』が健在である限り、彼らの視界の中には出てこない。

    5.『羂索』は死んではいない。
     少なくとも公式ファンブックの74~75Pの記述とあからさまには矛盾せず、かつ、原作0~30巻中に出てくる有様とは間違いなく異なる形になっており、なおかつ、『死んではいない』。


    6.原作同様、『虎杖悠仁』は『虎杖香織』の没後の子=『羂索』が意図的に生み出した息子である。

    7.『羂索』の有様についての正解は原作の中には無く、呪術廻戦が連載されていた世界線における読者の考察の中に存在する。
     そういう意味で「独自考察に根付く形で、原作0~30巻中に出てくる有様とは間違いなく異なる形になっている」。


    謎掛けはひとつのまま、趣旨は全く変わらない。
    上記1.~7.の全ての文章が矛盾せずに全て成立する状況とは何か。

  • 37二次元好きの匿名さん25/12/15 20:07:15

    (考察・合いの手に応じて文章は増やすつもりでいます。

    御手隙の時に保守がてら何かしら書き込みを頂けましたら、スレ主のテンションが上がります……)


    今後のことを考えて作業用のwriteningページを作成しました。運用方針は当該ページ上部に記載の通りです。

    【SS投下ログ】何度も言わせるな 傑はおそらく遺書を遺して呪詛師討伐後に自殺した | Writeningこのページは以下のスレのSS投下ログです。スレ投下後、誤字etc補正済のSS本文をこちらに転記しています。 https://bbs.animanch.com/board/6003457/ 現状12/15 19:18投下36レス目まで転記済です。 なお、SS…writening.net

    自作の誤字脱字を確認するとすぐに修正したくなる+書き上げたものはすぐ投下したくなる気質です。

    誤字系指摘は大歓迎ですので御承知おきください。

  • 38二次元好きの匿名さん25/12/15 20:16:31

    >>36

    パッと思いついたのを深く考えないで打ち込んでるから申し訳ないけど呪物化→誰かに受肉なら縫い目はない羂索登場が可能とかいうやつ…?

  • 39二次元好きの匿名さん25/12/15 21:14:17

    >>38

    !! おめでとうございます!!

  • 40二次元好きの匿名さん25/12/15 21:44:33

    いちどだけ時系列は前後する。

    「ってな感じで、彼のことがだーい好きな里香ちゃんに呪われてる乙骨憂太くんでーす
     皆よろしくー!!」

    2017年のある時の、呪術高専東京校1年生の教室の話。
    元々4人いた学年に白服の転校生が1人増え、生徒が5人になったクラスのこと。

    「コイツら反抗期だから僕がちゃちゃっと紹介するね」


    「呪具使い禪院真希! 呪いを祓える特別な武器を扱うよ」「……」

    ひとりは鍛えてそうなポニーテールの少女。

    「呪言師狗巻棘! おにぎりの具しか語彙がないから会話頑張って」「こんぶ」

    ひとりは口元を隠した色素の薄い髪の少年。

    「パンダ」「パンダだ、よろしく頼む」

    ひとりは喋ることそれ自体をごく当たり前のように話すパンダ。
    そして残るひとりは――

    「で、最後は加茂憲紀! 君みたいにややこしい訳ありで、身体も心も6歳のまま成長が止まってる
     実年齢はもっと上の学年だけど、ひとまず今年からここの1年生扱いで面倒見てるよ! 総合的には学年イチ強い子かな? 友達になってあげてね!」

    日本史の教科書から取り出したように如何にも『平安時代の子ども』のような格好の幼児は、無邪気そうにニコニコと言った。

    「よろしくおねがいします!! 憂太さん! 里香お姉さん!!」

  • 411/225/12/15 22:59:36

    時系列は遡り、虎杖悠仁10歳の誕生日直前の頃の話。
    五条家内のある部屋で行われた、ある老人と当主の会話のこと。

    「色々ここで教わって、俺の頭が回らないなりに色々思うところはある。
     ちょっと本音ぶっちゃけていいか? 悟さんが心に留めておくかどうかは任せる」

    「どうぞ」

    「通称呪術規定だったか、正式名称がナントカの覚書だったか、あれ教わって読み解いた時、俺は『これは蛮族法だ』って思ったんだよ。
     なんつうかな、放っておくと強い奴のやりたい放題になりそうな存在について無理矢理的なアレだな、
     ……力づくで『とりあえずまあ世間様の迷惑にならないように範囲を決めて押し込めましょう』的なニュアンスで、……そういう意味さ、うまく言えるか分からんが」

    「……まぁ、うん、意味は伝わってる、……のかなぁ?」

    「悟さん、……アンタたぶん『なろうと思えば暴君になれる』んだよ、たぶん地球全体のスケールでな、全人類相手の暴君になりうるんだろ、アンタの力は。
     アンタにとっては、窮屈な場所にひとりだけ置き去りにされちまった形になってねえか?
     亡くなった夏油傑さんのあの遺言は、アンタを無理矢理『人類を害させない方へ押し込める』方向づけに向かわせてしまってるんじゃないだろうか」

    「…………、そうだね、その通り」

  • 422/225/12/15 23:00:47

    「で、あの『香織』とやらが生きてるか死んでるか分かりゃしねぇ。
     ただ、アンタの横に並び立つ夏油さんと相打ちになったというなら、それはきっとアンタと同じ『なろうと思えば暴君になれる』スケールの相手だったんだろ。
     将来、順番通りに行けばいつか必ず俺の方が先に死ぬ。俺が何か力になれるとも思えねぇが、ともあれ、悠仁はそういうえげつないレベルの色々渦巻く世界にひとりきりだ」

    「うん」

    「ただ泣き言として願わせてくれ。『現場に出たい』ってアイツ自身が言ってて、悟さんがその背中を押すんなら俺は止められる余地は無ぇ。
     いつか、いつかだ、……万が一、もしも悠仁(あいつ)自身の心が折れて、本当に終焉を願うような時があったとしたら、悟さんだけはどうかそれを聞き入れてほしい」

    「……。『あの子を生かしてほしい』とは言わないんだね」

    「そんな『死んでさえいなけりゃマトモに生きる道がある』的なお花畑な業界で生かされてる自覚は無えよ。
     俺が言ってるのは『安らかな死』か『より悲惨な死』の2択を突き付けられたときの安楽死的な選択権の話なんだよ。
     そういうことが有り得る地獄の中に、アイツは生まれた時から引き込まれてた。そうじゃないか?」

    「うん」

    「言っとくがな、アンタを何かしら縛り付けるつもりで言ってるんじゃねぇよ、単なるジジイの泣き言だ、……聞き流すかどうかは悟さんが決めること。
     俺ごときが魂をすり潰して必死で願ったとしても、ちょっとでもアンタみたいな相手を縛り付けられるものなのかよ?」

  • 43二次元好きの匿名さん25/12/15 23:19:54

    追加の謎掛けをしよう。
    しばらくの間正解かどうかは明言しないという前提で、それでも追加の謎掛けをしよう。

    原作中には絶対に正解がないと明確に言い切った上で。


    1ー1.最初の謎掛けの後にわざわざ『2017年の東京校1年の教室』を描いた意味はなぜか。

    1-2.六眼は、『生命の危機を脱するための縛りで深刻に将来に支障を来した永遠の幼児』と『1000年生きた末、誰よりも巧妙に魂の奥に隠れて偽装した受肉体』を判別し得るかどうか。

    1-3.『羂索』は、『誰』の中で、『どのように』振舞って生きているか。

  • 44二次元好きの匿名さん25/12/16 07:09:55

    保守

  • 45二次元好きの匿名さん25/12/16 08:30:27

    遺書のプレートの具体的な大きさと厚みを書いてないですね……
    皆さんどれくらいのサイズ観なら違和感ないでしょうか?

  • 46二次元好きの匿名さん25/12/16 09:52:58

    >>43

    単純に考えるなら加茂憲紀の中で無邪気な子供のように振る舞っている

    そして恐らく六眼はそれを完全に判別する事はできない。良くてちょっと怪しいかな程度

    2017年の教室描写は残念ながら思いつかなかったな。

    羂索が五条に少しずつ近づいてる。という考えしか浮かばなかった


    まぁ謎解きが苦手な奴が深く考えず見たままで纏めた内容だから多分間違ってる

  • 47二次元好きの匿名さん25/12/16 17:42:02

    このレスは削除されています

  • 48二次元好きの匿名さん25/12/16 17:49:02

    虎杖の脳内で存在してるなら潜む事は可能かな
    宿儺は脳内でうるさいから呪術に詳しくない虎杖でもすぐに気づけたが完全に潜んでるパターンは五条でも気づかない気がする
    伏黒の姉の状態、およびそれと同じ症例の患者を五条は察する事が出来てないし

  • 49二次元好きの匿名さん25/12/16 18:07:18

    >>48

    そうだとしたら>>43の1-2がノイズじゃね?

    虎杖はどう成長してるんだろ

  • 50二次元好きの匿名さん25/12/16 21:50:24

    世界の中で六眼を持つ者はただひとりしかいないが、その他の誰だって、六眼ではない眼差しと思索は持てる。
    六眼は無くとも、物理的な意味で眼(まなこ)を持つ限りは、その限りにおいて、眼差しと思索は持てる。

    『圧倒的な自我を持つ者』がこの業界の中にいたとして、しかし、『何もかも見落としなくこなせる者』は絶対に存在しない。
    例えば、極端な話、他人の心の中の何もかも見通して惨事を防ぐだけの眼差しは、少なくとも六眼とは絶対に両立は成し得ない。


    誰にも負えないものを見てしまったのなら、他人に背負わせると余計に酷いことになると分かるだけのものを、それだけのものを見て・背負ってしまったのならば。
    己の器量以上の物を見てしまったとして綺麗さっぱり忘れてしまうか、さもなくば、その重みに相応しいと思えるだけの行動を取るよりほかにない。
    それが例えば見当違いのちっぽけな行動であったとしても、それはそれで器量に応じた行動ではあるだろう。

    夏油傑は、選ぶべき道行きの前で、『全て忘れること』は選ばなかった。
    仮にそう進んでいたなら、きっとそれはあの夢の通りに進む道行きで、累計1億部以上の創作物として刷られた筋書き通りにパンクし、2017年のあの冬に人生は終わる。
    ただその末路を知った当の青年は、意図的に『そうすること』を選ばなかった。

    己の器量を己なりに踏まえた上で、直感を振り切って、それでも『忘れないこと』を選んだならば。
    ならば、見れるなりに見た末の眼差しと思索を抱えて、綴るか・語るか・さもなくば沈黙せねばならない。
    脳内の物事全てを伝えられるテレパシストでもない限りは、推敲した単語・限りある文章で、そうやって、伝えたい相手に練り上げたことばを紡がねばならない。

    魂から刻んだものが相手に伝わるとすれば、それは、究極的な意味では、まさしく『魂の視座から練った』思索の産物なのだった。

    ■■村であるべきだった『離反』と丸1日ズレる形で、かく呪術高専東京校3年 夏油傑の人生は破綻した。
    特級術師の生命を掛けてプレートに彫った言霊の、その報いとして。

    意図的に己の遺体を遺さないようにした。
    ある物差しにおいては紙の上の運命を捻じ曲げる足掻きかもしれないが、当人にとってそれだけの価値がある、ただそれだけの終焉だった。

  • 511/225/12/16 22:45:59

    六眼の真横に立ち続けることはできずとも、その記憶の中に爪跡は遺せる。
    2018年のあの冬に袈裟姿で親友の背中を叩くことはできないが、あの面々の中で無意識に袈裟姿を捜してしまうほどの重みは遺せる。

    呪術に生きる者は、どんな者であっても、魂を曲げてまでは存在し続けることはできない。
    また、呪術に生きる者は、どんな者であっても、魂に無理のある形では、いつまでも群れ続けることはできない。
    それは、総(すべ)ての者にとって同じこと。たとえ、呪術師であっても、呪詛師であっても、それは総て同じこと。

    強者のエゴと縛りに拘束されて日常的に呪い合うという業界の中にあって、お互いに無かったものを嵌める形であっても信頼し合えるという関係は、極めて希少だ。
    更にその関係が、心の中においても外形上にあっても、全くストレスなく乖離せずに信頼し合える関係であったなら、それは更にもっと希少なものなのだ。

    だから、遺したことばはエゴの産物だ。意図的に親友を縛るための呪い。読んだ後の行動を予期した上の呪い。


    狭苦しい帳の中で『あの女』は死んだ。確かに1級呪術師上位らしい死闘の末に、夏油傑の手に掛かって死んだ。
    間違いなく『主人公』を生んだ女だった。戦闘向きじゃない身体にしてもあっさりと負けやがった。傑の目の前で。


    妙な予感がした。この世界が妙に厳しいのは十二分に承知していたから、一度殺せば終わりだと決めつけるのはいけない気がした。
    いちど刻み始めた言葉はどうにも止められない予感がして、とっさに用意した文章を1文だけ変えた。

    ――先ほど倒せはしましたが、こいつを一度倒せば解決なのか確証が持てません。

  • 522/225/12/16 22:47:29

    ここまで書いて、限界だと思った。既に呪霊の大半が離反しており、これ以上はおそらく遺書そのものの損壊リスクに直結する。

    予定通りにプレートを埋めて土の中に杖を挿し、呪霊に喰われながらふと気づく。

    呪霊を閉じ込める帳は、『あの女』と傑の両方が同時に降ろした。
    女は救援を呼ばれない利点があったし、傑の方もその帳の中で周囲の被害を気遣った。

    傑の呪力が失われゆくために傑の帳はぼやけつつあり、それでも命懸けで降ろしたから当面は維持できる、……と思いたい。


    杖を挿した後で、やっと、思いがけない事に気付いた。
    『あの女』の帳と傑の帳の間に、隠れるように薄くもう1層の帳がある。
    女とも補助監督とも違う『何者か』、この場にいない誰かが、どうにかして無理に降ろしたような。


    理解できず解釈を経るより前にとうとう全呪霊が離反し、本当に身体が裂かれ絶命していくというプロセスが始まる。
    下手な1級術師では負けるレベルの者達に喰われること、自分が従えた分だけ仕返しされて徹底的におもちゃにされること、全て覚悟して承知していた苦しみの過程。

    伝えたいことを伝えることはできないまま、いまさら欲張るとよけいに悲惨な事になるという直感があって、とりあえず1個だけ願った。

    転生とか降霊術とか普通にあり得る世界にあって、敵味方問わずに『自分の記憶を一切読まれないこと』だけを願った。
    世界そのものの秩序をぶっ壊すようなそのレベルの記憶だから、流石に誰に対しても遺す気は無かった。

  • 53二次元好きの匿名さん25/12/16 22:50:05

    所用が早く済んだので本日分投稿です。今晩はもう投下はありません。
    帳関係の謎解きは少し後の投下にて明示します。書きたい描写をいくつか挟んだ後のつもりです。

  • 54二次元好きの匿名さん25/12/17 03:51:38

    面白いし気になり過ぎるので保守

  • 55二次元好きの匿名さん25/12/17 08:36:37

    めっちゃ楽しみや

  • 56二次元好きの匿名さん25/12/17 12:25:39

    保守・感想ありがとうございます。


    メンタル系とは違う内因トラブル発生中です。

    フルタイム労働がない分は筆は進みますが、場合によっては執筆どころではなく筆が止まるのでご承知願います。


    これだけだとアレなんで補足です。

    >>43はすべて同じくくりという意味で大問1です。

    小問3の答えを導く誘導のつもりで、小問1と小問2を書いてます。

  • 571/225/12/17 19:33:18

    累計1億部以上の物語の中では登場『しない』ものを、ここで構想して綴ることを許してほしい。
    三十余巻の中の情報を選択して削り出し1個1個ピースらしいものにして、勢い任せに組み合わせて稚拙なパズルか絵を創るらしいという作業にあって、類推して創り出した独自のピースが無ければ、おそらく描きたいものが腑に落ちる形では成立しない。


    その前提で話をしよう。夏油傑がこの世界で殉職した頃の夜蛾正道の行動、というくくりの話。
    六眼+無下限呪術の抱き合わせよりも、呪霊操術よりも弱く、しかし彼等から明確に恩師として認識されていた傀儡操術の術師のこと。
    厳密な意味で時系列順に沿った語りにはならないだろう。ただ、『夏油が殉職した頃の話』という時期は共通する。

    彼だって、傀儡操術学の権威らしきものになれる呪術師として、六眼ではない眼差しと思索は持てる。
    六眼は無くとも、物理的な意味で眼(まなこ)を持つ限りは、その限りにおいて、眼差しと思索は持てる。

    呪骸を通して見れる範疇においては、彼もまた常人とは違う視界で『見る』ことはできる、ただし教え子の心の内隅々までを見通せるような眼差しは、その眼とは絶対に両立しない。
    死なせてくれとまで慈悲を乞うた弱っちい補助監督に死を命じずに退職の道を与えた、ただそれだけできる善性と、一方で、必要に応じて吐瀉物のような非道らしきことをしてみせる判断力は、1人の男の中で両立する。少なくともこの世界の中では。


    呪術高専は私用と公用の携帯の混同を許す職場ではなく、夏油から思わせぶりな電話を受けた夜蛾は、速攻で公用携帯で同行の補助監督に電話を入れている。
    オブラートに包めば『ひどく慌てていた』気の毒な補助監督は、身も蓋もない言い方をすれば『ギリギリ現在の状況だけ夜蛾に説明できたが、基本的に恐慌状態に陥りかけていた』。

  • 582/225/12/17 19:35:21

    夜蛾は電話を『切るとマズい』と直感し、その判断を頭の中で仮置きしながら動いた。
    公用携帯の通話を維持したまま私用携帯を使い始め、(一応そちらにも番号の情報は入れていたので)私用携帯から悟の携帯に電話を掛け、その悟が電話に出なかった時点で悟なしの先行を即断し、何が何でも先行する方法を模索し始めた。

    この時代、憂憂はまだ活躍はしていなかったが(憂憂ほどに便利ではないにしても)代償を払えば、場所の分かる遠隔地に割と早く着く手立ては『あった』。そういうことにしてほしい。
    相応しい代償のためにあとで夜蛾の財布は一時的にだいぶ寒い事になったが、それは本筋とは関係ないので置いておく。


    パニックに陥った相手を落ち着かせる効果的な手法はいくつかあるが、ひとつは、やるべき事を率直に・簡潔に指示すること。
    夜蛾は通話相手の補助監督に携帯をスピーカーモードに設定するよう指示し、夜蛾の方もスピーカーモードにすると言った上で、事実その通り補助監督と通話し続けた。
    その補助監督に、夜蛾の指示は何とか全て通った。

    複数の呪骸を従えた戦闘態勢の夜蛾が現着するまでの間、補助監督は、指示の通り、問題の帳よりも少しだけ離れて標高の高い場所に移動した。
    そこから帳を見下ろして『帳の中に誰も入って来ていない』ことを実況し続けている。

    結果論として、夜蛾の行動は、その補助監督にとってはファインプレーな動きだったろう。
    敵方に、慣れない帳を降ろしつつも闇討ちまでを同時並行にこなせる輩は居なかったのだから。

    夜蛾が公用携帯での通話を切っていた場合、補助監督は『パニックで帳の中に入ってしまった』筋書きで決着していたはずだ。
    小心者のその補助監督は、死闘が繰り広げられる帳の中へ訳も分からず突き飛ばされていただろう。

  • 591/225/12/17 22:03:37

    例えば、夜道を征く者のため、手製の呪骸に警備員らしい装束を着せることはできる。
    反射ベストなり、ライト付きのヘルメットなり、誘導灯なりを装備させて、人間の如く標(しるべ)に使うことはできる。
    それは他の者とは違う1級呪術師の力だ。紛れもなく、彼自身の、彼だけの異能の力だ。

    ただしその人とは違う力は、人生の先行きという道そのものには作用しない。
    予見能力など望むべくもない1級呪術師は、どう進むと『詰む』のか分からない闇の中を、常人と全く同様に手探りで進むよりほかにない。
    仮に、仮に、見落としたもの・知り得なかったもの・闇の中に隠れ潜むものがあったとしても。
    それらの物事が、人生の路の途中で、わざわざ呪骸の格好をして跳ねながら「ここに居ますよ」と叫ぶことなど、絶対に有り得ない。

    教え子が彫り込んだ文字列がそもそも異例なのだ。
    そういう意味で、その『遺言』は、特級の呪術師が命懸けでその見識を以って刻んだだけの標石(しるべいし)。
    特級の彼が「生前には伝えられない」と判断して動いたのであれば、それは、1級の彼では扱いを間違えると容易に破綻する、それだけの予知夢だったのだろう。


    気の毒な補助監督の退職手続きを終えて、悟込みで縛りを結び、薨星宮の中で天元様とやれるだけの協議をやった後。
    今度は、傑が前日に保護した双子の女児について、その治療に当たっていた硝子から一報が届いた。
    『双子が「夏油傑さんから伝言を頼まれた」と言って騒いでいる』という報告だった。

    ――『今日の夕方よりも後』に『夜蛾先生』という人に『だけ』伝えるように言われた。
      ものすごく嫌な言葉の頼まれごとだったけど、夏油傑さんはしつこく頭を下げてきた。
      しまいには「魂を縛る約束としてそのまま伝言してくれ」と言われて、仕方なく『そのまま伝言すること』を約束させられた。

  • 602/225/12/17 22:05:39

    傑は『おとといの夜からきのうの朝にかけて』予知夢(=見てはいけないもの)を見たはずである。
    双子が保護されたのは間違いなく『きのうの日中』の出来事。
    傑は予知夢を見た『後』に双子を伝言を託しているはずなのだ。『今日の夕方』時点では己が死んでいるという前提で。

    悟と共にすぐ硝子の元へ向かい双子を回収し、言われた通りに双子と夜蛾のほかに誰もいない閉鎖空間へ移動して、そして双子の言葉を聞いた。


    ――枷場菜々子と美々子は呪術の恐ろしさだけを教え込んだ上で呪術界から遠ざけるべき双子です
      少なくとも夏油傑のことは追いかけさせないようにしてください


    双子は確かに一言一句違わず同時に唱えた。夜蛾『だけ』がその縛りによる『ことば』を聞いた。


    聞いた瞬間夜蛾の頭の中で、伝言に従って『やるべき事』の見当は付いた。
    一方で思い付きの動きではいけないとも感じて、一晩だけ熟考して問題はないか検討しておくことにした。
    第一、この双子の出身地絡みの嫌な事件の、諸々の手続きが終わり切れていなかった、という事情もあった。

    まずこういう事情でもなければ絶対に夜蛾がやらないような事を、傍目から見て吐瀉物のような振る舞いを、明日、この子らに対して『夜蛾が』しなければいけないはずである。

  • 611/325/12/17 23:05:10

    死なせてくれとまで慈悲を乞うた弱っちい補助監督に死を命じずに退職の道を与えた、ただそれだけできる善性と、一方で、必要に応じて吐瀉物のような非道らしきことをしてみせる判断力は、1人の男の中で両立する。
    少なくとも、この世界の中では。勢い任せにピースを組み合わせた稚拙なパズルか絵のような、この『世界』の中では。

    どんな物事でも、他人に任せてはおけず放置もできない事柄は、結果責任も含めて総(すべ)て己で背負い込むしかない。
    特級術師の教え子が命懸けで遺した標石(しるべいし)が明確に『かくあるべし』と遺したことなのだから、託された『夜蛾先生』が、その責任でやり遂げるしかない。

    己の器量を己なりに踏まえた上で、それでも『見なかったことにする』道行きを拒んだならば。
    ならば、見れるなりに見た末の眼差しと思索を抱えて、綴るか・語るか・さもなくば沈黙せねばならない。
    脳内の物事全てを伝えられるテレパシストでもない限りは、推敲した単語・限りある文章で、そうやって、伝えたい相手に練り上げたことばを紡がねばならない。


    伝言を受けたのと同じ部屋で、翌日、意識して硬い雰囲気を纏って、双子と向き合った。
    社会的には最低限の手続きを終えて、身体の傷については表面上は癒えた段階の、まだ、まだその段階の双子だった。
    その段階の子等に『教え込む』のだ、『伝言されたこと』を。

    かつて父親だった者として、嘘や誤魔化しは『いけない』のだと思う。
    見たもの全てを伝えることなど絶対にできないし、するべきでもないが、その限度でも、夜蛾の心の中の尺度に沿って誠実でありたかった。
    それは、夜蛾正道の魂の中で、教え子の命懸けの『ことば』に対して誠実に振舞うことと、全く同義のことだった。

  • 622/325/12/17 23:06:10

    「きみたちにとって、夏油傑くんはどんなひとだったかな?」

    「やさしいひと、だいおんじんの」「こわいところからたすけてくれたひと」

    「「あのとき、あのひとがきてくれなかったら、わたしたち、しんでた」」


    「……。きのうここで、私につたえたこと、二人ともまだおぼえてるね?」「「うん」」

    「どうしてたのまれたか、夏油傑くんがなにをかんがえていたのか、きみたちにわかるかい?」

    「「わからない」」

    「もう一度かくにんするけれど、『くわしいことはおしえられない』って、言っていたんだよね?」

    「「うん、言ってた」」

    「どういうことか、しりたいかい?」「「しりたい」」


    この返事の直後、夜蛾はほんの少しだけ呪力を解放した。ひとまず双子の呪力と同じくらいの。

  • 633/325/12/17 23:07:15

    「どういうことなのかは私にも分からないんだ。
     ただ夏油傑くんはまちがいなく私よりも強かったんだ。強いのに私よりもこわいものを見て、私の手におえないものを見てしまって、その後で死んだんだ。
     きみたちがつたえた『ことば』は、夏油傑くんがいのちがけでのこした、私にとってはいのちがけで教わった授業みたいな『ことば』なんだよ」

    意識的に語尾を乱して、子どもらしい言葉を解いて、呪力を増大させる。ある程度双子が圧を受けるように調整して。

    「だから私がこの世界で生きている限り、君たちがこの呪術の世界に関わるのは『ダメ』だ。
     もしも夏油傑(アイツ)のことを追いかけようとしたら、私は――」

    呪詛師に対して向けるように、『1級呪術師』として振る舞う時の呪力を双子に向けた。部屋がビリビリと圧を受け、双子も揃って震えて抱き合う姿を見下ろして。


    「私は、訳の分からないなりにその『ことば』を受けた人として、最悪の場合はきみたちを『殺してでも』止める」


    まだ完全に癒えてない子どもらの生傷に吐瀉物を塗り込めるような振る舞いなのだと思う。
    意図的にトラウマを生み出すようなたぐいの行動であった。
    最低でも『夜蛾正道』という男に対して、『殺される』レベルの恐怖を感じたような出来事であったろう。

    この振る舞いが最善解なのか分かりはしない。
    お節介なおじさんの小言めいた忠告というレベルではなく、別のニュアンスと重みをもった明確な『禁止』なのだと、そのことだけはどうかこの子等に伝わってほしかった。 

  • 64二次元好きの匿名さん25/12/17 23:08:49

    今晩はもう投下はありません。
    次回予告:当時の悟関係のなんやかや

  • 65二次元好きの匿名さん25/12/18 08:34:43

    保守

  • 66二次元好きの匿名さん25/12/18 12:18:31

    思い浮かんで24時間経ってもインパクトが抜けないのでここで吐き出させて下さい
    SS本文の雰囲気を台無しにする内容なんですが


    他の用事をしながら投下する文の構想を練っていた時のことです

    犯人の犯沢さんの主人公めいた黒ずくめキャラが、『見落としたもの』って書いたデカい紙を顔面にテープで貼り付けて「ここにいますよ」と叫びながら、薄暗い道の先で呪骸みたいに跳ねている光景が、脳内に降って来たんです

    危うくひとり相撲で勝手に吹き出した人間になりかかりました。リアルで周りに人がいるのに……

  • 67二次元好きの匿名さん25/12/18 15:10:24

    すごいね。

  • 681/225/12/18 19:09:00

    ややこしい前置きをしよう。ちっぽけな結論にしか繋がらない、その程度の話だが。

    『単眼の猫』という仮面(ペルソナ)らしい人が創り出したあのシリーズを、一本の棉(ワタノキ)と見立ててみる。
    シリーズの中で『書き綴られた情報』を実った実と見立てて、実をひとつひとつ吟味した上で採ってみる。

    収穫したらしいその実を、それらしく類推して模倣した別人の独自の実と混ぜる。
    全て一緒くたに馴れない手つきで綿にして、何とかして糸車で繰(く)って糸にする。
    出来た糸を稚拙な手のまま頑張って布にしようと織ってみて、織る中で綾目らしきものを織り出してみようとしたりする。
    経(たて)糸も、緯(よこ)糸も、常に『別人の実』が混ざったものだ。原理としてそのような布しか織れない。

    とはいえ、元々の棉(ワタノキ)に脳を焼かれた方々は世の中に極めて多く存在する。
    元の木を思いながらもその布を凝視するほんの一部の方の中で、時々、ひょっとしたら有り得るかもしれない構図がある。
    それは、織られつつある綾目(あやめ)に感心したり、織り方の想定外で不意を突かれたりする、そんな構図。

    特定の創作物を元に別の創作を創り出すこと、それを他の人に読んでもらうということは、そういうことが有り得るような営為ではないだろうか?
    それがどんな織り方であったとしても、究極的にはそういう原理のものではないだろうか?

    織り手の中で衝動と計算がどれだけ混ざるかは、それこそ織り手によるだろうが。

  • 692/225/12/18 19:10:04

    この世界の話をしよう。

    上記の比喩を前提とする場合、類推して実を育てたものはひとりでは無いが、糸を繰り糸車を回し織機を動かす者はたった一人。
    稚拙で不安定な紡ぎ手だ。
    ただし元の綿(ワタノキ)に脳を焼かれた多数の中にいる、それだけの『ちっぽけな個人』であることは保証する。

    同時に「いつなんどき手が止まるか分からない」とも重ねて明言したい。
    「不安定なので途中で止まるかも分からない」と断って、その上で糸を繰って糸車を回して織っているのだから。
    織る営為が本当に止まった場合があったとして、「何で止まったんだ」と責め立てられる謂(いわ)れは無い、さすがにそう思いたい。


    これから『傀儡操術の1級呪術師の話』の大きなくくりの中に、小さな『六眼の話』を包み込む形にしようと思う。
    だから、悟の話が終わった後にはまた彼の話が続く。

    併せて、これまでに繰り出して織ったものの中に、「後付けの伏線を仕込んだ」ことを明言する。
    これまで提示した謎掛けを補助する形にしかならないが、とりあえず『伏線』らしい綾目ということにした。


    もしも、もしもの話。
    不安定な織り手ということを飲み込んだ上で、それでも綴った稚拙な世界に共感する眼差しが、もしも、どこかにあったとして。
    時間を割いてでも『これまでを振り返ってよい』という奇特な方がもしも居たとしたら、『命懸けでも彫り込めなかったもの』を意識して読み返してほしい。

    この『伏線』は、これまでの謎解きの解を補強するちっぽけなものでしか無い。
    語られたその方の言葉に対しては、状況に応じ『沈黙』という答えを返す恐れが多分にある。

    とはいえ、考察された言葉があった場合には、それを読んだ織り手のテンションが身勝手にも上がるだろう。今のところそれ『だけ』は保証する。

  • 701/325/12/18 22:33:19

    『無限』を持つその頃の『彼』の話を、どうにか表現しようとする。
    無限にあるはずなど決してない語彙のプールの中から、センスに沿ってそれらしく単語を選び、どうにかして表現しようとする。
    いちど使った言い回しを改めて用いて、何とかして組み立てて、ことば選びの乏しさを糊塗しようとする。

    同じ文体で違う比喩を幾度か廻らせて、「呪いが廻る話だ」と言い張ろうとする。
    そうしたセンスの中に隠したものを潜ませて繰り出す世界の話なのだ、と、明記したい。そうでなければ読み手に対して誠実ではないと思うから。

    風呂敷のように大きく広げた『夜蛾正道の行動の話』の中に、小さな石のように『五条悟の行動の話』を置いてから包む。
    包む側も包まれる側もどちらも厳密には時系列に沿った記述にはならないけれど、『夏油が殉職した頃の話』という時期は共通する。


    A5サイズの紙と比較すれば、そのプレートは幾らかは小さい。
    2018年の世界に存在するスマートフォンと比較すれば、そのプレートは幾らかは大きい。
    残された『遺書』は、そのくらいの大きさで横長の鋼材プレートだった。
    鉄筆か何かのように使える呪霊があったのか、覚えのある几帳面で細やかな字体が物理的に彫られていた。

    その1枚のプレートが、五条悟の手元に遺された。


    ペラペラではないけれど分厚いというほどでもないプレートだ。
    体格を加味すれば、肌着の下に、アクセサリーのように首から提げる形で着込むこともできなくはない。

    夜蛾から極秘で現物を渡された瞬間に悟は「自分が持っておく」と即断し、夜蛾もそれを快諾している。
    『肌身離さず持っておく』ことがセキュリティ面でも心情面でも一番ベストだと考えた。
    他の選択肢は、託された2人のどちらにも思い浮かばなかった。

  • 712/325/12/18 22:34:20

    プレート自体を更に加工することは憚られた。
    悟の判断で大枚をはたき、『遺品の記憶を読み取る』術式の術師と、『物体を固定化する』術式の術師を手配した。
    『術式を指示されたモノに掛けること、どんなモノなのかは報酬の現金を渡した瞬間に忘れ去ること』を縛りにして、五条家を絡める形で雇った。

    雇われた術師は、どちらも、刻まれた文字を把握したとたん、露骨に『厄介な事に巻き込まれた』という顔をした。
    ただ、どちらも目の前になかなか稼げない大金の札束を積まれたので、ともかく縛りは成立した。
    なお『遺品の記憶を読み取る』方の術師は「『絶対に記憶を読み取れる』とまでは保証できない」と縛る前に強く言い張ったので、その留保の上で出来高制の契約になった。

    親友の最期の記憶は『全く』読めなかった。予想した通り、何も読めはしなかった。
    綴られたことを加味すれば納得は出来ることである。
    他人に伝わったらあからさまにマズい思考を、傑(アイツ)が不用意に遺すはずがない。


    固定化の方の術師に雇った通りのことをしてもらい、プレートがちょっとやそっとでは破損しない状態にしてもらう。
    プレートの側面に接着剤を塗って、別に木の枠を貼り付けた。その枠の方に穴をあけて紐を通して、首から提げることにした。

    こうして親友の『遺品』は遺された。
    他人の視線のある場所では絶対に見せつけることなどしないが、常に胸元に『有る』というかたちを取る限り、それに意味があるような気がした。

  • 723/325/12/18 22:36:09

    例えば、何か任務で必要があって『茈』で一思いに吹っ飛ばした現場とか、呪霊の残穢でぐっちゃぐちゃになった後の現場とか。
    そういう、『あの現場』を思い起こさせるような現場があったときだけは。
    特に傑の殉職直後の時期は、ひとりで感傷に沈んでプレートを服から出して、その文字を読み直してみたりした。


    六眼は、当然、彫られた文字それ自体を読むことはできる。
    ただし記憶を見通すような眼差しは、少なくとも六眼とは絶対に両立は成し得ない。

    あの帳の中で何をどう考えて傑(アイツ)がことばを練って彫ったのか、こころの中までを六眼で見通すことはできない。
    どうして、見るべきでないもの=『予知夢』を見てしまったのか、残されて託された側には決して知り得ないこと。

    ただ『予知夢が不意打ちで降ってきて、その末に特級術師が殉職してしまった』という推測が真であったのであれば。
    その推測が真であったとすれば、見たものと同じ予知夢は、悟にはおそらく見れない。

    狙って同じ夢を見ようとすれば、六眼も無下限も生命をも喰い潰す代償と引き換えにしても『紛い物のそれらしい夢』が見れるような、そのくらいに『重い』夢のはずだった。
    託されたものに縛られる限り、その選択は絶対にできない。『同じ内容の夢』を求めることはできない。
    そういう意味で夏油傑と『同じ視座』は決して得られない。同じ重さは背負えない。

    六眼『は』ある五条悟にとって、酷く物悲しい推理だった。

  • 73二次元好きの匿名さん25/12/18 22:37:34

    今晩はもう投下はありません。
    次回予告:当時の悟関係のなんやかや(続)

  • 74二次元好きの匿名さん25/12/19 08:17:29

    このレスは削除されています

  • 75二次元好きの匿名さん25/12/19 12:34:19

    滅茶苦茶細かいですが、書き手が意図していない明らかな誤字がありました


    棉:「木へん」の漢字。アオイ科の一年草。辞書上は「ワタ」としか読まないが、当作であえて「ワタノキ」とした。

    綿:「糸へん」の漢字。当作では↑に実った実から種を抜き取った後の『繊維』を指す。


    SS上で「棉」と「綿」を混用してしまった箇所があります

    >>37の転記先のwriteningの方では修正しました

  • 76二次元好きの匿名さん25/12/19 17:33:24

    『狭苦しいあの帳の中で「死ぬほど」闘った話』を一抱えの岩と見なし、急峻な坂の上の頂点に置く。
    同じ文体で繰り返した『比喩』も同様に岩として扱って、坂から転げ落ちないよう、その岩々を踏みながら・掴みながら降りて行く。

    その坂のふもとに、ある一つの『比喩』を置いておく。
    あの『最強』が、あの世界の中で言ったこと。
    死の間際に空港で親友に語った、妄想かもどうかも分からないやり取りの中の、ひとつの話。

    その『花と人の比喩』を一つの到達点にして、降ったルートを引き返してまた登っていくことにする。
    同じ岩を辿って戻る道行きであっても、その途上では降った時と違う歩き方があるだろう。

    そうして戻って到着する場所は、頂点の上の、出発点と同じ岩。
    ――『狭苦しいあの帳の中で「死ぬほど」闘った話』。

    ただし、それは傑ではないもう一方のことだ、その時は『アイツの話』になることを予告する。
    違う岩を通ったり、ある岩を経由せずに進んでみたり、何も無い蛇足を経ることがあるかもしれない。
    もしそういうことがあるとしたら、それはそういうことになったと思ってほしい。

    そう在るだろうと示すことは、岩を置いて案内した者の判断だ。
    稚拙な感覚でそう明示した方がいいと感じた、ただそれだけのこと。

  • 771/225/12/19 22:02:30

    花々がめいめいに咲き誇るだけの、ある意味では広くある意味では狭い庭園のような世界を、六眼でもって見下ろしてみる。
    無数の花々の中に何かの『見落とし』がないか、そんなことを熟考しながら目を凝らしてみる。
    時に、咲いているものを踏み潰さないよう気遣いながらも足を踏み入れることもある。
    根ざした土の下の有様を想像しながらスコップに挿し、根を傷つけないように考えながら植え替えを試みたりもする。

    夜蛾正道の立ち位置は、五条悟よりもほんの少し『花の目線』に詳しいだけの助言する庭師。
    もしくはファンタジーの中のドライアド(植物の精霊)に近いかもしれない。
    悟とは違う視座を以って囁いて支えるようなことがあり、語りの重みは、他の花の囁きのそれと一線を画す。
    ただし同一存在のヒトという目線のことばではない。悟と同じ思考とスケールから発される言葉ではない。

    後に記す事情のために、夜蛾の『魂』はヒヤヒヤする形であわや『損なわれかけかけた』。
    特に傑の殉職直後のいっとき、2人のどちらもが、どうしても1級呪術師のスケールでしか『魂』を持ち得ない事実を突きつけられ失望する時期があったのだ。
    託された者として貴重な理解者や助言者になれたとしても、悟には成り代われない。
    どうあっても成れないのだった。


    六眼で見たものの話をしよう。

    呪霊は弱いものほどよく群れる。
    逆説的に、強い呪霊が狭い場所に押し込められた場合、お互いを喰い合うか、さもなくば群れずに反発し合って離れようとする。

    傑の電話を夜蛾が受けてから、まあ短時間の間に激動すぎる諸々があった。
    悟が現場に急行するまで掛かった時間は、およそ1時間半。
    痛恨のタイミングで悟が携帯の着信を取り損ねたこと以外、夜蛾は最短で動けたと言って良いだろう。

  • 782/225/12/19 22:06:12

    六眼で視(み)たその帳は、確かに聞いた通り狭苦しくい現場だった。
    親友の死が関わっていなければ確実に爆笑するレベルで奇妙だった。

    曖昧に解けかけた薄い帳が残っていた。
    多数の低級の呪霊が帳をすり抜けて辺りをウヨウヨしており、相対的に少数の高級呪霊だけが複数体その中に押し留められいる。
    後者のソイツらは、マンガの中でガラスに顔を押し付けて騒ぐギャグキャラのような様相だった。
    一律に隙あらば外へ出たいと衝動に駆られて『帳の中で詰まっていた』。

    帳の中の術者(=傑)が死んでから帳が解除される時間の長さは、まあ異例の長時間だ。
    だが、特級術師ということを踏まえれてみれば、そう極端に不自然というほどでもない。

    周りに被害が出ないようにした帳だったのだろうという結論を、悟の脳内で生成した。
    すり抜けた低級の呪霊のために、残穢がぐっちゃぐちゃになっていること、それ『だけ』を六眼で確認した。
    遺されたものが帳の中にもう無い事を『見て』から、その帳が『在った』辺りを強引に茈で吹っ飛ばした。

    帳は当然呪霊ごと消えた。残穢は悟のそれに上書きされた。
    呪霊が暴れ出す怖れを消し去ったのと引き換えに、そこで『誰が・どうした』のかまでは分からないようになった。
    ただ悟のチカラが通り過ぎたという痕跡だけが、六眼が『見える』範囲においてそこに残った。


    かくして悟の手元には、その鋼材と刻まれた字面『だけ』が残る。

    本来の世界とは違う、澄んだ青が刻まれた花咲く庭から傑が居なくなり、悟だけ置いていかれたことになった。

    ある物差しにおいては『ふたり』に遺された、ある物差しにおいては確実に『ひとりきり』という世界。
    その程度の窮屈な花の庭園が、悟の一応の社会的な居場所になった。

  • 79二次元好きの匿名さん25/12/19 22:43:25

    『花と人の比喩』を一抱えの岩と見なし、急峻な坂のふもとに置く。
    どう通って踏破したかを思い起こしながら、坂から転げ落ちないよう岩を踏んだり・掴んだりして、頂点の元の岩を目指して引き返してみる。

    同じ文体の寄せ集めと反復で創る『比喩』の岩を、そういう風に辿って進むのだと思って欲しい。
    繰り返しに意味を持たせることくらいが、たぶん器量としてはできうることなのだと思う。


    逐一断ることは今後はもう無いけれど、類推から創り出した『独自のもの』は、これからも踏破する先にもきっと存在するはずだ。
    ただし出来得る限りはそういう『ことにした』のだと明示して潜ませるようにはしたい。

    世界のかたちを明言して、それらしい岩を置く。
    身勝手なひとり相撲はなるだけ避けたくて、ただそれらしい場所に岩を置く。
    不自然な歪曲や強引なルートはできるだけ生まないように、拙いなりに一応の筋道を考えてみる。

    そうして、戻るべき岩を置いた頂(いただき)を目指す。
    『狭苦しいあの帳の中で「死ぬほど」闘った話』という、その岩のかたちが、どうか、辿ってきた奇特な方々にとって、不本意でないかたちでどうか伝わりますように。

  • 801/225/12/20 00:04:05

    『ナナメに飛びぬけた者』だという彼らの『格』を、どうにか表現しようとする。
    そう飛びぬけた訳でもない発想で、『個々人』のスケールなり『魂』の重みなりについて、どういう位地に据えて置くのかを表現しようとする。
    いちど使った言い回しを改めて用いて、何とかして組み立てて、ことば選びの乏しさを糊塗しようとする。

    同じ文体で違う比喩を幾度か廻らせて、「呪いが廻る話だ」と言い張ろうとする。
    安直だがお約束を踏襲した描写が一番伝わりやすいとは思う。書き手が扱いかねるものは、おそらくは書けないし伝えられない。

    六眼・無下限/呪霊操術/模倣/星の怒り、それぞれの術式を抱える『個々人』の『魂の強度』を最強格とし、類推で不死を同格に置く。
    傀儡操術は、残念ながらそういう意味で彼らより格を下に据えることにする。
    一般的な尺度からして十分イカれた人なのは違いない、それは間違いない。
    ただその彼が『個人』として最強格であったというなら、そもそも1級呪術師の姉妹校の学長にあの形で引導を渡されたことが腑に落ちない。

    風呂敷のように大きく広げた『夜蛾正道の行動の話』の中に、小さな石のように『五条悟の行動の話』を置いてから包む。
    包む側も包まれる側もどちらも厳密には時系列に沿った記述にはならないけれど、『夏油が殉職した頃の話』という時期は共通する。


    天元と夜蛾正道と五条悟が口裏を合わせた『正史』を練り上げる中で、悟から見た夜蛾は自ら進んで『割を喰った』。
    不本意な不意打ちの悪意があったときに対応するチカラは、どんな術師でも各術師の状況と実力次第だろう。
    事前に想定された分かりやすい悪意への対応するチカラは、それが想定内である限りは平然と乗り越えるという話、……らしい。

  • 812/225/12/20 00:06:01

    妙にもったいぶった意味深な言い回しになるが、これから綴る事情を踏まえて、その上で納得はしてほしい。
    要は妙にヒソヒソされる立ち位置に、全て承知の上で進んで自分を置いた、というだけのこと。

    結論から先に言う。

    ――星漿体の同化失敗任務の責任を取らされて夏油傑が1年越しに『処分』され、五条悟は生かされたが過酷な『義務』を負った。
      『処分』指示を出したのが天元で、指示を受けたのが夜蛾正道。
      前者の『処分』指示を忠実にこなした結果、夜蛾が天元から報奨を得た。

    そういう噂が流れまくるような立ち位置に、夜蛾はあえて自らを置いたのだ。


    ただ、誰にだって想定外の形で起きた出来事があって、夜蛾は予想外に余計に『魂』に疲労を抱え込むことになった。
    そのことも、併せて明記する。

    後に記す、悟が『間違えたらしい』と思われる出来事のこと。
    ……悟がおそらくは旧■■村から保護した双子絡みで思いがけず『ミス』をおかしたということ。
    本当に、誰にだって想定外の出来事だった、はずなのだ。

  • 82二次元好きの匿名さん25/12/20 00:07:07

    今晩はもう投下はありません。

  • 83二次元好きの匿名さん25/12/20 09:24:10

    保守

  • 84二次元好きの匿名さん25/12/20 09:34:32

    ほ​

  • 85二次元好きの匿名さん25/12/20 19:06:26

    保守

  • 861/425/12/20 22:07:19

    ちょっと足踏みをしてみよう。

    『国家転覆が可能である個人』と『そうでない個人』だという彼らの『差』を、どうにか表現しようとする。
    ただの一個人の小さな頭から、どういう風にして『差異』を露見させるかを表現しようとする。
    いちど使った言い回しを改めて用いて、何とかして組み立てて、ことば選びの乏しさを糊塗しようとする。

    同じ文体で違う比喩を幾度か廻らせて、「呪いが廻る話だ」と言い張ろうとする。
    同じ衝撃を受けた2人のダメージの違いなら、安直だが分かりやすいだろうか。
    同じ『世界を歪めた報い』を受けた『魂』の、その明確な違いについて。

    六眼・無下限/呪霊操術/模倣/星の怒り、彼ら4人を『最強格』として列挙する。
    うち3人目はこの時点においてまだ物語の盤上に出る存在ではなく、2人目の肉体はひとかけらも残さず喪われた。
    ただし4人目は健在だ、『どこかでフラフラしている、上層部が嫌いなロクデナシ』として。
    そして、傀儡操術と職位上は完全に同格の『音楽を介して呪力の増幅を奏でる』老人も。


    まぁ特級術師の殉職は異例であったし、補助監督がああいうみっともない経緯で退職したのも異例だった。
    その日の内に『何事かが起きたらしい』ことが狭い業界に伝わって、めいめい身勝手な噂を広げ始めた。

    天元絡みの話だったからだろう、九十九由基がどこからか聞きつけて、殉職の翌朝に東京校に押しかけた。
    京都校の楽巖寺学長も、不自然に急に任務を創った体で、由基と同じ時間帯に『用事』という名目で『東京校に立ち寄りに』来た。

    九十九由基は元星漿体の女性であって、つまり『天元のための贄から外された者』である。
    夜蛾は立場上から経歴を把握しており、由基の来校通知を受けた瞬間、それ自体をすぐさま邪険にはできなかった。
    彼女の目線では「天元が特級術師関係で悪だくみしている構図」にしか見えないはずだったろうから。
    夜蛾は天元に2人の来校を報告したが、その時の夜蛾の煮え切らない態度を見た天元が熟考し、九十九と楽巌寺を極秘かつ独断で薨星宮に招いた。

  • 872/425/12/20 22:09:16

    傑が殉職した日の翌日の朝の時点でも、夜蛾と天元と悟は『今後についての協議』をまだ続けていた。
    扱う議題が重すぎたので拙速な対応は憚られ、色々と考慮して練り上げるべきなのだという点で3人の見解が一致していた。
    天元は、不死の術式の彼女は、当然、この時点で鋼材プレートの文言を全て把握している。

    熟考の末に、押し掛けた2人に提案したらしい。

    ――納得した上で『薨星宮を出た瞬間に見たものを全て忘れる縛り』を前提としてほしい。
      事情を把握した上で、夜蛾が練り上げる考案作業を手伝って欲しい。
      あくまで押しかけた2人はアドバイザーとして用い、諸々の決定権者は夜蛾とする。

      この縛りを結ばねば、いかなる意味でも先の話が進まない。

    楽巌寺は提案を即座に了承した。
    九十九は「薨星宮を出た時に納得出来たらそうする、自分の魂は曲げられない」と言って留保した。
    まぁともあれ、押し掛けた2人はそういうことで了承した。


    かくして天元を交えた3人の協議の場に、翌朝から招かれた2人が一時的に加わった。
    夜蛾は天元の『配慮』と捉えてありがたく受容した。
    悟にとっては『甘い』判断に見えなくもなかったが、夜蛾の態度に従って渋々と受け入れた。

    そして『後で忘れる』大前提で、追加の2人はプレートの実物を見せられた。
    楽巌寺は心底驚愕してこれまでの皆の態度に理解を示し、九十九は酷い顔で腕を組んで沈黙した。


    協議の中、いちど夜蛾は双子への『対応』のために中座し『しばらく経って』薨星宮の中へ戻ってきた。

    「悟、お前だけちょっと良いか? 話がある」「ん」

    ひとりだけ腕を引っ張られて夜蛾に言われたから、悟は素直に立ち上がる。

  • 883/425/12/20 22:10:43

    「私達は聞かないようにした方がいい内容なのかな?」「ええまぁ」「……了解」「うむ」

    この局面で『聞くな』と明示されたものをあえて追いかけるような半端な面々は居ない。
    更に目配せされた悟が『音だけは漏れないようにした狭い帳』を降ろせば、それは即興で『外から見ればただの口パク』の密談場になる。
    己の口を手元で隠せば、中で何を言っているかは外からは分からない。


    「傑が一昨日保護した、虐待されていた双子のことだが」「ああ、あの子等ね」

    「お前の家を使って、『呪術とは関わりのない一般人としての生活』を徹底的に保証できるようにできないだろうか。
     これまでの経歴からもあの子らが辿られないように、そのくらいの平穏な日々に繋がるよう、できる限り措置してほしい。
     俺の立場だと難度が高いからな、……術師の素養がある子等を業界から切り離す動きだと、誰かしらからツッコミやらが入る」

    「……OK、でも1個だけ聞かせてくれ。それは時系列的に傑の遺言絡みなんだな?」

    「…………」「ごめん、軽々しくは言えないか。……じゃあ聞き方を変える」


    結果的に『やらかした』会話が生まれた。
    後から考えれば『ミス』だということを推理はできるが、その時点では気づきようのない、悟の防ぎようのない『過誤』。

    真実は、傑が歪めたあの運命を、『世界』が据えた『最適解』で処理できなかった、それだけの報い。
    あらゆる意味で『それ』を歪めた傑自身も想定していなかっただろう、『部分的な過ち』の報い。

    「俺の推理が見当違いならはっきり否定してくれ。それ以外なら『30秒間黙っていてくれ』」

    「…………」

  • 894/425/12/20 22:11:53

    30秒の沈黙を終えた瞬間に、起こり得るはずのないことが起きた。
    どうあっても推測しようのない類の、重たい『異変』が。


    悟と夜蛾にとって全く不意打ちのダメージが、その瞬間の『魂』にあった。

    悟にとって、すこし強い風を受けて歩道の真ん中で半歩よろめいたくらいの衝撃。
    夜蛾にとって、最高速度のデカいダンプ車が『ギリギリ衝突を回避するように、生身の己の横を通り抜ける』ような感覚だったという。
    激突で潰されたという意味では無いが余波は有り、即死のそれでは無いが影響は出る。

    それは夜蛾の『魂』に襲い掛かった衝撃で、『身体』の方にもそれは連動して影響する。
    結果的に夜蛾『だけ』が、悟を含むその場の皆の前で、前触れなく血を吐きながら膝を付いた。

    狭い帳の2人だけ、共通して『直接的では無いが、ギリギリ破綻しかかるようなミスをしかかった』という、ゾクゾクした感覚が残った。

  • 901/325/12/21 00:10:20

    くどくどしい予告をしよう。ちっぽけな結論にしか繋がらない、その程度の話だが。

    『単眼の猫』という仮面(ペルソナ)らしい人が創り出した、あの本の連なりを、一本の棉(ワタノキ)とする。
    その棉(ワタノキ)から採った実を、別人の独自の実も一緒により混ぜて、綿にして、糸にして、布を織る。

    拙いなりの織り方の誠意として、綾目『らしきもの』を直截的にいま明示したい。
    いつ手が止まるか分からない前提で織るのだから、それがベターなのだと思いたい。

    手近に本棚が有って現物があるのなら、どうか、お手隙な時にその本のそのページを丁寧にめくって辿ってほしい。

    原作25巻 第220話 家入等を交えて生まれた、ある交渉の会話のこと。
    あの少女に信念をもってあの形で受肉していた古の術師が、特級の彼に語ったこと。
    『アイツら』が掴んでいた『その方法』のこと。

    そして、これまでの布目を振り返るように照らし合わせてみてほしい。
    あの帳の中で殉職した、あの青年が遺したことばのひとつひとつ。


    「おとといの夜からきのうの朝にかけて、見てはいけないものを見てしまった。
     むやみに言い触らすといけないと思われることなので、自分の判断で最善を尽くそうと思う。
     自分がどうにかできなかった場合は、学長(おれ)と悟に対応を願う」

  • 912/325/12/21 00:11:48

    『2人へ
    かなり嫌な予知夢を見ました。人に伝えると全呪霊に離反されて生命に関わるという直感があるので、命懸けで書き遺そうと思います
    これを埋めた後、遠からず自分は呪霊に襲われて死ぬはずです。出来る限りのことはしました。後を託します

    この遺言を恩に着るのであれば、夏油家の両親の保護を頼みます。呪霊操術を生み出した家系は、今後はより危険視され狙われるはずです

    悟へ
    これからできれば五条家当主以外にも広く情報が入るような役職を持ち、宿儺の指か宿儺自身を無害化または無力化する方向を探り続けて下さい
    天元様の同化を妨害した黒幕と復活したい宿儺がつるんでいます

    夜蛾先生へ
    天元様に極秘で「天元様が同化を行えなかった場合、呪霊操術の対象になるのではないか」を問い合わせてください
    今後、同様の術師が生まれた場合には「天元様の同意がない限り術式の対象とせず、死後遺体もまともに残さない」代わりに「術師として生存を保証する」縛りを制度として確立するのが一番穏当な気がします
    この直感も稚拙で穴があると思うので、ブラッシュアップはお任せします
    同化を妨害した黒幕は遺体泥棒が即強化になる系の術式持ちです。先ほど倒せはしましたが、こいつを一度倒せば解決なのか確証が持てません』


    「君たち、私を大恩人だと思うのなら、私が言うことを丸ごと覚えてほしい
     明日の夕方よりも後、夜蛾という先生に『だけ』そっくりそのまま伝えるんだ、いいね?
     夜蛾先生に『だけ』伝えてほしいことがあると言えば、先生は誰も聞き耳を立てられない場所を用意してくれるから
     ……伝えてほしいことはね、『枷場菜々子と美々子は呪術の恐ろしさだけを教え込んだ上で呪術界から遠ざけるべき双子です、少なくとも夏油傑のことは追いかけさせないようにしてください』
     そういう伝言なんだ、……詳しいことは話せないんだ、……ごめんね……」


    「極秘任務に切り替わりました。予定とは違う場所に急行します、呪霊に乗ってください」

  • 923/325/12/21 00:13:38

    もう一度念を押す。

    原作25巻 第220話 家入等を交えて生まれた、ある交渉の会話のこと。
    あの少女に信念をもってあの形で受肉していた古の術師が、特級の彼に語ったこと。
    『アイツら』が掴んでいた『その方法』のこと。

    『アイツら』が『そのスキル』を有するというそれ自体の情報について、この世界で託された者達に伝わる余地は、果たしてどこにあっただろうか?

  • 93二次元好きの匿名さん25/12/21 00:14:49

    今晩はもう投下はありません。
    次回予告:当時の夜蛾関係のなんやかや(続)

  • 94二次元好きの匿名さん25/12/21 10:02:59

    保守

  • 95◆u2l2p9tbxk25/12/21 14:42:53

    別カテのスレで色々やってる都合上、スレ主用のトリを決めさせていただきます

  • 96二次元好きの匿名さん25/12/21 19:47:29

    保守

  • 97◆u2l2p9tbxk25/12/21 20:42:46

    >>95

    別カテの当該スレを爆破させて頂きました。


    先のスレ内でもトリ付きで書きましたが、もう視認できない状態ですので、ここでも改めまして。

    アドバイス頂いた方々、本当にありがとうございました。


    特に最後に『保存して爆破すればいい』と仰って下さった方、こちらに発想が全く無かったので御教示頂き助かりました。

  • 98◆u2l2p9tbxk25/12/21 21:36:03

    今晩は投下はありません。

    書きたいものがどうも長文になりそうです。
    アウトプットが止まったらそれはそれで御諒解いただけますと幸いです。

  • 99二次元好きの匿名さん25/12/22 07:29:18

    保守

  • 100二次元好きの匿名さん25/12/22 12:32:04

    保守

  • 101◆u2l2p9tbxk25/12/22 21:57:57

    保守ありがとうございます。
    本日投下できる場合は23:00までに投下します。その時点で投下が行えていない時は「本日の投下は無し」ということでお願いします。

  • 102二次元好きの匿名さん25/12/22 23:37:49

    ほし

  • 103二次元好きの匿名さん25/12/23 07:26:46

    保守

  • 104二次元好きの匿名さん25/12/23 17:22:12

    保守

  • 1051/5◆u2l2p9tbxk25/12/23 17:50:55

    死なせてくれとまで慈悲を乞うた弱っちい補助監督に死を命じずに退職の道を与えた、ただそれだけできる善性と、一方で、必要に応じて吐瀉物のような非道らしきことをしてみせる判断力は、1人の男の中で両立する。
    少なくとも、この世界の中では。勢い任せにピースを組み合わせた稚拙なパズルか絵のような、この『世界』の中では。

    かたちを決めよう。
    枠を組んで中に当てはまるピースを嵌め、あるいは、輪郭を決めてその内に塗るべきだった色を塗る。
    それらしい設定のかたちを定義してそれらしきものを創り出す。
    類推の混ざったそれらしきものに、明示と繰り返しの中に妥当に見える『正解』と『誤り』を見出して、そうして『謎』と『答え』を創り込んでみる。

    どんな謎でも、他人に任せてはおけず放置もできない事柄は、結果責任も含めて総(すべ)て己で背負い込むしかない。
    特級術師の教え子が命懸けで遺した標石(しるべいし)が明確に『かくあるべし』と遺したことなのだから、託された『夜蛾先生』が、その思考と判断でやり遂げるしかない。

    己の器量を己なりに踏まえた上で、それでも『目をつぶらない』道行きを拒んだならば。
    ならば、見れるなりに見た末の眼差しと思索を抱えて、綴るか・語るか・さもなくば沈黙せねばならない。
    脳内の物事全てを伝えられるテレパシストでもない限りは、推敲した単語・限りある文章で、そうやって、見据えた末のことばを紡がねばならない。


    薨星宮に丸テーブルが1つ置かれ、椅子が5人分、うち座している者は、後から押しかけた2人と天元。
    傍らに五条が降ろした帳が降りて、離席した2人が中で会話していて、前触れなく急に夜蛾正道の方だけ『多大な』異変が起きた。
    音を遮るためだけの薄い帳は、外部の視線を一切拒まず、その惨状を丸見えにしていた。

    「っが――!!」

    予想だにしない因果そのものによる『不意打ち』。
    1級呪術師の魂にとっては不可視の、巨大な何かが擦過していく。
    逃げ場のない衝撃が『魂』を激しく揺さぶり、喉から溢れた鮮血が床を汚した。

  • 1062/5◆u2l2p9tbxk25/12/23 17:53:28

    「! 何が起きたのさ?」

    九十九が驚愕に腰を浮かせた。悟が即座に帳を解き、膝を突いた夜蛾に手を伸ばした。

    「……。今、『何か』起きたぞ……。
     知らない間にうっかり『縛り』に抵触しかかった系のヤツくせぇ。たぶん俺の発言ミスだ」

    「……いや、違うぞ悟」

    教え子の親切な支えを、夜蛾は血に染まった掌で静かに、だが頑なに拒んだ。
    血に濡れた口元で丸テーブルの面々を見渡した。

    「……おそらく、私『だけ』が成すべき『依頼事項』を、お前にも委ねたためだ。
     託されたのは『私だけ』だった……、そう解釈するべきものだったんだ……。
     真っ正面から間違えたわけではないんだ。
     だが、……きっと私達は『正面から間違えてはならないもの』を、不完全なまま『正解』の体で通り抜けようとした……」

    楽厳寺が座したまま冷静に問うた。

    「夜蛾、……ならば、お前が五条への依頼を撤回すれば、今のお前の『報い』は緩和されるのではないかの?」

    聞かれた夜蛾は膝を付いたまま、震える手で口元を拭った。少し考え、重々しく首を振る。

    「…………いえ。そもそも私一人では容易に超えられぬハードルの事柄だったから、悟を頼ったのです。
     正面から抵触したわけではない以上、『現状そのまま』で突き進むしかないでしょう」

    血を吐いた口内を確かめるように一度飲み込む。軋んだ世界の慣性を推測する。

    「詳細は話せませんが、私がこうしてあいまいに解説する分には、更なる『報い』は生じないようですね……」

  • 1073/5◆u2l2p9tbxk25/12/23 17:56:05

    世界は優しくもなく公平ですらないが、歪みのバランスは取るように動く。
    ただし、天秤の針を戻そうとする、無機質なバランスの維持機能だけが、『世界』にはある。
    渋谷事変において『あべこべ』や『降霊術』の呪詛師が回想の中で直感したその有様を、この『世界』の法則としたい。

    夜蛾の吐血後の推測は部分的に正しく、部分的に誤っていた。

    世界にとって『生じるはずの歪み』を止める術は『常に在る』が、それは情理を捨てねば届かない『無理難題』として極めて高難度に発現する。
    例えば、元の世界の2018年10月以降に生じたあの惨劇を防ぐための『答え』のように、極めて高難度に『最適解』は発現する。
    この例示においての最適解が、――『前年の冬』に五条悟が夏油傑の『処刑直後の現地での火葬』であったように。

    夜蛾正道は、世界が設置した『最適解』を選びようがなかった。
    本来の世界において、夏油傑が見出した枷場姉妹の末路は、承知のように『宿儺に刻まれる』等の形で『無惨に殺される』。
    夏油傑はこの末路を私情で歪めて死に、双子への縛りと共に、無意識に世界の『歪み』の『引き受け手』を夜蛾に託してしまっていた。


    夜蛾正道が『世界』の報いを避けるという観点において、本来行うべきだった最善の行動は、以下の3点に尽きる。

    1.双子に対して『宿儺に刻まれる』のと『同等量の恐怖』を与えること。
    2.上記1に加えて、『双子を呪術界から遠ざける』行為を完全に『夜蛾の独力』で与えること。
    3.1と2に加えて、これが『夏油傑の遺言』に基づく動きであると『誰にも悟られないこと』。

    これまでの経緯を振り返った時、上記3点はいずれも『不完全だった』と言って良いはずだ。

    1.については、双子に与えた『恐怖の量』が絶対的に不足していた。
    1級呪術師として誠実に向けうる『ただ脅すための殺気』が、あの『宿儺』の『気まぐれに切り刻まれる恐怖』に及ぶわけがない。

    2.については、五条家を『間接的に頼った』ために『完全な独力』ではない。

    3.については、悟の問いに『間接的に肯定した』ために、この時点で『悟と共に』、同時に『抵触しかかっている』。
    そもそも家入が、双子に『伝言がある』と騒がれたことを把握しているため、『完全に順守出来た』扱いと厳密に見なされるか少し怪しい。

  • 1084/5◆u2l2p9tbxk25/12/23 17:57:07

    『報い』は双子の運命が確定した悟との密談終了時に発生し、悟と分担して同じ報いを夜蛾が受け入れたことになる。
    それが、この世界で起きたすべてのことだ。

    だからこそ究極的に『無理難題』の『極めて高いハードル』なのだった。
    託した生前の夏油傑自身も想定していなかったはずの、『歪み』の『報い』。

    夜蛾正道の思考において、あの双子が、本来の世界で辿るはずだった末路など全く知る由がない。
    報いを受けた後の精一杯の推測も、『真実すべて』には届いていなかった。

    遺された者たちの内にとって、誰も分からないこと。絶対に分かりようがないこと。
    このように降り掛かる『因果の全貌』を『正しく言い当てること』など、初めから不可能だったのだ。

  • 1095/5◆u2l2p9tbxk25/12/23 17:58:57

    ――さて、この理不尽を踏まえて改めて振り返ってほしい。

    夏油傑という青年が予知夢を見た後に『歪めた』運命のこと、そして世界に生じた『報い』のこと。

    本来あるべきであった双子の運命を曲げたこと、これは上記の経緯で夜蛾と悟が引き受けた。
    本来知るべきでない運命をプレートに書き遺したこと、夏油傑自身が呪霊に喰われるというかたちで生前に引き受けている。

    では、その2点の間に入った行動はどうだろう。

    本来殺すはずのない相手、虎杖香織という女性を襲って殺したこと。
    これは、誰が『報い』として引き受けただろうか?


    夏油傑『本人』には、その報いは与えられていない。
    ただし直接的に不利益を受けうる『もう一方』には与えられた。予知夢とは違うかたちの『夢』で。

    呪術高専3年の夏油傑が襲撃してくるというストレートな光景の、突然の『白昼夢』のかたちを取った。
    世界のバランスを取るためそれだけに降ってきたものに、『虎杖香織という名の羂索』は『報われた』。
    夏油傑が襲撃を企図し始めた殉職の前日に始まり、襲撃されるタイミングが近づくごとに強く明確に変わっていった死闘の光景。
    よく分からないが退屈ではない、それだけの『白昼夢』。


    結局のところ、気高き特級呪術師の仮面(ペルソナ)のまま死んだ青年は、殺しきれなかったし、伝えきれなかったのだ。

  • 1101/6◆u2l2p9tbxk25/12/23 18:58:54

    例えば、夜道を征く者のため、手製の呪骸に警備員らしい装束を着せることはできる。
    反射ベストなり、ライト付きのヘルメットなり、誘導灯なりを装備させて、人間の如く標(しるべ)に使うことはできる。
    それは他の者とは違う1級呪術師の力だ。紛れもなく、彼自身の、彼だけの異能の力だ。

    ただしその人とは違う力は、人生の先行きという道そのものには作用しない。
    予見能力など望むべくもない1級呪術師は、どう進むと『攻撃されうる』のか分からない闇の中を、常人と全く同様に手探りで進むよりほかにない。
    仮に、仮に、見落としたもの・知り得なかったもの・闇の中に隠れ潜むものがあったとしても。
    それらの物事は、人生の路の途中で、呪骸よりもより厄介な形をして突然に闇討ちして来たりする。

    遺すことは、遺されること。歩むことは、踏みつけること。誘導することは、誘導されること。統制することは、統制されること。
    総(すべ)ては同じ物事のうらおもて。
    あの特級の教え子が遺した標石(しるべいし)に視野を惑わされて道を踏み外したとして、誰が責任を取るというのか。

    仮に進めた足が思わぬことに躓きかけて、よろめいたような時があったとして。
    なお歩みを進めるという、そのような意思をどうしても持つのなら。
    それは、それはきっと、自分以外の『何がしか』を踏みつけてでもあり続けるという非道と、全くの同義だ。


    夜蛾が吐いた血を拭い、協議の継続を宣言した後のことだった。
    九十九が椅子に深く座り直して、どこか遠くを見るような目で、夜蛾に向けて言った。

    「私は血を吐いたあなたが心配だよ。これからも地獄を突き進む判断は尊重するけれど。
     私がなにもかも忘れ去ってここを去った時はね、……おそらくそのままだといずれあなたはパンクする」

    言われた方はその言葉を、天元との間に交わされる『忘却の縛り』を踏まえた気遣いだと解釈した。
    そもそも彼女は『納得できた時だけ』は、『この協議のなにもかもを忘れて薨星宮から去る』という縛りでここに居る。

    「……ご心配どうも。でも術師としての『私』が『決めたこと』だから」

    短く、拒絶に近い返答。言われた方は困ったように眉を下げ、頭を掻いた。

  • 1112/6◆u2l2p9tbxk25/12/23 19:01:00

    「いや、……私が言いたいことはそういうニュアンスじゃないんだよね、うん」

    彼女は夜蛾からは目を逸らさずに続けた。

    「詳細は知らないし聞くつもりも無いけれど。
     ……『五条くんでも少しはよろめくレベルの報い』が降りかかるような事態を、ずっとそのまま維持し続けるのであれば」

    指を突き付けて言い切った。

    「あなたの『魂』は遠からず『もたなく』なるんじゃないかな?
     たぶん『肉体の死』よりも『悲惨な形で死ぬ』よ?」

    「……ッ!!」

    座にいた全員が息を呑んだ。それは呪術師としての経験則が導き出す、残酷なほど正確な予見だったから。

    「術師として今のまま有り続けたいのであれば、別の『誰か』にそのダメージを転化させるなりしないと。
     あなたの『存在』自体がまず厳しい予感がするんだよね」

    何も言い返せなかった。言われてみればそれはそうだった。先ほどの衝撃を何度も受け続ければ、確かに『そうなる』はずだった。

    九十九は皆の沈黙を肯定と受け取り、淡々と言葉を続ける。

    「あなたの立場なら『世間的にどう扱っても問題ないようなヤツ』の心当たりはあるでしょう?」

    夜蛾を指した指先を滑らせ、天秤のように比べて示していた。

    「たぶん、そういうヤツらをそれこそ『そのため』だけに『ひとりで使い潰す』つもりで色々とやらないことには。
     ……そのくらいに『代償を押し付ける相手』を捜さないことには、あなたの『魂』はきっと『遠からずパンクする』んじゃないかな?」

  • 1123/6◆u2l2p9tbxk25/12/23 19:02:44

    『教育者』として在りたかった脳裏に、『教育者』としての彼が何より忌避してきた『効率』という名の非道がよぎる。
    他者の運命を盾にして、己の因果を清算するという判断。
    強く古い呪術界の中に脈々と存在する、あまりにも残酷だがそれだけに『強い』営為。

    「任務先でこっそりやっちゃう系の話じゃないんだ。
     誰も干渉しない場所に連れ込んでとか、その手のニュアンスで私は言ってる」

    重苦しい沈黙が場を支配した。
    五条も楽厳寺も、そして天元すらも、彼女の提示した解決策の正当性を否定しなかった。

    「身の程を知ってる人間が常に平穏に生きていけるわけではないけれど、身の程知らずは常に悲惨に破綻する」

    彼女の言葉には、慈悲も嘲笑もなかった。
    ただ、そこにある事実を測るだけの冷徹な響きがあった。

    「……たぶんあなたの『魂』には、そのくらいの器量しかないんだ」

  • 1134/6◆u2l2p9tbxk25/12/23 19:05:35

    口内に残る鉄の味を一度飲み込み、全員を見渡した。
    先刻までの『教師』としての苦悶は消え、代わりに、処刑人のような平坦な光だけを瞳に宿していた。

    「……貴女の指摘は、おそらく正しい」

    言いながら、傀儡操術の呪術師は、テーブルの上に己の血を拭った指先を置いた。
    見下ろす指の血の『意味』をただ反芻し、努めて言葉に苦しみは乗せないよう律した。
    これは苦悶しながら言う言葉でないと、自覚があった。

    「この業界には、似通った『やらかした輩』が定期的に出る。
     ……人生の中途で術式なり呪力なりに目覚め、力の万能感に溺れた輩。
     呪術界の力関係も知らぬまま、世間の量刑相場の性根が前提にある癖に、その癖に民間人の人死にを幾らか出した――『そういう』手合いだ」

    六眼を持つ『最強』の教え子が、恩師の口調の変化に微かに眉を動かした。

    「そいつらに『ただの処刑人』として赴いて、その名乗りで『私』が『二択』を突きつける。
     『今すぐ処刑される』か、私の下で没後すら鎖に繋がれた『サンドバッグ』として幽閉されるか、だ。
     ――『ストレスの多い業界だから、俺の家で文句を言わずサンドバックになってくれる奴を探している』と、率直に言う」

    教育者としての慈悲が一点も混じらないようにする。
    それくらいのことを言っていた。

    「『即処刑』だと『謎の失踪』として扱われ『家族の人生』まで『訳の分からないまま影響する』だろうが、
     ……『幽閉』を選べば『多少の偽装フォローはしてやる』と持ち掛ける。
     『借金苦でトンだ』系統の話をでっち上げさせればいい。
     本人自筆の手紙を書かせれば、遺された方は、驚きはすれどまず納得はするだろう。
     殺すはずの相手にまともな共感力を持つつもりはないが、提示する条件に嘘は吐かない」

    誰もその発案を否定しなかった。教え子も、九十九も、楽厳寺も、天元さえも。

  • 1145/6◆u2l2p9tbxk25/12/23 19:06:45

    「条件に『遺された家族の情報を定期的に教えてやる』とでも加えようか。
     3ヶ月スパンで冥冥あたりを雇い、家族の現況をまとめさせて示す。
     ……幽閉された方は、そのわずかな接点を区切りに、ギリギリまで耐えるだろう」

    ただ、楽厳寺だけはその言葉の重みを測るように、何も言わずに深く目を閉じた。
    その『納得』を伴う『地獄』の構造が、どれほど強固な『縛り』になるかを熟知しているがゆえに。

    「相手が自らの罪と天秤にかけ、納得して地獄を選び取るのなら。
     それは『だまし合い』のない純粋な縛りとして機能するはずだ。
     私の『魂』がパンクする前に、その破綻を避けるため『だけ』に、『歪み』をそいつらの肉体と魂に肩代わりさせる」

    夜蛾は、冷徹な計算を終えた目で九十九を見据えた。

    「術師として有り続けるために、『彼ら』を使い潰す。
     ……ただ私の『存在』を維持するため『だけ』の燃料として」

    静寂が謀議の場に沈殿していく。
    教育者が提示した残酷な最適解について、もはや誰も一言の異論も差し挟まなかった。

  • 1156/6◆u2l2p9tbxk25/12/23 19:07:46

    「こんなことを突き付けた私を呪うかい?」「まさか。絶対に必要な情報だったさ」

    九十九はようやく笑んでみせた。

    「じゃあ1個だけ、祈りか呪いか縛りめいた『ことば』を上げるよ。
     これを受け入れるかどうかはあなたが決めていいけれど、どちらにせよ、……ここの話をぜんぶ忘れて、薨星宮(ここ)を出てあげよう。
     “あなたの泥臭さに敬意を。ただ、いまのあなたが成り果てたくないものにまで、あなたが成り果てませんように。
     いつか、魂が適応して慣れるまでに育ちますように”」

    特級呪術師 九十九由基の心から発したろうそれは間違いなく善性のそれで、押し付ける意志を持たないフワフワしたもの。
    夜蛾は即答で返した。

    「“その『ことば』を受け入れる。ありがとう”」


    遺すことは、遺されること。歩むことは、踏みつけること。誘導することは、誘導されること。統制することは、統制されること。
    総(すべ)ては同じ物事のうらおもて。

    悟ほどに接点のない特級呪術師の女のそれが、夜蛾をそうして規定してはめ込んだ気がした。

  • 116◆u2l2p9tbxk25/12/23 19:10:54

    今晩はもう投下はありません。
    次回予告:当時の夜蛾関係のなんやかや(終)+(もし書けたら)あの帳の中で『死ぬほど』戦った話@虎杖香織etc

    たぶん今回と同じくらい間が空く上に、結構な長文になると思います

  • 117二次元好きの匿名さん25/12/23 23:15:37

    保守

  • 118二次元好きの匿名さん25/12/24 07:37:31

    保守

  • 119二次元好きの匿名さん25/12/24 16:35:04

    保守

  • 120二次元好きの匿名さん25/12/24 19:07:04

    保守

  • 121◆u2l2p9tbxk25/12/24 22:10:09

    今晩は投下はありません。
    それから次回予告etcを修正します(構想は流動的です)。アウトプットが止まったらそれはそれで御諒承願います。

    次回予告:蛇足または夜蛾への実務的助言@薨星宮での話を『忘れて去る』前提のふたりより
    その後に投下見込み:当時の夜蛾関係のなんやかや@あの帳の中で回収した杖の扱いを中心に
    その後に投下見込み:あの帳の中で『死ぬほど』戦った話@虎杖香織etc

    書けたらいいと思ってること①:
    『必要だから』作ったサンドバック達の庭+1級と特級の『格の差』と絶望のこと
    @庭の主かつメイン利用者夜蛾+家主補助で後から入ったサブ利用者五条+当初から場を貸している天元

    書けたらいいと思ってること②:
    永遠の6歳児のこと
    @乙骨レベルでは無いが『重ための見えてる爆弾』扱いで秘匿死刑の俎上に上がりそう系の予測が立ってる
    +最悪の事態を何とか避けたくて頑張りたい系業界関係者一同のえらいややこしい経緯
    (関わった時系列順に、傍女扱いで離れられなくなった実母+加茂家当主の実父+(だいぶ経って以下5人ほぼ同時)夜蛾+五条+禪院直昆人+禪院直哉+ついでに秤+(前記5人より少し間をおいて)ついでに禪院真希)

  • 122二次元好きの匿名さん25/12/24 23:53:17

    ありがとうございます!

  • 123二次元好きの匿名さん25/12/25 04:55:53

    期待

  • 124二次元好きの匿名さん25/12/25 12:23:24

    保守

  • 125二次元好きの匿名さん25/12/25 17:44:04

    保守

  • 126二次元好きの匿名さん25/12/25 21:18:16

    このレスは削除されています

  • 127二次元好きの匿名さん25/12/26 02:54:04

    保守

  • 128◆u2l2p9tbxk25/12/26 12:18:05

    昨晩の明らかに事故ってたレス>>126を削除しました。

    テンションおかしくなって後半で自己客観視能力が飛んでました。お騒がせしました……。

    (プロット丸コピー貼り付けとか絶対やる局面じゃないのに貼ってましたので)


    併せて今時点で『今日の更新は無し』ということも明言させて頂きます。

    フルタイム労働の見込みと気象状況を鑑みればリスク激高状況ですので、念のため。


    次回予告:蛇足または夜蛾への実務的助言+新出『陶製』の標石のこと@薨星宮テーブルの面子総意による

    次々回予告:当時の夜蛾関係のなんやかや@あの帳の中で回収した杖の扱いを中心に

    更に後の回の予告:あの帳の中で『死ぬほど』戦った話@虎杖香織etc

  • 129◆u2l2p9tbxk25/12/26 18:46:53

    保守がてら

    スレ主個人の事情について 補記 兼 おことわり:

    テンションが変だと、自己客観視能力が真っ先に優先して飛ぶ感じでバランス崩しがちなタイプです。
    今後もしもまた客観的におかしいと感じられた時があって、(お手隙かつご奇特な方がもしも居られましたら)その旨を冷静に御指摘頂けましたら、スレ主は本気で助かります。
    後から読み返して『変』だと思ったら『修正する』or『消したくなる』という思考も、この文脈を前提にした延長上にあります。

    リアルのフルタイム労働はぼちぼち落ち着く期間に入る直前なのですが、予想不能な変数として(流通or生産系etcニュアンスの外的要因で)飲んでるもろもろの突発的な強制調整が登場しました。
    今後のテンションが本当に色々な意味で読めないため、更新が急に止まったら、その前提で『バランス調整中』だと御理解頂けますと幸いです。

    消したレスで前半部に書いていたことですが、仮にネット接続自体をシャットアウトする判断になったとしても、たぶんそれ自体は公言しないと思われます。

    アウトプットしたくてたまらない情景をひたすら手癖でアウトプットしたいパッションはあっても、そのパッション以外に色々と伴ってなければマジで事故ると思うのです。
    さすがに同じミスは繰り返さない判断能力は維持できると『思いたい』のですが、今この時点の現状では、『思いたい』以上の強さの事は、どこからどう考えても無責任に言えませんので……。

    以上 補記 兼 おことわりでした

  • 130二次元好きの匿名さん25/12/27 01:08:55

    すごい

  • 131◆u2l2p9tbxk25/12/27 10:39:21

    保守ついでに

    従前の投下を含めたSS文中で『これどういう意味?』がある場合の御指摘も大歓迎です
    (状況によってネタバレ明示になったりするorまずスレ主が決めていない事項のお尋ねになるため、そうした御指摘に返信するかどうかは保証できないのですが)
    これまでもやむを得ない無言スルーはありましたが、頂いたものは全部確認してきました

    そもそも客観視点が薄いor飛びやすい系スレ主にフォロー下さる御奇特な方がこのスレに居て下さるのですから、
    そういう意味で、途轍もなくありがたいことだと常に捉えています

    そもそも誤読のありうる文章の放置は好きではないですしね

  • 1321/10◆u2l2p9tbxk25/12/27 17:37:37

    思いがけずに生じためちゃくちゃに長い蛇足のこと。
    あるいは、三人どころではなく文殊の知恵どころでもなかった、『ことば』と『発想』の連なりのこと。


    「私は納得して忘れて居なくなるけれど、残って覚えておく面子は、もし良ければ覚えていてね。
     『魂』は、受肉などの衝撃で欠けたり、ぶつかったり、融合することだってある。
     ならさ、同じ衝撃を受け続ける1級呪術師の『魂』が鍛えられ、他者へ擦り付ける『必要が無くなる』ことだって、あり得るんじゃない?」

    「――!!」

    「無責任なことは言えないよ。絶対『そうなる』とまで断言はしないさ。
     必要だから生まれたものは、必要でなくなれば消えるものであってほしいの。
     忘れ去るだけの言挙げを受け入れてくれたんだもの、それくらいの夢を持たせてもいいでしょう?」

    「……!!」「この夢のあることばも“受け入れてくれるんだね?”」

    「“受け入れない訳ないだろ!! 拒絶する余地が絶対にあるものか!!”」

  • 1332/10◆u2l2p9tbxk25/12/27 17:39:02

    「話の腰を折るようですが儂からよろしいでしょうか? あえてここの皆の前で天元様にお尋ねします」「うん? 言いなさい」

    「もしもこの夜蛾正道がそのような、そうですな、……『幽閉のため』の『私的な庭』を今後構築するとしたとします。
     天元様がその『庭』の構築を助力する判断は有り得るでしょうかの? それはいかなる名目で、何の報いとして助力されなさるものなのでしょう?」

    「それは――」

    「星漿体と同化し得なかった貴女様の変性が、いまや危険要因として顕在化しております。
     一方的に恩典を求める行為・恩典を与える行為は、それが善意であっても明確に『危うい』ことになりはするまいか。
     ……老いた矮小の身からの戯言をお許し下され。儂の見識では『そうではないか』と、それらしき尺度で推理して差し上げるほかにすべがないのです」

    「謙遜が過剰な気がするが、打ち捨てるような戯言で決してないな。この場では実に必須だった提言だろうね。
     言われなければ見落とすかもしれないことであったし、何よりも、何から何まで理に適っている」

    「ありがとうございます」

    「そうだね、もしも私が助力したとして、その名目は、まだ一案だが、
     ――まず『夏油傑の極めて重大な献身』への『恩典』かな。
     もはやその『当人』が『殉じている以上、どうしても直接は報えない』ので『その師に代替として』与える」

    「その『名目』でですか!? 私に!?」

    「……まぁ、それを受け取る相手のきみが心底納得して受け取りかねるのであれば……。
     『献身を受けた師』が『誠実に私に伝えて色々と練り上げている』、その今に続く『重大な行為』の『恩典』とも位置付けて良いだろうか?

    「……それは、」「まだ答えないでおくれ夜蛾正道、現時点ではあくまでまだ一案だよ。確定はさせないから、――」

    「――ただまぁ、今のところ『恩典』は『結界』のかたちを取るのが無難かつ最適なのかもしれないね。
     『庭』の外部からの干渉を防ぐ『結界』を与えるような形式の」

  • 1343/10◆u2l2p9tbxk25/12/27 17:40:10

    「ねぇ。あなたに同居家族いるかどうかなんて把握してないから、もしも見当違いだったらごめんね。
     今どこ住んでるのか知らないんだけど、すみかの引っ越しの自由は融通は利いたりする?
     この高専の敷地内にはフツーに空いてる一軒家くらいあるでしょ? 引っ越してその『家の中』と『結界』を繋げたらどう?
     ……それならかなり『やりやすい』よね? 天元(コレ)もあなたも」


    「お前の身の上は知っとるが、……お前は天元様を指して『コレ』と呼ばうのか」「良いじゃん別に」

    「私は気にしてないよ。九十九、きみが『そういう子』だと最初から知っているし、私は曲げさせるつもりはないからね」

    「え゛ー、……じゃあ、『ババア』呼びしようかしら?」

    「それはもっとやめろ、天元様は良くとも儂が受け難い。お前はそも喧嘩するためにここに居るのか?」

    「……。じゃあ『コレ』で」「ッハ! 一本取られてやがんの」「……ケッ」

    「じゃあ本筋に戻ろうか、みな。どうでもいいことで話が止まってるから」「「「ハイ」」」


    「……。俺はバツイチで今は独り身だ。引っ越しはすぐできるな」

    「引っ越す前の今の家に『重ため』の思い出の品とか家具とか、ある? 新居でも引き続き置いときたい・引っ越しで捨てるなんてあり得ない、そんな感じのヤツ」

    「夜蛾(ウチ)の家の子ども3人の仏壇関係だ。遺影や位牌や、……特に骨壺。離婚した相手方と等分で分骨したうちの持ち分。
     ……逆にその仏壇関係以外は『全部破棄しても良いもの』しか家に置いてない。
     仕事の情報や物品は基本的に持ち帰らないようにしている。職務上も、そうした『やらかし』は物騒な事態しか招かん」
     
    「じゃあ追加で今閃いたアイディアをマルッと提供するよ。利活用自由かつ見返り不要で」

  • 1354/10◆u2l2p9tbxk25/12/27 17:42:18

    「その仏壇がスッポリ入るようなデカめのクローゼットか何か、……扉付きの家具を見繕って、元の仏壇をその内に入れ込むの。
     クローゼット本体のガワにはあからさまに呪力紋様描いといて、仏壇の中の骨壺に『盗難防止』が効いてるように見せかける。
     クローゼットのガワにデカい貼り紙するの、『2007年9月より 恩典として天元から借用 必要でなくなったら返すこと 夜蛾正道』ってね。
     その家に入り込んで壊したり盗んだりするような人は出ると思う?」

    「少なくとも業界上層部の組織的な窃盗やら小物の独断やらは有り得ぬな。天元様を巻き込んだ制裁を想像するじゃろ」

    「『庭』に行きたい時はね、『庭を見たことがあるか創ったことがある人』が、クローゼットの扉に『庭に出たいと念じながら鍵を挿して』開閉した時に『だけ』、
     ……その時『だけ』は、その『庭』に繋がるようにする。
     技術的な意味で確認するけど、そういう結界ってコレ(天元)の結界術の練度でいけるかな?」

    「できるよ九十九。間違いなく。条件付けも妥当だ」

    「家の玄関のシリンダーと、クローゼットの扉のシリンダーを『工業的な意味』で『同一型番』にして、『同じ鍵』でどっちも開くようにするの。
     一見すると『セキュリティめちゃくちゃに堅めた住まいを貰って、そこに住み込むことにした』系の話に見せる感じ。
     もらった褒美を『子どもの骨壺の盗難防止』に使ったまではギリで推測できるようにする。……当事者の心理的なハードルはどうかな?」

    「……。ハードルだとは感じない。なぜ『必要なのか』が明確だから、そのためかもしれないが」

    「んじゃその前提で、もしも貼り紙を見た人に何か言われたら、あなたは定型文だけ言うようにするのさね。
     ――『天元様からいずれ返す前提で借りた物です。所有者ではないため何も言わないように指示されています。答える権限は私にないので、お尋ねは天元様へ』」

    「冴えとるなお主!!」

    「でね、『家の鍵』を普段は首から提げとくのよ。紐を通して服の下に着込む感じでね。
     素肌目掛けてマジ攻撃できるイカレ野郎の案件以外は世間的にカバー効く話でしょ?
     ――以上、今閃いたアイディアでした。どうかな? どっか盲点があったら言ってね?」

  • 1365/10◆u2l2p9tbxk25/12/27 17:45:54

    「五条、今九十九に言われた案がそのまま採用されるのであれば、お前が『庭』の運用の補助に入れ。
     お主も同じ『歪み』を受けて揺らいだのを儂は見たぞ。……六眼と無下限が限りなく完全無欠だとはどうも思えんのじゃ。
     同じ『庭』を同じ『用途』で後に『共に使う』可能性を、現時点で見越しておかねばなるまい」

    「「あっ!!」」「2人とも、儂が今言うまで本気で気付いてなかったじゃろ?」「ハイッ!!」「おう!」

    「『将来は共用し得る』から『庭の主を助力する』という『位置づけ』がお互いに必要ではないのか?
     師への気遣いや教え子への気兼ねがあっても、それ『のみ』で不要になる時期まで『庭』が続くじゃろうか?」

    「……。ごもっともな御指摘ですね、ええ」

    「あー、じゃあ。……『サンドバック』を選んだ奴らのメシ代とか『生かすのに必要な経費』は俺が出す。実費で俺に清算してくれ。
     できれば『サンドバック』を外から連れてきて幽閉させる工程も、俺が補助で、「いや、そこまでの手出しはいい」へっ?」

    「食費はともかく『使う』相手の連行までも、俺がお前に頼るのは、どうか、と、……そう感じたんだ、今。
     ……『庭の主』は『俺』だろう? さすがにそれは俺の意地を通させてくれ、今は」

    「分かった。でも『無理そう』に見えた時が来たら、流石に俺は口を出すかもしれねぇぞ」

    「……ああ、そうならないと願いたい、が、な。……それと、念のために天元様にお尋ねがあります」「ん」

    「先に提示して頂いた『恩典』の『位置づけ』です。
     そのような形で私に『与える』ことの意味になったとしても、長期に渡り『与え続ける』根拠になり得るでしょうか? 釣り合いが取れていればいいのですが」

  • 1376/10◆u2l2p9tbxk25/12/27 17:47:24

    「――、」「じゃあ俺からもアイディア!」

    「これまでの話を総合すれば、だ。俺には『義務』が生じるはずだよな?
     『将来産まれうる呪霊操術師』の中でも、『天元様への術式使用不可とか遺体を遺せない系のルールにハマれない』上に、
     おまけに『術式封印を誓って一般人として生きる生活も選べないヤツ』が出た時の、……そういう奴が出た時の『義務』のこと」

    「ああ、その方向で話していたね」

    「俺は、そういうヤツらの所に急行して、俺の手で直接根こそぎ消し飛ばす『義務』を、負い続けることになる」

    「まさか、……悟、お前、ッ」

    「“五条悟の名において、その『義務』の『恩典の一切』を夜蛾正道に『移譲し続ける』。俺の過失で必要性が生まれた『庭』を維持しづけるために”
     ――まだアイディアだよ、どうかな?」

    「“釣り合いとしては妥当だと思うし、それ以外に妥当な献身は今は思い浮かばないと答えておくよ。
     恩典を与える張本人の立場としてはね。移譲される側の心までは想定の範疇に含まないという大前提だが”」

    「――ッ!!」

  • 1387/10◆u2l2p9tbxk25/12/27 17:48:24

    血の残る指で己の顔を押さえて、自身の『器』に絶望する年下の同格の同輩を、その老人はどのように見ていただろうか。

    「すまんの、夜蛾。究極的には儂らはいつまでも支え続けることはできん。当初からそうじゃったが、今は余計にそうじゃ。
     『2人へ』と託された夏油の『遺言』を、儂らが覚えたまま居続けることはできんのじゃ。
     ……それが魂を更に損なうのではないかと、そういう意味で新たな解釈が生じてしまっておるからの」

    「いえ、……。それでも、今この時限りでも支えて頂きましたから。
     ……絶対に必要な支えでした! どう考えても!!」

    「ならばことばを続けようかの。……容(い)れるかどうかは受けた者共が決める前提で、じゃ。
     なお、覚えて残るもの達に幾らかは提案できることがある」

    「はい」「おう」「どうぞ」

  • 1398/10◆u2l2p9tbxk25/12/27 17:49:58

    そしてその老獪な知恵の『庭のつくり方』は提示された。1本1本指差して示されながら。


    一、規律のある『納得』による『地獄』を築くこと。
     気まぐれに与奪を与えるのではなく、何をすると何が与えられ、何が奪われるのか。相関の全てを、事前に一分の隙もなく宣告すること。
     これは『個人』を、『理不尽な加害者』という因業から引き剥がすための楔(くさび)となる。

    二、自ら死にたがるものを生かそうとしないこと。
     ただ『ひとつ』の『決まりきった道筋』を据えておき、それ以外の手法による自殺企図を徹底した懲罰の対象とすること。
     唯一『許された』その出口を除く『あらゆる死に様』を、規律の支配下に置くこと。選択肢を与え、結果をその身に帰させること。

    三、『庭の主』として振る舞う時は仮面を付け、できればその空間に入る前に、服装をそれ専用のものに変えること。
     名乗らずに『あるじ』なり『家主様』なりと呼ばせ、『個人』をその『呼び名』の裏に隠すこと。
     仮面は顔の上半分のみを隠すような形状を勧める。目元から迷いを読まれぬように、しかし口から語る規律が、より明確に響くように。
     意図して『切り替える』ことを意識しなければ、おそらく、気質からしてこうした業は必要な期間まで『もたなくなる』。

    四、規律に反した時の『懲戒』には、特定の『道具』を使うこと。
     明確に『必要だから使う』行為と分けて使い分け、『懲戒』には体温を乗せぬこと。
     掌は『必要な時に限り』使い、直接血に染まる回数を減らすこと。
     事務的に、かつ冷酷に。『恣意』ではなく『規律』そのものが罰を下すのだと相互に擦り込ませるために。

    五、『使う』時の作業を、『定型句』等を交えた簡素な儀礼として『規律』に入れ込むこと。
     最低限の食事その他『在り続けるため』の『必要な物資』は、儀礼通りに『使われた』後にのみ与えること。
     何かしらのトラブルで『庭』に入れなくなった時は、飢えた『相手』が『非道に使われるため』に『庭の主に縋ってくる』構図を想定すること。
     そのような場合は『与えるもの』の質や量を上げるなどして『バランス』をとり、『エゴで創られた』が『恣意の無い場』を意識し続けること。


    ひどく実務的な地獄の『つくり方』の助言だった。
    皆が、一つひとつ自らの魂に染み込ませるように聞き入れた。

  • 1409/10◆u2l2p9tbxk25/12/27 17:52:02

    その時。『主になるはず』のその男の脳裏に、一つの光景が閃いた。残酷と誠実が共に有る光景が。

    「――『庭』が何故できたのか、どういう方針で運用されるのか。
     端的で、それでいて婉曲に書かれた趣旨の文章を刻んだ原文のプレートを埋めるんです、床の下に。
     『それ』が『サンドバック』を殴る呪力陣の足元に、透過する強化樹脂の下で、床から透けて見える形で埋まっている」

    「これからこのテーブルの全員で書いて頂けませんか、『ことば』として。
     ……紙の文案を起こして、全員で納得出来たら原文にしていただけませんか?
     傑が綴ったものを模倣した、格落ち品だと明確に認識できる『陶器』のプレートです」

    「ただ『発端』になった『この場の思考を思い起こすこと』は出来るだけの、それだけの詩文にするんです。
     伏せ過ぎずかつ明示しすぎないかたちの曖昧な連なりが、『庭の者たちすべての在り方』を縛っている」

    「そのプレート原文を模写した複製品も、同様に床下に埋めるんです。
     幽閉された者たちひとりひとりに繋がれた鎖の足元にも、逃れようのない現実として埋まっている」

    「――そして、呪力陣ではない『庭』の一角には、『墓標』だけのまとまった『場』を造るんです。
     ひとつひとつに『イニシャルと幽閉期間のみ』を刻んだ杖が、林のように静かに立ち並んでいてるような……。

    「杖は、幽閉を選んだものが新たに『庭に来た』時、それに応じて造ることにします。
     模造品の、……プレートと同様に、傑が遺したのとは材質が違う、格落ちの模造品だと分かる杖にする」

    「杖の本体には予め用意された『溝』があって、事前に用意した『活字のピース』を嵌め込めるようにするんです。
     予定通り『使い潰された時』には『使い潰した日』をその溝にピースとして嵌めて、そして埋葬地の『墓標』にする」

    「『懲戒』の時のみ『イニシャル』と『幽閉開始日』だけが用意された『杖』で、その呪力陣の上で『打ち据えて戒め』る。
     厳密に『拳』と使い分け、規律に従う限りにおいては『杖』は絶対に『使われない』」

    「埋葬時も足枷と鎖は絶対に外さず、そうした形で『庭の中で永遠に眠る』末路を、……幽閉されるかどうか選ぶ『前』に必ず突きつける。
     『納得』によって構成される、『必要があって』生まれた地獄の庭に」

  • 14110/10◆u2l2p9tbxk25/12/27 17:55:25

    閃きながら出たことばだった。
    当然に、即座に、一切の異論なく、すべて受容された。

    覚えて残る3人/忘れて去る2人、この円卓の計5人の極めて希少な総意によって、陶製の新たな『標石』が生まれた。

  • 142◆u2l2p9tbxk25/12/27 18:07:50

    今晩はもう投下はありません。スレ主のテンション的に事故りそうな予感がしております。

    なお、今回九十九が閃いた『仏壇とクローゼットと結界』のギミックは、スレ主が別のSS案を考えた時に以前に構想したギミックを転用していることを付記いたします(構想段階で終わっているのでスレ主の手ではSSにはしていません)
    原作で『天元に守られた呪骸たちの庭』の情報を目にした時に、『そこへの行き方』を妄想した結果生まれた産物です。

    世の中には、案外同じようなことを考えた方が居られるかもしれません。同じ原作記載の情報から情報を拾って練り上げていますし、何かしらどこかで似たり寄ったりなのが常なのでしょう。
    上記スレ主の考えも踏まえ、アイディアについては『(SS文中の九十九の発言同様に)利活用自由かつ見返り不要』+『改変可』+『(至極当然ながら)起源を主張する意思は一切ない/独占使用権なんざある訳ない』ということでお願いします。

    次回予告:『陶製』の標石のこと@薨星宮テーブルの面子総意による
    次々回予告:当時の夜蛾関係のなんやかや@あの帳の中で回収した杖の扱いを中心に
    更に後の回の予告:あの帳の中で『死ぬほど』戦った話@虎杖香織etc

  • 143二次元好きの匿名さん25/12/27 22:33:03

    (10レス連投か…。本気で自覚なく半分事故りかけてね?
    自己客観視がマジで飛ぶんかい)

  • 144二次元好きの匿名さん25/12/28 06:05:45

    すごい

スレッドは12/28 16:05頃に落ちます

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