ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】 作:タク@DMP
『特殊団体決闘:オーデータ・ロワイヤル
・このゲームは予選と本選に分かれる。
【予選ルール】
・全校生徒から参加者を募り、寮別にステージで分かれてバトルロイヤルを行う。
・参加者は1人1匹だけポケモンを持ち込み、6枚までオーカードを所持できる。
・ポケモンが瀕死、またはトレーナーが行動不能になった時点で脱落となる。
・こうして残り30名になるまでバトルロイヤルが続き、生き残った者が本選に進む。
【本選ルール】
・サンダー寮、ファイヤー寮、フリーザー寮、バンデットの4つの陣営に分かれてゲームを開始する生き残りをかけた陣営対抗コンバットサバイバル戦である。
・各陣営のチーム構成は予選で生き残った30名+寮長が推薦した5名の合計35名。寮長は自らを推薦して参加することが可能。
・参加者は1人1匹だけポケモンを持ち込み、6枚までオーカードを所持できる。
・プレイヤーはポケモンと共にフィールドを探索し、出会ったプレイヤーとバトル、または襲撃してポケモンを奪う。ポケモンが瀕死になったプレイヤーは、ポケモンを入れたボールを置いて所有権を手放さなければならない。
・同陣営同士の戦闘は禁止される。
・このゲームではポケモンの数=プレイヤーのライフである。敗北、ないしポケモンを奪われて、手持ちが0匹になったプレイヤーは、その時点でゲームからリタイアとなる。
・寮長が参加する場合は、オーデータポケモンで参加しなければならない。
・重機の持ち込みも可。ただし、各陣営に10機まで。
【勝利条件】
・ゲーム終了時に生き残っていたプレイヤーが最も多い陣営が勝利となり、勝利した陣営のプレイヤーに
【その他】
・尚、ポケモンはIDで管理されているため、ゲーム終了後は持ち主に返却される。
・ただし、例外的にオーデータポケモンはゲーム終了時に所持していたプレイヤーの手に渡る。
・バンデットに関するルールは後日説明するものとする。また、ゲームの時間経過に応じてルールが追加、変更される場合がある。』
『と、今全校生徒のアカウントに生徒会からゲームの詳細が送信されたのにゃーん♪ 腕自慢の生徒は先ず、予選に参加して生き残るのにゃーん!』
それを読み上げたレモンは頭を悩ませることになった。オーデータ・ロワイヤルの名は伊達ではない。全校生徒から腕自慢が集まるバトルロイヤル。そして、それを勝ち抜いた者が味方、あるいは敵となる団体戦の二部に分かれているのだ。
「それにしても、全校生徒が参加資格アリとは思い切ったわね。先ずは予選で各寮の生徒が蹴落とし合う」
「そして、生き残った30名と、寮長が推薦した5名が共に戦うわけデスね……」
「と言っても、寮長の推薦枠で5名選べるんでしょ? 私を除いて4名……此処は絶対に信頼の置ける人間を選べってことよね」
となれば、レモンの考えは一つ。いつもの面々である3人をこの推薦枠に入れることであった。ゲームがどう転んでも、この3人が裏切ることはないだろうと踏んでいる。デジーだけは不安が残るが──彼女に関しては、戦力面で申し分ないのと入れなかった場合に何をしでかすか分からないので入れるしかない。
結局、
「バジルと転校生君には推薦枠に入って貰うわ。……後デジーも」
「りょーかい、デスっ! 後の二人はどうするのデス?」
「3年生から信頼できる人間を選抜する。そして──私も出るわ」
「それにしても、レモンに参加するメリットあるんデスかね? とんでもなく不利なゲームを吹っ掛けられてる気がしマスけど」
「言うなれば、自分自身を餌にして他の寮からオーデータポケモンを奪取するチャンスと言ったところかしら。報酬次第ね」
そう言って、タブレットロトムの画面をスライドさせて──レモンは硬直した。
『【
・オーデータポケモン”ドグウリュー”(寮長限定)
・学内限定クレジット2万円分(参加者)
・特性パッチ(参加者)
・勝利寮の厚遇(設備改築、優待、その他諸々)』
「ッ……!? オーデータポケモンが陣営勝利
流石のレモンも驚きを隠せない。
アトムが迷宮から持ち帰ったオーデータポケモンは、もう1匹存在していたとでも言わんばかりだ。
それがどのようなポケモンかは分からない。
しかし、オーデータポケモン自体が非常に稀少価値の高いポケモンだ。確保しない手はない。
「……きっと、他の寮長も参加するでしょうね。わざわざ寮長の参加を任意にしてるところがニクいわ。参加しなかったら──大顰蹙も良い所でしょう」
「でも、ハタタカガチを賭けなきゃいけないんデショ!? 流石に危なくないデスか!?」
「……もう、逃げないって決めたの」
このルールの中に潜む罠、そして悪意。
それをどうしてもレモンは勘ぐってしまう。
だが、それでも参加する理由があるとするならば──ある少年に勇気づけられてしまったからだろうか。
確かにゲーム自体に何か「穴」がある気がしてならない。
誘い込まれているような気さえする。
(現状のパワーバランスを崩そうとしているアトムが、何故寮長の陣営報酬にオーデータポケモンを置くのかしら。まるで、寮長がオーデータポケモンを手放すことを予期しているかのようだわ。非常に嫌な予感がする……ッ!)
だが、罠だと分かっていてもレモンは参加しないわけにはいかなかった。
これは寮総出の団体戦。そのトップである自分が出ない事は、寮生たちの信頼を裏切ることでもある。
「バジル。そもそも生徒会の主導するゲームに寮長が参加しない事は──自らが臆病者であると表明しているも同然だわ」
「……ハタタカガチは、シトラス家の宝じゃないデスか! 何かウラがあるはずデス、もしもの事があったら──」
「きっと父が生きていたら、ある物全部使ってでも勝利せよって言うわ」
「……大丈夫なんデス?」
「ゲームには勝つ。ハタタカガチも守る。両方──成し遂げてみせる。だから、協力して頂戴、バジル。私は……これ以上逃げたくない」
レモンは、バジルに頭を下げた。
この少女は──自分自身の事になると鈍感だが、自らの家のプライド、そして背負っている寮生たちの事になると自分の身も顧みない。
そんな所に皆惚れこんでおり、バジルもその1人だ。
「ほんっとに仕方ないデスね! そこまで言うなら、親友としてバッチリ、貴女をサポートするデスよ!!」
「……ありがとう」
※※※
「──へっ、おもしれぇ。これならレモンの奴は逃げも隠れも出来ねえよなあ!!」
生徒会主導のゲームで代理を立てた日には大顰蹙は避けられない。今度こそレモンは参加する。そうなれば決着をつけるチャンスだ、とラズは確信していた。ならば自身も参加しない理由は無い。
「クッククク、レモン……体調をしっかり管理して暖かくして寝て飯も3度ちゃあんと食った上で首ィ洗って待ってろよッ……!! このラズ様がテメェをぐっずぐずに煮込んでやるからなァ!!」
「何ですかアレ」
「……ツンデレ、かな……こないだレモン先輩具合悪そうだったから死ぬほど心配してんだよ」
「ああ……ほんっとレモン先輩関連だと頭ァぶっ壊れるなあの人」
体育委員たちが、校内放送を聞いて燃え上がるラズを見て呆れたように肩をすくめる。結局、レモンと再戦がしたいだけなのだろう、と。
「良いんですかぁ、ラズせぇんぱぁい。転校生に負けて、会長のオオミカボシにも負けてぇ、これ以上負けたらぁー、寮長の座に居られなくなっちゃうかもですよぉ?」
「……かもな」
「!」
女子生徒の1人の挑発的な言葉に対し、激する事無く落ち着いた様子で彼は返す。たった今まで対レモンに燃え上がっていたのが嘘のようだった。
それで、その場に居た全員は彼の覚悟を察する。この男は本気だ。このゲームに裏があると踏んだ上で、敢えて自ら罠に飛び込み──踏み潰すつもりでいるのだ、と。
「──奴らの思惑を掴む為にも、寮長である俺自身が前に出なきゃいけねぇだろ」
※※※
「成程ねぇ、随分と大掛かりなゲームだ。予選だけでお腹いっぱいだよ」
「何か嫌な予感がします」
「大丈夫。君達が優秀な生徒であることは私が一番知っている。いつも通り、肩の力を抜いて挑めばいい──まあ、予選から戦う生徒は気が気でないだろうけど」
──文化委員長・シャインもまた、このゲームに参加することを表明する。
他のオーデータポケモンが欲しいわけではないが、他でもない寮生たちを裏切るわけにはいかない。
そして何より、勝利した際の報酬は寮としては決して無視できないものだった。
生徒会は信用できない。しかし、利用できるものは利用するに越したことはない。
委員たちを見て、シャインは笑顔で立ち上がる。皆が彼に視線を向けた。
「リスクはある。だけど、負けなければ問題ない。負けなければイテツムクロを奪われる事はないし、勝てば全てが手に入る」
「おおッ……! 流石シャイン委員長!」
「手と手を取り合って、協力するんだ。私はどのような相手でも、君達と一緒なら乗り越えられると信じているよ。光り輝く未来の為ならね」
「委員長ッ……!」
「──ところで、何でパンイチなんですか?」
「だって7月って暑くない? 正直パンツも履きたくないくらいなんだけど」
「オシアスは……いっつも暑いだろッ!!」
──文化委員室に風紀委員達が突入したのは、それから僅か10秒後の事だった。
※※※
「──と言う訳で、私も参加するよ、レモン。サンダー寮が戦い甲斐のある強敵であることを祈っているよ」
「ありがとう。やり合うからには手を抜かないわ」
「くれぐれも無理しない範囲で頑張り給え。ラズが心配する」
「……言われなくとも」
──パンイチのシャインが、手錠を掛けられたままレモンの前に座っていた。
寮長同士の密談でも何でもない。捕縛された生徒がいつものように連れて来られただけの事だ。
罪状はまたしても公然わいせつであった。誰も驚かなかった。
シャインは風紀委員たちに連れられて、風紀委員長室を出て行く。行先は学園地下の風紀委員管轄の独房である。そこで反省文を書かされるのだ。
しかし、シャインの表情はとても清々しいものだった。そこに一点の曇りもなかった。
これがフリーザー寮の寮長、シャイン・マスカットの生き様である。
「レモンと話したいなら、素直に直接来れば良いのにデス……」
「あいつは脱ぎたがりなだけよ」
「そんな事より、入れ替わりでそろそろ彼らがやってくる頃デショ。合宿の事、そして今の放送の事を教えなきゃデス」
そんな話をしていると──ぎゃいぎゃいと聞き覚えのある声が飛んでくる。
「使うポケモンの種類は対兵か対軍かって言われたら対軍で想定すべきだと、ボクは思うっ。全体攻撃、広範囲への妨害がモノを言うはず!」
「だからこそ”ワイドガード”が強い環境だと僕は思うんだよね。1小隊に1匹はそういうポケモンを使う人がいてもおかしくない」
「うーん、じゃあ”フェイント”が使えるポケモンも把握しておいた方が良いかも。転校生って、ポケモンの使う技とか分かるでしょ?」
「ああ。僕の居た世界ではポケモンはゲームだったし、此処のポケモンも覚える技は大体一致してる。該当の技が使える要注意なポケモンのリストアップは任せといてよ」
「覚えてるんだ? じゃあ、そっちは任せるよ──あ」
風紀委員長室に入ってきたのは──先程発表された”ゲーム”の話をしているイクサとデジーだった。
話し込んでいて気が付いていないのか、二人とも距離が近い。物理的に。
それを見て、当然レモンは心が穏やかではなかった。
「あっ、レモンさん! さっきの放送聞きましたよね!?」
「……そうね」
(クッソ顔に出てるデス!!)
見た事の無いようなジト目でレモンはふい、とそっぽを向いてしまう。
「どうしたんですか。具合でも悪いんですか?」
「……随分とデジーが仲が良さそうじゃない」
「……ああ、いや、これはですね!? デジーと、さっき発表された”オーデータ・ロワイヤル”で起こりえる事を考察してたんですよ!」
「普段の決闘とは全く勝手が違う! ボクも調整中の重機、幾つか引っ張ってこようかなっ! 色々考え甲斐があるよ!」
目をキラキラさせながら話すデジーとイクサ。
どうやら”ゲーム”の事になると熱中してしまうのは、両方共似た者同士のようだった。今回ばかりはデジーも邪心が感じられない。
そして、戦術レベルで話が通用する同志が現れて、二人ともかなり満足している。
問題は目の前の風紀委員長がそれを面白がっていない事であった。小さい悲鳴をバジルは漏らす。今にも雷が落ちそうだ。
(どう見ても機嫌は氷点下、今ならフリーザー寮の寮長になれるデース!!)
「でも安心してください、レモンさんっ! オーデータ・ロワイヤルでも、この僕がレモンさんを守ってみせます!」
屈託のない笑みで言ってみせるイクサ。
露骨にレモンは機嫌をよくしたのか、いつものように執務机に足を組んでみせた。
「あー、でも、先にバトルロイヤル勝たないといけないんでしたっけ」
「安心して頂戴。此処に居る4人は推薦枠で本選から出て貰う予定よ」
「ええ!? 良いんですか、僕が推薦枠で──」
「……信頼できる人間を周りに置いておきたいのよ。嫌な予感がするから。期待してるわよ」
「は、はいっ!」
どうやら「守ってみせます!」で完全に気をよくしてしまったようであった。鋼の風紀委員長もこれでは形無しである。
(こうやって甘やかすから、レモンが付け上がるのデスよ、イクサ!)
(レモン先輩って、結構チョロいんだぁ……♪)
(何か良い事あったのかなあ、レモンさん……)
すっかりレモンの機嫌は良くなったようだった。
「さて、貴方達を招集したのは……二週間後に控えた”オーデータ・ロワイヤル”について。貴方達3人は既に推薦枠として選んでるわ。信頼できる人間、としてね」
「えーと、じゃあ僕達は本選のサバイバルゲームの事だけ考えれば良いんですよね」
「それで? 推薦枠が5人でしょ」
「後の1人はレモンが3年生から選ぶみたいデスよ。そして残り1人は勿論──」
「──
レモンの言葉に、イクサもデジーも驚いたような顔を浮かべてみせる。
それは、自らのトラウマにレモン自身が挑戦すると言ったも同然だった。
「──大丈夫なんですか!?」
「そう言われても仕方ないわね。今の私はバトルするだけでフラッシュバックが起きて、長い間戦えない」
だが、それではこのゲームに胸を張って挑むことはできない、とレモンは語る。
「もし転校生君が来る前だったなら、きっと何かしら理由を付けて逃げていたわ。でも、今の私は違う。乗り越えたいの──過去の自分を」
ポケモンを喪い、消えない楔を心の奥に刺し貫かれ、レモンは死んだように生きてきた。
バトルなんて嫌いだ。二度とやりたくないとも思った。
しかし──やりたくない事をやりたくないと言っているだけでは、守れないものがある事に、イクサのおかげで気付かされた。
「私を信じてくれている寮生の為にも、今回のゲーム参加しないわけにはいかない。だから──私のバトル克服の特訓も兼ねて、今回のゲームの推薦組で強化合宿を執り行う」
「強化……合宿!?」
「──ええ。メンバーは5人。今回の推薦枠全員。早速──明日には準備を終えて貰い、明後日からスタートよ」
「随分と性急だなあ。まだテスト終わったばっかなんだけどー?」
「タイムイズマネー、他の寮に後れを取るわけにはいかないわ」
「ま、合宿って提案自体は悪くないけどねー」
いきなり始まった「合宿」にイクサは驚く。
しかし、彼女の提案は悪いものではなかった。
トラウマを抱えているのはレモンだけではなく、イクサも同じだからだ。
未だにポケモンの大群を見ると、蹂躙された記憶が蘇る。
(レモンさんが頑張ってるんだ……僕だって……ッ!!)