面倒くさくても、しっかりと原著からあたらなければならないと言います。
その専門的分野が提唱された、元のところまでしっかりと戻らなければいけない。
『美味しんぼ』を語る上で、その根っこの部分とは何かというと、
やはり、多くの人が言うように、第1巻~第3巻に当たると思います。
特に、山岡さんのことを語るのであれば、この3巻は外せない。
この時代の山岡さんは、「狂犬山岡」と言われるくらいに、
その厭世観からか、多くの場所でトラブルを起こし、
そのたびに栗田さんがおろおろするという構図が繰り返されます。
この時代の山岡さんを、我々はずっと心に刻み続ける必要があると思います。
そのため、多くのブログで語られつくした感もある、
美味しんぼ第2巻、『手間の価値』はどうしても美味しんぼを語る上では外せません。
この回は、「マスコミで取り上げられたことで、味が落ちた飲食店の糾弾」
という、美味しんぼにおいては割とメジャーなテーマが背景に貫き、
一話完結でありながら、
「やってやったぜ!山岡!」
という爽快感が、後味の良い余韻を残してくれる、名作です。
しかし、ここはあえて、読者として爽快感に浸るだけではなく、
登場人物の栗田さんに感情移入して、物語を読んでみることにしましょう。
日曜日にわざわざ山岡さんを呼び出し、中華街へ来たのがそもそもの間違いだったのです…。
お腹もすいて、マスコミで取り上げられた有名店の行列に並んで、
やっと昼ごはんにありつけると思った、その時のことです。
山岡さんが、「取り皿が足りないんだけど…」と店の人に告げます。
店員は、「みんな一人一枚でやってもらうことになってます」とにべもない返事。
山岡さん、まず1切れ。
良いですね、このカット。実によい。
山岡さんの、「ゴマソースの物もチリソースの物も同じ皿でとれって言うのかっ!!」
という切れかたも良いですが、このカット自体が秀逸です。
奥にはやる気はないけれど、やたら仏頂面をしたレジの店員を配置し
この店のやる気のなさを象徴しつつも、
左には、山岡さんの切れを全く意に介しない家族団らんの父と子たち。
オーダーをとる店員さんも、一切気にしない。
奥さんの怪訝な顔は、山岡さんの切れっぷりがいかに唐突だったかを物語っています。
栗田さんは何が起こったのかわかっていない、ぽかんとした表情を浮かべてますし、
花村さんは、ちょっと困り顔です。
山岡さんの切れた一言で、何かすべてが空転してしまったようなその空間を表した
このシュールな一枚が、まさに『美味しんぼ』の魅力だと言えるでしょう。
今回は、この一枚を紹介するだけで終わっても良いくらいなのですが、
そこは名作ですから、畳み掛けます。
さらに、この親子連れがばらばらの麺類を注文しようとすると、
麺類は手間がかかるから、1グループで同じものにしてという、傍若無人な店側。
いっけ~山岡!
といって金を払って、何も食べずに店を立つ山岡一行。
本当にこんな店あんのかね…。
あ、いかんいかん。つい、読者目線で爽快感を味わってしまった…
ここで、私が栗田さんの立場だったらと思うと…。
長時間行列に並んで、お腹ペコペコで店に入って、やっとの思いで食べられると思ったら、
山岡さんが切れて、何も食べずに席を立つ。お金だけは払って。
「いい加減にしてくれ、山岡。ゴマソースとチリソース、同じ皿で良いよオレ」
というのが正直な気持ちです。
まあ、それをぐっと我慢したとしましょう。
そして、二件目にまた並んで、今度こそは食べるぞと思います。
しかし、山岡。豚バラ煮込みを一口食べて、店員を呼びとめて一言。
流石に栗田さん。もう、切れても良いでしょう山岡に。
「なに、そのドヤ顔!出来そこないなんだったら、食うな!食わなければいい話や!そういうことで、いちいち店側とトラブル起こすなよ!」
まあ、この後、一緒に行っていた花村さんと田畑さんが、
しっかりとそれに近いリアクションをしているんですが、
山岡さんはどこ吹く風。
「俺は正当なことを言っているだけだよ」
と言う始末。
まあ、この後、重要キャラとなっていく周大人との出会いなどもあって、
結局はめでたしめでたしなわけですが、
山岡さん、プライベートで付き合っていくのは大変そうです。
ま、見ている分には楽しいのですがね。