ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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第25話:探偵は忘れた頃に推理を始める

「これは酷い……!!」

 

 

 

 フルーツ売り場は、食い荒らされた。

 下手人は短い間に多くの果物に手を付けたのだろう。

 更に、周囲にはインクのような物質が撒き散らされており、売り場は汚されている。

 

「くそっ、少し目を離した隙に……一体誰がこんな事を!?」

「しかもこれ、やったのが野生ポケモンなら大変ですよ! この間の野生ポケモン襲撃の時に取り逃した個体がスーパーに侵入したのかも……」

 

 客がざわめく中、スーパーのスタッフがそんな会話をしているのが聞こえてくる。

 リンゴや洋梨が硬いモノでがりがりと削られた跡が見える。

 

「どうやら、探偵の出番みたいデスね」

「ええ……!? そうなんですか!? 探偵の出番なんですかコレ!?」

「そりゃあそうデス! 私は事件の為に生きている女デスからね。事件とあらば出番なのデース!」

 

 面倒事に首を突っ込みたがるのが、このバジルという女の厄介な所であった。そこに謎があれば飛んで行く。面白半分、使命半分といったところだ。早速齧られた果物の数々を調べようとするバジル。しかし、そこに──更に登場人物が現れる。

 

 

 

「──おやおや、大変な事になってるねぇ」

 

 

 

 何処か軽薄さを含んだ声が響き、その場の全員が彼に注目した。

 先日出会ったばかりのポケモン博士・イデアがそこに立っていたのである。手には買い物籠が握られていた辺り、たまたま偶然居合わせたのだろう。

 

「イデア博士! 何でこんな所に……!?」

「そりゃ僕だって買い物にくらい来るよ……」

「イデアって確か、図鑑開発者の方デース!? これは心強い! 是非とも生物学者としての力をお借りしたいデース!」

「任せたまえ。このイデアも解決に尽力しよう。迷宮にしか現れないはずのポケモンが起こした事件、実に興味深いからねえ」

「何!? イデア!?」

「今イデアって言ったか!?」

 

 スーパーのスタッフがイデア博士に気付いたのか、近付いてくる。度々テレビ出演しているからか、彼の名前と顔はそこそこ知られているようだった。

 

「ああッ!! あんたは確か()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

「あははは、もしかしてこの僕も有名になったようですね。此処は僕に任せてください、ドンと来いポケモン事件」

「じゃあ犯人はあんたのポケモンだな!」

「……うん?」

 

 店員の1人がイデア博士を指差した。

 

「違いねえ!! 多分コイツが犯人だ!!」

「……うん??」

 

 いきなり犯人認定されたことで、じゅるり、とイデア博士の口から涎が垂れる。

 

「売り場についてたインク……インクのポケモンと言えばドーブル! あんたのドーブルがやらかしたんだろ!?」

「ポケモンの不始末はトレーナーの不始末! 責任取って貰おうか!」

 

 

 

(あれれー、おっかしいぞぉ~? 何で僕とセンセイが犯人って疑われてんだろうねぇ? ナンデ?)

 

 

 

 思わぬ被弾にイデア博士、冷や汗。事件に顔を突っ込んだ矢先に疑われてしまう事になった。店員たちに詰め寄られるイデアを、イクサもバジルも呆れながら見つめるしかできない。幾ら何でも展開が速過ぎる。

 

「ま、待ちたまえよ! 僕は確かにドーブルを四六時中連れ歩いてるけど、流石にスーパーの中じゃあボールの中に仕舞ってるけどねぇ!?」

「そのドーブルが勝手に出てきてうちの品物に粗相をしたんじゃないかい!?」

「そんなぁ! そもそもコレがインクだって決まったわけじゃあ──」

 

 

 

あれれー、おっかしいデぇ~ス?

 

 

 

 人を小馬鹿にしたような声がその場に響き渡る。言ったのは、齧られたフルーツを指差すバジルだ。

 

「このフルーツの歯型、どっからどう見ても犬ポケモンの歯型じゃないデスよ!」

「何ィ!?」

 

 バジルが言う通り、のみのように深くフルーツは削られている。

 ドーブルの前歯では此処まで深く齧ることはできない。

 明らかにげっ歯類のポケモンがやった後だ、と考えられる。

 これにより、ドーブルが犯人である線は一気に薄れるのだった。

 

「じゃあドーブルじゃないのかァ」

「すいません! 疑っちゃって!」

「へへへ、やっぱり偉い博士は偉い博士でしたよ」

 

(掌返しが酷すぎる……)

 

「全く……僕、ただでさえ怪しい顔と声だの胡散臭いだの言われることが多いんだから堪ったもんじゃないよ」

 

 疑いが晴れたイデア博士は溜息を吐く。イクサは驚愕した。確かに一見チャラそうに見えるが怪しい人には見えなかったからである。スプリングタウンでも何かと親切にしてもらったため、恩義が大きいのだ。

 

「そんな、博士をそんな風に言う心無い人が居るんですか!?」

「ああ、この間なんて学生から”イデア博士ってラノベだったら、終盤まで主人公を親切に助けてくれるけど、最後の最後で裏切ってラスボスになりそうな顔と声してますよねー”って言われたんだよ。僕はいついかなる時もラブ&ピースのために日夜研究しているというのに、酷くない!?」

「そ、そんな! 酷すぎますよ!!」

 

 イクサは酷く憤慨する。ポケモンにも好かれる善性の塊のような博士を疑う心無い人が居ることに驚きを隠せない。

 

(失礼な人もいるもんだ……確かに博士の見た目はちょっとチャラいかもしれないけど、こんな良い人が裏切ったりするなんて有り得ないよ!)

 

「ねえイクサ君、僕そんなに怪しそうに見えるかなあ……これでもポケモンの研究に半生を注いできたつもりなんだけど」

「見えませんよ! 博士はこんなに良い人なのに!」

「ありがとう……その言葉で幾らか救われたよ……君はとっても良い子だね!」

「では、博士の疑いが晴れたところで真犯人を探すとしまショウ!」

 

 何処からともなくバジルは鹿追帽子を取り出して被り、そして二重コートを羽織った。その姿はさながら、イクサの世界で有名な名探偵「シャーロック・ホームズ」のようだった。

 勿論ホームズなんて小説はこの世界には無い。代わりにガラル発の「名探偵ピカチュウ」が世界的な愛読書として楽しまれている。そして、そこに登場するピカチュウがこの帽子とコートを羽織っているため、探偵のパブリックイメージとなっているようだった。

 そしてバジルは、この推理小説に強く強く感銘を受けており、推理を披露する際はこの姿に扮するようだった。因みにイクサが元居た世界の「師匠」は言うまでも無くシャーロキアンで、同様の恰好をしているのだった。

 

「見た目は美少女、中身は天才! その名も──名探偵バジル!! 寮長レモンの名に懸けて、事件をCuteに解決デース!!」

 

(勝手に人の名を懸けるなよ!!)

 

 その肝心の推理力は──残念ながらこの時点で既にお察しである。名探偵は自分を名探偵と名乗ったりしない。

 

「だから、推理が間違ってても……責任はレモンにあるってことで、お願いしマスね!」

 

(探偵としても友人としても下の下だ──ッ!!)

 

 最悪である。きっと普段からこんな調子なので、レモンも容赦なくバジルをポケモンの技の数々でしばき倒すことができるのだろう。まさに仲の良さが為せる技か。だが、このまま彼女を暴走させておくと一生事件が終わりそうにない。

 

「──ほう? この僕に推理で勝負を挑むというのかい? 良いだろう、バジル君。君と僕、どちらの推理が正しいか勝負しようじゃないか」

「聴かせてやるデスよ――論理(ロジック)飛躍(ステップ)ってヤツを」

 

 ロジックがステップしだしたら何もかも御終いである。

 

「あのー……1つ良いですか先輩……?」

 

 手を上げたイクサは、さっさとこの茶番劇を終わらせることにした。

 

「ぶっちゃけ監視カメラ見れば誰がやったかなんて一目瞭然では……」

「……」

「もっと言えば、インクの成分調べて貰えば話はすぐ終わるのでは……」

 

 その場は重い沈黙が横たわる。そして、渾身の推理が破られたと言われたばかりにバジルは歯噛みした。

 

「何一つ反論できないのデース……ッ!! これが完全で完璧な推理──ッ!!」

「うん、やっぱ探偵向いてないですよ貴方」

「ちなみに、これはインクじゃあない。毒成分を含んだ色の濃い唾液だ。危険だから離れた方が良いよ、皆さん」

「WTF!? 何か事件が解決しつつあるデース!?」

「うん? 待てよ。毒性を持つ、色が濃い唾液? という事は──」

 

 そんなポケモンは、イクサの記憶にある限り1系統しか思いつかない。毒を扱い、それを塗りたくって縄張りを主張するポケモンが存在するのである。

 

 

 

「しゅいいいーん」

 

 

 

 甲高い鳴き声が聞こえてくる。

 客たちの足元に隠れていたが──小さなネズミのようなポケモンが確かに居る。

 ネズミはネズミでもトガリネズミ、哺乳類の中でも最も原始的な姿に近いポケモンだ。

 

「あーっっっ!! 居たのデースッ!!」

「コイツが犯人だったのか……!」

 

【シルシュルー どくねずみポケモン タイプ:毒/ノーマル】

 

 その名はシルシュルー。牙に毒を持つねずみのポケモンで、縄張りに毒液を塗り付ける習性を持つポケモンだ。

 

「……向こうから姿を現してくれるとはね。探す手間が省けたよ」

「これなら推理とか最初っから要りませんでしたね、先輩」

「そんな事言わないでくだサーイ!!」

 

 すぐさま敵意を感じ取ったシルシュルーは客の足を掻い潜って店内を逃げ回る。

 

「参ったね……店内じゃあ、あんまり派手に暴れられないなぁ!」

「此処は僕に任せてください、二人共!」

 

 前に進み出たのは──イクサだ。

 その手にはパモットの入ったモンスターボールが握られている。

 相手は小柄で素早い。こちらも小柄で素早いポケモンを用いるまでだ。

 

「私も手伝うデス!」

「いや、ポケモン1匹に過剰戦力だ。乱戦になると周りの被害が大きくなりすぎる。それよりも、気化した毒が悪影響を与えかねない。店内の客を誘導するのが先だろうね」

「そ、そうデスね……!」

「幸いなのは、シルシュルーレベルの毒なら命を取られはしないだろうってところだけどさ」

 

 客たちが避難を始める間にも、シルシュルーは毒を周囲にばら撒きながら逃げ続ける。

 既に店内には、幾つものインク状の印がつけられていた。

 

「パモット、接近して”ほっぺすりすり”!!」

 

 先ずは麻痺させるのが先だと判断したイクサ。このままシルシュルーが暴れ続ければ四方八方に毒がばら撒かれ続けるからである。

 しかし、シルシュルーはぴょんぴょんと飛び跳ねると、パモットに強烈な鳴き声を浴びせる。

 

【シルシュルーの おだてる!】

 

 それを受けたパモットはいきなりふらふらとよろめき始めると、周囲に向かって”つっぱり”を放ち始める。

 明らかに正気ではない動きに、イクサは何をされたのか察した。 

 シルシュルーがレベル18で習得する技”おだてる”。これは、相手の特攻を1段階上げる代わりに混乱させる技なのだ。

 これにより、今のパモットには敵味方の区別すらついていない。

 このまま放置しておけば、パモットが店を壊してしまう。

 

「──戻れパモット!」

 

 幸い、混乱はポケモンを引っ込めればすぐに回復する。

 とはいえ、この局面はなかなか難しい事には変わりない。

 先ず、ポケモンは倒してしまうと身体を縮めて逃げてしまうという性質を持つ。

 故に此処でシルシュルーを取り逃すと、またスーパーなどに現れかねない。

 そして毒タイプのシルシュルーの攻撃を安定して受けられるのは、鋼タイプのイワツノヅチだ。

 しかし流石にイワツノヅチは巨大すぎる。出てくるだけで周囲を破壊しかねない。同様の理由でハルクジラもNG。

 となれば残るポケモンは必然的に──マリルかキルリアのどちらかとなる。

 だが問題は、マリルもキルリアもフェアリータイプを持っており、毒タイプに弱点を突かれてしまうのだ。

 どうせ弱点を突かれてしまうならば、こちらも弱点を突けるポケモンが良いに決まっている。

 

「キルリア!! 出番だよ!!」

「りーっ!」

「”かげぶんしん”で翻弄しろ!!」

 

 出てくるなり分身してシルシュルーを翻弄するキルリア。

 そのまま”サイケこうせん”でキルリアをシルシュルーにぶつけるが、シルシュルーは棚の裏に逃げ込んでしまい、技は空振りに終わる。

 

「げっ、奥に引っ込んじゃった……!」

「りー……! りっ!?」

 

 キルリアは視線を天井に向ける。

 いつの間にかシルシュルーは壁を這い上がって天井を駆けまわっていた。

 そして、そのまま床下に居るキルリア目掛けて、猛毒の爆弾をばら撒いた。

 

 

 

【シルシュルーの アシッドボム!!】

 

 

 

 それを華麗なステップで躱していくキルリアは、”サイケこうせん”を天井に向かって放つ。

 しかし尋常ではない速度で移動するシルシュルーはそれすらも避けてしまうのだった。

 

(幾ら種族値上ではキルリアより速いと言っても、速過ぎやしないか……って事は、あいつの特性……”かるわざ”か!?)

 

 特性:かるわざ。それは、道具を持っていない時に素早さが倍になるというものだ。

 これにより、シルシュルーは只でさえ速い素早さを更に底上げしているのである。

 誰の目にもつかずにフルーツを齧ったのは、この速度によるものだとメグルは判断した。

 おまけに、天井から床に向かって”アシッドボム”を放ち続けており、床は酸で穴が開いていく。

 周囲の被害を鑑みると、これ以上バトルを引き延ばすことはできない。

 そして充満する毒の匂いにキルリアが弱り始めている。直接被弾をせずとも、フェアリータイプにとって毒は弱点。

 気化したものを吸うだけでダメージを受けてしまうのである。

 

「それなら、毒自体を無効にすれば良い! キルリア!」

「りーっ!」

「オーライズ行くぞ──”イワツノヅチ”!!」

 

 イクサはイワツノヅチのオーカードをオージュエルに読み込む。

 相性が不利ならば、その相性をひっくり返せば良いだけの話だ。

 この場では巨体が仇となって自由に動けないイワツノヅチのタイプを、シルシュルーに弱点を突かれてしまうキルリアに重ねる。

 そうすれば、シルシュルーに弱点を突ける上に、シルシュルーの攻撃をシャットアウトできるキルリアの完成だ。

 全身に鋼の装甲が身に着けられていき、更にプラズマ状のオーラが浮かび上がる。

 それを見ていたイデア博士は思わず感嘆の声を上げる。

 

「ほう……あれがウワサのオーライズか」

「──オーライズまで切るなんて、イクサ……結構手こずってるデス!?」

「ああ、手こずるだろうね。人間の町で旨いモンしこたま食べてただろうし。それがそのまま力になってるはずだよ」

「助けるデス!」

「待ちたまえ。……見守るのも先達の役目だよ」

 

 店内の避難は概ね終わった。

 後はシルシュルーを捕獲するだけだ。しかし、博士は浮かない顔をしている。

 

「さて、1つ疑問がある。あのシルシュルー、何でこの期に及んで、こんな目立つ場所に来てまで盗み食いなんてしたんだろうね」

 

 博士の問にバジルは目をぱちぱちさせて首を傾げていたが、すぐに何かに気付いたようだった。

 

「ふぇ? そんなの、お腹が空いたから──いや、齧られた果物の数は相当なものだったし、とてもじゃないけど、本来ならあの小さい身体で食べられる量じゃないデス。そのエネルギーは何処に消えたデス!?」

 

 無論、彼らの行き着いた結論にイクサが辿り着く余裕などない。

 オーライズしたキルリアは、もう毒が怖くないのか、自らも天井を走りながらシルシュルーを追撃する。

 そしてステップを踏みながら分身して”サイケこうせん”を放つ。

 しかし、シルシュルーもぽとりと床から落ちたかと思えば、今度は指揮者たるトレーナー、つまりイクサを狙って噛もうとするのだった。

 だがそれを真正面から受け止めるのは、主人の危機に自らボールから飛び出して来たパモットだ。

 

「しゅいいいいん!?」

「ナイスだパモ様、そのままキルリアの方に向かって投げ飛ばせ!!」

 

 投げ飛ばされたシルシュルー。

 空中では受け身が取れない。

 それをキルリアが”サイケこうせん”で撃ち落としにかかる。

 しかし、その一瞬だった。

 シルシュルーの身体がカッと光る。

 照明など目でもないほどに。それは、狙いを定めていたキルリアでさえも怯んでしまうような光量だった。

 目が眩んでしまったイクサが、次に目にしたのは──

 

 

 

「きゃいっ、きゃいっ、きゃいッ!!」

 

 

 

 ──先程までの小さなネズミとは似ても似つかない悪魔のような大きな目玉と、毒に塗れた長い指を持つ小猿がキルリアに襲い掛かる姿だった。




イデア博士のイメージCV、前作から一貫して胡散臭いお兄さんやってる時(モンハンのバハリやグラブルのシエテ)の諏訪部順一さん。
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