「源泉数が関西最大の508カ所ある温泉は、和歌山の一番の魅力」とうたい、和歌山県内温泉の魅力を発信する「第5回わかやま12湯サミット」が10月2日、開かれました。開催場所は、12湯のひとつ「太地温泉」があるくじらの町、太地町。その「温泉」と「鯨類」にも通じる魅力の〝癒やし〟をテーマに、筆者は講演する機会をいただきました。大学との共同研究などから知り得た鯨類の癒やし効果の一部を紹介します。
平成30年まで行っていた田辺市のまちづくり事業「ビーチサイドドルフィン」では、海水浴場でイルカの観察やふれあいの場を提供してきました。来場した成人100人以上が「イルカとのふれあいに期待すること」を自由記述で回答したところ、使用回数が最も多かった単語はなんと「癒やし」だったのです。さらに「リラックス」、「楽しい」と続き、これは温泉に期待することともおおむね一致するのではないでしょうか。
また、くじらの博物館で実施しているふれあいイベント「イルカにタッチ」への参加者に調査を行いました。イベントに参加した前後でそれぞれ、①自己評価による主観的気分の調査と、②唾液採取によるアミラーゼ活性の測定を行いました。アミラーゼ活性は不快な刺激で上昇し、快適な刺激で低下するといわれており、客観的なストレスの生理的指標として利用されています。
結果、①の調査からは、心の状態を評価する4因子のうち、「覚醒度」以外の「活性度」、「安定度」、「快適度」が高まったことがわかりました。一方、②の測定からは、わずかながらアミラーゼ活性の上昇を確認したのです。
専門とする同朋大学社会福祉学部の川乗賀也准教授は、調査結果について「ストレスがないとされる範囲内での変動」とし、「ストレスはあるレベルまででは人体に有益な影響が現れ、レベルが大きくなってはじめて有害な現象が出現するという、ホルミシス効果が当てはまると思われる」と述べます。
続けて「人には体を休めることと気力を養うこと、この2つの側面での休養が重要といわれている。つまり、イルカとのふれあいは、喜びや興奮によって身体的・精神的・社会的な健康を高め養う効果があり、有益だったのでは」と推察しました。
さらに、ふれあいの対象をイルカからウサギに変えて、同様の実験を繰り返したところ、ウサギではアミラーゼ活性に変化が認められず、ホルミシス効果は出現しませんでした。それではなぜ、イルカは人を癒やしたのでしょうか?
筆者は、丸みを帯びた形態と笑っているように見える顎の構造から愛嬌(あいきょう)ある容姿であること、日頃から飼育員が良好な関係を築き人懐っこいこと、そしてコミュニケーション能力が高く意思疎通できている感覚になることなどが要因ではないかと考えています。
12湯が掲げる「人を蘇らせる温泉郷」の〝癒やし〟にも通じる鯨類の魅力を、改めて見いだす機会となりました。
(太地町立くじらの博物館館長 稲森大樹)