ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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第30話:不条理で不合理な──

 ※※※

 

 

 

「──任せろ。この程度の傷なら、簡単に治せるぞ」

 

 

 

 こんな時のガーベラの言葉程、頼りになるものは無い。彼女が繰り出したイエッサンの”いやしのはどう”がデジーの傷を癒していく。

 後は応急処置を施して一晩寝かせておけば自然治癒するだろう、というのが彼女の所見だった。

 しばらくすると、グロッキーな顔をしたレモンが現れた。そして、無言でベッドに倒れ込むのだった。

 

「レモンさん!?」

「……いつもの発作よ。やっぱりバトルはイヤ」

「凄い汗だぞ。先輩、平気なのか」

「大丈夫」

 

 事情を話していないガーベラにはその一言だけで済ませるのだった。

 そして、レモンはイクサに向かって笑みを投げかける。

 泣きそうな顔をしていた。結局、アトム相手には何もできずに、バトルをトラウマとしているレモンを矢面に立たせる結果になってしまったのである。

 

「ごめんなさい、レモンさん。代わりに戦わせるようなことになっちゃって」

「バカね。貴方は完璧に私を守ってみせたわ。誇って頂戴」

 

 当初の役目は果たせたのだ、とレモンは告げた。結局自分が勝てなかったならば、あの場の誰もがアトムに勝つことはできなかっただろう、とも言った。

 

「結果はどうだったのデス?」

 

 バジルの問に悔しそうにレモンは首を横に振った。

 

「……完敗よ。敵があまりにも強すぎたわ」

「そんな! 寮長3人でも──あのギギギアルには勝てないんデスか!?」

「ええ。戦闘力がギギギアルとは段違いよ」

 

 学園最強と言われたレモンが断言してみせるのが絶望感を加速させる。

 あの瞬間移動に、圧倒的な攻撃力、そして技範囲の広さ。見た目はギギギアルにそっくりだが、殆ど別物だ。

 

「……これから、この学園はどうなっちゃうんでしょうか」

「アトムは間違いなく、更に幅を利かせるでしょうね。今までは三大寮長が手を組めばいざとなった時に彼を止められた。でも、これからはそうもいかない」

「でも、それで何を企んで──」

「ゲームよ。あいつはきっと、私達を全員平等なゲームの駒として扱うつもり」

「平等……」

「それがどんなものなのかはきっと、この庶務の少女ですら知らないでしょうね。きっと幹部級だけが知ってる」

 

 隣のベッドで眠るデジーを見つめながら、レモンは言った。

 

「結局、悪い子ってのは……もっと悪い奴に騙されて利用されるだけされて捨てられるようになってるのよ」

「……そうですね。でも──これからはそうじゃない、でしょう?」

「ええ……私の責任に於いて、彼女の力を悪用させない。正しい事に向けるよう努力するわ。内面はクソガキだけど、彼女の力は……善悪どっちに転じても影響が大きすぎる」

 

 レモンは頷いてみせる。

 後は──彼女の気持ち次第だ。しかし、どうやら何か考えがあるようだった。

 

「教育的指導とは──飴と鞭を使い分ける。ただそれだけの話だわ。アトムの奴はそれが分かってないのよ」

 

(でもこの人も大概に不安だ……)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 そうして翌日、風紀委員室にバジルと共にデジーは現れたのだった。

 執務机に足を組んだレモンは笑みを浮かべた。制服は以前のようにダボダボではあったが、サンダー寮特有の黄色になっていた。

 開口一番、彼女は──小さな声で言った。

 

「昨日は……ありがと」

「随分としおらしいじゃない。いたずらウサギがすっかり大人しくなったのね」

「う、うっさい! 調子に乗るなっ! 決闘に負けたから、君達の傘下になってあげるだけだもんっ!」

「減らず口は相変わらずみたいね」

「私達一応先輩なんデスよ」

「ふんっ、ボクは天才だし……それで? 天才のボクを雇いたいんでしょ? 書類とか無いの」

「勿論あるわよ」

 

 レモンは「雇用契約書」と書かれた書類をバジルに渡させる。

 それにざっと目を通していき、デジーは目を見開いた。

 そうして全部の項目を読み終わった後、意外そうな顔で彼女は言った。

 

「……超ホワイト」

「あら当然よ。大事な人材だもの、そう簡単に逃がさないわ。その代わり卒業までは、この私の手足として働いてもらうけどね」

「もう良いよ、それで。はぁーあ、負けたのに美味しい思いしてるみたいでイヤなんだけど。屈辱」

「ええ、プライドの高い貴女にはこれが一番効くでしょう?」

「……良い性格してる」

「お互いにね」

「貴女が私達の勢力に居るという事が重要なのデスよ。風紀委員は最も利害から離れた場所にありマスから」

「結果的に私達にとっては得に働いたわね。ま、貴女もこれに懲りたらアトムなんかに手を貸さないことね」

「……」

「あいつは人心掌握の達人。簡単に人を手玉に取って誑かす。でも、要らないと判断したら簡単に切り捨てる。ある種ゲームマスターとは完璧なのかもだけど、人間としては最悪よ」

「……それでも、ボクを拾ってくれたのは会長だから」

 

 俯きながら彼女は言った。あれだけ手酷く切り捨てられたのに、未練たらたらのようだった。

 

「じゃあ、何であのオーデータポケモンを使わなかったのデース? 使っていればイクサにだって勝ってたはずデス」

「オオミカボシは強すぎるんだよ!!」

 

 理由はそれに尽きた。

 使えば確実にイクサに勝つことができる。自分のプライドを傷つける程に。

 

「……あんなの使って勝ったって、ボクの中じゃ勝ったにカウントされない」

「やっぱりプライドが高いのね。でも安心した」

「……何が?」

「私達は貴女を情報爆弾として見ていた。でも、予想していたよりは危険性は低そうね。貴女は、自分のプライドを傷つけるような真似はしない」

「どーだか……あんまし買い被らない方が良いかもよ」

 

 彼女は「勝ち負けの結果」──それによって敗者がどのような扱いを受けるべきかをよく分かっているようだった。

 いたずら好きではあるが弁えるべきところは弁えているし、力のある方に大人しくなびく。そこがタチの悪い所でもあるのだが──

 

「その時は丸のみにしてやるわ。その時まではせいぜい仲良くしましょう」

 

 視線が交錯する。

 一先ずは停戦する──無言だが、それで協定は結ばれたようだった。

 

「ちょっと待ったーッ!」

 

 しかし、納得していないのはバジルの方だった。勝手に取り調べと言わんばかりに机を持ち出し、刑事のような服を着こみ、デジーを席に着かせた。

 

「うわ、なにこの人……」

「パツキン刑事人情派デース!!」

「また悪い癖が出たわね……刑事なのか探偵なのか統一なさい」

 

【パツキン刑事人情派】

 

「私はまだ、聞き足りないのデース!! 勝手に納得して終わらせないでくだサーイ、ぺったん刑事貧乳派!!

 

 事件発生。ノータイムでハタタカガチの電撃がパツキン刑事に襲い掛かった。

 黒い煙を吐きながら、バジルは続ける。

 

「ごふっ、そ、そもそも、何で盗聴なんてしたんデス?」

「……転校生を罠に嵌める為に色々弱みを調べてたんだ。そしたらたまたま手に入っちゃって。公開するつもりはなかったよ。爆弾として握っておくつもりだった。まだ誰にも喋ってない」

「それがタチが悪いのデスよ。そもそも罠に嵌めるって──」

「上から、どんな手を使っても転校生を決闘に上がらせろって言われて……転校生をどうしても寮から追い出したかったみたい。……これしか手が無かった」

「普通に考えてイクサ君がそんな決闘に乗るわけがないものね」

「そうだよ……ま、ボクもノリノリでやってたけど」

「やっぱタチ悪いデス」

「でも正直酷い事はしたと思ってる。転校生も、会ってみたら……この学園に向いてないくらい良いヤツだったし」

 

 デジーは呟いた。

 少なからず罪悪感は胸の内に燻っていたようだった。

 

「結局君らには借りが出来ちゃったし。だから、音声データは消した。これでトントンでしょ……」

「……レモンは、本気で悩んでたんデス。人の辛い過去で弱みを握るなんて!」

「ッ……」

「待ちなさいバジル。それに関しては貴女、人の事言えないわよ」

 

 パツキン刑事は黙りこくった。他でもない親友からの射撃が飛ぶ。

 デジーは「ウソでしょ? この流れで?」と彼女の方を睨む。滝のような冷や汗が額から流れ出していた。身に覚えしかない様子だった。

 

「貴女小学校の頃”校長先生の浮気の証拠を握ってやったデース!! これで探偵部は安泰デース!!”って言ってたわね」

「……」

「貴女1年の頃”文化委員長(当時)が実はハゲてる証拠を握ってやったデース!! これで探偵部は安泰デース!!”って言ってたわね」

「……やんちゃをするのは誰にでもある、ということデスね」

 

 人でなしである。流石のデジーもドン引きであった。

 

(ボクも最悪だとは思うけどさあ、コイツも大概だ……ッ!!)

 

「というわけで、そこのバジルもこんなんだし、機密と脅迫云々に関してはもう私は怒ってないわ。隙を見せた私が悪いし」

「……ええ……? 本当に怒ってないの……?」

「私達仲良くなれそうデスね……清廉潔白な探偵部で共にこの世の闇を暴きにいきまショウ」

 

 世界一信用できない文言だった。特に清廉潔白から続く部分が。似た者同士仲良くなれそうというのは同意ではある。

 しかし、差し出されたバジルの手をデジーは握りたくなかった。まさに全員悪人(アウトレイジ)

 

「安心なさい。バジルはこの私が手綱を握ってるからシャバで生きて居られるようなヤツよ」

「お互いに手を取り合って生きていきマショウ!」

「何も安心できる要素ないし。ボク嫌なんだけど、その薄汚れた手ェ握るの!」

「探偵はハードボイルドな仕事……人の粗を探すのが生業の嫌な稼業……私の手も、悲しみに汚れちまってんデスよ」

 

 窓際で黄昏る探偵。刑事コスチュームはそのままだった。

 

「刑事なの? 探偵なの?」

「貴女には探偵部に入ってもらう」

「待ってぇ!?」

「そうデス。今後はこの私がビシ☆バシ、面倒を見てやるデスよ。それで、レモンの弱みを握った件はチャラにしてやるのデス」

「一生ものの負債を背負わされた気分だよ!!」

 

 デジーは察する。この女と組まされることが、そもそも罰ゲームであるということだ。

 ちらり、と彼女の方を見ると──不敵な笑みを浮かべていた。デジーは蛇の逆鱗に触れたことを心底後悔する。

 この女、アトムとは別の方面で権力を握らせてはいけない人間である、と。

 

「そうと決まったら──貴方達には引き続き私の手足となって諜報活動に勤しんでもらう」

「ついでに探偵としての制服も用意したのデスよ!」

「は? 制服? あの名探偵ピカチュウみたいなコートと帽子?」

「No! バニーさんにはバニーさんに相応しい服があるデショ? 私、可愛い女の子に可愛い服を着せるのが大好きなのデース!」

 

 そう言って──バジルが何処からともなく持ってきたのは、バニー服であった。

 デジーの顔が歪んだ。幾ら何でもこれを学内で着るのは公開処刑も良い所である。

 よく見るとバジルの顔は笑っているが、目が笑っていない。

 

「……ねえ待って!? これインナーとか無いの、せめて!?」

「ウサギさんにはピッタリデショ? ぴょーんぴょん、って言ってたデス」

「言ったけど……言ったけどぉ、助けて! 幾らボクでも、こんなの流石に学内で着れないよ!! 風紀委員長からも何か言って!! 親友なんでしょ!?」

「──あら。貴女何か勘違いしてないかしら」

 

 足を組みなおしたレモンは笑みを浮かべた。

 

 

 

「──私自身が、この学園の風紀よ。どうしたの? 笑って着なさいな」

 

(やっぱ滅茶苦茶怒ってるーッッッ!!)

 

 

 

 ダメでした、としか言いようがない。やった所業の数々に対して軽すぎる程の罰と思っていたのが間違いだった。このままでは大手企業の内定と引き換えに、二重の意味で一生ものの負債を背負わされる。

 1人だけふざけた時空に生きている先輩と、バニー服だ。

 

「別にふざけた写真を送られた事に怒ってるわけじゃないの。心機一転、その恰好で頑張るのは誠意ではないかしら。誠意を見せなさい。バニーが嫌ならメイド服もあるわ、好きな方を選びなさい」

「どーしてもその2つがイヤなら、私が代わりのものを用意したのデスよ」

「あ、ありがと──アレ? これもバニー服──」

「何言ってるデスか、それはガラル地方の王族に伝わる伝統的な服で、そっちの開いてる方が前になっていてデスね」

「いやでも、これって()じゃ──」

 

 彼女の言う「それ」は、前方がごっそりと布地が空いていた。こんなものを着れば、前面が丸見えである。

 

「HAHAHA──良いから全部脱いでこのハート型のシールを貼ってから着込むのデェス!!

 

【ハタタカガチの 10まんボルト!!】

 

【バジルは たおれた!!】

 

 2秒後には黒焦げになっている探偵が地に臥せていた。ライン超えであった。

 ちろちろと舌を出している電球蛇が、迷探偵を締め上げている。こいつが上司になるのかあ、とデジーは心底不安になった。

 

「限度を考えなさい、限度を。何処で用意したのそんなもの」

「服飾部の女子たちが秘密裏に作ってたのデース……バニーとメイド服も彼女達から貰いマシタ」

「風紀が乱れてるわ、摘発しましょう」

 

(こいつらが風紀の乱れの象徴そのものだよ……)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 大分遅れてではあるが、渦中の転校生が風紀委員長室に入ってくる。

 

「遅れてすみませーん──あれ? バジル先輩どうしたんですか……!?」

 

 ハタタカガチによる拘束プレイを受けているバジルを指差し、イクサは当惑した。別にこの女の痴態では今更興奮も何も無かった。

 レモンは首を振ると何事も無かったかのようにいつもの微笑を携える。

 

「気にしなくて良いわ。いつもの事だもの」

「じゃあいいか」

「イクサ、助けてくだサーイ!! HELP!!」

 

 電気蛇にお仕置きされるバジルを「いつもの事」として処理しながら──次に彼の視界に入ったのは、小柄なバニー服の女の子であった。

 風紀委員長室に似つかわぬ過激な格好に思わずイクサは目を逸らしてしまう。

 

「ちょっ!? 何で君、鋼の風紀委員長の前でバニー服を!?」

「私が許可したわ」

「風紀委員長ォ!?」

「よく見なさいな。貴方が得た決闘の報酬よ」

「……うぅ」

 

 恥ずかしそうにデジーは目を逸らした。それで、漸くそれが昨日の決闘相手であることに気付く。

 

「屈辱だ……」

「デジーだったのか! だ、誰に着ろと……」

「そこで今、蛇に締め上げられてる変態だよッ! 何なんだよマジで! ……サンダー寮に入れられるって聞いて、何が起こるんだって思ってたけど──想像以上だった。前途多難だよ!」

「大丈夫、すぐ慣れるから」

「慣れたくない!! 慣れたらオシマイだッ!!」

 

 経験者は言う事が違った。デジーは半べそで言った。

 

「ま──それでも寮が無い君に比べればマシなのかもだけど」

 

 結局、未だにイクサは寮の生活に戻れず仕舞い。ポケキャン△は継続中だ。

 上からの指示だったとはいえ、少なからずそれに申し訳なさを抱いているところもあるのだろう。

 よりによってその相手に庇われてしまったのだから、余計に罪悪感は強くなっていく。

 

「だから、ボクに情けを掛けるなんて許さないから。君とボクは敵同士! ……これからも、それで良いでしょ」

「うーん……でも、もう君十二分に痛い目に遭っただろうし──あの秘密を洩らさないって約束できるなら、ボクから敵対する理由は無いんだよね」

「何で!? 未だに寮生活じゃないのに!?」

「慣れちゃって……後、日に日に野外設備が充実していってるんだ……」

「ええ……?」

 

 遠い目。優しい友人と先輩方のおかげである。基本インドア派のデジーには理解しがたかった。

 

「多分レモンさんとバジル先輩にこってり絞られたっていうか……振り回されただろうし、これで互いに水に流そうよ」

「……良いヤツ過ぎるよ」

「それに、ボクも勢いに任せて君に酷い事言っちゃったし」

「いや、ぶっちゃけもっと怒って良いし……それに図星だったんだけど」

 

 ──ッ……賢く、か。その結果が生徒会の言いなりなんだね

 

 この言葉は、深くデジーの胸に突き刺さっていた。

 結局、自分の好きな発明の為にアトムの誘いを受けたはずが、今に至るまで生徒会の手足として働かされ続けていたからである。

 

「ボクさ、本当は自分の発明で特許を沢山取って儲けるのが夢だったんだぁ。でも、色々あって自分の発明が出来なくって……こんな性格だから周りからも浮いてて」

「そんな時に会ったのが、アトム生徒会長か」

「うん。もう調べてると思うけど、それで金で抱えていた問題が全部解決して……結局強い奴に付くしかないんだ、って折れちゃった」

 

 結局、その時は良かったが──後から、援助を盾に無茶苦茶な要求をされるようになった、と彼女は振り返る。

 恩義と資金のせめぎ合いで、断る事も出来ず、やりたいことができずに作業に明け暮れていた、と語る。

 

「結局、長い物に巻かれるんじゃなくって……利用してやるくらいじゃないと、ボクらしくなかった」

「……でも、これからは長い物に巻かれるんじゃないわ。締め上げられるのよ、探偵部の上司であるバジルに」

 

 レモンの言葉に、二人は目を伏せた。当の本人はハタタカガチに締め上げられている。アレが長い物とは思いたくはない。

 悪い夢のような光景を無かったことにしながら、イクサは改めて言った。

 

「ねえ──君を庇った時、またバトルしたいって言ったの覚えてるかな?」

「……覚えてる、けどォ」

「今日にでもバトルできる!?」

 

 目を輝かせてイクサは言った。ぱちぱち、と電球蛇に絞められたままのバジルが目を瞬かせ、レモンが意外そうな顔をしていた。

 無論、言われたデジーは本気で驚いたように叫ぶ。

 

「っ……あれ、本気だったの!?」

「本気だよ! 昨日の決闘で、改めて君ってすっごく強いな、って思って! 僕、今回の決闘は対策に対策を盛り込んだけど、君がとても強いって前提で組んだ作戦だったんだ。読みが全部ハマった時──君って本当に強いんだって嬉しくなった」

「終始ボクを手玉に取ってたくせに……」

「あそこまで対策張らなきゃ負けてたんだよ。それに、ミミロップに進化してるって事は、ポケモンからはすっごく懐かれてるよね。だから……本当に悪い子じゃないのかなって」

「ぱもももも」

 

 肩に登ってきたパモ様も、同意するように頷いた。ミミロップの進化条件は、ミミロルが懐くこと。そして、ミミロル自体は野生で捕まえた時はとても懐き度が低いポケモンなのである。

 

「じゃっ、1年生って今日の昼の後空いてるよね! コートで待ってるから! あ、でも、せめてバニーの上にブレザーは着た方が」

「分かってるよッ! 言われなくってもッ! せいぜい首を洗って待ってろよ、バーカッ!」

「それじゃあボク、次の授業があるから!」

 

 約束を取り付けるだけ取り付けて、イクサは走って出ていってしまう。そんな彼に心を乱されながら、デジーは俯いた。結局、礼も謝罪も言わせて貰えなかった。

 それどころか、顔を直視する事すら出来なかった。バニー服で恥ずかしかっただけではない。

 

「全くもう……調子狂うなあ、本当に!」

「それがイクサ君よ。一見只の優男に見えるけど、獰猛なモノを内に飼ってる。貴女、目を付けられちゃったのよ」

「……はぁ、困るな。あんな風に言ってくれるの……」

 

 今朝から──転校生の顔がこびりついて離れない。さっきまで敵対していたはずなのに、躊躇なく自分を庇った事。そして、アトムの前で恐れを見せずに戦った事。

 普段は、そんな姿とは真逆と言えるほどに穏やかで、何処か頼りなく、優しすぎる所。

 そんな彼を想うと、自然と溜息が出て心音が加速していく。”いたずらウサギ”では居られなくなってしまう。いつもの自分では居られなくなってしまう。

 頬を赤く染めると──デジーは俯いた。こんな顔、イクサには絶対に見せられない。勿論、レモンやバジルにも、だ。

 

(バカ……何で、何で今朝からこんな気持ちになるのさ……何であんな風に笑いかけてくるのさ……あんなに敵対してたのに……!)

 

 そして彼女の天才的頭脳は、この感情が何なのかを一瞬で導き出していた。

 それは、不合理で不条理で、利害第一な自分には縁がないと勝手に思っていた現象だった。

 

 

 

(どーしよ……ボク、転校生(イクサ)の事好きになっちゃったみたい……)

 

 

 

 イクサのウサギ狩り、此処に完了。

 

 

 

 

 ──第二章「ポケモン廃人、ウサギ狩りに行く。」(完)

 

 

 

 ここまでのぼうけんを レポートにきろくしますか?

 

▶はい

いいえ

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──生徒会長・アトム……か」

 

 

 

 風紀委員長室を出た後、イクサはスカッシュ・アカデミアの中央に座すスパークリングタワーを眺めた。

 あそこに、生徒会役員たちが集っているのだという。一際邪悪な意思を持つ生徒会長は、その中央に座しているだろう。

 

(僕の目的は……この世界のポケモンバトルを極める事。そうすれば、レックウザも見つかるし、レモンさんだって守る事ができる)

 

 しかし、もしもあのアトムが動き出した時、自分は彼女を守る事が出来るだろうか、とイクサは問うた。

 答えは否。学園の秩序の象徴たる三寮長でさえ、オオミカボシに勝つ事は出来なかったのだから。

 だが、この世界で生きる上でアトムの存在は必ずどこかで障壁になりえる、とイクサは考える。

 

 

 

(もっと……強くならなきゃいけない……今のままじゃ、ダメだ……!!)

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──暗雲が掛かっているわね、この学園に。今のままでは、誰も生徒会長に勝てない」

「……そうデスね」

「もうじき期末試験が始まる。例年通りなら、夏休みの前に奴らはイベントを立ててくるはず」

「……その前に”アレ”をやるのデスね」

「勿論よ。この私自身も──過去のトラウマを乗り越える時がやってきた。でも不思議ね。転校生君が来てから、不思議と負ける気がしないの」

「……レモン」

 

 イクサの存在はレモンにとっても大きな心の支えになっているようだった。生徒会に対抗できる力を身に着ける為、そして彼らの策略を乗り越えるためにも、レモンは決意する。自らの弱さに立ち向かう事を。

 しかし、その頼りにしているイクサに一つ良からぬ影が迫っていることをバジルは勘付きつつあった。

 

「ところでレモン。一つ、その……レモンが支えにしてるイクサについて懸念があるんデスけど」

「何かしら」

「イクサ本人というか、デジーなんデスけどね……あれ、どう見てもイクサにホの字デシタよ」

「……」

 

 探偵は見逃さなかった。デジーの熱を帯びた視線。

 アレは間違いなく──乙女のそれだ。

 

「はっ、まさか。そんなはず──」

「いーやアレは十中八九メスの顔デシタ。私、探偵だからその辺バッチリ分かるんデスけど」

「……」

「本当に、サンダー寮にぶち込んで良かったのデース? ライバルが、増えただけじゃないデス……?」

「大体、何のライバルかしら。私は別に、転校生君に対しては守ってくれる騎士以上の感情は持ち合わせてないわ」

「無理があるデース!! 何でレモンは優秀なのに、時折ポンコツになるのデースッ!!」

「ちょっと。誰がポンコツよ。幾らバジルでも怒るわよ」

「怒りたいのは私デース!!」

 

 ──恋愛とは時に、不条理かつ不合理。知らん顔でそっぽを向いてしまったレモンの”危機感の無さ”に、親友は嘆く。このレモンという少女は如何にもファム・ファタールのような面構えと態度をしているが、数年前まで実家から離れるのも嫌がっていた箱入り娘だったことをバジルは思い出した。

 

(こ、これはいけないデス! 成就にせよ失恋にせよ!!)

 

 おまけに、今まで放っておいても男が言い寄りに来て(その度にすげなくあしらってきたので)、放っておいても勝手に意中の相手とくっつけるものだと勘違いしているのである。バジルは頭を抱えた。これは相当強いお薬が必要である、と。友人の将来の為にも此処は自らが一肌脱がねばならないと決意した。

 

 

 

「まあ、転校生君が私の事を好いてくれているなら、その気持ちはやぶさかでもないのだけど困ってしまうわね」

 

(この恋愛ポンコツ風紀委員長!! こうなったら、レモンもデジーも両方焚きつけて、私が面白おかしく引っ掻き回してやるデスよーッ!!)

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