ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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第23話:進化

「進化した……ッ!?」

 

 

 

 思わずイクサも驚きの声を上げる。

 進化──それは、ポケモンがある一定の条件を満たすことで、姿かたちが大きく変わり、ステータスが強化されたり特性やタイプが変化する現象のことである。

 その名はパモット。以前のパモよりも体格が大きくなり、二足歩行化が進行している。

 体毛の色も薄い黄色になっている。

 

(ゲームではあんまり変わってないなって思ってたけど、こうしてみると結構変わってる……逞しくなったよ、パモ様!?)

 

「成程……センセイ、そのパモの進化が近いって分かってたんだね。あるいは、最後の一押しをしたかったってところなのかな」

「どぅーどぅる」

「そうなんですか!? そのドーブル、最初から全部分かってて──」

「いやぁ、実際の所はどうか分からないけどね? 勝手な想像だし? でも……センセイって結構、その辺りの機微に敏感だからさ」

 

 再びドーブルは構え直す。

 そして「かかってこい」と言わんばかりにパモットに向かって指を立てた。

 一方のパモットも、安定した二足歩行になったことで、より安定して拳法家の如きポーズが取れるようになっていた。

 

「ぱもッ!!」

「行くよ、パモ様──”マッハパンチ”!!」

「”キノコのほうし”!!」

 

 まっすぐに突っ込んでくるパモットを受け止めるかのように、ドーブルは目の前に”キノコのほうし”を展開していく。

 正面からやってきた相手を捉える罠のように。

 しかしパモットは、それを見切るなり大きく跳躍し──再びドーブルの背後に回り込む。

 そして、音速の拳を叩き込むのだった。

 

「どぅーどぅる!?」

 

 これまで蓄積された基礎訓練は、進化した途端に大きく実を結ぶ。

 ステータスが大幅に強化されたことで”マッハパンチ”の重みも増す。

 ドーブルは後ろから殴り飛ばされたことで体勢を崩してしまう。

 それでも、自分で撒いた”キノコのほうし”を吸い込むような愚は犯さないが。

 

「あーウソでしょ、センセイ特製”キノコのほうしバリア”を避けちゃう? それ結構自信あったんだよ?」

「僕もビックリしてます……元から強い強いとは思ってたけど」

「これダメだぁ、さっきと全然動きが違うよ。やっぱ進化ってすごいねえ」

「どぅーどぅる……」

「さあってとセンセイ。どうする?」

「……どぅーどぅる」

「あっちゃー、スイッチ入っちゃったかな。程々に頼むよ──”しんそく”」

「どぅー」

 

 さっきと同様、マッハパンチでさえも追いつけない速度でドーブルはパモットに突貫していく。

 恐ろしい速度での連打、連打、連打。

 しかし、パモットもより屈強になった腕で急所をガードし、拳を捌く。

 もうそこにいるのは、ただのげっ歯類のポケモンではない。

 積み上げた鍛錬で徒手空拳を開花させたれっきとした格闘タイプポケモンの姿があった。

 

「あれっ、さっきほどダメージが入ってない……!?」

「レモンさんがパモ様を鍛えてたのは……この時の為だったのか」

「え、えげつないで……ッ!! 確かに進化したら、それなりに強くなるとは言うけど……進化前から積み上げてたモンがここで爆発したんか!?」

 

 ドーブルも熱が入ってきたのか、”しんそく”が解除されても尚、パモットに格闘戦を挑み続ける。

 蹴り上げた足は手で受け止められ、更にそこから電撃を流されてしまう。

 幸いドーブルの特性は”じゅうなん”。麻痺は通用しないのであるが。

 しかしそれでも、格闘戦は互角。ドーブルの攻撃力ではパモットの守りを崩すことができないのである。

 

 

 

「これで終わり──”つっぱり”だ!!」

 

 

 

 それは、進化したことで新たに習得した技だった。

 ドーブルの攻撃を受け止めたパモットは、隙を見て反撃に転じる。

 一発、二発、三発とその身体に張り手を喰らわせていく。 

 格闘技は効果抜群。更にこれは連続攻撃だ。

 此処まで猛攻を仕掛けてきたドーブルだったが、やはり打たれ強くはないのだろう。

 そのまま尻餅をついてしまい──倒れ込んでしまう。舌を力無く出すと、そのまま気絶してしまうのだった。

 

「参った参った! どーやら、センセイ降参みたいだ」

「どぅー……」

「って事は──勝ったんやな!!」

「うんっ……!」

「ぱもももっ!!」

 

 ぴょん、とパモットが飛び跳ね、イクサの胸に飛び込んで来る。

 パモの頃よりも一回り大きくなった体に、内心驚きを隠せない。

 しかし、甘えん坊な所は変わらないようだった。

 ぐりぐりとイクサの胸に顔を擦りつけてくる。

 

「いやー、お見事。土壇場でポケモンを進化させて逆転するなんてね」

「あははは、偶然ですよ……」

「多分、センセイはこれを分かってたんじゃないかなあ」

 

 ぶるぶる、と首を振って起き上がるドーブル。 

 そして、何事も無かったかのように、再び博士の隣に立つのだった。

 

(あれ? バトルの後なのにピンピンしとるやんけ、あのドーブル……)

 

「んじゃー、次はハッカ君だっけ。待ってて、ポケモンを回復させるから」

「ああ。待ちます、待ちます、こんな機会なかなかあらへんから」

 

 そう彼が言ったその時だった。 

 やかましい着信音がイデア博士のスマホロトムから鳴り響く。

 怪訝な顔でそれを取った彼は、通話相手の名前を見て「うわ参ったなあ」と口に出すのだった。

 

「ゴ、ゴメン、ちょっと奥さんから電話が掛かってきて……」

「奥さん、ですか?」

「ああ、そういえば結婚してはったんでしたっけ、博士。前テレビで言ってたような」

「そうだよぉ、年下のカワイイ奥さんでね……ちょっとどころじゃないくらい気が強いけど」

 

 そう言って彼は電話を取った。

 すぐに、彼の言ったような気の強そうな女性の声が聞こえてくる。

 

『聞こえる? あたしよ、あたし! こっちでちょっと面倒事起こっちゃって……ちょっと相談したいんだけど、良い?』

「ええー? 今地元のトレーナーとポケモン勝負してたんだけど──」

『ちょっと。キャプテン直々の協力要請とポケモン勝負、どっちが大事なのよ!』

「分かった分かった、僕が悪かったってぇ」

『シャクドウシティ周辺に、本来生息してないポケモンが出てきたの! それも大量発生!』

「確かにそれは見過ごせないねえ……うーん、誰かが外来種を持ち込んだとかァ?」

『そこは直接見てみないと何とも言えないと思うけど。とにかくすぐ準備して頂戴!』

 

 イクサとハッカは顔を見合わせた。 

 通話の内容を聞く限り、どうやらハッカのバトルはお流れになってしまいそうである。

 

『あっ、それと! カワイイからって、あんまりエリキテルにオヤツあげすぎてないでしょうね!?』

「ギクッ」

 

 博士の顔が蒼褪める。

 

『あんたね、キッチリ減量させときなさいよ。あの子の為にならないんだから! 良い?』

「ハ、ハイ、スミマセン……」

『……今外でしょ? すぐにパソコン繋げられる場所探して頂戴。データ送るんだから』

「はいはい、すぐ行きますよー……」

 

 通話を切ったイデア博士は肩を竦めて言った。

 

「……結婚は人生の墓場っていうからね。君達も相手はちゃあんと考えなよ! こうやって出先で離れててもコキ使われるんだから」

 

(ハハ、どこまで本気なんやら……)

 

 そう言う割には満更でも無さそうな顔をしていたのをハッカは見過ごさなかった。カカア天下ではあるものの、イデア博士はそれに不満は感じていないらしい。

 

「なんて言うの? 人間もポケモンも同じさ。どんなに厄介な相手でも味方になればとても頼もしいし、どんなに心強い相手でも敵に回せばとても恐ろしい。僕は嫁さんだけは敵に回したくないなあ」

「ああー、分かります、俺にも似たような幼馴染が居るんで」

 

(ハッカ君、それはもう語るに落ちてるんだよ)

 

 本人が居ない場所ではついつい油断してしまうのだろう。あのモコモコ幼馴染の顔が浮かぶのだった。

 

「じゃ、ゴメンねハッカ君。急な仕事が出来たから、バトルはまた今度の機会! 僕、普段はプライシティに居るから、どっかで会えるかもね! そして──楽しかったよ、イクサ君」

「はいっ、こっちこそありがとうございました!」

「いやー、ええもん見せてもらいましたわ。また次お願いします!」

 

 イデア博士は急いでその場を走り去っていく。

 そんな彼の後姿を、イクサはずっと眺めていた。

 

「……すっごく良い人だったな……」

「ああ。流石図鑑開発者やで。ポケモンからも慕われとるし」

「ぱももももっ」

 

 パモ様も同意するように頷いた。

 やはり手持ちポケモンから好かれているというのは、他のポケモンから見ても印象が良いのだろう。

 

「さあて、まだ飯まで時間あるし──他のトレーナー探してバトろうや!」

「うんっ! パモ様の新しい力、まだまだ見たいからね!」

「ぱももももっ!」

 

 その後は、観光に来ていたポケモントレーナー達と何度かバトルを重ねた。

 勝ち負けを繰り返し、そのうちにポケモン達にも経験が蓄積されていく。

 それはイクサのポケモンだけではなく、ハッカのポケモンも同じだ。

 

「おおーっ!! テッポウオがオクタンに進化したで!!」

「……本当、何で魚がタコになるんだろう……」

 

 魚のような姿をしていたテッポウオは、赤いタコのポケモン・オクタンへと進化する。

 こうなることを知っていたイクサだったが、やはり間近で見ると衝撃的な変貌であった。生物学的には何のつながりもないからである。

 一応、モチーフ的には「鉄砲」→「戦車」という進化らしいが、やはり釈然としない。

 そうこうしているうちに、日は暮れていくのだった──

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ねえ。ハッカ君は何でスカッシュ・アカデミアに入ろうと思ったの?」

 

 

 

 帰りのバスの中で、イクサは唐突に問うた。

 

「うーん、俺の父ちゃん、商社の社長やねん。商業が発展しとる上に迷宮で色んなモンががっぽがっぽ出るオシアスに手ェ伸ばしたかったみたいなんや。お前がオシアス行ってくれたら色々助かるんやけどな、言うててん。んで、俺も地元やとそれなりに腕利きのトレーナーやったし、前からスカッシュ・アカデミアに入らないかって誘いは受けてたんや」

 

 どうやら父親は、ハッカに現地でのことを直接調べたり、コネを作ることを目的としてオシアスに送り出そうとしていたらしい。

 

「それじゃあお父さんの指示に、オシアスに?」

「アホゥ。それだけで俺が大人しくこんな遠くまで来るわけないやろ。入学するかどうかは俺の自由意志に委ねられてた」

「そりゃあ親元を離れて、こんなに遠いところまで……だしね」

「俺は──強くなりたかったんや」

 

 ぽつり、とハッカは漏らした。

 

「テマリちゃん守れるくらい、強くなりたかったんや。これ、テマリちゃんには内緒やで」

「えっと……ハッカ君は、テマリさんの事……やっぱ好きなの?」

「アーホ!! そういうんとちゃうわ!! 腐れ縁で幼馴染やから放っておけんってだけや」

 

 顔を真っ赤にしてハッカはそっぽを向いてしまう。何処までもテマリ関連だと素直になれないらしい。

 

「……あいつと俺な、小さい頃に野生ポケモンに囲まれた事があってん。まだポケモン持ってへん頃やったからな」

「それで、どうなったの?」

「……テマリちゃんが泣き喚きながら野生ポケモンボコボコにして、追っ払ったんや。ピジョンの群れやったかな確かアレ……」

「は?」

「ちなみにポケモン使ってへんで。ステゴロや」

 

 返ってきた予想外の顛末にイクサは目を点にした。

 確かにテマリは沢山食べるし、よくハッカを一方的に捻じ伏せてるしで、フィジカルが強い傾向はあったが──イクサの想像以上だったらしい。

 

「──これじゃあ、あかんって思って、その日から親父に土下座して最初のポケモン貰って……トレーナーとしての修行始めてん。だって悔しいやろ!? いろいろと!!」

「うんまあ……」

「そんで、ジム巡りでもしよかと思ってたところにスカッシュ・アカデミアへの留学の話が入ってきてん。これなら帰ってくる頃にはテマリちゃんより強くなってるやろ、ってな」

 

 幼馴染に守られてしまった経験が、余程彼にとっては悔しかったらしい。彼女の前ではついつい意地を張ってしまうところがあるようだった。

 

「なーのに、アイツ”ハッちゃんと離れるんイヤやー!”なんて言うて、俺に内緒で受験勉強しとってん! 分かったのは試験の3日前! 問い詰めたら全部吐いたんや」

「えーと、テマリさん、結構頭良かったりする? もしかして」

「ああそうや思い立ったら一直線……そんな奴が海外留学にモチベ向けたらオシマイやオシマイ」

 

 結局二人揃って入学することが出来たものの、当初の”テマリを守れるくらい強いトレーナーになって帰ってくる”というハッカの目標は頓挫してしまうのだった。

 

「でも、お前も知っとる通り、スカッシュ・アカデミアはめっちゃ治安悪いっつーか実力主義やねん。テマリちゃんにそう言ったらあいつなんて言ったか分かるか? ”覚悟してはるもん!”ってな」

 

 自分が思っていた以上に幼馴染は強く逞しく成長していたことをハッカは思い知らされたのである。そして、そんな彼女であっても、ハッカと離れるのは嫌だったのである。

 

「……結局、俺は自分の考えてた事が全部間違ってたことに気付いたんや。テマリちゃんは、とっくに昔の泣き虫テマリちゃんや無くなってたんや、って」

「テマリさんは、ハッカ君と一緒に居られる方が良かったんだろうね」

「でも、おかげさまでアイツの面倒見る手間が増えて大変やねん」

「じゃあ嫌なの? テマリさんが居るの」

「嫌や言うてへんやろ」

 

 その返事で完全に語るに落ちていることをハッカは気付いているのだろうか、とイクサは苦笑いした。お互いに素直ではないだけで、これはもう両片思いも同然なのではないだろうか、と。

 

「……で、付き合わないの?」

「ぶっ、付き合わへんわ! 絶対! 何やねんお前さっきから! どつくぞ!」

「ごめんって、どつかないでよ。でもテマリさんって可愛いし、小動物みたいだよね。案外狙ってる男子多かったりして」

「そうやろそうやろ、後な、飯食うとる時もごっつかわええねん──って、どさくさに紛れて何言うとんのやオマエ!! テマリちゃんに手ェ出したらお前でも許さへんぞ!!」

「僕がとは一言も言ってないじゃないか! それに君達の距離感に入ってこれるヤツなんて居ないよ多分!」

「距離感ってどんな距離感や! フツーやフツー!!」

 

 全力で否定するハッカ。 

 正直、付き合うだとかを超えて熟年夫婦の領域に片足を突っ込んでいるのであるが、これ以上からかうといよいよ怒らせてしまいそうだったので、イクサはこの辺でやめておくことにした。

 

「今は──何がしたいの?」

「強くなるって目標は変わってへん。そうやな……世話を焼かせる転校生を、ボッコボコにできるくらい強くなる……とかやな」

 

 にやり、と彼は笑みを浮かべてみせた。

 

「……もしかして、僕、目標にされてる?」

「ったり前やろ! ……それまで潰れるんやないで、イクサ。俺達は同じトレーナー科のダチや。でもそれ以上に、ライバルなんやで。いつかでっかい舞台でお前を倒したるさかい、覚悟しときや」

「……うん、ボクも君とバトルできる日を楽しみにしてるよ」

 

 二人は拳をこつん、とぶつけ合う。

 いつかの決着をつける日まで、互いに高め合うことを誓うのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──尚、イクサとハッカが乗っていたバスの後部座席には私服姿の女子のグループが座っていた。

 ショッピングに出かけていた学生の集まりである。その中には、背が低い所為で座席に隠れてしまっていただけで──「彼女」も座っていた。

 

「ねえ、あのでっかい声で喋ってるのって、テマリの幼馴染の──」

「後、隣に座ってるのは噂の転校生の……」

「あう、あうあうあう……」

 

(何でイクサ君に全部喋ってはるの、あのスカタンっ!!)

 

 イクサとハッカの会話は全て後ろの席に筒抜け。

 テマリにもばっちり聞こえてしまっている。

 顔を真っ赤に茹で上がらせた彼女は拳をぷるぷると震わせる。

 今すぐ出ていってどついてしまいたかったが、友人の手前そうすることも出来ず。

 そう考えていた矢先、友人の一人がテマリの耳元でささやく。

 

「ねえ良かったじゃん、脈アリでしょアレは。てか愛されてるねえ」

「ひぅっ!?」

「てゆーか幼馴染同士で一緒の学園に留学しておいて、ただの腐れ縁は無いでしょ」

「さっさと付き合っちゃいなよぉ、あたし達応援してるよ?」

「うっ、ううううッ……!! ち、違うもん……うちは別にそんな……」

「あたし達が恋のキューピッドになってあげよっか? テマリ」

 

 俯いた彼女は座席から見えるハッカの後姿を睨み付ける。意中の相手が、共通の友人に自分の事をべらべらと喋っている時程恥ずかしいことは他にあるだろうか。いや、ない。

 

 

 

(ハッちゃんの、アホバカマヌケスカタンんんッ!!)

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