ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】 作:タク@DMP
第31話:クライシス・ラブ
「──おっはよー♡ 転校生ー♡」
「……」
──
絶賛、ポケキャン△を継続中のイクサではあるが、こうして”いたずらウサギ”に寝所を襲撃されるのは例の決闘後以来、二度目。
だが前回よりもタチが悪いのは、完全にマウントを取られて馬乗りにされていることだった。
「あの、僕さ……何かしたかな? 命の危機ってヤツ?」
「えー、もっと喜びなよ。可愛い可愛い同級生が、ぴょんっとモーニングコールにやってきたんだよ、転校生っ♪」
バニー服の上にだぼだぼの黄色いブレザーを羽織った少女の名はデジー。
1ヵ月前の決闘でイクサに敗北し、生徒会を追放されてサンダー寮に加入する事になった少女である。
しかし、幼く可愛い見た目に騙されてはいけない。この通り、他者を揶揄う事に愉悦を感じる愉快犯である。
現にイクサが現在進行形で被害に遇っているのだから。
年頃の少年が同い年の少女に同じ寝床に入られて冷静でいられるはずがない。
今回も今回で寝袋から引っ張り出されており、柔らかい尻肉がむにむにと下腹部に当てられている。
「取り合えず退いてくれない!? こんな所誰かに見られたらマズいでしょ」
「えー、その言い草は無いでしょ」
「あるよ!!」
「……ねえ、なんか硬いけど……コレって……」
「ただの生理現象だッ!!」
「あうっ」
デジーを押しのけ、イクサは彼女をテントから追い出した。
イタズラにも限度がある。
10分後──制服に着替えたイクサとデジーは、並んでテスト会場の講義棟に向かっていた。
「全く、年頃の男の寝床に潜り込むんじゃないよ……」
「えっへへ、ごめんごめん、ついやってみたくなっちゃって。後、転校生がうっかりテストに遅れたら大変だしね♪」
「余計なお世話なんだけど……」
(困る、マジで困る……何処まで本気か分からないし……)
生徒会の動きは無いままだ。それどころか、生徒達は皆、学生の通過儀礼である期末試験の対策に追われていた。
あれから1ヵ月。すっかりバトルにバトルを重ねて、悪友のような関係になった二人はこうして一緒に居る事が増えていた。
当初険悪だったのが嘘のように。
先週のテスト対策期間は彼女に勉強を教えてもらっており、大分助かっていた。
「それで転校生、勉強の首尾はどう?」
「まあまあだよ。ちゃんと勉強すれば出来ないことはないし、うっかり単位を落としたらレモンさんに合わせる顔が無いからね」
「ふぅーん、レモンさんの為なんだぁー♪」
「君の手前だから話すけど、あの人には大分助けてもらってるからね。僕の学力がヤバかったから、あの人の立つ瀬がない」
「ボクの為に勉強するって言ったら、学園のPCに痕跡無くハッキングして、テストの情報とか前もってリークしてあげるよ、転校生♪」
「ズルはダメだよ、ズルは!! それはもう高レベルなカンニングじゃないか!!」
「冗談だよう、転校生って、ほんっと揶揄うと楽しい♪」
2度目の決闘以降、彼女と交流する機会が増えたものの、徐々に好意的な反応が増えてきたのをイクサは実感していた。
そこに、かつての打算的なものは感じられない。
結局の所──デジーが一番欲していたのは、対等に自分の力をぶつけ合い、遠慮なく本音が言えて、遠慮なくオモチャに出来る相手だったらしい。
それでもこうして度々、彼女にからかわれる日々が続いているのであるが。
「ねえねえ、テストが終わったら、またバトルしよっ、バトルっ!」
「えーと、最後に勝ったのどっちだっけ」
「転校生だよ、転校生ッ! もーうっ、忘れちゃったの!?」
「いやぁゴメンゴメン」
「もーう……怒った! 今度こそ、どっちが強いか分からせてあげるんだから。ねっ、ミミロップ!」
彼女が腰にぶら下げたボールに呼びかけると、ボールがカタカタと揺れる。
中には彼女の相棒であるミミロップが中に入っている。
この1ヵ月で彼女とは何度も試合をしたが、やはり抜きんでて強いのが、このミミロップだ。
幼い頃から一緒に居るだけあってデジーの事を信頼しているし、デジーもミミロップを信頼している。
完璧なパートナーと呼ぶのが正しいだろう。
その知能の高さと、更にデジーの天才的戦略が組み合わされば無類の強さを発揮するのだった。
しかし──そんな相棒に関して、デジーも1つ悩み事があるようだった。
「ところで転校生……ミミロップが、事あるごとにタギングルの写真を見せつけてくるんだけど、何でだと思う?」
「実は僕のタギングルも、ミミロップと会いたいみたいでさ」
「ねえ……好きなの? タギングルってミミロップの事」
「ポケモンにもそういうのがあるのなら……でも、ミミロップがどー思ってるか、だけどさ」
「前に尻尾触られたのが気に食わないみたい。ミミロップにとってお尻は一番嫌がる場所だし」
「じゃあ脈ナシなのかなあ……多分、それ嫌われてるんだろうと思う」
「ふぅーん。でも、あの子もボクと似て素直じゃないところあるし、強い相手は素直に認めるところがあるんだよね」
「……」
「……」
二人は、黙りこくる。
自分達ではなく、ポケモン同士の話なのに、何処か気恥ずかしかった。
ポケモンにはタマゴグループと言うものが存在し、それが合致さえしていれば異種族同士でも交配が成立する。
同級生の手持ち同士で「そう」なってしまうのは、非常に気まずいのであるが。
「ま、まあ、あの二匹を会わせてから考えようか」
「そう、だねっ……! うんっ……そーだっ! 昨日リリースされたゲームなんだけど、テストが終わったら買いに──」
『ヒィィィハァァァーッッッ!!』
そんな気恥ずかしい空気は一瞬でブチ壊される。
轟音、そして砂煙。
重機が茂みから突っ込んできたのである。
最早恒例行事となりつつあるレイドイベントにイクサは眉を顰めた。慣れたくない、この日常。
飛び出して来たのは、巨大な蠍の形をした重機だった。巨大な腕には、工事現場で使うようなアームが取り付けられている。
「一体何なんだ!?」
「もーう転校生ったら驚き過ぎ! この学園では日常、でしょっ♪」
「これからテストだってのに!?」
だからここ一週間は比較的学園の治安は大人しかったのだ。よもやテストの当日に問題行動を起こすバカが居るとはイクサも思っていなかったのである。
しかし、すぐさまその疑問は解消される。
『ヘッ、テストか……終わっちまったぜ、俺のテストは……』
「は?」
『うっかりカンニングがバレちまって今学期の点数はゼロだ!! こうなりゃヤケクソ、他の奴らの登校を妨害して、0点にしてやるぜーッッッ!!』
カンニングをしたら全教科0点。当然の措置である。
スピーカーから聞こえてくる乗り手のしょうもない動機に、イクサもデジーもドン引き。
自業自得で0点になった上に、それで他の奴らも引きずり降ろしてやろうという発想が終わっている。
何ともスカッシュ・アカデミアの校風というものを肌身で感じられる朝であった。
「うわぁ……モンスターだよ……ポケットに入らないモンスターが出てきちまった……」
「でも、バレたのは君が悪いよね、ざーこ♪ カンニングってのは、バレないようにやるもんだよっ」
『おっとォ!? そこに居るのは噂の転校生ェと負けバニー女!! こんな時でもテメェらをブッ倒せば心は晴れやか100点満点だァ!! 行けェ”スコルピウス3号”!!』
【スコルピ型掘削重機”スコルピウス3号”】
ごごご、と履帯が音を鳴らして迫りくる。
全長は凡そ3メートル。人間の倍以上の鉄の怪物は腕を振り上げてイクサとデジーに襲い掛かる。
「んもーう!! ボクと転校生の登校を邪魔しないでくれない!? 0点は0点らしく、惨めったらしく這いつくばってなよ!!」
「ポケモン出すしかないよね……ッ!! 破壊力ならコイツだ、マリル!!」
「こっちも破壊力マシマシで行くよ! ミミロップ!!」
マリルとミミロップが並び立ち、重機に相対する。最早、重機とポケモンが戦う事に何の疑問も抱いていてない自分に、イクサは恐ろしさを感じた。こんなのは絶対におかしい。
『まとめて捻り潰してやるよ!! 喰らえェェェーッ!!』
巨大なアームを展開したスコルピウス3号は、地面を抉りながらミミロップとマリルに迫る。
しかし、マリルを抱きかかえたままミミロップはあっさりとそれを回避。
更にマリルが泡を大量に吐き出すと、メインカメラにそれが張りつき、一気に操縦手の視界は奪われるのだった。
『どわぁぁぁ!? 前が見えねえ!?』
「ドラピオン型にしてから出直してきたらぁっ? バーカ!」
「デジー、連携だ。いけるよね?」
「オッケー!! ミミロップ、マリルを思いっきり投げ飛ばしちゃって!!」
躊躇なくマリルを掴んだミミロップ。
既にマリルも標的である重機を睨むと体に思いっきり力を入れたようだった。
そして、遠心力のままに思いっきり投げ飛ばす。
真っ直ぐに操縦席に飛んで行くマリルは、尻尾に水を纏わせて、思いっきり正面装甲をブチ砕く。
特性:ちからもちで強化された一撃は伊達ではないのである。
「どわああああ!?」
「後は、操縦席をブッ壊しちゃえ、ミミロップ!!」
マリルを投げ飛ばした後、自分も高く跳躍したミミロップは、空中から思いっきり勢いを付けて”とびひざげり”を放つ。
コックピットは一瞬で圧壊され、火を噴いたのだった。
間もなく爆発が巻き起こり、黒焦げアフロになった生徒がコックピットから地面へ落ちていく。
「じゅ、重機の操縦も0点だと……!?」
「人間としても0点だよバカヤロウ」
「ざーこ♪」
間もなくスコルピウス3号はガコンと音を立てて沈黙。操縦者を失い、コックピットも全壊したことで、二度と動くことはなかったのである。
アホ生徒をその場に捨て置き、イクサは腕時計に目をやった。もうテストの開始まで15分しかない。
ギリギリまでノートを見ておくために余裕を持って着席しておきたいところだ。
同じ教科を受ける彼女に目を向けた。少なからず焦っている様子が見える。
「同じ教室だったよね。急ごう、デジー」
「うんッ……!? ちょ、ちょっとぉ!?」
何の気も無しにイクサは彼女の手を引っ張った。
あれだけ寝床に入るのには躊躇が無かったのに、ピュアな肌の触れ合いには全く免疫が無かったのか、彼女の頬は上気していく。
(バ、バカッ、いきなりは反則だもんッ……!!)
※※※
「──と言うのが現状の二人デス」
「……」
テストが全て終わった後の風紀委員長室には、お通夜のような空気が流れていた。
今朝の一連のやり取りを全て張り込みスキルで監視していたバジルは、イクサとデジーの只の同級生らしからぬやり取りを報告する。
ついでに重機を持ち出した件の生徒にはきっちりと罰が下される予定だという。
だが、そんな事はレモンにとってはどうでも良かった。
近い。あまりにもデジーとイクサの距離が近すぎる。1ヵ月前までは険悪な仲だったとは思えない。
それを訝しんだレモンはバジルに彼女の素行調査を依頼したのだが、出されたのは今朝の出来事であった。
レモンの顔は死んでいた。テストが万事うまくいった人間の顔ではなかった。
一方──バジルは内心ほくそ笑んでいた。
(漸く、分かったようデスね!! 自分の置かれている状況が!!)
全てはバジルが後輩であるデジーを焚きつけた事に起因する。
あんまりデジーが乙女のような反応を探偵部(尚部員は二人だけ)の部室で見せるので、バジルは耳元で囁いてやっただけだ。
──でもイクサってウブだから、積極的に押したら案外コロッと流れちゃうかもデスけどねー♪
と。この結果が、コレである。
(でも、レモンも悪いのデスよ。半月前に”そんなにアクション起こさないなら、私がデジーを焚きつけちゃうデスよ?”って言って”好きにしたら? 転校生君は私の騎士だもの”って返したのデス!)
つまり自業自得だ。
そしてバジルは、レモンの恋路を邪魔しようと思ってデジーを煽ったのではない。幾ら言っても、あくまでも自分はイクサを意識していないかのような態度を取る恋愛処女の風紀委員長をちょっと理解らせてやろうと思っただけなのだ。恋愛に於いて「待ち」一択の姿勢がどれほど最悪の事態を招くかを。問題は傍目から見ればレモンがイクサに対して全幅の信頼を置き、異性として意識しているのは明らかであることにも起因する。これで「好意を何も抱いていない」は大嘘である。
報告が終わった後、1ヵ月前、余裕ぶってふんぞり返っていた委員長の姿は無かった。
そして開口一番は──
「だっておかしいじゃない、交際していない男女がこんなに、距離が近いなんて……バジル、貴女あの子の上司でしょう。あの子、何か企んでるわ絶対」
「裏も表も企みも無いのデスよ!! このままじゃゴールインデスよ、ゴールイン!! ポケベース(※野球に相当する球技)ならスリーアウト満塁!! Youは今、勝負の下り坂の最後の方に居るんデスよ!!」
「何の勝負だって言うのよ」
「転校生君が、Youの騎士じゃなくてデジーの騎士になるかもしれないのデスよ」
「ッ……!!」
彼女の顔が徐々に蒼褪めていく。何故そうならないと思ったのか。この鉄の風紀委員長は、つくづく自分が付いていなければダメだ、と強くバジルは思わせられるのだった。
だが漸く、漸くレモンが危機感を抱く段階にまでやってきた。幸い、デジーも恋に奥手なおかげで、まだ取り返しが十二分に利く期間だ。
(つまるところ遅れはしたけど計画通り、デェス!! デジーを焚きつけ続けた甲斐があったのデース!! にしたって時間がかかった気がしマスけど!! これで次のフェーズに進めるのデース!!)
その様はさながら死の恋愛商人。全てがバレた時、レモンからブッ刺されても文句は言えない。
「……ところで此処から入れる保険があるんデスけど」
「保険って何よ」
「Youが行おうとしている”アレ”を拡大発展させて、嬉し恥ずかしの強化合宿に変えちゃうのデースッ!! 名付けて、”ドキッ! 真夏のパッション全開!! ポロリもあるよ作戦”デェェェース!!」
「……」
”アレ”とは、レモンが行おうとしている特別訓練の事だ。彼女が自身の心に巣食う恐怖を克服するために計画した、シトラス家に代々伝わる地獄の特訓である。
イワツノヅチに苦戦を強いられたこと、そして生徒会長・アトムに他寮長諸共あっさり敗れたことで、レモンは再び自らが戦線に返り咲くことを望んだのだ。
「……乗ったわバジル。別に転校生君がどうだとかそういう事も無いけど……要は”アレ”に転校生君を誘えば良いのよね?」
「Yes!! ついでに私とデジーも参加するけど、良いデスよね?」
「ええ勿論。この私があの1年の小娘に何の分野であっても負けるわけがないもの」
と口では言っているが、手が若干震えているのをバジルは見逃さなかった。
この女は言動こそ典型的なファム・ファタールだが、中身はおぼこい箱入り娘であることを幼馴染兼親友が一番知っている。
此処まで全てがバジルの計画通りに進んでいる。
「さて、そうと決まったら──合宿らしく宿泊場所の確保、そして……ガラシア海岸迷宮の使用許可を取らなきゃ……きっちり4人分」
「……そうデスネ!!」
──問題は、確実に地獄のトレーニングに、バジルが組み込まれることであるが。
どんなものとなるかは分からないが、確実に嫌な予感しかしない。
こうして合宿の予定が立てられたその時だった。
『みーんにゃーっ! 放送部2年のクロミだにゃーんっ! テストお疲れ様だにゃーん!!』
「──!?」
放送部が本来告知をするような時間帯ではない。二人は身構えてスピーカーを見つめる。
『生徒会から夏休みに開催する”学園主催ゲーム”のお知らせだにゃーんっ!』
『その名も”オーデータ・ロワイヤル”!! 参加生徒がオーデータポケモンを手に入れるチャーンスだにゃーん!!』