ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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第40話:特記戦力

 こうなると、やり過ごすか逃げ出すしかない。しかし、建物を破壊しながら突き進むブローディアに見つからないはずがない。

 となればもう残っているのは、ブローディア達3人と交戦するしかないわけで。

 そうこうしているうちに、マンムーは隠れ家の20メートルほどまで近付いていた。

 それにつれて、周囲の気温が心なしか下がってくる。

 凡そ3メートルの巨体が蹂躙しながら近付いてくるのを見てレモンは腹を括る。

 

「──ゼラ、第一射用意!」

『ん』

 

 射線が通った瞬間──ズドン、と音が鳴り響き、ユキメノコが電撃弾に倒れて転げ落ちる。

 そのままビクビク、と何度か痙攣したかと思えばそのまま動かなくなった。

 

「きゃあ!! ユキメノコが!!」

 

 トレーナーの女子生徒はマンムーから飛び降り、ユキメノコの方へ駆け寄っていく。しかし、一撃で瀕死にさせられてしまったからか、間もなく、失格判定が下されドローンが彼女を誘導していった。

 後には、ユキメノコのボールがぽつりと残されていたが、ブローディアはそれを気にする様子もなく豪快に笑い飛ばす。

 

「だーはっはっはっはっは!! 今の電撃……ゼラだな!! と言う事は、この近くに憎きレモンが潜んでるって事だなァ!!」

 

 周囲を凍らせながらブローディアは突き進む。

 怪しそうな建物は幾つかある。だが問題ない、全て叩き壊せば良いだけの話だ。

 

「出て来いレモォン!! テメェは俺が倒してやるぞぉう!! だーはっはっはっはっは!!」

 

 しかし、次の瞬間、木の中から一筋の影が飛び出し、マンムーの顔面を打ち付ける。

 

 

 

【パモットの マッハパンチ!!】

 

 

 

 パォオオン、と悲鳴を上げて仰け反るマンムー。

 地獄の合宿で鍛えに鍛え抜かれた拳は幾ら厚い脂肪でも受けきることはできない。

 

「っとぉ、マンムー!?」

「パオオオオオン!?」

 

 一度停止するマンムー。

 ブローディアが視線を下に向けると、何ともまあバトルロワイヤルに相応しくなさそうな可愛らしい少年の姿。

 レモンに目を掛けられているらしい噂の転校生だ。

 

「──お前の相手は、僕だッ!!」

「だっはははははは!! テメェは──転校生かァ!! 迷宮で痛い目に遭ったテメェがこんなゲームに参加たぁ、なかなかの御笑い種だぜ!!」

「とっくに克服したよ、そんなもん……ッ!!」

「だが、何で俺達がァ特記戦力って言われてるか教えてやろうかァ!! テメェらみてーなチビを何匹でも轢き潰せるからだァ!!」

 

【マンムーの10まんばりき!!】

 

 このまま引き付ける。イクサは真っ向から戦うつもりなどハナから無い。

 これ以上マンムーが近付けば、カクレオンが出てきて必殺の”けたぐり”を叩き込み、今度こそ致命的なダメージを与えるという寸法だ。

 勢いよく進んでいる所為で、遮蔽物に隠れているバジルにブローディアは気付いていない。

 

(技を打った!! ここで”けたぐり”で横転させれば、マンムーは一撃KOデース!!)

 

 

 

「随分と騒がしいと思ったら……面白そうなことをやってるじゃあないか!」

 

 

 

 だが、これはバトルロイヤル。

 往々にして邪魔が、乱入が起こりえるものなのである。

 次の瞬間、パモットとマンムーの間に何かが落ちてくる。

 強烈な衝撃波に、パモットもマンムーも吹き飛ばされてしまうのだった。

 

「な、何だ……!?」

「ンだぁ、邪魔する奴は──ッ!!」

 

 二人に割って入るように、近付いてきたのは白衣を赤いブレザーの上に羽織った少女。

 度の強い瓶底眼鏡を掛けており、傲岸不遜とも言える態度でつかつかと歩み寄ってくる。

 その傍らには埴輪のようなポケモン・オーベムが浮かび上がっている。

 

「お初にお目にかかるよ、転校生君。私はズオウ!! 全知全能たる科学の申し子──科学の申し神童だッ!!」

「また癖が強いのが出てきた……ッ!!」

「おいズオウッ!! テメェ、俺を邪魔するのかぁ!? なら、テメェも轢き潰すぜ!!」

「これだから単細胞は困る。この辺りに潜んでいるのがこの転校生だけのはずがない。レモンも、そしてバジルも居るはずだ。ならばここは一度、共闘して取り巻きを片付けて、どっちが先にレモンを倒すか競うのはどうだい?」

 

 ズオウは科学部の部長で尊大極まりない物言いが特徴的だ。しかも、その為なら周囲の物全てで見境なく実験を行うマッドサイエンティスト。

 命こそ獲りはしないのが最後に残っている良心である。

 以前、違法な薬品で実験をしたことが風紀委員にバレて、レモンにしょっ引かれたことがあるらしく、それで彼女に案の定対抗意識を燃やしているらしい。

 他の生徒や教師の食べ物に試作薬を盛り、ゲーミング発光させたことで事が発覚。

 風紀委員が介入しに行ったものの、当然のように抵抗し、最後にはお縄になったという形だ。

 非常に高い実力を持ち、防衛戦に選ばれたこともある彼女だが、推薦枠に選ばれなかった理由は言うまでもなくその素行の悪さである。

 この話を聞いた時イクサは「この学園の強いのこんなヤツばっかだな……」と最早突っ込みを入れる事も放棄してしまうのだった。

 

「そいつぁ良い!! 俺らァレモンには借りがあるからなァ!!」

「そうと決まればオーベム、”サイコキネシス”だ。周囲に隠れた全員まとめて押し固めてしま──ん!?」

 

 次の瞬間だった。

 オーベムの首に長いものが巻き付いた。 

 多大な集中を要するその技は中断されてしまう。

 更に、オーベムの下から大量の影の糸が現れて縛り付けてしまうのだった。

 

 

 

「”ふいうち”──からの”かげうち”デェース!!」

 

 

 

 カクレオンが姿を現した。それと同時に、現れるのはずっと攻撃の機会を伺っていたバジルだ。

 

「おっと──探偵少女か! 良い! やはり、そのカクレオン……そこらの有象無象共とは訳が違うようだ!」

「貴女に”サイコキネシス”を撃たせたら、予選みたいな大惨事になるデスからね!」

 

 周囲の敵ポケモンをまとめて絡ませ、動けなくしてしまったズオウ。

 そこに念動波を叩き込み、まとめてノックアウトしてしまったのだ。

 他者を有象無象と吐き捨てるズオウだが、その手持ちたるオーベムは、彼女を尊大にさせるには十二分の実力を持っている。

 

「りーりーりりりりりーッ!!」

「落ち着けオーベム。この程度は何てことはない。……ゼラが近くにいるということは”トリックルーム”も迂闊には使えないのが歯痒いねえ。真っ向から君を打ち破るしかないらしい」

「貴女の相手は、この私デス!!」

 

 カクレオンの拘束を引き千切ると、オーベムは”へんげんじざい”で悪タイプと化したカクレオンに相対する。

 しかし、そのオーベムを背後から狙う影。

 

 

 

「貰ったッ!!」

「──!?」

 

 

 

 すぐさまオーベムは念動波で止めようとするが、通用しない。

 しかし今度は障壁が展開し、刃を紙一重で通さない。下手人は至極残念そうに宣いながら現れる。

 

「あーあ、受け止められちゃった。でも、私も居ることを忘れないでよ?」

「……おやおや、これはこれはカンザキ君じゃないか」

「げぇっ、またヤバいのが出てきたデース!!」

「次から次へと──!!」

 

 名前を呼ばれて好戦的に笑うのは髪をサイドテールに結った少女。

 その背中には木刀が差されており、従者の如くとうじんポケモンのキリキザンが佇んでいる。

 侍の如き容貌のキリキザンとカンザキだが、武士は武士でも勝つためならば手段を選ばぬ鎌倉武士の如き苛烈で狡猾な戦いを得意とする。

 

「まあ、此処で3人揃ったのも何かの縁! レモン先輩おつきの従者たち、始末しちゃわない?」

「だっはははははは!! 良いだろう、黄色服は全員まとめて凍らせてやるぞう!! ”フリーズドライ”──ッ!!」

 

 パオオオオン、と鳴き声を上げて周囲の空気を凍らせるマンムー。

 しかし、なかなか技が始動しない。怪訝そうにマンムーの尻尾を見ると、何故かそこには見覚えのない石製の尻尾が括りつけられており──

 

「何ィ!? ”こうこうのしっぽ”だとォ!?」

「”つっぱり”だパモ様!!」

 

 正面からパモットが張り手を見舞う。

 それを受け止め切れずに、マンムーは更に後退。

 

「隙ありだーッ!!」

 

 更に横からはミミロップが急襲して”インファイト”をぶつけようとするが──

 

「クソッ、オーライズ──”ヨノワール”!!」

 

 ふわりとその攻撃は透かされてしまい、ミミロップは氷の地面の上に着地するのだった。

 

「クソォ、クソッ!! マンムーの動きが封じられた!! やりやがったな、テメェ!!」

「だって一番危険なのは貴方だもんねー♪」

 

 攻撃こそタイプ変更で躱されてしまったものの、マンムーに”こうこうのしっぽ”が渡り、動きを封じ込める事に成功する。

 したり顔のデジーも飛び出してくるのだった。

 

「これでもうコイツは動けないよ!」

「流石デジー!! 大手柄だよ!!」

「クッソが──ッ!! まとめて凍らせてやらぁ!! “フリーズド──”おっせぇ!! マジでおせぇ!! どうにかなんねえのか!? おいオマエ!! オニゴーリで攻撃しろ!!」

「分かってるよブローディア!! オニゴーリ──」

 

 そう言って、マンムーから降りた登山部の生徒が、オニゴーリに攻撃させようとする。しかし──

 

 

「止まって、クーちゃんんんんんッッッ!!」

 

【キテルグマの ぶんまわす!!】

 

 

 

 今度は、向こうから遮蔽物全部ブッ壊して突っ込んで来る巨大な影。

 ぐるぐるぐるぐると回転したまま、オニゴーリに突っ込み、そのまま一撃でノックダウンさせてしまうのだった。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいーッ!!」

 

 現れたのは、巨大な熊の着ぐるみのようなポケモン・キテルグマである。ぶつかったオニゴーリを見るなり、その顔面にマグナム弾の如き正拳突きを見舞う。

 その一撃でオニゴーリは完全に沈黙してしまうのだった。脱落者、更に1名追加。

 あまりにも手際の良い暴力にイクサは震えあがる。

 つぶらな瞳と可愛らしい色合いからは考えられない程に凶暴なそのポケモンの事をイクサはよーく知っていた。

 キテルグマは、イクサの世界の樋熊に匹敵するくらい恐ろしい生物なのである。縄張り意識が強く、軽く腕を振るえば木を薙ぎ払い、トレーナーでも御せないことがあるポケモンなのだ。

 

「ヒエッ!! キテルグマって……またヤバい奴が出てきた!! なんか女の子が乗ってるけど!」

「あ、あいつはファイヤー寮1年の”ササ”デース!!」

 

 キテルグマの肩に乗っかっているのは、泣きそうな顔をした桃色の髪の少女だった。だが、キテルグマ同様、その見た目に騙されてはいけないと警告するため、バジルは叫ぶ。

 

「気を付けてくだサイ、イクサ!! デジー!! その子、かなり危険デース!! 1年でありながら予選を突破!! 混戦の中1匹だけ生還したり、2年生や3年生を格上狩りしたり、ポケモンも生徒も見境なくボッコボコにしたり……ファイヤー寮予選を血塗れにしたヤベー奴なのデース!!」

 

(バジル先輩の言う事が本当ならとんでもない子だ……こんな乱戦に1人で突っ込んできた辺り、どーせ私は平凡ですみたいな顔したヤバい奴に違いない!! だってこの学園の生徒だし!!

 

 事実。

 キテルグマの恐ろしさは札付き。 

 生態からして、トレーナーをうっかり鯖折りにして昇天させてしまったなどの逸話を持つ狂暴な生物だ。

 見た目こそぬいぐるみのようなつぶらな目をしているが騙されてはいけない。

 そして、それを従えている時点で、この少女は普通でも何でもない。

 イクサは戦慄しながらキテルグマを抑え込みに掛かる──しかし。

 

 

 

(ウワサに尾鰭も背鰭も付いてるーッ! 誓ってクーちゃんは()()()()()()()()()()()()()()()ーッ!!)

 

 

 

 少女は涙目だった。実態とその逸話には大きな齟齬が存在する。

 彼女──ササは、在る種このオーデータ・ロワイヤルで最も不運な生徒と言えるだろう。

 元々彼女自身は特にとびぬけた力も無い平凡な少女だ。性格も、この学園で生きるには不向きなくらいにどちらかと言えば内向的である。

 しかし、友達に”楽しいイベントだから! 広義の意味でのスイーツバイキングみたいなもんだから!”と言われて連れて来られたのは魑魅魍魎怪我人続出のバトルロワイヤル。

 その友人は早々にサムズアップしながら敗退してしまい、残ったのは彼女だけ。

 だが、幸か不幸かで言えば()()()()()()()()()()()()幼少期から共に過ごしたキテルグマが恐ろしく強かったことである。

 このキテルグマはよーく躾けられており、ササ含めて人間を傷つけることは断じて無い。無いのであるが、彼女に迫りくる脅威と判断したものは全てを破壊していく暴力装置だ。

 その性能の高さだけで、バトルロワイヤルを勝ち抜くうちに噂に背鰭尾鰭が付いて行きヘイトを向けられ、ターゲットにされるものの悉く返り討ちに──という悪循環。

 

(私に取柄だとか特殊な能力だとかそういうのがあったんじゃなくって──シンプルに、フツーに、クーちゃんが強かっただけなんです、本当なんです!! だって私ほとんど何にもしてないし!!)

 

 最後に戦った相手は、キテルグマに恐れをなしたのか命乞い──をするフリをして自分のポケモンで、ササを直接攻撃しようとしたため、顔面を潰されてしまったのである。

 ……無論、潰されたのはトレーナーではなくポケモンの方だ。

 

(クーちゃんは私のために怒ってくれただけだよ! 私も、バトロワの疲れとイライラで、ちょっと怒ってたけど……ポケモンじゃなくて人間を攻撃するのはやっぱダメだと思います!)

 

 だが更に不幸だったのは、カメラワークの所為かキテルグマがトレーナーを殴ってるようにしか見えなかったため、事実に反して恐ろしい噂が広まってしまったのだ。

 当該の生徒が怪我一つしていないので、当事者と運営にはこれが不幸な噂だと分かるのだが、一回広まってしまったものは取り消せない。

 

 

 

【ファイヤー寮1年生”帰宅部・悪鬼羅刹・悪逆非道・破壊の権化”ササ】

 

 

 

 今となってはこのような肩書がついてしまったのである。

 他にも”桃色の暴風雨”だの”猛き狂王”だの特級危険生物みたいな仇名が付けられる羽目になってしまった。

 ……キテルグマではなく、それを従えるササの方に、である。

 実際には荒ぶっているのはキテルグマだけなのに、とんでもない風評被害だ。

 現に今回も、キテルグマは辺りを凍らせながら進軍するブローディアを危険因子と認め、それを排除しに行ったに過ぎない。

 結果的に周りには特記戦力やサンダー寮の推薦組が居ただけの話だ。つまり、これも不幸な事故であった。

 だが、もしも彼女に非凡なところが一つあるとすれば一連の不幸を「ツイてないよ……」の一言で受け入れてしまう度量であろう。

 かくして演者は出揃う。

 全員(約1名ピンク髪の不幸な少女を除く)がレモンのオーデータポケモン・ハタタカガチを狙う特記戦力。

 この空前絶後の大混戦に──当然”彼女”も参戦しない理由が無く。

 

 

 

「一人一殺!! 特訓の成果を見せなさい!! 此処で全員、確実に始末するのよ!!」

 

 

  

 ズドォン!!

 

 

 

 雷がフィールドの中央に落ちる。

 そして、焦げた場所に居たのは──レモンとハタタカガチだった。

 

「バジルはオーベムを!! イクサ君がキテルグマを抑えて! 同じ1年だからって油断しないで、その子は強さだけなら3年生級よ! デジーはマンムーをお願い! 弱ってるからすぐ倒せるはず!! キリキザンは……私が倒す!」

「了解ッ!」

 

 マッチアップはこれで決まった。

 後方ではゼラが周囲を警戒しながら支援に回る。

 これより──特記戦力と寮長クラスが入り乱れる大混戦が始まったのである。

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