ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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良い子属性の不憫なピンク髪女の子って良いよね


第42話:キテルグマ、ケテルグマ

 ※※※

 

 

 

「ぶもぉ」

 

【キテルグマ ごうわんポケモン タイプ:ノーマル/格闘】

 

【相手を抱きしめ、愛情表現を示す。背骨を折られてこの世を去るトレーナーも多い】

 

 

 

 図鑑の通りである。犠牲者が出てしまっている。

 敵意ではなく愛情表現ですら人を昇天させてしまうので、人間とはつくづく脆い生き物なのだった。

 ぶん、ぶん、と腕を振るうだけで建物を吹き飛ばし、地面を踏み鳴らせばクレーターが空く。

 此処まで一切トレーナーの指示なし。ほぼキテルグマの判断だけで、周囲に壊滅的な被害を出しているのである。あな恐ろしや。

 

(えーと種族値は確かH120A125B80C55D60S60の典型的耐久物理アタッカー!!)

 

 それに加え、その特性は”もふもふ”。直接攻撃の威力を半減するため、実質的な耐久は数値以上。

 そうでなくとも、体力が非常に高い所為でしぶとく、結果的に被弾が増えてしまう相手と言える。

 しかし、2メートル超えの巨体が腕を振り回して周囲の物を破壊していく構図は恐怖そのもの。

 撤退しながらイクサは戦う事を強いられていた。

 そんな中、キテルグマを追いかけて走るトレーナーの少女・ササが走る。

 

「お願いですっ、逃げてくださーいっ!! 怒ったクーちゃんは、相手のポケモンをぶちのめすまで止まりません、その子じゃ勝てません、早くーっ!!」

「逃げないよッ!!」

 

(てか、聞いてた話と違う気がする……なんか半泣きだし)

 

 予選を見る限り、キテルグマは確かに恐ろしい戦いっぷりだったし、映像を見る限りだと最後はトレーナーに向かってぶん殴っていたようにさえ見える。

 だが、今こうして見せているササの仕草は、予選のそれとはかけ離れているように見えた。

 

(かわい子ぶってこっちをダマそうとしている? いやしかし……)

 

「パモット、”つっぱり”!!」

 

 キテルグマの身体に思いっきり張り手を撃ち込むパモット。

 しかし、威力は等倍。案の定あまり効いているようには見えない。

 

「……ぶもぉ」

 

【キテルグマの ぶんまわす!!】

 

 腕を大きく振り回すキテルグマ。

 しかし、振り払われた腕に手を軽く突くと、そのままパモットはキテルグマの頭頂部に登る。

 異物を振り払うべく、土下座するように地面に頭を叩きつけるがその前に宙返りでキテルグマの腕を躱してしまうのだった。

 流石にレモンに鍛えられただけはあった。合宿の期間中、ずっと彼女のポケモン相手に叩きのめされたのはムダではなかったのである。

 ある時はアマージョの足技に、ある時はウインディの陽炎の如き陽動に、ある時はギャラドスの破壊的な戦い方に晒され続けたイクサとパモットは、多少のバケモノを見ても全く動じなくなっていた。

 まあそれはそれとして、このキテルグマは格別だった。正直、イクサは一番の貧乏くじを引かされたと言える。

 

「クーちゃんは私の脅威と判断したものを全部排除するまで止まらないだけなんです……ッ! 誓って人を殴ったりはしないんです! ポケモンは殴るけど!」

「いや、何で当たり前のように僕の横に並んでるの君」

「あのパモットが心配になって……!」

「君敵じゃなかったっけ!?」

 

 いつの間にか横に立っているササに恐怖さえ感じる。

 彼女の予選での戦いぶりは動画を見たので知っている。

 特に最後の始終には推薦組全員で震えあがったものだ。

 だが、こうして隣に立っている彼女は至って普通の女の子だ。

 そう言えばバジルもこんな事を宣っていた。

 

(ササは1年生の帰宅部。特にこれといって特徴の無いフツーの生徒デス。でも、今回の予選ではっちゃけちゃったのかも……)

 

 パモットがキテルグマに飛び掛かり、打撃を加えては引き下がるのを繰り返す。

 ヒットアンドアウェイだ。しかし、キテルグマの格闘技も次第にキレを増しており、パモットも徐々に押されていく。

 

「昔から、クーちゃんは私の事を守ってくれて。でも、クーちゃんが戦う度に私も一緒に怖がられて」

「えっと、もしかして……”悪鬼羅刹・悪逆非道・破壊の権化”って呼ばれてるのは──」

「……今回の予選もそうなんです。本当は出るつもりすらないバトルロイヤルだったのに、友達にダマされて……」

「ダマされちゃったの!?」

「広義の意味ではスイーツバイキングって言ってて……敵が選り取り見取りって意味で……その子は開幕突撃してすぐに負けました」

「迷惑過ぎるな……」

「何より、フツーに、シンプルにクーちゃんが強すぎるだけです……クーちゃんは賢いから、私の指示が無くても動いてくれるんです。だから、あの予選では私ほぼ何にもやってません! 後、誓って人は殴ってないです! 本当です!」

「……」

 

 ウソを吐いているようには見えなかった。そもそもキテルグマの腕力で人の顔面なんて殴った日には死人が出ているはずである。

 よくよくあの映像を見返してみれば、キテルグマと瓦礫に隠れて殴られた相手がトレーナーだったかどうかは分からない。

 

(あれ? 今のが全部本当なら、この子すごく不運なだけなのでは……?)

 

「ごめんなさい。ガッカリしましたよね……此処は、私みたいなフツーに覚悟の無い人が……出て良い場所じゃないのにっ……あッ!!」

 

 パモットがついにキテルグマに捕まり、地面に叩きつけられた。

 追撃の踏み付けは転がって躱したものの、更に続いて放たれる”じならし”によってパモットは吹き飛ばされてしまう。

 

「やっぱり止めさせます!! あの子が危ない!!」

「それってさ、暗に僕達があのキテルグマに勝てないって言ってるよね。まだ勝負は始まったばかりなのに」

「……ッ!?」

「君は多分、あのキテルグマの強さを目の前で見てきたんだろうし、恐ろしさもよく知ってるんだと思う──でも、此処に立っている以上、僕は君のキテルグマに勝つつもりでいるけど」

 

 イクサの言葉に、少女は目を丸くした。

 そのつもりで彼は今日此処に至るまで準備をして来たのだ。

 確かに想定以上の強さではあった。しかし、これから戦う相手など、皆想定以上に決まっている。

 それを乗り越えられないで、どうしてその先の強者と戦えるというのだろうか。

 

「──1つ。パモ様はまだ諦めてない。ポケモンを見た目で判断しちゃいけないよ」

 

 起き上がったパモットは未だに闘志を燃やし、口元に笑みさえ浮かべていた。

 キテルグマが戦うのを止めないのは、それに焚きつけられているからだ。

 自分よりも小さくか弱いだけの存在に、キテルグマが苛烈に攻撃を加えるはずがない。

 れっきとした自らを脅かす脅威と認定しているからだ。

 

「──2つ。僕は勝ちに来たんだ。修行の成果を試す為にも、こんなに強い相手を前に見逃して貰うなんて出来ないし……こんな所で逃げたら、寮長に怒られちゃうから」

 

 ぐっ、と強く彼は拳を握り締めた。

 その言葉は自らを鼓舞するようだった。

 

「君が戦いたくないって理由でバトルを避けたいなら、さっさと逃げれば良い。だけど、()()()()()()()()()なんてふざけた理由で逃げるように促すなら、僕は怒るよ」

「ッ……」

 

 ササは転校生が穏当な人とは聞いていた。

 しかし、同時に勝負になると獰猛な側面を見せる事も噂で聞いていた。

 いざこうして目の当たりにすると、聞きしに勝る野獣のような眼光に、思わず立ち竦んだ。

 

「僕は──君も、キテルグマも怖がったりしない。だから真っ向から僕にぶつかってきてほしい。僕が戦いたいんだ、君達と」

「ッ……良いんですか?」

「じゃなきゃ、今此処に立っている意味が無いよ」

 

 ──キッ、と唇を引き絞った彼女は叫ぶ。

 

「クーちゃん、一度止まってッ!!」

「ぶもぉ?」

「……戦おう。()()()

 

 主人の真剣そのものな声にキテルグマは手を止める。

 そして、ササはイクサの反対側に立った。

 

「クーちゃんの戦いを見て怖がる人は居たけど、”戦いたい”って言う人は初めてです」

「……まーね。僕もパモ様も、バトル好きだからさ」

「何にも取柄が無い私だけど……クーちゃんの言う事聞かせられるのは私だけだから。しっかり手綱握るね」

「ぶもぉ」

 

 覚悟を決めたように彼女は叫ぶ。キテルグマも──乗り気になったのか、威勢よく足を踏み鳴らしてみせた。

 

「……行きます──”ばかぢから”!!」

 

 キテルグマの丸太の如き腕が地面に叩きつけられた。

 地割れが起き、すぐさま振動波がパモットを襲う。

 

「叩きつけただけでコレかよ!?」

 

 そう言えば先程まで、まともなタイプ一致技をキテルグマが使っていなかったことをイクサは思い出した。

 此処に来て、漸くキテルグマは本気を出して来たのである。

 ポケモンが真に力を発揮するのは、人間と絆を結び、連携した時。

 幾ら賢いキテルグマと言えど、それは同じようだった。

 

(さあて啖呵を切ったのは良いが、このままじゃ防戦一方だ! 幸い、”ばかぢから”で攻撃と防御は下がってる、後は素早さを下げれば上出来!!)

 

 これ以上の被弾は許されない。

 恐らくまともに当たれば、パモットの残る体力は全部持って行かれる。

 

「フツーに火力で押して、もふもふで耐える! そう、クーちゃんはフツーに強いんです! フツーを極めれば……すっごく怖いんです!」

「……さあて、どうしたもんかな──」

「そしてシンプルに弱点を突きます、”じならし”!!」

「先に動く!! ”ほっぺすりすり”!!」

 

 すぐさま翻弄するような動きでキテルグマの股下を通り抜けると、キテルグマの背中にパモットは張りつき、思いっきり頬を擦りつける。

 微弱な電気が流され、キテルグマの動きは更に鈍っていく。

 

(凄い、この人……同じ1年なのに、クーちゃんに喰らいついてる! 全力を出して蹂躙するんじゃなくて、全力を出して()()()()()()()()のって楽しいんだ……!)

 

「おかげで多少はやり合えるようになったかな……ッ! 弱体化は鉄則だからね」

「……麻痺したけど、フツーに押すしかない! ”かいりき”!!」

 

 ぐるんぐるん、と腕を振り回し直進するキテルグマ。 

 上等、とイクサは笑ってみせた。相手が怪力ならば、こちらも力持ちで応戦するまで。

 

「──オーライズ……”マリル”!!」

 

 パモットの身体に水玉の鎧が纏われていく。

 尻尾も泡に包まれ、青白く光った。迫ってくるキテルグマの動きは緩慢そのもの。後は足りないのはパワーだけ。

 それは、オーライズによって付与された特性で補うことにした。

 特性・ちからもちで跳ね上げた筋力でキテルグマの”かいりき”を受け流すと、思いっきり投げ飛ばすのだった。

 

「んなッ……!? いけない、こっちもオーライズ──いや、このまま……ッ!!」

 

 オーライズなどしたくても出来ないはずである。

 直接攻撃を”もふもふ”で補強しているキテルグマが此処で別のポケモンにオーライズすれば、”ちからもち”で火力を上昇させているパモットの攻撃を耐えられるはずがない。

 

「受け止めて……”かいりき”ベアハッグで締め落として!!」

音よりも速く貫け(”マッハパンチ”)!!」

 

 地面を蹴り、倒れたキテルグマに向かってパモットは思いっきり拳を叩きつける。

 合宿で研ぎ澄まし、鉄板をも貫通する程に鍛え上げられたそれは”ちからもち”で強化され、キテルグマの眉間を撃ち抜いたのだった。

 勝負はこの瞬間に決した。

 

 

 

「ぶもォ──」

 

 

 

 キテルグマは、ふらふらと立ち上がったものの、そのまま表情を変えずに、仰向けに倒れてしまうのだった。

 気絶。戦闘不能である。

 

「……フツーに……敗けてしまいました」

 

 何処か──悔しそうに、しかし満足したように少女は笑うとボールをキテルグマに向ける。

 この時点で彼女が使用できるポケモンは他には居らず、失格となる。

 

「この子と……全力でバトルするなんて久しぶりです。学園の授業ではいつも、クーちゃん以外の子を使ってたから」

「だから、今まで話題に上がらなかったんだね、君とキテルグマの強さ」

「はい……でも、遠慮せずにクーちゃんとぶつかってくれる人が対戦相手で良かったです。フツーに……ううん、とても楽しかったです!」

 

 彼女はキテルグマのボールをイクサに差し出した。ルールにより、勝者は敗者のボールを受け取ることが出来るのだ。

 

「頑張ってくださいね。応援してますからっ」

「う、うん……」

 

 女子の相手はこの数か月ですっかり慣れたと思っていたが、ついイクサは照れてしまった。

 無理もない。彼の近くによる女と言えば、皆ひと癖もふた癖もあるような連中ばかりだからである。

 

「転校生──えっと、イクサ君って呼んでいいですよね。それと、パモ様」

「ぱもももっ!」

「うん。またバトルしようよ、ササちゃん。パモ様も楽しかったみたいだからさ」

「……はいっ。私も、是非!」

 

 彼女が去った後、イクサは清々しい気分だった。治安が終わっているこの学園で、ササは清涼剤のような存在だった。

 

(……何にも取柄が無いって言ってたけど、この学園で”素直な良い子”で居られる上に、あのキテルグマをちゃんと手なづけてるだけで凄いと思うよ僕は)

 

 そこまで考えて──イクサは「違うな」と首を横に振った。

 

 

 

()()()()()()()()()、キテルグマもちゃんと信頼してついてきてくれるんだろうな。きっと)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ゲーム開始から1時間が経過……ですか」

 

 

 

 ゲーム盤を眺めるアトムはしたり顔。

 此処まではほぼ想定通りの流れだ。

 ただ、強いて言うならばバカ寮長2名──要はラズとシャインが、周囲の敵達を皆薙ぎ倒しながら進軍していることである。

 中央は重機も交えた大混戦と化していたが、アマツツバサが空中から爆撃を行い、重機を次々と沈黙させていく。

 他方では、迫ってきた重機の群れをイテツムクロが氷漬けにしてしまったことで撃破。

 

(流石ですね、アマツツバサ……空中からの一方的な攻撃を可能とする爆撃と、並みの特殊攻撃を受け付けない耐久力で多数の敵が相手でも蹂躙ができる)

 

(一方、イテツムクロは攻・防・走、全部が非常に優秀、弱点の多さはシャインの戦い方で補われている)

 

 結論から言えば、一般生徒ならさておき寮長相手に重機なんてものは通用しないのであった。

 各陣営の残り人数は、サンダー寮が13人、ファイヤー寮が14人、フリーザー寮が12人。

 意外にも拮抗しているな、と彼は感心する。

 特にサンダー寮の推薦組は、特記戦力4人が序盤に押し寄せてきたにも拘わらず、全員が各個撃破に成功している。

 この様は中継されており、サンダー寮の生徒達に少なからず高揚を与えたのは言うまでもない。

 

「さあて。そろそろ始めましょうか、オーデータ・ロワイヤルの真の恐ろしさというものを。幸いまだ寮長同士は接敵していませんからね」

 

 アトムは通信機に手を掛けた。

 その先は──自らが差し向けたプレイヤーキラーに繋がっている。

 

「聞こえますか? もうじき、ゲームのルール変更を行います。貴方達も盤面に参加してください。良いですね?」

 

 盤面には同じチームの人間が合流して固まっているのが見える。

 ここらが潮目の変え時だ。

 

 

 

(……お行儀の良いチーム戦に飽きてきた人たちも居るでしょうしね。さあて、見上げた忠誠心とやらが保てるかどうか……観察させてもらいますよ)

 

 

 

 アトムは悪趣味な笑みを浮かべてみせる。その背後では、オオミカボシがカチカチと音を立てながら歯車を回していた──

 

 

 

 ※※※

 

 

 

『ルール変更

・時間経過によりプレイヤーの数が減ってきたため、これよりルールを1つ変更します。

 

 

 

旧:同じチーム同士のメンバーが戦うことを禁じる。

 

 

新:同じチーム同士でも戦闘を行い、ポケモンを奪取してもよい。』




「くしゅんっ! なんか、比べられた気がするデース!」
「転校生がボクの噂をしてる気がするー……くしゅんっ!」
「風邪かしら。くしゅんっ」

 ──ひと癖もふた癖もある女子たち
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