ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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第37話:わたしのベストフレンドへ

 ※※※

 

 

 

「きいて、バジル! わたくし、おとうさまからポケモンをもらったの! とびっきりかわいくて、とびっきりすてきなピカチュウなのよ!」

「ぴーぴかちゅう」

 

 

 

「レモン! 私のカクレオンと、Youのピカチュウで勝負デスよ!」

「げろげろ」

「ええ? わたくしバトルはあまり好きではないのですけれど……」

「ぴーぴかちゅう」

「ピカチュウは乗り気じゃないデスか!」

「そんなぁ、ピカチュウ……もう、また怪我をしても知りませんよ?」

 

 

「まあピカチュウ! ”なみのり”がお上手ですのね!」

「技マシン使ったからデスね」

「すごいわ! 空中で3回転したわ!」

「あれどうやってるんデス!? おかしいデショ!?」

「うちのピカチュウは世界一素敵だわ!」

「ある意味世界一デス……」

 

 

「ねえピカチュウ。わたくし、スカッシュ・アカデミアの試験に受かりましたの。わたくし、バトルは苦手だけど……これからふたりで頑張りましょうね!」

「ぴちゅちゅぴ!」

「来年は私も受験頑張らないとデスねー」

「ふふっ、楽しみにしておくわ。わたくしも、バジルとお勉強するの!」

 

 

「……クッソ大変よ風紀委員は。絶対おすすめしないわ」

「びがびーが」

「うわぁーお、1年見ないうちにレモンとピカチュウが擦れちまったデース」

()ね、正直この学園で後2年やってけるか心配だわ。だって毎日のように戦車が撃ちあってるのよ、おかしいでしょう」

「びっが」

「バトル好きじゃないのにバトルやらされ続けて、こんなに強くなっちゃったのよ。オマケに殆ど治安維持の戦闘よ」

「でも楽しそうデスね!! 戦車と乱闘が日常の学園生活!! 探偵の出番が多そうで何よりデース!!」

「イカれてるわ……この幼馴染イカれてるわ……」

「でも、私の知ってるレモンはもっとお淑やかだった気がするんデスけど」

「そんなもん浜で捨てたわよ」

「浜ァ!?」

「びがぁ!!」

「風紀乱す奴にはボルテッカー、貴女も此処に入った以上は覚悟なさい」

「びがぢゅう」

「こっわぁ……怒らせんとこデース」

 

 ──ズガドォォォン!!

 

「なっ……半裸の男がブロロロームで突っ込んできたデース!?」

「いつもの奴ね……ピカチュウ、ボルテッカーで今日という今日は確実にそいつの息の根を止めなさい」

「びっがッ!!」

「ストォップ!! 死んじゃうデース!!」

 

 

「バジル、見て頂戴。似合ってるかしら。ピカチュウの為に風紀委員の腕章を作ったの」

「ぴーぴかちゅう!」

「うわーお、流石レモン。裁縫の腕はピカイチデース!」

「ピカチュウには何を着せても似合うわ。腕章は出来たし、服はどうしましょう、なるたけ可愛いのを」

「でも、鉄の風紀委員が可愛かったら威圧感が──」

「……なるたけカッコイイのが良いわね」

「気付いて貰って良かったデース」

 

 

「……バジル。私が一番よ。私が一番強ければ──皆を守れる」

「……は、はは、貴女を一体誰が止められるんデショウね?」

「ぴーかちゅう!」

「この子がいれば私は──誰にも負けない。たとえ貴女でも」

「……ボッコボコデスよ。歯が立たなかったデス……」

 

 

 

「良かったじゃないデスか、委員長になれて。これからは自分から動かなくて済むデス」

「ぴかぴーか」

「そうもいかないの。運動が足りないとこの子、駄々をこねるの。迷宮に連れていかないとストレスが溜まって狂暴になるのよ」

「こんなに可愛いのに?」

「ぴぴちゅ!」

「ほんっと誰に似たのかしら、こんなバトル好きになるなんて」

「でも、だからこそ学園最強になれたとも言うのデス!」

「……まあ、これで良いのかもしれないわね。私達が誰よりも強ければ、皆を守る事が出来るし」

「ぴかぁ!」

 

 

 

「バジル……バジル聞いて……ピカチュウが……ピカチュウが、死んじゃったの……()()()()の所為で、ピカチュウがあッ……」

「ッ……レモン」

「神様、何でわたくしを生かしたの……っ。わたくしが……あの子の代わりになっていればよかったのに……っ」

「滅多な事を言うもんじゃないデス、バカ!!」

「ッ……」

「レモンまで死んだら……私は……どうするのデスか……っ」

 

 

「レモン先輩のピカチュウ最近見ねえな。どうしたんだろう」

「レモン先輩あんまり戦わねえから分かんねえよ。こないだ大怪我して戻ってきた後から、それっきりで」

「いやー、ピカチュウは元気デスよ? ただ、最近は実家の方に預けてるみたいデス。他のポケモンも育成したいからとか何とか」

「へえ、バジルが言ってるならきっとそうなんだろうな」

「流石レモン先輩! 自己研鑽を怠らないストイックな性格!」

 

 

「……ねえ、本当に良かったのデス? 指示された通りに噂を流しマシタけど」

「ピカチュウは……生きてるわ。生きてるってことにしないと。ピカチュウが死んだ事から遡って私がバトルができないって疑われる」

「そこまでしなくても……あっ!! エナドリの飲み過ぎデス。体を壊すデスよ!!」

「……どうでも良いのよ、私の事は」

「どうでもいいだなんてッ!! どれだけ貴女を心配してると思ってるんデスか!? ゼラ先輩も!! 私も!! 事情を知らない皆も!! 貴女を心配していて──」

「ポケモンを死なせるトレーナーよりも、()と、学園の治安の方が大事。私にできるのは……それに殉じる事だけよ」

「貴女の命より大事なモノなんて無いデス!!」

「あるわ……ピカチュウよ」

「……ッ」

「あの日から、景色が全部灰色だわ。何にも面白くないの。こんな事なら死んだ方がマシよ。でも死ねないの、私には背負わなきゃいけないものが沢山あるから」

「ッ……」

「……それともバジル。貴女、ピカチュウを生き返らせてくれるの? ……できないでしょう」

「……」

「……ごめんなさい、言い過ぎたわ。泣かないでバジル。私が悪かったから……ごめんなさい……もうこんな事言わないから……泣かないで……悪かったから……」

 

 

「……ねえ、レモン。お父様の件──」

「……自業自得よ。不摂生が祟ったんだわ」

「……」

「バカね、そんな顔しないで頂戴。もう慣れたわ、誰かが死ぬのなんて」

「……」

「見てみなさいよ、ピカチュウの時と違う。私、こんなにも平気だわ」

「……」

「何か言いたげね」

「そのパモは」

「……形見よ。お父様が世話してた。ワガママだからパモ様って呼ばれてるわ」

「ぱもぉ?」

「私が、()()()と同じくらい強くなれるように鍛えてあげる。貴方は……死なせない」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

(ねえ、レモン。今思えば、貴女が生き急いでたのは()()()()()()()()()()()()()()()()?)

 

 

 

 ふと──バジルの脳裏には、レモンと──彼女の隣にいつもいたピカチュウとの思い出が過っていた。

 何故だかは分からない。最奥では今、試練が行われており、親友が立ち向かっている最中のはずだ。

 そんな折にふと、ピカチュウの事を思い出した。強かった。とても可愛かった。皆ピカチュウが大好きだった。

 仲間が傷つけられれば、トレーナーを差し置いて前に出てくるようなポケモンだった。

 そんなピカチュウは、ある日突然、死んで居なくなった。

 

「ゼラ先輩」

「……」

「喪失を乗り越える方法って何なんデショウか」

 

 学園の生徒の多くは、それすら知らない。 

 レモンが何も言わなかった事、バジルが情報操作した事から、最近ピカチュウ見ないなくらいにしか思っていない。

 だが、そうではない生徒もいる。此処に居るバジルは勿論、かつてレモンの救助活動に駆り出されて、病院までついていったゼラもその1人だ。

 

「もしもピカチュウとの思い出がレモンを苦しめるなら……いっそ忘れてしまった方が……良いんじゃないかって思ってるのデス。私は……あの子には笑っていてほしいデスから」

 

(なーんて先輩に聞いても──)

 

「それでも、覚えておいて……向き合う事だ」

 

 意外な返答にバジルは目を丸くした。そもそも返答が返ってきたことに驚きを隠せなかった。

 拙くはあったが、ゼラは言葉を紡いでいく。

 

 

 

「覚えていなければ……その時、本当に死者は消えてしまうだろう」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「何で……!? 電撃のはずなのに、ニドキングに効いてる……!?」

 

 

 

 既にニドキングは満身創痍。

 パモットも、目の前のピカチュウの電撃を一度受けると、瀕死寸前まで体力が削られてしまった。

 何よりも、心を圧し折られそうなのは、かつての相棒を目の前で見せつけられているレモンだった。

 

『コロシタ……コロシタ……オマエガ、ボクヲコロシタ……!!』

 

「ッ……!!」

 

 ピカチュウの鳴き声を捻じ曲げたような声が辺りに響き渡る。

 

『カンジンナトキニ、ナニモマモレナイ!! イチバンダイジナモノヲ、トリコボス!!』

 

 その声は、レモンの心を深層から抉っていく。

 当時の思い出を深く深く、そして鮮明に思い出させる。

 

「……そうよ……私が、私が殺した」

 

『アノヒ、ヒキカエシテイレバ!! シナセナクテスンダノニ!! アノヒ、モドッテイレバ、シナセナクテスンダノニ!!』

 

 ──レモン、何か迷宮の様子がおかしいぜ。この辺り、野生ポケモンが全然居ねえ。

 

 ──大型ポケモンが出たんでしょうね。放置しておけないわ。後続の安全の為に私達が此処で討伐しましょう。

 

 その過ちを思い出させる。

 あの時引き返していれば、何事も起きなかったはずなのに。

 今も隣にピカチュウは居てくれたはずなのに。

 

「あの時……引き返していれば……誰も傷つけずに済んだのに……あの日……戻っていれば……死なせなくて済んだのに……」

「レモンさん!!」

「ダメ、完全に持って行かれてる……!!」

 

 完全に放心状態になってしまっているレモンを引っ張り、イクサは思案する。

 

(あいつがピカチュウである可能性は限りなく低い。考えろ、考えるべき事は……本来通用しないはずの電撃がニドキング、そしてパモットに対して痛打となっている点だ)

 

 電気タイプの技は本来、地面タイプのニドキングには無効、同じ電気タイプのパモットにはこうかいまひとつだ。 

 半減ならさておき、タイプで無効化されるニドキングに攻撃が効いている時点で何か別のギミックがあるのだろうとイクサは考える。

 

(もう1つのヒントは鏡……だけど、数多くのポケモンの中で鏡をモチーフにしたポケモンは一種類しか居ない。ドーミラーだ。だけど、あいつの身体は物を映さない)

 

 つまり、全ポケモンの中に真っ当な鏡をモチーフにしたポケモンは存在しないのである。

 

(鏡と言えば……あの特性か。そして、()()()()を持っているポケモンは、全て……エスパータイプ!! 最後に……ピカチュウが出てくる前に聞こえた特徴的な鳴き声!! ……あいつの仕業か!!)

 

 パモットに”すごいきずぐすり”を吹きかけながら、イクサは巨大なピカチュウを睨み付けた。

 

「デジー、悪タイプだ!!」

「え!?」

「悪タイプがあったらオーライズするんだ!! 最悪エスパータイプを軽減出来ればそれで良い!!」

「エスパー!?」

「僕の推理が正しければ、あいつは……ピカチュウじゃない別のポケモンだ! ニドキングに電撃が効いた時点でね! だけど、地面技なら地面が揺れる、氷技なら冷気を感じる、水なら濡れる! あの電撃の正体が実はエスパー技で、そして戦ってる奴がエスパータイプなら、こっちの意識に干渉して誤魔化した可能性は考えられないか!?」

「……成程!! エスパータイプはそういうの得意だもんね! えーと確か……あるよ!! レパルダスのオーカード!!」

「こっちはイワツノヅチだ!!」

 

 レモンを引っ張りながら、イクサとデジーは同時にオーライズする。

 ニドキングは漆黒の鎧を身に纏い、パモットは全身が鋼の鎧に包み込まれる。

 

「Oワザだ!! ”がんせきふうじ”!!」

「Oワザ行くよ!! ”あくのはどう”!!」

 

 二匹の技が同時に巨大なピカチュウに向かってぶつかった。

 しかし、ざ、ざざ、とピカチュウの姿は一瞬揺らいだだけで、正体を現す様子が無い。

 

「ダメだよ、効いてない!!」

「ッ……じゃあ、あのピカチュウそのものが……虚像!?」

 

 電撃が再び襲い掛かり、イクサ達も巻き込んでいく。

 2匹だけでは抑えられない。

 倒れたレモンにも容赦なく電撃の束が襲い掛かる。

 

『ダカラ、レモン、コッチニ、コォイ、オマエモ、コッチニ、コォイ……!!』

 

 誘うような声が聞こえてくる。

 思わず彼女は手を伸ばしそうになった。

 

「私は……」

「ダメだレモンさん!!」

 

 しかしそれを受け止めたのは、オーライズしたパモットだった。

 

「ッ……ぱもぉっ!!」

「──しっかりしてください、レモンさん!! 誘いに乗ったらダメだ!!」

 

 イクサは叫ぶ。

 彼女を奮い立たせるために。

 そして、目の前の虚像の幻影から引っ張り出す為に。

 

「目の前にいるのはピカチュウじゃありません!! 偽物です!!」

「私の所為で死なせたのよ……!? 恨んでいるに決まってる……それに、そうでなかったとしても、私が……私があの子を死なせたようなものなのよ!! だから、私はあの子の分まで、己の責務に殉じなきゃいけないの……ッ!!」

「ポケモンは、主人が落ち込んでいると心配になるんですよ!! パモ様がそうだったから……ッ!! ポケモンは、主人が嬉しいと一緒に喜んでくれるんですよ!! パモ様もそうだったから……ッ!!」

 

 彼女の肩を掴み、イクサは叫ぶ。

 

「貴女が喪って、心を痛める程の相棒がッ!! 貴女にこんな事をすると思いますか!? 貴女の失敗を詰って、貴女が1人で潰れていくのを望むと思いますか!?」

「ッ……」

「立場が逆だったとして、貴女は同じ事を望むんですか!? 違う──残された方に、せめて幸せに生きてほしいって願うんじゃないんですか!?」

「私は……」

 

 レモンはボールを握り締める。

 巨大なピカチュウが、唸り声を上げて迫りくる。

 

『コッチニコイ、コッチニ、コォイ……!!』

 

「私は──」

 

 歯を食いしばると、彼女は──叫ぶ。

 

 

 

「──もっと、あの子と一緒に居たかったっ!!」

 

 

 

 心の奥底から、搾り出したような悲鳴だった。

 

「バトルは苦手だけど──あの子と一緒のバトルは楽しかった……心が通い合ってる気すらした!!」

「レモンさん……」

「あの子の為なら何でも頑張れた、仕事も授業も全部頑張れた……救いだった……ッ!!」

 

「あの子が居なくなって生きる理由が無くなって……私を繋ぎとめるのは、使命だけになって……それでも……私を気にかけてくれる人たちがいて……」

 

「どうしたらあの子に会えるんだろうって考えて、死のうとも思ったけど……ッ」

 

 それでも、どうやっても、どうあがいても──結果は同じだった。  

 

 

 

「……あの子は、もう居ない」

 

 

 

 ピカチュウの虚像を見上げた。

 まさに、彼女の心そのものだった。

 正面から向き合わず、放置した心の傷は、恐怖とありもしない幻想を生み出し、膨れ上がらせた。

 

「……そうよ。あの子はもう居ない。もう、居ないの。こうして目の前に現れる事なんて有り得ない」

 

 キッ、と目の前の虚像を睨む。

 それでも信じられるものがあるとするならば、今までピカチュウと歩んできた道のり。

 嬉しい事も、辛い事もあったが、一緒に居る時ピカチュウはどんな顔をしていたかを思い出していく。

 そして、その度に、今聞こえてくる怨嗟の声が、馬鹿馬鹿しい偽りのものだと突きつけられるような気がした。

 

「だけど……あの子との思い出も、栄光も、燦然と私の中で……輝いて、残り続けるの」

 

 ボールを投げる。そこから現れたのは、蜷局を巻いた電球蛇だった。

 

 

 

「ハタタカガチ、やるわよ。これ以上、醜態を見せられないわ」

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