「クールジャパンは致命的な失敗を犯した」世界的イスラーム法学の権威・中田考「高市政権によって、日本外交の無能ぶりが『見える化』した」
経済は一流、文化は二流、政治は三流
当時の日本はバブルの余韻に酔いながらも、政治不信と文化的劣等感が同居しており、「経済は一流、文化は二流、政治は三流」と揶揄されることが多かった。しかしバブルに酔い痴れた日本の劣化は政治から経済、文化にも及び、坂道を転げ落ちるように凋落を続けており、今や日本に残された文化資本はサブカルからハイカルチャーに昇格したアニメ、マンガが残されるのみと言っても過言ではない。冒頭でサウジアラビアの日本のアニメへの熱い期待を紹介したのはそのためである。 しかし残念なことに日本のアニメやマンガは、脚注[1]で詳述したように中抜きと利権誘導にしか興味がなく日本のソフトパワー(スマートパワー)に結びつける戦略がない日本の政治家と官僚によって食い物にされ、今やIPとしては後発の中国や韓国の後塵を拝するに至っている[3]。 [3]中国、韓国がIPとしてのアニメの売り込みを外交、経済、安全保障と直結させ言語教育とセットで制度的に推進する国家戦略を有したのに対して、日本は日本語教育を善意の文化交流としか見做さなかった。その結果として中東で日本語を公教育に入れた国も大使館主導の日本語の常設教育拠点はほぼ皆無であり、学習者数も総計数千人に留まっていると推定されている。一方、中国、韓国は国家主導の文化外交インフラとして孔子学院(中国) と 世宗学堂(韓国) を有している。中東は、中国が「一帯一路」戦略と連動して重点投資してきた地域であり、UAEは中国語を公教育(小中高)に正式導入しており、サウジアラビアも2020年代に入り中国語を第二外国語として全国展開している。既に紹介したサウジの「2030ビジョン」でも、英語に次ぐ戦略言語として位置付けられているのは日本語ではなく中国語である。また韓国はK-POP/K-ドラマ/eスポーツ/IT産業 を背景に中東を戦略的に重視しており、サウジアラビア、UAE、カタール、トルコ、エジプト、イランに世宗学堂があり、特に湾岸諸国では、若年層、女性、高学歴層を中心に 韓国語学習者が急増している。孔子学院、世宗学院が、サウジアラビア、UAE、カタール、クウェート、バハレーン、エジプト、ヨルダン、イラン、レバノンに存在するのに対し、日本語の常設拠点はエジプト、UAE、イランに小規模なものがあるだけで日本は完全敗北している。 「日本アニメが世界で成功した」ことと「日本国家の文化戦略が成功した」ことは全く別だという点である。『ドラゴンボール』『ワンピース』『ナルト』『ガンダム』『進撃の巨人』は世界的IPになった。しかしその成功は1980〜2000年代に民間制作会社が市場原理で築いた遺産であり、クール・ジャパン政策(2010年代〜)は この成功を国家戦略として制度化できなかった。 日本がアニメ・ゲームが中心で過去IP依存だったのに対して韓国は音楽、映像、俳優、言語教育、観光と一体化して売り出しており、中国は映像、SNS、ゲーム、教育、検閲を含む国家統合モデルの中に位置づけている。文化浸透の最重要指標である言語学習者数を比べると、世界の学習者数は日本語が約380万人でしかなく、韓国語は約1,700万人、中国語は1億人規模であり、アニメが世界で流通しているにもかかわらず日本語学習者はほぼ増えていない。これは文化戦略としては致命的失敗である。 つまり韓国、中国はアニメの普及を国家の戦略兵器化していたのに対して、日本のクール・ジャパンは内閣府、経産省、外務省が分裂し司令塔もなく、投資失敗、赤字案件続出で国内向けの延命だけを目指しており、アニメ人気と日本語教育・人材育成・外交が完全に断絶しており、「作品は好きだが、日本はどうでもいい」層を量産するに至ったが、中東・グローバルサウスでの「敗北」は象徴的である。日本には文化拠点が皆無なのに対して、中国が各国の公教育に中国語を導入しており韓国が世宗学堂やイベントを常設している。その結果、日本は“コンテンツを提供しただけの下請け文化国家”に転落した。 クール・ジャパンは「成功したフリをした失敗政策」だったが、その原因は文化を国家戦略にする覚悟の差にあり、それが日本と韓国、中国の決定的差であった。日本アニメは成功したが日本はそれを国家の言語普及、人材育成外交に変換できなかったのに対して韓国は変換に成功、中国は支配構造に組み込むことができた。その結果日本は文化的影響力、言語影響力、制度的存在感のすべてで後塵を拝することになったのである。
中田考
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