ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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第36話:シトラス海岸の迷宮

 ※※※

 

 

 

【シトラス海岸の迷宮 危険度:3(ポケモン暴走の危険あり)】

 

 

 

「──全員、準備はできたわね」

 

 

 

 イクサ達は、頷く。

 防護用スーツを着込み、海岸の洞窟の前に立っていた。

 

「今回の目的は、迷宮最深部”試練の間”への到達よ。常に不測の事態に備えて、1年生二人はバジルの傍を離れないように」

「は、はいっ」

「危険度3の迷宮では、適正レベルならば凡そ5時間程度でポケモンは暴走に至るわ」

「ただ、今回は幸い、最深部までの近道が分かってるデスからね。そこまで時間はかからないと思いマス」

「只、内部の地形と敵ポケモン次第では手間取りかねない。くれぐれも注意して頂戴。そして──まだ貴方達は授業でやってないと思うけど、危険度3以上の迷宮では、最奥部にオシアス磁気を大量に溜め込んだ、ぬしポケモンが居る可能性があるわ」

 

 ──ぬしポケモン。

 それはポケットモンスターというゲームに於いて、巨大な体躯を持つ強力な敵専用ポケモンである。

 このオシアス地方では、ある程度危険度の高い迷宮では、しばしば大量の磁気を溜め込んだぬしポケモンが現れるのだという。

 当然サイズが大きい上に強力なので、最大級の警戒をする必要があるとされているのだ。

 

「まあ、危険度3相応ならこの面々で勝てない相手ではないと思うけどねー?」

「油断は禁物だよ。迷宮に居る限りは何があってもおかしくない」

「……そうね。崩落が起こる可能性も視野に入れましょう。全員、気を抜かないで。……それに、私が足を引っ張る可能性も十二分にある」

「ッ……レモン」

 

 ピカチュウを喪うその瞬間までは、危険度5の迷宮も踏破していたレモン。

 しかし、半年以上迷宮から離れていたため、彼女も自分の実力を測りかねている部分があるらしかった。

 だが、PTSDの克服の治療として──避けていた事に向き合うというものがある。

 イクサが比較的トラウマから早く立ち直れたのは、早い段階で手持ちのポケモンや他のポケモンと向き合う機会があったからだ。

 迷宮も次の週には友達の支えありだったとはいえ早くに再挑戦したため、徐々に恐怖が薄れていったのである。

 一方レモンは、ピカチュウを喪ったことで、元から好きではなかったバトルと、それに繋がるもの全てを断ってしまった。

 今日この日に至るまで、バトルと迷宮への恐怖は膨れ上がっていた。

 それでも此処に立っていられる理由があるとするならば。

 

「──それでも、私は試練に挑む。私は……この迷宮の最奥に辿り着いてみせる」

 

 今此処に立っている仲間達が居るからである。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──中継地点は、2つほど先の部屋。 

 先ずは此処を目指すことになる。 

 最初に入ったのは、洞窟のエリア。

 冷たい空気が流れ込んで来るが、何処かから光が差し込んでくるからか、中はほんのりと明るい。

 そこにライト照明を付けて視界を確保しながら全員は進んでいく。

 前衛にバジルとイクサ。その次にデジー、レモン、最後に電磁ライフルを構えているゼラが続く。

 正直、この難易度の迷宮だと戦力過剰なフルパーティではあるが、そう言った矢先に迷宮が崩落して巨大なポケモンと鉢合わせた約2名は、これでも安心できないのだった。

 

「できるだけ戦闘は避けたいわね」

「……あの様子じゃあ無理デショ」

 

 通路を抜けた先には、洞窟の大空洞をびっしりと覆うマントルポケモンのダンゴロ、そして進化形のガントルだ。

 今、イクサ達が潜んでいる通路から床下まで凡そ5メートルの高さだが、そこを20匹程度の岩石のポケモンの群れが埋め尽くしているのである。

 洞窟の部屋のあちこちに沢山たむろしている彼らは、人間を見かけるとすぐさま異物発見とばかりにぶつかってきたり、岩を放り投げてくる。

 足が遅いので走れば振り切れるような連中だが、如何せん数が多い。

 

(よくゲームで洞窟歩くとガントルやゴローンにエンカウントするのって、こうなってるからなんだろうなあ)

 

 地獄のような光景を前に、そんなことをイクサは考えていた。

 岩の礫も頭に受ければ、立派な凶器である。開幕から乱戦して体力を消耗するのも良くはない。

 迷宮攻略は、ただポケモンが強ければ良いというものではない。如何に戦わずして通過するか、それとも戦うかの選択が重要になってくる。

 集団が相手の場合は、どう反撃を許さないかも重要なのである。

 

「地図上はこの先に──裂け目があるみたいですけど、回り道は無い。従って、通るしかありません」

「此処も突破出来ないようじゃ、奥に進むのは難しいということデスね!」

「鳥肌立ってきたなあ……」

 

 イクサは未だに群れているポケモンを見ると寒気がする。

 ザザの地下迷宮で蹂躙された記憶を思い出すのだ。

 

「それにしても此処までダンゴロ系のポケモンが密集してるのは見た事ないデスよ」

「暴れられても困るわね。こいつら1匹が暴れ出すと他の奴らも暴れ出すの」

「迂回も出来ないとなると……やはり倒すしかないよねっ」

 

 デジーがボールを取り出そうとするのを、イクサが止めた。

 

「待って。ダンゴロとガントルの特性は”がんじょう”! どんな攻撃も一撃は耐えるから、迂闊には攻撃出来ない」

「あ、そっか……」

 

 つまり、どんなに強力な全体攻撃でも一撃は耐えて、こちらが反撃を受けてしまうのである。

 反撃を受けた彼らが投石してきたが最後、イクサ達への被害は計り知れない。

 しかし、既に手は考えていると言わんばかりに、レモンはゼラへ目配せした。

 

「簡単よ、がんじょうな身体も貫く()()()()()()()()使()()()()()。ゼラ、行けるわよね?」

「ああ──クワガノン、配置につけ」

 

 ブブブ、と羽ばたいたクワガノン。

 その身体が一気に水を纏い、そして鎧に覆われていく。

 

「……オーライズ”キングドラ”」

 

【クワガノン<AR:キングドラ> くわがたポケモン タイプ:[水/ドラゴン]】

 

 オーライズ完了したクワガノンは、通路から撃ち下ろすような姿勢でターゲットを定める。

 その巨大な顎の間に、圧縮された水エネルギーが溜められていく。

 一体どうやって突破するのか、とイクサ達は固唾をのんで見守るしかない。

 

 

 

 

「──ロック・オン」

 

【クワガノンの うずしお!!】

 

 

 

 ズドン、と低い音が鳴り響いた。

 名づけるならば高圧縮”うずしお”弾頭。

 一気に爆ぜるように渦を巻く海水が部屋中に満ちる。ガントル、そしてダンゴロ達は溢れた海水の渦に飲み込まれていく。

 そのまま、長引く渦潮は彼らに継続的なダメージを与えていき、がんじょうで一度は耐えた彼らの残る体力も削り切っていく。

 

「うずしおは相手を拘束する技。そして、相手にダメージを与え続ける技!」

 

 数分もしないうちに、ダンゴロとガントルの群れは、洞窟から殆ど居なくなっていた。

 全員が”ひんし”となったことで、身体が縮み、逃げてしまったのだ。

 こうして、洞窟を埋め尽くしていたダンゴロ・ガントルの群れは排除されたのである。

 一連の制圧を見ていたレモンは、きゅっと心臓が締まるような思いだったが、それを堪える。

 

「……よくやったわゼラ。次に進みましょう」

「……ん」

「凄い、これが”うずしお”の威力なのかよ……」

「長時間チャージすることでできる芸当デスよ。ああいう手合いが多い場所だと、ゼラ先輩みたいな人が1人居ると助かるデスね」

 

 ”うずしお”はゲームでは低い威力と引き換えに相手を渦に巻き込むことで相手を拘束し、スリップダメージを与え続ける技である。

 しかし、クワガノンが放った”うずしお”はあまりにも広範囲で高火力。特攻種族値145は決して無関係ではないとは言えないだろう、とイクサは考える。

 

(いや、にしたって強すぎる気がするけど……)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 その後も、幾つか難関はあったものの、流石にこの人数で挑めば簡単に突破が出来るような部屋ばかりだった。

 所詮は危険度3の迷宮、これまで危険度5を踏破した経験があるゼラと、危険度4の迷宮に潜っているバジルの前では稚児のようなものだった。

 そこに更にパモットを連れたイクサと、ニドキングを連れたデジーが居るので、途中に野生ポケモンが現れても排除は容易であった。

 最悪、敵ポケモンが大量にやってきても、レモンが自らの精神力と引き換えにハタタカガチで”へびにらみ”すれば後は他の面々が叩きのめすだけ。

 

「……おかしい。あまりにもおかしい……」

「どうしたのデス?」

「爺やに聞いた時は、泣く子も黙るような迷宮って……はぁ……聞いてたの……」

 

 

 

 ──歴代当主の皆様……つまりお父様とお祖父様ですな。何かに行き詰った時、この場所に訪れたと言います。泣く子も黙るような試練が待っているとか。

 

 ──最奥にある”試練の間”の鏡を、こちらの新しい物に変えてくれば、試練は達成となります。

 

 ──ちなみに、かつて、お祖父様とお父様は、2人の友人を連れて試練に挑んだとか。

 

 

 

「こんな事を言ってたのよ、爺やが」

「にしては、簡単すぎるって言いたいんですね」

「……ええ……泣く子も黙る要素があるとすれば──今私達が立っている試練の間だけよ……」

 

 迷宮の最奥に辿り着いた頃には、バトルのストレスでレモンがグロッキーになっている以外は各員のダメージも殆どないのだった。

 

「さあ、扉を開けましょう」

「大丈夫なんですかレモンさん……」

「……バカ言いなさい、今度こそ克服するの。あの子の為にもね。バジル、私きっちり倒れずにバトルについてきたわ……」

「うん……前進と言えば前進なんデスけど……もう満身創痍なんデスよ、レモン」

 

 レモンは死んだ目で洞窟の入り口に入っていく。

 中の壁は鏡面になっていた。

 薄明るい上に、自分達の姿が壁に映っているのは不思議な気分だった。

 

「それで、奥の部屋には……3人で挑むんデシタっけ?」

「ええ。後2人は野生ポケモンの見張りをしていて頂戴。何かあったら介入してもらう感じで。そうね、ゼラは確定」

「心配しなくとも見張りは任せろ」

「で、後1人は……」

「バジル先輩とかどうですか?」

 

 言い出したのは──イクサだった。

 意外な発言にレモンもバジルも目を丸くする。

 

「ほら、僕達危険度3の迷宮の最奥まで進むのは初めてですし、チャレンジしたいかなーって」

「一理あるデスけど、私も試練とやらを受けてみたいデース!」

「えーっ、それってボクか転校生のどっちかが進めないってことじゃん!」

「バジル。気持ちは分かるけど、今回は後方に徹して頂戴。1年生2人の経験を積むのも大事よ」

「むぅーっ!! 分かったデース……」

 

 イクサはゼラに向かってウインク。早速、恋のアシストをしたのである。彼は気恥ずかしそうに少し俯いた。

 

(これでバジル先輩と2人っきり! 場は作ったんだから何か進展したらいいですね!)

 

(恩に着る……転校生)

 

 そんなわけで、レモン、イクサ、デジーの3人が最奥に進むことになった。

 だだっ広い大部屋は、鏡面に覆われている。しかし、それ以外は何もない。何もいない。

 

(……なんか、殺風景だな……?)

 

 あるのは鏡面となっている壁、そして地面だけ。

 そして、奥には豪奢な飾り付けがされた鏡が供えられている。

 これを新品に変えることが試練らしいと聞いてイクサは拍子抜けしてしまった。

 周囲にはポケモンも何もいない。

 古い鏡をレモンが手に取ったその時だった。

 

「ッ……!!」

 

 ぞわっ、と彼女は肩を震わせた。

 イクサとデジーもだ。

 しかし、辺りを見回しても何もいない。

 だが確かに感じ取ったのである。

 何者かの視線を──

 

「何!? 誰!?」

 

 

 

 

「──とぅーとぅー」

 

 

 

 

 何処からともなく鳥のような声が響き渡る。

 そして、辺りの鏡面すべてにレモンの顔が大きく映し出される。

 

「なっ、何!?」

「レモン先輩の顔じゃんっ!!」

「気を付けて。ポケモンが出てくるかもしれない」

 

 

 

「ぴーぴかちゅう?」

 

 

 

 次の瞬間だった。

 今度は何処からともなく甲高い鳴き声が聞こえてきた。

 それを見た途端、レモンは──言葉を失った。

 確かに何処にでも居るようなポケモンだ。

 しかし、大きさ、鳴き声、どれをとっても鮮烈に焼き付いた記憶のそれとそっくりで、レモンは崩れ落ちそうになる。

 

「えっ、あれってピカチュウ……?」

 

【ピカチュウ ねずみポケモン タイプ:電気】

 

 ねずみポケモン・ピカチュウ。

 イクサの元居た世界では、最も有名なポケモンの1匹として知られている。

 可愛らしい事、そしてアニメで主役を張った事から、ポケモンと言うコンテンツの顔となっているのだ。

 だが、それを見たレモンは穏やかな顔ではなかった。

 可愛いものが好きな意外な一面のある彼女が、ピカチュウを見て──怯えた顔さえ見せている。

 

「……何で。何で貴女が居るの?」

 

 わなわなと震えるレモン。

 昨日、彼女から話を聞いていたデジーは思わず彼女を揺さぶる。

 

「落ち着いてレモン先輩っ!! 先輩のピカチュウは……あの海岸に眠ってるんでしょ!?」

「ッ……」

「ね、ねえ、デジー……海岸ってどういうこと?」

 

 要領が掴めないイクサがデジーに問いかけた。

 答えにくそうに彼女は答える。

 

「……実は昨晩、レモン先輩に……過去の事を改めて教えてもらったんだよ……」

「デジーお前、もしかしてまた──」

「違うの転校生君。……私から話したの。だから過去の遺恨を此処で出すのは、私が許さない」

 

 気色ばんだイクサをレモンが制す。

 

「ッ……そ、そうなんですか。デジー、ごめん……」

「いーんだよ、やったことがやったことだし。それよりも、死んだポケモンが生き返るなんて有り得ないよっ!」

「いや、有り得ない事はないわ……ただし、化石ポケモンとして、ゴーストポケモンとして、だけども」

 

 ぴーぴか、とピカチュウはこちらへ近付いてくる。

 生きているはずがない。此処に居るはずがない。

 何故ならばピカチュウは、あの迷宮で死んだからだ。

 自分の不注意で──死なせてしまったのだ。

 此処に居るはずがない。

 しかし、何故かあの日そのままのピカチュウが立っている。

 

「イクサ君聞いて。あのピカチュウは……私の()()()()()()()()()なの。かつて私が死なせた……相棒にそっくりなのよ」

「そんな!?」

「ぴちゅぴ」

「……でも、こんな所にあの子がいるはずがない。居る訳が無い!! あの子は病院で死んだの!! 火葬までしたの!! 私……私、骨まで拾ったのよ……!?」

 

 震える声でレモンは叫ぶ。瞳には涙さえ浮かんでいる。

 

「骨まで拾って……お墓に埋めたのは……私なのよ……!? だからもう、あの子はいない。いるわけないのに……っ!!」

「レモンさん……」

「──悪趣味なヤツ!! 貴方があの子のわけがない!! 正体を現しなさいッ!!」

 

 聞いたことのないような絶叫が鏡面の洞窟に響き渡った。

 それでも、屈託のない笑みを浮かべていたピカチュウ。

 しかし次の瞬間──

 

 

 

 

「ぴーpi ガ ちゅう」

 

 

 

 

 

 ぞわっ、と全員は寒気立った。

 その目は青白く光っていた。

 次の瞬間、ピカチュウの身体は大きく膨れ上がっていく。

 あまりの勢いに3人は吹き飛ばされてしまう。

 

「な、何だッ……!?」

「──ピカチュウが、大きくなった……!?」

「……倒すわよ。こんな偽者……倒してみせる……!!」

 

 3人はボールを構える。

 これまでにない程に鬼気迫る様子のレモンに、気圧されながらもイクサとデジーは目の前の巨大なピカチュウに挑むのだった。

 

 

 

「ぴーpi ガ ちゅう」

 

 

 

【ぬしポケモンのピカチュウ(?)に勝利し、力を示せ!!】

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