ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

36 / 155
第33話:学園モノ、水着回がノルマになりがち

 ※※※

 

 

 

 

「海デース!!」

 

 

 

 ──それから2日後。

 イクサ達が訪れたのは、シトラスグループの私有地の海岸だった。

 どうやらレモンが特訓の場所として選んだ迷宮は、この辺りにあるらしい。

 シトラスグループが管理・所有している迷宮の1つで、家の人間が代々訓練に使って来たのだという。

 危険度3”シトラス海岸の迷宮”だ。そこでなら、レモンは己のトラウマを克服できるかもしれない、と語る。

 ついでにプライベートビーチで迷宮探索以外の訓練も行うらしい。

 しかし、夏でビーチと聞けばテンションが子供のように上がってしまうのか、バジルは子供のように海にはしゃいでいる。

 

「はしゃぎすぎだよー、先輩ーっ」

「ふふーんっ、だってこのビーチに来るの久しぶりデスから! レモンの所のプライベートビーチ!」

「遊びに来たんじゃないでしょー……うへー、海辺苦手ー……足が熱いー」

 

(だ、大丈夫なのかな僕……色んな意味で……)

 

 水着姿の少女たちを目で追いながらイクサは当惑した。

 男1人で、女3人の中にブチ込まれて合宿することになってしまったのである。冷静に考えてみればみるほどに胸中は穏やかではない。

 正直、目のやり場に困る。健全な少年にはあまりにも辛すぎる環境だ。

 バジルは泳ぐ気満々なのか、白い美乳が際立つ真っ赤なビキニ、蜂のような腰が目立つデニムで、惜しげもなく凹凸のラインとくびれを晒している。()()()()()()()、イクサはよくない気持ちが湧いてしまった。

 一方、泳ぐつもりが全くと言って良い程感じられないデジーも、猛暑故かビキニの上にラッシュガードを羽織っている。しかし、少し開け放しているからか微妙な谷間が見え隠れしていて心臓に悪い。やっぱりよくない気持ちが湧いてしまうのだった。

 オシアスの昼間は非常に暑い。そして夏で海辺ともくれば、少女たちが水着姿に着替えるのも無理は無いとはいえ、年頃の少年には刺激が強すぎる。

 かく言うイクサも水着しか履いていない。さもなくば次々に汗が流れ出てくるのだ。

 

(耐えろ僕……浮かれてる場合じゃないだろ……)

 

「さて、午前は模擬試合から始めましょう。合宿は……メリハリが大事よ」

 

 凛とした何時もの声が聞こえてくる。その方を反射的に向き、イクサは言葉を失った。

 普段とは違う恰好の彼女に、胸が高鳴る。

 華奢な身体に黒いアメリカンスリーブビキニが映える。スリムな体形をしている彼女だが、言い知れない色香を醸し出しており、目を釘付けにされてしまう。

 そして、華奢な上半身とは対照的に、健康的な丸みを帯びている太腿を思わず目で追ってしまっていた。

 

「……聞いてる? 転校生君」

「は、はいっ、すいませんっ!?」

「あれー? 転校生、もしかしてレモン先輩の水着に見惚れてた? やーらしーんだーっ」

「違うよ! 違いますよ、レモンさん、僕そんな疚しいことなんて」

「──悪い気はしないわ」

「レモンさん!?」

 

(露骨に機嫌が良くなってるデース……水着、私が一緒に選んだ甲斐があったのデース!!)

 

 涙を流すバジル。

 こんなもの絶対に要らないわ、と言うレモンをこんこんと1時間近く説き伏せて買わせた一品だ。

 露出が多いお腹から腰にかけての健康的なラインは、イクサを狂わせるには十二分。

 

(フッ……最高に輝いてるデスよ、レモン……)

 

「その腹立つ顔やめなさい」

「デース!?」

 

 改めて、今日の日程の説明がレモンの口から為される。

 

「午後は基礎トレーニングやって、明日の迷宮探索の準備をしましょう。どうせ迷宮に潜ったら泣き言も言えなくなるらしいから、今日は軽めで良いわね」

「えっ、怖い……ボク達をどんな迷宮に潜らせるつもりなの!?」

「そう言えば、まだ迷宮の詳細を聞いてなかったですね」

「シトラス海岸の迷宮は、その名の通り()()()()()()だから、私含む家の人間の許可があれば誰でも入れるわ」

 

 つまり、逆に言えば学園側の許可を取る必要が無いということだった。私有地なら免許なしでも運転しても良いのと同じ理屈である。

 

「ただ、シトラス家が訓練に使っている以上、決して難易度が低い迷宮じゃない()()()わ。私も詳細は教えてもらってないけどね」

「教えてもらったら試練の意味が無いから、ですか?」

「そうね。だけど、これを乗り越えないことには生徒会は勿論、オーデータ・ロワイヤルに勝つなんて夢のまた夢。1年生の二人には本来より強いレベルの迷宮に挑ませる事になるけど……既に2人とも、1年の中では上澄み、そこらの2年生よりよっぽど強くなってるから最低ラインは問題なさそうと判断したわ」

「勿論っ! 転校生と一緒に、特訓したもんねーっ!」

 

 ぐいっ、とデジーがイクサの腕を胸に押し付ける。

 膨らみかけがふにふにと腕に当たり、イクサは思わず赤面しながら腕を振り払おうとしたが万力のような力で離せない。

 無論、それを目の前で見せられているレモンは面白くないのか、眼光が一気に鋭くなった。

 

(ヒィッ!! レモンの目が恐ろしいくらいに吊り上がってるデース!! レモンはインスピレーションが働くと目がミルホッグ並みに怖くなるのデース!! 後……デジーの方が胸が大きいデース!!

 

 探偵の視線はデジーの胸元とレモンの胸元を反復横跳びしていた。何処の誰が見ても、何を考えているのか丸分かりであった。

 平坦なラインを描くレモンと、微妙な膨らみがあるデジー、大きさだけならば後者に軍配が上がってしまう──と。

 だが、その行為が風紀委員長にとっては既にラインを反復横跳びしていた。

 

「取り合えず貴女が何考えてるかはよーく分かったわ」

「アウチ!!」

 

 アイアンクローを迷探偵の無駄に整った顔面に決めながら、レモンは続きを話す。悲鳴が聞こえてくるが気にしない。

 

「さて、万が一の事があってはいけないから、このバカ(バジル)を連れていくの。彼女は今のサンダー寮の最強戦力だから。孤立しないようにしましょう」

「前が見えねーデース!!」

「あ、あの、レモンさん、そろそろ離してあげた方が……」

「バジル先輩の顔が歪んじゃうよぉ……!」

「あら失礼」

「はぁ、はぁ、とうとう心まで読めるようになったデース……!」

 

 バレバレだったのは心ではなく、疚しい目線である。

 

「さて、一先ず1日目のスケジュールはこれで説明したわ。何か質問はある?」

「はーいっ!」

 

 勢いよく手を上げたのは、デジーだった。

 

「結局、5人目の推薦枠って誰なの? 見当たらないんだけど」

「そうね。じゃあそろそろ、来て貰おうかしら。ずっと待ってもらうのは可愛そうだしね」

 

 そう言ってレモンはフリスビーを何処からともなく取り出す。

 

「何ですかそれ」

「5人目はポケモン! っていうんじゃないよね」

「見てれば分かるわ」

 

 それを──天高く放り投げた。

 ふわふわと回転を付けて舞い上がったフリスビーは──パキン、と音を立てて砕け散る。

 砂浜に落ちた欠片を拾い上げると、高熱で溶かされたような痕跡があった。

 

「こ、これって、狙撃……!?」

「ええそうよ。私が選んだ5人目の推薦枠。私が3年生で最も信頼を置いている人物よ」

 

 しばらくすると、羽音が聞こえてくる。

 巨大なクワガタムシのようなポケモン・クワガノンと、それに括りつけられたハーネスでぶら下がっている男だ。

 その右手には、電磁ライフルが握られている。

 引き締まった筋肉が汗で輝いているものの、表情はキッと横一文字に結ばれており、寡黙そうな印象を受けた。

 

「クワガノンにぶら下がりながらの長距離射撃。流石の実力だわ──ゼラ」

「……」

 

【サンダー寮3年生サバイバル科”射撃部部長”ゼラ】

 

 ハーネスを外し、颯爽と砂浜に飛び降りた狙撃手は全員を無言で見回すとぺこりと礼をするのだった。

 真っ黒なサングラス、そして身長190cm超えの日に焼けた褐色の巨漢ということもあり、威圧感が凄まじい。

 髪色は黒。とても短く切りそろえており、顔つきは日本人のそれに近い。

 

(な、なんか、怖いな……殺気がヤバい……!)

 

 つまるところ、男1人の合宿でなくなったことを安心する余地など無かった。

 放たれる圧倒的な「格上」感が凄まじい。

 

「……」

「ゼラは口数が少ないっていうか、口下手だけど……腕前は確かよ。私が保証する」

「せんぱーい!! お久しぶりデース!!」

 

 駆け寄るバジル。

 何処かで親交があったのだろう。ゼラも彼女を見下ろすような姿勢で応じた。

 しかし、何処か怪訝に彼女を見つめると、彼は唸る。

 

「……気を付けろ」

 

 低く唸るような声でゼラはバジルを睨み付けると、今度はイクサの方を見下ろした。

 

「……お前は……」

「ッ……」

「……まあ良い」

 

 相対したイクサは、その圧倒的な体格、そして無言の圧に耐えかねてたじろいだ。

 ヒグマにでも遭ったかのようだった。ゼラの視線が離れたにも拘わらず、足がその場から一歩も動かない。

 

「もーう! 相変わらず、無愛想デース!! 折角女の子が可愛い水着を着てるのにッ!! 何か感想とかないのデース!?」

「……」

「ゼラ、今日は──」

「少し──仮眠を取らせて貰う」

「あー……ええ、構わないわ。サバイバル科の実技演習ご苦労よ──好きになさい」

「……」

 

 そのまま彼は木陰に行くと──荷物を近くに置き、寝息を立ててしまうのだった。レモン相手に全くと言って良い程物怖じしていないが、単にマイペースなだけなのかもしれない、とイクサは考える。

 

「……な、何だあの人……!?」

「レスキュー部隊や救助隊、他アウトドアのプロフェッショナルを養成するサバイバル科の3年生。通称”百発百中のゼラ”、”レールガンのゼラ”よ。所属は射撃部ね」

「聞いたことある! 射撃競技の公式試合で全発命中を出したって……! 後、野生ポケモンをデッカいレールガンで無力化させたりとか!」

「ゼラの狙撃は絶対必中。相棒のクワガノンも同じよ。ただ──コミュ力に難アリ」

「言葉が足りないのデス! ”気を付けろ”って何に気を付けるのか、全く分からないデース!」

「許してあげて頂戴。多分悪気があって言ったわけじゃないから」

 

 レモンは向こうで寝息を立てている最強のスナイパーを親指で差した。

 狙撃手なのだろうが如何せんガタイが大きすぎる。体育委員長のラズを上回る勢いだ。銃なんて捨てて、殴り合った方が強そうにすら思える。

 

「レモンさん、ゼラ先輩を選んだ理由って狙撃が上手いから──ですか?」

「それもあるわ。射撃能力のある重機を扱わせれば無敵。クワガノンも遠距離サポートでは無類の強さを誇る。でも、それ以上にゼラは()()()()()()()()()。そういう意味で信頼してるわ」

 

 推薦枠は強い人間というよりも信頼できる人間を選ぶ、というレモンらしいチョイスだった。

 

「後、去年の”団体戦”でも、ゼラはバジルとコンビを組んで戦ってたでしょ。バジルのカクレオンが陽動して、ゼラのクワガノンが移動した相手を容赦なく撃ちぬく。貴方達、完璧なコンビネーションだったわよ」

「まー、あの頃の試合は今思うと恥ずかしいデスねー……反省が多いデス」

 

 どうやら、ミスをするバジルのリカバリーをすることが多かったらしい。火力が足りずに相手を倒しきれなかったときに、遠距離からゼラが狙撃して突破口を切り開くといったように。

 

「ゼラがあんなに後輩に目を掛けるなんて珍しいのよ。すごく精力的に貴女の支援してたわ、あいつ。人を見る目があるんでしょうね、現にバジルは此処まで強くなったわけだし」

「えへへへーって、それでも何考えてるか分からないのは同じデース!」

「とにかく、狙撃が強い事、信頼できる事。そして主戦力の1人たるバジルと相性が良い事。これだけ揃ってれば十分かしら」

「ふぅーん。性格面の相性はあんまし良くなさそうだけどねっ」

 

 言われている当人は相も変わらず冬眠中のヒグマのように起きる様子が無い。

 

(でも、あの狙撃は本物だ。ポケモンも同様の事が出来るなら、敵方からすれば脅威そのものだろうな……)

 

「ただ……サバイバル科の実技試験は昨日までだったみたいで、結構お疲れみたい」

「でも狙撃は外さないんですね」

「ええ勿論。それがゼラと言う男よ」

「ハードボイルドって、ああいう人の事を言うのデスね」

「ッ……!」

 

 むくっ、と巨体が起き上がる。そして、のっし、のっし、とこちらに近付いてくるのが見えた。

 

「あ、起きた」

「復活、早いデース!」

 

(なんか……佇まいとかター〇ネーターみたいだな……)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──改めて、互いの実力を確かめる為に模擬試合が始まった。

 形式は2VS2のマルチバトル。先輩後輩同士でペアを組み、1匹ずつポケモンを出し合うのだ。

 そして、残ったレモンは模擬バトルの観戦に回る。

 ペアは、イクサとゼラ。そして、デジーとバジルの組み合わせに決定した。

 

【イクサ・ゼラVSデジー・バジル】

 

「にししっ、早速だけど惨めったらしく這いつくばっちゃえ!」

「探偵部の力、見せてやりマショー!」

「えっと、ゼラ先輩……よろしくお願いします……?」

「……」

 

 横に立っているだけで凄まじい圧だ。

 返事は無く、こくりと相槌だけが返ってきた。

 

(先ずは……()()()ところから始めましょう。彼らも、私も……一先ず最悪吐きそうになったらバケツがあるわ)

 

「最初は、シンプルにオーライズ無しでいきましょう──それでは、始めッ!」

 

 レモンの声で、全員はボールを投げる。

 白線が敷かれたバトルコートで、それぞれの手持ちが飛び出した。

 

 

 

「行くよ──パモ様!!」

「──Come on,カクレオン!!」

「ミミロップ、お願い!!」

「……定位置に着け、クワガノン」

 

 

 

 どくん、どくん、と鳴る鼓動を抑えながら──レモンは無意識に祈るように指を組んでいた。

 バトルを観戦するだけで動悸が強くなっていく厄介な体質になってしまった彼女は、先ずこの試合を見届ける事を目標としていたのに、気付けば()()()()()()()()()()()()()()()()()()自分がいる事に気付いた。

 

(バカ!! ちゃんと見るのよレモン!! 私は……この合宿で元に戻るの……ッ!! いつまでも引きずってる場合じゃないのに……!!)

 

 そんな彼女をちらり、とイクサは流し見する。彼女の喪失に起因するトラウマは根深い。正直な所不安であった。

 

「……戦闘中に余所見をするな」

「は、はいっ、すいません」

 

 そんな中、ゼラの野太い声が響き、肩を震わせた。

 至極真っ当な指摘。すぐにイクサは目の前に視線を戻す。

 敵はカクレオンとミミロップ。どちらもトリッキーな動きを得意とするポケモンだ。

 

「……前に出ろ」

「は、はい……!?」

「……後ろから撃ち抜く。近付けさせるな」

 

 羽ばたいたクワガノンは、レールガンのような大顎に電撃をチャージし始める。

 とにかく暴れて良い、と暗に言っていることを察する。

 後衛は自分が守る、お前は前衛でいつも通り戦ってくれればいいと言ってくれているようだった。

 

「それじゃあ行くデスよ!! カクレオン、”かげうち”デース!!」

「ッ……マッハパンチ!!」

 

 パモットは思いっきり砂地を駆け、先んじてカクレオンに殴りかかる。

 しかし、カクレオンの姿は拳が届く前に消えてしまう。そして、パモットの背後に回り込むと、あの太くて長い舌で叩きつけるのだった。

 流石バジルのエース。速度はパモットに勝るとも劣らない。先制技同士の勝負でも先んじてパモットに技をぶつけることができた。

 それに加えて特性”へんげんじざい”でカクレオンは出した技と同じタイプに()()()()変わることができる。

 ”かげうち”はゴーストタイプ。もうパモットの拳は通らない。

 

「ッ……これで隙が出来たのデース!!」

「ほうら先ずはいつものヤツ(”すりかえ”)だよッ!!」

 

 空振りしたパモットに、ミミロップが道具を押し付ける。持ち物はいつも通り”こうこうのしっぽ”だ。

 しかし──

 

 

 

「──圧縮”10まんボルト”弾」 

 

 

 

 ──クワガノンの砲口が、光った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。