防衛省、芸能人らインフルエンサー100人に接触計画 予算増狙い

 防衛予算の大幅増額をめざし、防衛省がユーチューバーらに「厳しい安全保障環境」を説いて回る取り組みを計画している。今月、100人を想定して対象者の選定作業に着手。ネット上で影響力を持つ「インフルエンサー」らを味方につける狙いだが、省内には予算増ありきの世論喚起策に懸念の声も出ている。

 同省関係者によると、今月、計画を示した文書が省内に示された。「防衛予算の大幅な増額を実現する」との目的に加え、有識者やインフルエンサーに「省全体を挙げて」説明するとの方針が明記されている。島田和久事務次官による指示ともうたわれているという。

 働きかけの対象は「国民に影響を有する防衛・安全保障が専門ではない学者、有識者、メディア関係者」。100人程度をリストアップするため、省内に推薦を求めている。具体例として、国の財政や予算のあり方などを議論する財務相の諮問機関「財政制度等審議会」の学者や経済界幹部のほか、テレビのニュースや情報番組に出演する有識者や芸能人、ユーチューバーらを挙げている。

 防衛になじみがなくても厳しい安全保障環境を理解できるような資料をつくり、各局で分担して面会の約束を取り付けたうえで、課長ら幹部が説明に回る段取りも提示。今月以降、衆院選前まで説明を行うとしている。

 背景には、中国との間で防衛費の差が開き続ける現状への危機感がある。同省の「悲願」は今年度当初予算で0・95%だったGDP(国内総生産)比の1%超え。2022年度当初予算の概算要求は総額5兆4797億円と過去2番目の規模を計上しており、年末までの予算編成で1%超えの実現をめざす。そのためには世論の後押しが不可欠で、インフルエンサーに、安全保障分野に関する危機意識を共有、拡散してもらおうというわけだ。

 この「号令」には省内でも疑問の声が上がっている。ある幹部は「露骨すぎる。予算を増やす必要があるなら、省自ら国民に説明し、理解を求めるべきだ」と話している。

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    津田大介
    (ジャーナリスト)
    2021年9月19日1時36分 投稿
    【解説】

    中央省庁が自ら積極的に進めたい政策について、新聞やテレビの記者たち向けに懇談会をやって説明したり、フリーで活躍するジャーナリストや批評家など、影響力のある人のところに出向いてレク(他部署や政治家、外部の人間に説明するときに幅広く使われる霞ヶ関用語。「レクチャー」の略)したりすることは、この報道以前から日常的に行われています。 有名なところでは2013年、2014年4月に消費増税を行うかどうかの判断が注目されていた時期に財務省の官僚が消費税とプライマリーバランスの今後について、テレビの報道番組で活躍する評論家や社会学者、コメンテーターなどのところを回り、消費増税に理解を求めるレクを行っていました。 もう1つ僕が具体的に語れる事例としては、経済産業省の原発新設に関するレクがあります。2014年3月13日、僕のメールボックスに経済産業省資源エネルギー庁原子力政策課からメールが届きました。内容は「原子力政策の方向性について意見交換をしたいので、1時間ほど時間を取ってもらえないか」というもので、都合を付けてミーティングを設定すると、原子力政策課長がやってきました。 当時は経産省が日本の中長期的なエネルギー政策の方向性を示す「エネルギー基本計画」の策定に向けて検討を進めている段階で、政府原案の一部が示された時期でもありました。財務省のレクの件も知っていたので、彼らがメディアに出演している人間をピックアップして、自分たちの進めたい政策についてレクしに来ることは容易に想像できました。気になったので、知り合いのメディア関係者にこの件について聞いてみたら、原子力政策課が自分以外にも数十人単位でレクに回っていることが確認できました。 レクの際、彼らが持ってきた資料には、原発の総電力供給力が今後どうなるのか、時系列のグラフで示されていました。原発には40年(長くても60年)という「寿命」があり、「40年廃炉基準」を厳格に運用した場合には、2030年末の時点で、現存する43基のうち30基の原子力発電設備が廃炉となります。そうすると80%の稼働率でも全電源の15%しか発電することができない――つまり、もし、日本で原発をこのまま使い続けるのならば、原発を新設するなり、古い炉をリプレースする(置き換える)必要があり、そのことを遠回しに伝えるレクだったのです。 原発の新設は、設置許可の申請から実際の営業運転開始まで10年前後の時間を必要とします。こうしたことも丁寧に説明し、彼らはレク中しきりに「もうあまり時間は残されていない」という趣旨の話をしてきました。あくまで「レク」ですから、直接的には言わないのですが、数年以内に新設やリプレースの国民的議論を始めるべきだということを言外に匂わせました。政府や経産省は原発を今後も使い続けることを前提に動き始めていたということです。 このレクから約1カ月後の2014年4月に日本政府は第4次エネルギー基本計画を閣議決定、翌2015年には2030年度の電源構成で原発の割合を20~22%にすると決定しました。先に電源構成に占める原発の割合を決めることで、新設・リプレースの議論の道筋をつけたということですね。そして2017年6月9日、日本経済新聞が「経産省が国のエネルギー基本計画を見直し、将来の原発新増設や建て替えの必要性を計画に明記することを検討」と報じました。2014年3月にレクを受けた自分にとって、こうなることはその時点で予想ができていました。もちろんこれは僕に限らず、僕と同じようにレクを受けた人や、経産省を取材するクラブの記者も知っていたことでしょう。 消費増税も原発新設も、本当はレクを受けた段階でメディアがこのような事実を表に出して、国民的議論にさらすべき類の話だと思うのですが(自分は表に出して議論すべきだと思って自ら運営する「ポリタス」というメディアで原発新設問題について有識者に寄稿してもらう特集をつくりました)、なかなかこの国のメディア状況はそうはなっていない。今回報じられたこのインフルエンサー接触計画も、こうした背景があることを踏まえて理解すべき話です。いままでも同じようなことは日常的に行われていたし、構図だけで見れば決して新しいものではないのです。

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    津田大介
    (ジャーナリスト)
    2021年9月19日1時43分 投稿
    【視点】

    (前の投稿が「解説」だったので、今回の報道内容を自分なりの「視点」で読み解いたものを続けます) 前投稿を前提にこのニュースを読み解くと、従来財務省や経産省などが当たり前のようにやってきた「メディア関係者や有識者へのレク」を、 ①防衛省も全面的にやるということ ②省庁が全力を上げて進めたい「政策」ではなく、「予算獲得」のためにやるということ ③「レク」をする対象がそれまでの既存メディアで影響力を持つ人間から、ネットで高い影響力を持つ「インフルエンサー」に比重を移しているように見えること という3つのポイントがあります。 ①についてはほかの省庁でもやっていることですし、メディア関係者に正確な理解を求めてコミュニケーションすること自体に問題があるとは思いません。しかし、②③については疑問が残ります。本来国民的議論が必要な「政策」ではなく、「予算獲得」のため「防衛・安全保障が専門ではない人々」に情報を一方的にインプットするのは、防衛省の存在意義を高めるためのプロパガンダと批判されても仕方がないのではないでしょうか。 とりわけ「今月以降、衆院選前まで説明を行う」という部分には大きな疑問が残ります。総選挙の時期に安全保障に関わるセンシティブな話題を取り上げ、一方的に専門知識のない「インフルエンサー」にそのまま語らせれば、投票行動に影響を与えかねません。実質的には防衛省自身や日本政府、あるいは与党が考えていることであるにもかかわらず、国民的人気の高い「インフルエンサー」から、口当たりの良い言葉でその内容が語られれば、すんなり受け入れてしまう人も出てくるでしょう。そこにはステルスマーケティングと同様の問題があります。 専門性が高い話題であればあるほど、知識を持った有識者たちが然るべき場所で議論を行い、専門家が整理した論点をもとに国会議員が論戦し、有権者に付託をすべきです。中央省庁が外部にレクをすることすべてを否定するわけではありませんが、官僚の方々には「専門家が議論をして、国会で結論を出す」という議会制民主主義の原点に立ち戻っていただきたいと思います。

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