ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】 作:タク@DMP
※※※
『──レディースエーンジェントルメーン!! これより、皆大好き決闘の時間だにゃーんっ!! 実況・解説は勿論、この私──クロミだにゃーんっ!!』
全校生徒が注目し、放課後ということもあって席に座る生徒も多い中、決闘が始まろうとしていた。
既に陽は落ち、月が煌々とフィールドを照らしている。
東側に立つのはイクサ。求めるはデジーの生徒会脱退とサンダー寮への加入。
西側に立つのはデジー。勝利時に与えられるリワードは、風紀委員長にして寮長のレモン・シトラス。
だが、デジーの顔色は優れない。ずっと生徒会長の声が頭の中で反響していた。
──期待していますよ、デジー。
(ッ……!! 勝たなきゃ。勝たなきゃ。絶対に……ッ! ああ言った手前、絶対に勝たないと……ッ!)
つぅ、と彼女の額に汗が流れる。
ああ言った手前、勝たなければ粛清される、とまで彼女は考える。
我ながら賢くない選択肢だったことは否めない。だが、それでも彼女にも意地とプライドがある。何より、早く生徒会の幹部たちに認められたいと考えているのだ。
「ぴょん、ぴょーんっ! みーんなーっ、ボクの事見てるーっ? 今日もこのボクがー、転校生をボコボコにしちゃうからねーっ!」
「──焦ってるの?」
イクサの一言でデジーの顔は凍った。
「前に戦った時は、もっと余裕があったよ。まだ試合が始まってないのに呼吸が乱れてるし、汗も多い。オシアスの夜は冷え込むのに」
「気色悪ッ!! 何処を見てんのさ!!」
「明らかに今朝会った時とは、様子が違う。心配にもなるよ」
「──ッ」
それほどまでに表情に出ているのか、とデジーは歯噛みした。
生徒会長からの穏やかな圧。プライド故に自ら掛けた枷。
それらは重圧となるには十二分だった。
オーカード3枚が展開されていく。
イクサのカードは、マリル、ハルクジラ、キルリア。
デジーのカードは、ニドキング、ホルード、ゴビットの3匹だ。
(ハルクジラが一貫してるオーカードだけど、ハルクジラじゃあ素早さでミミロップに勝てないし、オーラジャミングで一方的にオーライズを解除されてしまう)
(さあてと、転校生君の出してくる手持ちは何? ボクはもう決まってるけど!)
『それでは両者、ポケモンを繰り出すのにゃーんっ♪』
同時にボールが投げられ、空中でぶつかり合う。
そしてスイッチが入ると同時に、フィールドに二匹のポケモンが飛び出した。
「──タギングル!! 君の出番だ!!」
「惨めったらしく負けちゃってくれれば、それで良いかな! お願い……ミミロップ!!」
現れたのは、やはり特大サイズのミミロップ。
高さ2メートル超えの巨体が、小猿ポケモンのタギングルを見下ろしている。
前回は巨大なイワツノヅチだったので、ミミロップが小さく見えていたのと対照的だ。
『それでは決闘開始だにゃーん!!』
※※※
「……さて、どうなってるの? 決闘の方は」
バトルを観戦すると発作が起きるレモンは、ラジオで中継を聞いている。
だが、流石に今回は自分が決闘の報酬ということもあり、控室でバジルと一緒だ。
その横ではバジルが「何とも言えないデスね……」と一言。彼女の手にはタブレットロトムが握られている。
「デジーは3枚のオーカードが特定の弱点が一貫するようなものを選んでるデス。そして、誘い込んだところをオーラジャミングでオーライズを解除し、ミミロップで叩きのめす……」
「前回も今回も、本来はハルクジラを誘ってたわけね」
「そこは勿論馬鹿正直につられるイクサじゃなかったデスけどね。前回に関しては入手したばかりのハルクジラを調整できていなかったのも大きいデス。しかもアレ、決闘で勝った報酬の貰い物だからなかなか言う事を聞かなかったみたいデス」
「今回繰り出したのは、タイプ相性と全く関係ないどころか、相手に3枚居る地面タイプに弱点を突かれるタギングル……しかも、この子も入手したばっかりだけど大丈夫なの?」
「捕まえた野生ポケモンだから──というのと、タギングルの能力にイクサが相当信頼を置いてるみたいデス」
「オーラジャミングの事を考えるとどの道ハルクジラやイワツノヅチは不利でしょうからね」
相性は良いが、巨体故に小回りが利かず、小細工に対応できない2匹は今回はお休みとなる。
「そもそも、イクサのバトルスタイルに、大きくて重いポケモンよりも小さくて小柄でできる事の多いポケモンが合ってるのかもしれないデスね」
「パモ様を選ばなかった理由は? あの子、いつの間にか進化してたじゃない」
「ミミロップが”アンコール”を使えるからって言ってたデス。うっかりゴビット辺りにオーライズされて、マッハパンチを透かされて”アンコール”でもされた日には敗北確定デス。こっちは”アンコール”で”オーラジャミング”が使えないのに、相手は”オーラジャミング”でこっちのオーライズを解除してくるわけデスから」
「こうしてみると相当な難敵ね、ミミロップ……素早さも速いし、補助技も攻撃技も豊富。何をしてくるか分からない」
とはいえ、ミミロップが覚えるであろう技を改めてリストアップし、対策に対策を重ねていたイクサに隙は無い。
そして、ミミロップ以外のポケモンはいずれもタギングルより素早さが遅いため、その速度とオーライズを活用すれば倒せる、と踏んだのだ。
「でも、相手は素直にミミロップを出して来てくれた。対策が有効に働きそうね」
「いやあ、そう簡単に勝たせてくれる相手とは思えないデスけど……」
「あら、勝つわよきっと。あの敗北の悔しさは……確実に転校生君を目覚めさせたでしょうね」
「できることなら、私が出て行きたいくらいデース!!」
「今回は座ってなさい、決闘代理1号さん。私達、出来る事はやったでしょ?」
「うううー、そうデスけどぉ」
※※※
「タギングル、
あのミミロップを上回る速度で駆け回るタギングル。
そして、ミミロップの身体に登り上がると、思いっきりあっかんべーをして、尻を叩いてみせる。
”ちょうはつ”は相手の補助技を封じ込める技だ。これで、ミミロップの厄介な技の殆どを受けずに済む。
持ち物を入れ替える”すりかえ”も、相手に同じ技を続けて出させる”アンコール”もだ。
しかしその頃には既にデジーはオーカードをオージュエルに翳していた。
「悪いけどそう来ると思って……今回は開幕から行かせて貰うかんねーっ! オーライズ”ニドキング”!!」
「きゅるるるーん、きゅるるる」
【ミミロップ<AR:ニドキング> うさぎポケモン タイプ:[毒/地面]】
ミミロップの身体に毒々しい紫色の装甲、そして頭部には角が現れる。
そして、次の瞬間毛皮の中に隠していたハーブを手に取り、彼女はそれを噛み千切った。
周囲を駆けまわるタギングル。それを目掛けて、思いっきり手を打ち鳴らす。
「”アンコール”!!」
観客はどよめいた。
補助技は封じられたはず──と考えた瞬間、唯一”ちょうはつ”を無効化できる道具が存在することを全員は思い出す。
その名は”メンタルハーブ”。自由に技を出せなくなった時、消費することでそれを解除する道具だ。
更にミミロップの特性は”ぶきよう”で通常は道具を使う事が出来ないものの、オーライズによって現在その特性は”どくのトゲ”に変化している。
デメリット特性は打ち消され、”メンタルハーブ”が使えるようになったのだ。
そして、タギングル目掛けて放たれた特殊な音波は、タギングルを”ちょうはつ”だけしか撃てなくさせるマシーンへと変貌させる。
「ブースト掛けちゃえ、ミミロップ! あんたの素早さはこんなもんじゃないよねーっ!」
「……残念だけど、ブーストを掛けたのはこっちの方だ。先ずは”ちょうはつ”──」
「それだけしか撃てないなら何にも怖くない! ミミロップ、Oワザ”だいちのちから”!!」
再びミミロップの周囲を飛び回るタギングル。
とさかに来たのか、小賢しい猿を睨み付けながら蹴りで牽制しつつも、大きく腕のような耳でフィールドを打ち鳴らそうと振り上げる。
地面技はタギングルに効果抜群。当たれば只では済まない。
しかし、それでもタギングルの方が速かった。
その速度は、
(あれ? 待って、何で? さっきまで地面に居たはず、だよね?)
──デジーは、タギングルを見失った。
さっきまで地面に居たはずなのに、フィールドの何処にも見当たらない。
となれば、居るのは──空中しかないのである。
「”オーラジャミング”!!」
「──きゃいきゃいきゃいっ!!」
オーライズを解除させる必殺の一手を、タギングルはバク宙しながら放つ。
技マシンによって習得した対オーライズ最終兵器。
強烈な電磁波がミミロップを襲い、身に纏う鎧を分解していくのだった。
「はっ……!? ちょっと、ちょっと、ちょっと待って!?」
予想外の展開にデジーは目を丸くする。
タギングルは今、”アンコール”によって同じ技しか出せないはずである。
そしてタギングルの異常そのものな加速から考えて、起こった事象は1つしか考えられない。
「自分のやった事が相手からもやり返されることを……想定してなかったの?」
「ッ……そっちも”メンタルハーブ”を!? ボクがアンコールを使う事を想定してたの!?」
「前回の決闘とは違って僕だってオーラジャミングを使う可能性が高いだろ。だから、オーラジャミングを封じることができる数少ない技──アンコールは絶対搭載してると思ったんだ」
彼女の今までの戦い方や、ミミロップに信頼を置いていること等を調べてきたのは、例の迷探偵である。過去のアカデミアでの野良試合や、それ以前での彼女の戦いっぷりを聞き取り調査してきたのである。
その上でイクサは、デジーが使ってきそうな戦術をずっと考察していたのだ。
改めて”オーラジャミング”とオーライズの事を加味すると”アンコール”が強い環境だ、とイクサは考えた。元より、相手に同じ技しか使えなくする強力な技だが、この環境では特に重要になる。
如何に相手にオーラジャミングを使わせないか、が勝利に直結しかねないからだ。そうなると、デジーは補助技を封じる”ちょうはつ”を誘い、そうして生じた隙に”アンコール”をぶつけてきてもおかしくないと考えたのだ。
そしてその芸当を確実に通す為に必要なのは、メンタルハーブとオーライズで、”ぶきよう”を解除して、相手の”ちょうはつ”を無効化する対策コンボ。
普通のトレーナーならば、まさか特性が”ぶきよう”で道具が使えないミミロップに”メンタルハーブ”を持たせはしないだろう、と考えるのを逆手に取った戦術だ。
加えて、こちらがタギングルを手持ちに入れたことなど、既に彼女の情報網に掛かれば分かり切っているはず。高い素早さからミミロップの補助技を封じてくる可能性が高い、と考えているだろう、とイクサは考えた。
(ならば、それを逆利用するまで!)
案の定開幕オーライズで”ぶきよう”を上書きして”メンタルハーブ”を発動することでタギングルの”ちょうはつ”を無効化した上で、確実に”アンコール”で技を縛ってきたミミロップ。
しかし、それすらもイクサの罠だった。
タギングルは自らの懐に忍ばせていたメンタルハーブを食い千切り、その香りで”アンコール”を克服。
更にその瞬間に道具が無くなったことで特性:かるわざが発動して、倍以上の速度で飛び回り”オーラジャミング”をぶつけたのである。
無論、彼女が今まで通り”ぶきようすりかえ”をしてくるならば、普通に”ちょうはつ”が突き刺さるという寸法だ。
『おーっとイクサ選手、1枚上手だったにゃーんっ!! タギングルの道具もメンタルハーブ!! ”アンコール”は無効化され、”オーラジャミング”でオーライズが解除!! これは痛いのにゃーんっ!!』
「冗談じゃない!! ボクは……いや、ボクもミミロップも此処で負けたりしない!! もう一回”アンコール”!!」
「”ちょうはつ”!!」
オーライズが解除され、仰け反るミミロップ。
だが、それでも再び手を叩き、特殊な音波を発生させようとする。
しかし、それでもタギングルの方が速い。
先んじてタギングルがミミロップを挑発し、冷静さを失わせる。
もうメンタルハーブは無い。ミミロップの補助技はこれで全て失われた。
ぴょいぴょい、とミミロップの腕や耳すら足場にして飛び跳ねるタギングル。
完全に熱くなっているミミロップは、踏みつけ、蹴り飛ばしで応戦しようとするが──べちゃべちゃとタギングルがばら撒く毒液に目潰しされ、今度は視界も奪われる。
「しまっ──ミミロップ!?」
「きゃいきゃいきゃいっ」
だが、視界が使えないならば今度は聴覚に頼るまで。
大きな耳を持つミミロップは、タギングルが居る場所を捉えようとするが──さわさわ、と毒液の付いた指で丸い尻尾を触られた事に気付き、顔を真っ赤にして太い足を叩きつける。
フィールドにクレーターが出来上がるが、そこにタギングルは居ない。
近寄ってきた羽虫を叩いても逃げられてしまうようなものだ。
「こんの、エロ猿ッ……!! バニーにお触りはNGなんだからね!! ”ピヨピヨパンチ”!!」
「ちょっとどさくさに紛れて何してんのさタギングル──”アンコール”!!」
幾ら大きな耳を振り回しても、タギングルには当たらない。
用意した戦術は通用せず、技は全く当たらない。おまけに尻まで触られた。
ミミロップは完全に頭に血が上っているようだった。”ピヨピヨパンチ”が放たれた場所は、穴が開いている。
だが、それを涼しい顔でタギングルは回避していく。
「なっ、何で此処で”アンコール”!? 被弾したらお終いなのに──まさかぁっ!?」
「タギングル──オーライズだ!! これで決める!!」
「きゃいきゃいきゃいっ」
オーカードを取り出したイクサは、それをオージュエルに翳す。
カードに刻まれたのはマリル。水の泡がタギングルの身体を包み込んでいく。
「──オーライズ”マリル”!!」
全身を水の泡が包み込むと共に、マリルの顔が付いたフードがタギングルの頭に被さった。
【タギングル<AR:マリル> どくザルポケモン タイプ:[水/フェアリー]】
無論、それを見て”オーラジャミング”で解除しにかかるミミロップ。しかし──出るのは”ピヨピヨパンチ”だ。
「──Oワザ”アクアテール”!!」
耳が打ち下ろされた後隙を狙い、タギングルが急接近する。
”かるわざ”は失われた。だが此処までくれば”オーラジャミング”さえ打たれなければどうということはない。
そのために前もって”アンコール”で相手の技を封じ込めたのだ。
マリルに与えられた水の尻尾を、思いっきりミミロップの顔面にぶつける。
オーライズによって特性は”ちからもち”に変化。
この一撃が間違いなく致命傷となった。
インパクトは顎から脳に直接伝わり、大きく揺さぶった。ミミロップの意識を一瞬で刈り取るには十二分であった。
「きゅ、きゅるるるるっ……」
がくり、と膝を突き、そのまま倒れ込むミミロップ。
そこからもう起き上がることはなかった。
周囲は一瞬静まった。そして──実況のクロミが、高らかに決着を宣言する。
『け、KO!! ”ちからもち”アクアテールがクリティカルヒット!! イクサ選手の勝利だにゃーんっ!!』
「ウソぉ……ミミロップ、起きてよミミロップ!! しっかりしてぇ!!」
駆け寄ってミミロップを揺さぶるデジー。
しかし、完全に脳震盪を起こしてしまっており、もう戦える状態ではなかった。
『勝者はイクサ選手ーッ!! これにより、デジー選手は生徒会から脱会してサンダー寮に入ることになるのにゃーんっ!!』
「や、やったッ!! よくやったよ、タギングル!!」
「きゃいきゃいきゃいっ」
タギングルがイクサに飛びついたのが見えた。
それを見て一気に黒い感情が湧き上がってくる。
せめて一太刀。どうせ生徒会を追い出されるならば、このままイクサとレモンの秘密を暴露してしまおうか。
そう考えた時だった。
「きゅるるるーん……」
ミミロップが小さな声で鳴き、デジーを抱きしめた。
ふわふわの毛皮が彼女を包み込む。それだけで、湧き上がる激情は、落ち着いていく。
「……分かってるよ」
喜び合うイクサとタギングルを見て──デジーは呟いた。
「……イタズラは大好きだけど、ミミロップに恥ずかしい事は出来ないもん……」
「きゅるるるー」
「あーあ。これからどうなるんだろ、ボク達……」
「非常に残念です、デジー」
その時だった。
何処からともなく声が聞こえてくる。
ぞくり、とデジーは全身の毛が逆立った。
観客の全員が、そしてイクサも、声のした方に目が向く。
「何だ……あの人は──?」
「ウソ……
白いブレザーに身を包んだ少年だった。
中性的な顔つきに、短く整えられた銀の髪。
そして、切れ目のような眼を穏やかに細めている。
口元は常に笑みを携えているが、それが何処か底知れない。
その傍には、同じく白いブレザーを着た付き人達が立っている。
「──デジーが心配で、決闘を見に……帰る日を少し前倒しにしました。それにしても残念。非常に残念です」
「ち、違う、違うの、
「生徒会長!?」
「おや、貴方が噂の転校生ですね。お初にお目にかかります」
非常に穏やかに、そして気さくに彼はイクサに声をかける。交換留学で不在のはずのその男は、アルカイックスマイルを浮かべて名乗り出る。
「──スカッシュ・アカデミア”生徒会長”アトムと申します。仲良くしましょうね、イクサ君」
【”生徒会長”アトム】
名乗った彼の下に傅く白制服の生徒は、献上するように1つのボールを彼に差し出す。
それを受け取った彼は、惨めったらしい敗者へと成り下がったデジーに視線を投げかける。
「……デジー。貴方が大人しくこの子を使っていれば勝利していたはず。それで負けたのならば助けてあげようと思ったのに……」
「い、イヤだ、違うッ……まさかッ……」
「貴方が拒んだ力がどれほどのものか、身を以て教えてあげなければいけなかったようですね」
にっこりと微笑んだアトムは──ボールを投げる。
「天高く煌めく星の如く──”オオミカボシ”」