ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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第34話:狙撃手

 ──ズドン、とライフル銃のような音が響き渡る。

 それがミミロップの手元を一瞬離れた”こうこうのしっぽ”を狙撃。

 それは空中を舞い、焼け焦げて砂浜に落ちた。 

 さっ、とデジーの額に暑さ由来ではない別の汗が流れる。

 

「は、ウソ……!? どういう事……!?」

「何呆けてるデース!! 次撃が来るデース!!」

「”つっぱり”だパモ様!!」

「ッ……避けてミミロップ!!」

 

 しかし、今度は足にズドン、と”10まんボルト”が弾丸のように集積して飛んで行く。

 足を焼き焦がされたミミロップは膝を突いてしまい、パモットの攻撃を一方的に受ける事になったのだった。

 

「ちょっとぉ!? どうなってんの!? ()()()()()()()()()()()()なんだけど!」

「くっ……やっぱあのクワガノンが脅威デース!! カクレオン、”いわなだれ”!!」

 

 岩のシャワーを降らせるカクレオン。

 元々あまり素早くないだけに、降りかかったそれを避けられず生き埋めになってしまうクワガノン。

 だが──今度は後隙を狙ってパモットが肉薄してほっぺを擦り付けに掛かる。

 狙うのは麻痺。足を奪いに来たのだ。

 

「”ほっぺすりすり”!!」

「避けるデス、”かげうち”!!」

 

 パモットの影に吸い込まれるように逃げようとするカクレオン。

 しかし──

 

 

 

「ロック・オン」

 

 

 

 ──再びズドン、と周囲を揺るがす程の音が響く。

 岩に埋もれていたクワガノンが、その隙間から”10まんボルト”弾を放ったのである。

 電撃に射られ、影に入り損ねたカクレオンはのたうち回るのだった。

 

「──ね、ねえ、先輩これって……!!」

「クワガノンは素早さは高くないし、耐久も並みデス……ッ!! 1対1で強いポケモンではないデス……デモ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()デス!!」

 

 脅威になる方を的確に排除するような電撃弾を放つクワガノン。

 理屈はシンプルで、パモットが抑え込んでいる方とは逆のポケモンを狙い撃っているだけだ。

 しかし、バジルもやられっぱなしではない。

 

「でも弱点が無いわけじゃないデス!! カクレオン、”かなしばり”!!」

「ッ……!!」

 

 クワガノンの”10まんボルト”を封じ込めるべく、カクレオンが念動力を放つ。

 これでもう電撃弾は使えない。

 

「やっぱり強いなカクレオン……ッ!! パモ様、”かみなりパンチ”だ!!」

「あーあー、ナメてもらっちゃあ困るデスね!! カクレオン、舌を伸ばすデスよ!!」

 

 馬鹿正直に突っ込んできたパモットにカクレオンが舌を巻きつける。

 拳は届かず、そのまま宙へ放り投げられてしまう。

 それでも拳を打ち返そうとするパモットだが、

 

「”ドレインパンチ”!!」

 

 カクレオンと拳がぶつかり合う。しかし、膂力はカクレオンの方が上。

 パモットは押し負けて空中にカチ上げられてしまう。

 だが、ゼラも座視してはいない。

 

「──”むしのさざめき”」

 

 電気技が封じられたならば、虫技で。

 けたたましく鳴くことで相手の耳を破壊する技を放とうとする。

 しかし、クワガノンは遅い。デンヂムシからバッテリー供給を受けなければ哀しいくらい遅いポケモンなのだ。

 

「させないっ!! ”アンコール”!!」

 

 クワガノンの攻撃は技を出す瞬間に止まった。ミミロップが一手速かったのだ。

 手を叩けば特殊な音波が放たれ、クワガノンの行動に干渉する。

 ”かなしばり”によって”10まんボルト”が使えない状態にされたクワガノンに、最後に使った技しか使えなくする”アンコール”が掛かったのだ。

 これにより、クワガノンは出せる技が無くなってしまう。

 

「狙撃手は孤立無援になると弱い! これでクワガノンは封じた──」

「”マッハパンチ”!!」

 

 だが、当然1匹のポケモンを2匹で見ようとすると隙が生じる訳で。カチ上げられたパモットは空中で体勢を立て直し、音速の勢いでミミロップに突っ込み、鉄拳を叩き込む。

 効果は抜群。

 拳の衝撃は脳天から身体全部を揺るがした。

 蓄積されていたダメージもあり、ミミロップは意識を刈り取られてしまう。

 砂浜に倒れ落ちる巨体。埒外からの反撃にデジーは悔しそうに声を上げた。

 

「あ、あああーっ!! ウソォ!! 転校生にやられたーっ!!」

「抑え込めなかったデスか……でも──クワガノンが動けないのは大きいデス!」

 

 これで両者はほぼ互角。

 技が何も出せないクワガノンと、パモット。そして、カクレオンだ。

 イクサ側は数的有利を取っているもののクワガノンが動けないためにパモットだけで戦わなければならない。

 そして──クワガノンが動けないならば、カクレオンは自由に動くことができる。

 

「──カクレオン!! ”かげうち”からの──」

 

 飛び立って逃げようとするクワガノン。

 カクレオンの姿が完全に消失したからだ。

 しかしもう遅かった。カクレオンは既に、クワガノンの影に移動していた。

 糸のように、影がクワガノンを縛り付ける。

 

「しまっ……パモ様、カクレオンを──!!」

()()()──”いわなだれ”コンボ、デェス!!」

 

 ”かげうち”で相手の影を縛ることで本体の動きを封じ込め、そこに一転集中の”いわなだれ”が注がれる。

 効果は抜群。外殻に岩が押し潰されてへしゃげていく。

 これには流石のクワガノンもダウン。

 そして、カクレオンを止めるべく近付いたパモットは、電気を纏った拳をカクレオンに叩きこもうとするが──

 

「──”かみなりパンチ”!!」

「──”ドレインパンチ”デス!!」

 

 ──カクレオンは振り向きざまに反撃の拳をぶつけてみせる。

 衝撃が砂浜全部を揺らしたような気さえした。

 そのまま、静かに最後の鍔迫り合いは続いたかと思えば──倒れたのはパモットだった。”ドレインパンチ”は相手の体力を吸い取る拳。先にパモットの体力が吸い尽くされてしまったのである。

 こればかりはもうレベルの差としか言いようが無かった。

 

「……ッ!! 危なかったデース!!」

「やたーっ!! 探偵部最強ーッ!!」

 

 勝者はバジルとデジー、探偵部コンビであった。

 倒れたポケモンをボールに戻し、すぐに感想戦が始まる。

 

「……かなしばり+アンコールのコンボは凶悪過ぎるよ……」

「にっししー、クワガノンを止めなきゃ、絶対勝てないって思ったからさ」

「……」

「理想は、ミミロップをもっと早く倒す事デシタけど、私がそうさせなかったデスから」

「……やりにくい」

 

 ぼそり、とゼラが零す。得意げにバジルは胸を張った。

 

「デショ! 先輩の弱点はしっかり把握してるのデース!」

「それでレモンさん──今のバトルは──って」

 

 向こうを見ると、レモンは自分の顔にタオルを掛けてへたり込んでいた。

 思わずイクサは駆け寄る。

 

「レモンさん!! しっかり!!」

「へーきよ……ヤバくなる前に目隠ししたから」

「やっぱり、治療には時間が掛かりそうデスね……そんなので迷宮は大丈夫なんデスか?」

「……必ず乗り越えてみせるわ」

 

 タオルを外すとレモンの視界にイクサの顔が映る。

 ──心配そうな顔で覗き込む後輩の視線に耐えられず、頬を上気させながら顔を逸らす。

 

「レモンさん、顔赤いですけど、熱中症ですか!? 水持ってこなきゃ!」

「バカ、違うわよ……それより、さっきの試合の続きを教えなさい」

「いやあ、ゼラ先輩のクワガノンがミミロップのアンコールと、カクレオンのかなしばりを受けて沈黙しちゃって……僕もカクレオンに押し負けてしまって」

()()()()そうなったのね」

 

 ある程度予想内と言わんばかりにレモンは言った。

 

「パモ様の火力は進化したとはいえ、まだまだ決定打不足。早い所進化させてしまいたいわ」

「そうですけど……」

 

 試せど試せどパモットはなかなか進化しないのだった。

 イクサは、パモットを連れてランニングしているのだが、なかなか進化しないのである。知っている進化法は「パモットを1000歩連れ歩く」だったのだが、実践してもさっぱり進化する様子が無いのである。

 

「オシアス地方に於けるパモットの進化法はまだよく分かってないのよ。同じポケモンでも進化法が複数あったりするじゃない」

「ああ、確かに……」

 

 例としては特定の場所で進化するポケモンが、別の地方では石で進化する──といったものである。メタ的には、煩雑な仕様だったので削除されたというものだが、それをこの世界では「地方毎にポケモンの進化も違う」といったように表されているらしい。

 

「まあ、パモ様の進化は追々として……ゼラの話をしましょう」

「はい」

「ゼラが強いのは()()()()()()()()()()()()というのが大きいわ。真っ向勝負のバトルはあまり強くない。当然よ、こればっかりは仕方ない。本来彼の分野にバトルはあまり必要ないもの。でも……今回の合宿では少なからずゼラの勝負力を鍛えたいの」

 

 どうせ射撃は今更鍛えなくても十二分に強いから、と彼女は続ける。

 ゼラにとっても苦手分野を補強する合宿になりそうだった。そして、それは彼も既に了承しているらしい。

 

「……善処する」

「うわぁ!?」

 

 心臓が飛び出るかと思った。気が付けば背後に立っていたのである。

 あんな巨体なのに、後ろに立たれるまで全く気付かなかった。

 流石スナイパー、気配の消し方がプロであった。

 

「ごめんなさいね、私のワガママで。でも、貴方は学内でも有名、先に挙げた弱点を敵が突いてくる可能性は高い」

「……承知している」

「貴方だけじゃなく、クワガノンの弱点も既に周知されてしまってるでしょうし」

「弱点、ですか?」

()()()よ」

 

 それはタイプ相性以外での「弱点」である。クワガノンは見た目に反し、非常に鈍重な動きのポケモンなのである。

 

(Sの種族値43しかないからな、あいつ……見た目だけなら143あるのに)

 

「クワガノンの戦闘時の素早さが遅いのは、射撃時に電気エネルギーを使ってしまうからデス。移動にエネルギーを使ってる時は素早く動けるんデスけど」

 

 割って入って解説するのはバジル。やはり何度も共闘したからか、その辺りが身に染みて分かっているのだろう。

 

「そして、チャージに時間が掛かるから、”10まんボルト”弾は結果的に一度の試合で何度も使えない。それに、狙撃と言っても相手を一撃で倒せるとは限らないデスから、味方が頑張らないといけないのデスよ」

「でも、噛み合うとさっきみたいに本来なら突破出来ない状況を突破出来る可能性があるんですよね」

「そうよ。そこが彼の強み。彼がいるだけで、突破出来ない難局も超えられる可能性が出てくるの」

 

 ”すりかえ”の瞬間に移動した道具を弾いて防ぐのはとんでもない発想だ、とイクサは感じる。

 癖はあるし制約もあるが、彼の力が必要になる場面は間違いなく来る、と確信した。

 

「後はバジルの強さも改めて分かったと思う。カクレオンの性能は、ステータスの低さが枷になってるのが幸運と言えるほどね」

「てか、全体的にステータスは低いけど一芸に秀でてるポケモンが多いですよね、バジル先輩の手持ち」

「そうデース! そういう子達が、デカくて強い子達と張り合ってると、面白いデショ?」

「バジルは育成が上手いのよ。貴方と同じくポケモンに好かれる才があるの。そして、持ち前のトリッキーな戦い方と、手持ちの性能が噛み合ってる」

 

(すごく強いマイナー使いってところか……カクレオンもマイナーだけど”へんげんじざい”だし、デリバードも補助技が多い)

 

「後、普段の探偵活動にポケモンを連れてるから、ポケモン自体が妙なスキルを獲得しているの」

 

(それは真似できないや)

 

 そうイクサは納得することにした。プレイヤーが認知しているポケモンのステータスというのは、あくまでも()()()()()()()()()()()()()という言葉を聞いた事がある。

 イデア博士が連れていたドーブルもやたらめったら強かったので、そういうものなのだろう、と割り切ることにした。

 

「その代わり、同レベル帯で明らかに格上なポケモン相手は流石にパワー負けするかもしれないけど、それを補うのが彼女の戦略。そして、集団戦ならゼラのような後方支援が敵を撃ち抜いてくれる」

「成程。そういう意味でも二人は相性が良かったんですね」

「そうよ」

 

 実際にペアでの戦いを見なければ何とも言えないが、今の話を聞くと去年の団体戦で二人が暴れていたのも容易に想像ができる。

 

「後、噛み合っていたと言えば、探偵部組よ。両方共戦い方の傾向が似てるからかしら」

「Yes! そりゃあもう、可愛い後輩とのコンビ、デスからね!」

「……うん」

 

 デジーは──いつになく元気が無さそうだった。勝利したのに、何処かその表情は暗い。

 

「……どうしたの?」

「い、いや、何でもないっ!」

 

 ぷい、とデジーはそっぽを向いてしまった。

 それを怪訝に感じながらも──レモンは起き上がる。

 

「さぁて。ペアを変えて、やるわよ。次は、後輩同士と先輩同士なんてどうかしら? 一度、二人の連携というものを見ておいた方が良いでしょ」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──な、何なんだコレ……」

「一瞬で制圧された……」

 

 

 

 イクサが繰り出したのはイワツノヅチ、デジーがドリルポケモンのニドキングだ。

 一方、バジルはデリバード、ゼラはクワガノンというマッチアップ。

 電気技が効かないニドキングを連れていけば有利に事が運ぶだろうと考えていたデジーだったが、その目論見は一瞬で崩壊する。

 開幕、2匹を襲ったのはデリバードの猛吹雪。

 イワツノヅチがデリバードを”いわなだれ”で押し潰そうとしたものの、降ってきた岩をクワガノンが的確に撃ち抜いてしまったのでそれも叶わず。

 氷タイプが弱点のニドキングは”ふぶき”の一撃で倒れ、イワツノヅチはカチコチに凍らされてしまうのだった。

 そして、動けなくなったイワツノヅチにクワガノンがトドメと言わんばかりに10まんボルト弾を放ち、粉砕。

 軍配はあっさりと先輩コンビに上がったのである。

 

「イエーイ、大勝利っ! ゼラ先輩っ! ハイタッチ、デース!」

「……む」

 

 こくりと頷くとゼラはバジルと手を叩き合う。

 互いのレベルが高いというよりも、()()()()()()()としか言いようがない。

 先程の試合よりも、ゼラとクワガノンの動きも各段にキレが良い。

 

「……私の具合が悪くなる前に終わってくれたわね」

 

 今回は試合を全て見届けたレモンは、少し疲れた様子で言った。

 言い換えればそれは瞬殺、という意味でもあったのだが、概ね予想通りの展開らしかった。

 

「す、すごかった……クワガノン……!」

「降ってくる岩を正確に破壊するってヤバくない……!? あんなのできるポケモン、他に居ないでしょーっ! 反則だーっ!」

「これが、完璧に噛み合った時のゼラよ。今ので分かったはず」

「相方の力次第で、ゼラ先輩もまた強さが変わる、ってことですね」

「そうね。ゲームを動かすのはあくまでもメインの駒達。それを忘れないでおいて」

「最強のコンビって、ウソじゃなかったんだァ……」

 

 その後も何度か模擬戦を行い、後輩二人が先輩二人の強さをひしひしと体感したところで午前の練習は終わった。

 腹も減ってきたので、事前に買い込んだ食材をイクサとゼラの二人が運び込む間に、女子たちは大型コンロを組み立てていく。

 その間、ポケモン達はずっと浜辺の方で遊んでいた。

 イワツノヅチの身体の上にパモットにタギングル、カクレオンといった身体の小さな面子が乗っかっている。

 電飾の目が心無しか、ニコニコと細まっているのがイクサからも見えた。

 古代の遺物・オーデータポケモンと言えど、感情のようなものは確かに備わっているらしい。

 

「きゅるるるー、きゅるるる」

「りぃーるぅ」

「きーるる」

 

 その向こうでは、波打ち際でマリルとキルリア、そしてミミロップが水を掛け合って遊んでいた。

 途中、マリルが沖に流されそうになって、イクサがすっ飛んで行く前にミミロップが助けるという一幕もあったが。

 

「全く、気を付けてくれよ……」

「りっるるるる♪」

 

 空が飛べるデリバードとクワガノンは競争しているのか、宙を飛び回っているのが見える。

 オシアスの暑さも自らの冷気で中和できるのか、暑さも何のそのといった様子だ。

 そんな姿を見ながら、そう言えばデリバードは南国のアローラ地方にも生息していたな、とイクサは思い出す。

 

「ポケモン達は遊び盛りで良いわね」

「私達も遊びたいデース!」

「バジル先輩、子供じゃないんだからぁ……」

「何のための水着デース! 泳がなきゃ損デスよ!」

「あのー、肉が焼けましたけど……」

「おっと、今は食い気が先デース!!」

「忙しい人だなあ……」

 

 その後、ポケモン達の食事も用意していると、皆周りに集まってくる。

 楽しい食事の時間はすぐに過ぎ去る。

 その後は、ポケモン達の力を底上げするための基礎トレーニングを行った。

 砂場での走り込みや、技の練習といった基本的な事項の繰り返しである。

 

「じゃじゃーんっ!! 持ってきちゃった、ボク特製スパトレマシーン!!」

 

 と言って、デジーが引っ張ってきたポケモン型重機も良いトレーニング器具となった。

 重機から飛んでくるサッカーボールを弾き返したり、バルーンを破壊したり。

 ゲームに似たようなマシンがあったな、とイクサは思い出す。

 その後は迷宮に潜る為の装備やポケモンの準備を行っていると、あっという間に日が暮れてしまうのだった。

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