物証がなくても起訴し有罪にできる

田中氏が最初に指摘するのは、「物証がなくても、性犯罪として起訴して有罪にすることは可能だ」ということだ。しかし物証がないと容疑が立証できないと考え、事件に取り組もうとしない検察官は珍しくないのが現状だという。

「そうなるのは、供述の信用性というものを突き詰めて考えていないから。供述しかないところで、どうやって供述の信用性を高めて、裏付けて、有罪を獲得するかという観点で考えようという姿勢に欠けている」と田中氏は話す。

田中嘉寿子弁護士(元大阪高検検事)
本人提供
田中嘉寿子弁護士(元大阪高検検事)

加害者のDNA、体液はマストではない

『Black Box Diaries』でも冒頭、伊藤氏の事件を担当する警察官が、「加害者のDNAや体液といった証拠がないから厳しい」と伊藤氏に告げるシーンがある。おそらくこうした判断は、これまで何度も性犯罪事件の捜査現場で繰り返されてきたのだろう。

枕に落ちた脱毛
写真=iStock.com/Doucefleur
※写真はイメージです

元々性犯罪は密室で起き、かつ目撃者もいないことが多いため、捜査が難しい。一般的な傷害事件に比べると、暴行の跡も明確に残りにくい。同意の上だった、または同意があると思った、と加害者側が主張することも多い。防犯カメラの映像などの客観証拠がないと、捜査陣も及び腰になりがちだ。

また検察の体質として、不起訴の決裁をする際はあまり中身を精査しないことがあるが、起訴するとなると、公開裁判となり検察側の主張も試されることになるので、より慎重になる傾向がある。

加害者と被害者の供述がポイント

では物証がない場合、どのようにして容疑の合理的な根拠を見出すのだろうか。知人間で事件が起きた場合は、性行為があったことは双方とも認めていることが多く、問題は同意の有無となる。そこで加害者と被害者の間で食い違いが起きるわけだが、その際、どちらの供述をどのような理由で信用するか、がポイントになる。冤罪を防止する必要も、もちろんある。

田中氏によると、鍵となるのはまず、両者の関係性をどう見るか。二人は性行為を行うことが期待できるような関係にあったかどうか。事前にSNSなどでのやり取りがあると、その内容が客観証拠になる。知人であっても、そこに性的な会話が含まれていない場合は、そうした行為に至る関係にあったとは認めにくいという。