ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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第22話:VSドーブル

「あ、穴ァ開いた!? ただの”きりさく”で!?」

 

 

 

 命中していればただでは済まない。それが、熊型ポケモンの攻撃だ。

 ただし、これは必殺技でも何でもない。何の反動も無く、何のラグも無く、何の負担も無く振り回せる小技である。

 それが単に地面にクレーターをブチ開けた。ただそれだけの話である。ただそれだけなのだが──

 

「あー、ゴメンゴメン! 驚いちゃった? この子まだタマゴから生まれて1ヵ月しか経ってなくってさぁ、加減利かないんだよね」

「ぷまぁー」

 

 ぶんぶんと腕を振り回すヒメグマは、さっき自分にぶつかってきたマリルを睨み付けると、再びじりじりと近寄っていく。

 

「ッ……でも馬鹿力なら、こっちも負けてない! マリル、”アクアテール”!!」

 

 真ん丸な尻尾に水流を纏わせたマリルは、ヒメグマに突貫する。

 そして、思いっきり振り切ってぶつけてみせる。

 一方のヒメグマも対抗するように拳を叩きつけた。

 鐘でも突いたような衝撃波が広がった。吹き飛ばされた二匹は互いに地面をバウンドし、態勢を立て直す。

 

「あ、あかん!! ”アクアテール”でも倒せへんのか!?」

「いーやぁ? 流石マリルってところかな。そのサイズ帯のポケモンでヒメグマと物理で張り合えるポケモンは早々居ないよ。現に、結構ダメージ喰らってるし」

「ぷ、ぷまー……」

 

 マリルもまた、特性:ちからもちで物理攻撃力が強化されている。

 相殺しきれるはずもなく、ヒメグマはまともに今の”アクアテール”を受けてしまったのだ。

 しかし、一方のマリルもヒメグマの鉄拳を受けて少なからずダメージを受けている。

 つまり相討ち。二匹の実力は拮抗しており、ほぼ互角だ。

 

「この勝負、腕力と腕力の競り合いや!!」

「単純明快でいいね。より強く、より速い方が勝つ……ってところかな。ヒメグマ、まだやれる?」

「速度なら負けないよ……マリル”アクアジェット”でぶっ飛ばしてけ!」

「りっるるる!」

 

【マリルの アクアジェット!!】

 

 水に乗りながら、ヒメグマに突貫するマリル。

 それを正面から打ち返そうとするヒメグマだったが、間に合わず顔面に突撃を受けてしまう。

 しかし──頭蓋骨の中でも特に硬い額で受け止めたからか、未だにヒメグマは倒れていないのである。

 

「──”ずつき”だヒメグマ」

 

 そのまま頭を振り下ろし、突っ込んできたマリルを地面に叩き落とすヒメグマ。

 ゴムボールのように跳ねると、マリルはごろごろと転がり、もう一度起き上がる。

 今の一撃だけで既に満身創痍ではあったものの、さっきぶつかって気絶させられた相手に対抗心を燃やしているのだろう。

 

「ッ……”アクアジェット”!!」

 

 再び腕を振り回して突っ込んで来るヒメグマに、水を纏ってぶつかっていく。

 しかし──既に動きを見切っていたのだろう。次の瞬間には鉄拳がマリルの顔面にめり込んでいた。

 流石にこれは耐えられるはずもなく、ごろん、と転がったマリルは──目を回して気絶してしまったのだった。

 

「も、戻れマリル……!」

「やぁ、悪くないね。このヒメグマ、結構強めに鍛えたからさ」

「……次は……キルリア!」

 

 イクサの二番手はキルリアだ。

 バレエのようなステップを刻みながら、相手を見据えたキルリアはサイコエネルギーを自らの両手に充填した。

 

「──随分とカワイイ子だけど、この一撃は耐えられるかな? ”きりさく”ッ!!」

「……マリルが削ってくれた分は無駄にしないよっ! ”かげぶんしん”!!」

 

 一気にキルリアの像が分散する。

 腕を振り回して突撃したヒメグマだったが、あっさりと目の前のキルリアがすり抜けてしまったので困惑して周囲を見渡す。

 気付いた時には既に、周囲を沢山のキルリアに囲まれてしまっていた。

 

「”サイケこうせん”!!」

「あちゃあ……こりゃあ本物分からないかもね。”ずつき”!」

 

 無論、技の出はキルリアの方が速い。周囲を囲んだキルリアの分身像たちはヒメグマに向かって”サイケこうせん”を集中砲火。

 当然本物は1匹だけだが、まともにキルリアの技を受けてしまったヒメグマは、そのまま仰向けに倒れてしまうのだった。

 

「ぷ、ぷまー……」

「うんうん、よく頑張ったよ、ヒメグマ。戻って」

「……何とか無傷で倒せたな、イクサ。これで2VS2やな……ッ!」

 

 キルリアは嬉しそうにステップを踏み、イクサに笑みを投げかける。

 すっかり有頂天になっているのか、機嫌よく回っている。

 

(確かにこのパターンでキルリアは大体勝ってるんだけど……絶対コレが通用しない相手が出てくるはずなんだよな、次は)

 

 状況的にはイーブン。

 しかし、博士は未だに余裕の笑みを崩していない。

 腰にぶら下げたボールを探り、そのうちの1つを愛おしそうに手に取ると目の前に放る。

 

「じゃあ次は君かな──エリキテル!!」

「エリエリエリエリッ!」

 

 

 

【エリキテル ほうでんポケモン タイプ:電気/ノーマル】

 

 

 

 現れたのは全身黄色のトカゲのようなポケモンだ。頭からは耳のような部分がぶら下がっているが、放電時にパラボラアンテナのように展開されるという性質を持つ。

 

「確か、()()()()()()()タイプの珍しい複合のポケモンやったな……ッ!!」

「ッ……電気タイプ……パモ様に交換しても良いけど……」

「りーっ!」

 

 やる気十分と言わんばかりにステップを踏むキルリア。

 彼女にも戦闘経験を積ませたいイクサは、そのまま戦闘続行を決行する。

 

「”かげぶんしん”!!」

 

 再び周囲に自らの分身を展開するキルリア。

 そのままいつも通りに、相手を翻弄して”サイケこうせん”で囲い込みに掛かる。

 確かにサイケデリックな光線はエリキテルを直撃し、ダメージを与えてみせた。

 ふらふらと揺れるエリキテルだったが、すぐさま持ち直し、襞を展開して自らの身体に電気を流していく。

 

「──全部攻撃だ(”パラボラチャージ”)

 

 周囲に電気が一気に広がった。

 幾ら分身を展開していても、周り全てを攻撃する”パラボラチャージ”の前では無意味。

 分身は次々に電撃に消されていき、本物のキルリアも電気に撃たれてしまう。

 更に、エリキテルは攻撃の勢いで発電し、自らが受けた傷を癒していく。

 

(全体攻撃でその上、HP回復をする技……ッ! これがゲームじゃなくてリアル、タゲを誘導させる”かげぶんしん”に全体攻撃で回答を出した……ッ!)

 

「どうやって分身攻撃を破るのか見たかった、ってところかな。その子、”かげぶんしん”に相当自信を持ってそうだったし」

「そうですね。単純明快な答えで少し安心しましたけど。それに、その方法なら──これで防げる! ”ひかりのかべ”!」

 

 キルリアの周囲に透明なバリアが展開された。

 相手の特殊技を遮断する障壁だ。パラボラチャージは確かに強力な技だが威力が低いという弱点を抱えている。

 それが更に低下するのだから、キルリアに与えられるダメージは更に小さくなる。

 

「だけど、別に電気技だけが得意ってわけじゃないんだよねぇ。”じならし”!!」

「んなぁ!?」

 

 足を叩きつけるエリキテル。

 キルリアは揺れに足を取られ、バランスを崩してしまう。

 更にそこに、エリキテルは追撃を仕掛けていく。

 頭部の襞をキルリアの身体にくっつけ、そこに微弱な電気を流し込んだ。

 

 

 

「”でんじは”」

 

 

 

 バチバチと音が鳴り、キルリアは膝を突いてしまった。

 一連の動きはあまりにも速く、キルリアを引っ込める間もなかった。

 こうなると、もう武器である素早さは完全に死んでしまったも同然である。

 痙攣する身体では相手の攻撃を避けることも叶わない。

 その間にまた次の攻撃が来る──

 

「ッ……戻れキルリア!」

 

(やっぱりテンポを取られるとダメだ……! 素早さの低下だけは絶対に避けなきゃいけない!)

 

「実質的にキルリアの機能停止を認めたってところかな」

「まさか此処まで完封されるとは思いませんでしたけど」

「うんうん、では、最後の1匹を出してきたまえ」

「……はい──頼むよ!」

 

 飛び出したのはパモだ。

 きゅっ、といつも通り前足を握り締め、目の前のエリキテルに向かい合う。

 

「”じならし”!!」

「”マッハパンチ”!!」

 

 速くも重い一撃がエリキテルを襲う。

 顔面に弱点の攻撃を受けたことで仰け反ってしまうエリキテル。

 足を踏み鳴らそうとするが、更にそこへ反動を利用した蹴りが飛んだ。

 

「ッ……技がキャンセルされた!? そのパモ……ちょっと強くないかなあ!?」

「よし、押せる!! もう一回”マッハパンチ”だ!!」

 

 それがトドメの一撃となった。

 エリキテルの顔面にパモの拳が叩き込まれる。

 

「あーああ、成程ね。これがあるから余裕だったのか。確かに良い切札だ」

 

 目を回して気絶してしまったエリキテルをボールに戻し、ぽりぽりとイデア博士は髪を掻く。

 これまでの手持ちも、この年代の学生にしては強かったが、やはり特筆すべきはこのパモである、と博士は結論付ける。

 噂に聞いていたサンダー寮の寮長・レモンの”パモ様”とはこの個体の事であり、それがこの少年と絆を結んだことで更に強くなっているのだ。

 となれば他の育成中のポケモンでは簡単に倒されてしまう、と博士は考えた。

 

(参ったなあ、残りの子、エリキテルとどっこいどっこいだからなあ。僕、ノーマルタイプしか連れ歩かないし)

 

 皆揃ってパモの”マッハパンチ”に顔面を叩かれてオシマイである。

 それで終わりでは、あまりにも張り合いが無い。学生相手に勝ちたいというよりも、目の前の彼の学びにならないのである。

 

「もうちょい強い子連れて来ればよかったなあ……」

「どぅーどぅる」

 

 思い悩むイデア。

 そんな中自ら前に進み出たのは──”センセイ”と呼ばれるドーブルだった。

 

「あれ? センセイ、もしかして戦いたいの?」

「どぅーどぅる」

「……オッケー、やりすぎたらダメだよ?」

 

 絵筆のような尻尾を握り締めるドーブルを見て、イクサはパチパチと目を瞬かせた。

 確かにゲームでは「実質的に全てのポケモンの技を習得できる」という反則級の特徴を生かし、搦め手で数々の悪行を成してきたポケモンだ。

 ドーブルは専用技「スケッチ」によって他のポケモンの技をコピーすることが出来るからである。

 しかし、逆に言えば搦め手で戦わないといけないくらいにドーブルというポケモンのステータスは全体的に低いのだ。

 おまけに相手は弱点である格闘技が使えるパモ。とてもではないが、付いて来られるとは思えない。

 

(いや、でも、油断できない……何かあるのか……?)

 

「ごめんねぇイクサ君。センセイがどうしてもやりたいって言うからさ」

「じゃあお手並み拝見ですねッ……パモ様、”マッハパンチ”!!」

 

 

 

【パモの マッハパンチ!!】

 

 

 

 のんびりと突っ立っているドーブルにパモの拳が突き刺さる。

 ドーブルのステータスならば、これでも十二分に致命傷になりえる──そう高を括っていたイクサだったが、次の瞬間にはそれが間違いだったと思わされる。

 何食わぬ顔で、パモの背後にドーブルは回り込んでいたのである。

 

「──確かに先制技は脅威だ。でも、()()()()()()()()()()()()()()簡単に避けられるよ、うちのセンセイは」

「パモ様気を付けてっ!」

「”キノコのほうし”」

 

 ドーブルは尻尾から緑色の粉末を大量にばら撒く。

 それを吸い込んでしまったパモの意識は遠のき、まどろみ、その場に突っ伏してしまうのだった。

 ”キノコのほうし”は本来、キノコ型のポケモンしか習得することが出来ない強力な催眠技だ。

 ゲームではその命中率は100%。目の前の相手を確実に昏倒させることができるのである。

 そしてドーブルは”スケッチ”によって、それを当たり前に扱う事ができるのだ。

 

「麻痺の次は眠り……ッ!?」

 

 眠ったパモを容赦なく掴むと空中に放るドーブル。

 そのまま、思いっきりパモを蹴り飛ばす。

 そこで意識が覚醒したパモは、ごろごろと転がりながら苦しそうに呻くのだった。

 しかしやられっぱなしのパモではない。取っ組みかかると、ドーブルの顔面に拳を見舞う。

 だが、ドーブルもそれをあっさりと掌で受け止め、投げ返してしまった。

 

「な、何やこのドーブル……ッ!? こんなにステゴロ強いポケモンって聞いてへんで!?」

 

 ハッカが目を丸くした。

 特異能力の代償にステータスが低いという認識はこの世界でも同じようだった。

 その常識を覆すドーブルの戦闘スタイルには、イクサも只々圧倒されるしかない。

 

「……つ、強い……ッ!!」

「ごめんねぇ、うちのセンセイ結構強いんだよね。でも悪く思わないでよ。センセイが君のパモとやりたがってたみたいだからさ」

「あかん!! 明らかに格上やんけ!! 幾らステータスが低い言うても、あのドーブル相当のやり手や……!!」

「あっははは、そうだねえ。でも、センセイは弱い物虐めが好きなわけじゃないんだよ?」

 

 起き上がるパモ。

 その目にはまだ闘志が宿っている。

 だが、そこに更にドーブルは追撃を加えるべく接近した。

 

「来る!! パモ様”マッハパンチ”で打ち返して!!」

「センセイ!! ”しんそく”お願いねッ!!」

 

 尻尾でパモをカチ上げたドーブルは、そのまま自らも跳躍し、強烈な踵落としを見舞う。

 パモの身体はフィールドへ叩き落とされ、そのまま転がった。

 

「パモ様!!」

 

 思わずイクサは叫んだ。

 しかも、本気を出しているようには見えない。

 こちらを確実に眠らせる”キノコのほうし”に、”マッハパンチ”をも上回る速度で攻撃する”しんそく”。

 そして技を使わずともこちらを圧倒出来る程のフィジカル。ドーブル族の低火力に助けられているだけで、相手は完全に格上だ。

 それどころか、本来はこんなものではないのかもしれない、と思わせるような底知れなさが目の前のドーブルからは感じられる。

 

「さあ、どうする? ギブアップするかい」

「イクサ!! こんなん勝てるわけあらへん!! パモ様には荷が重いで!!」

「……パモ様」

 

 倒れたパモをイクサは見つめる。

 まだ──起き上がっている。戦えるよ、と言わんばかりに頬から電気を迸らせる。

 

「ぱもぉッ……!!」

 

 パモはずっと、浮かない表情の主人を見てきた。

 デジーに敗れて寮を追われ、心身ともに打ちのめされた主人の顔を。

 パモは拳を引き締め、拳法家のような姿勢を取ると──再び構えを取った。

 自分が此処で負ければ、主人はまた落ち込んでしまう。自分が弱い所為で、主人を傷つけてしまう。

 それだけは嫌だった。

 

「パモ様……?」

「ぱもぉっ!!」

 

 力強い鳴き声。

 この戦いが始まった時よりも威勢が増しているようにさえ思える。

 空元気かもしれない。

 

「相手は格上……か」

 

 イクサもまた呟く。

 格上だから負けるのは当たり前?

 冗談じゃない、と心の中で吐き捨てる。これからぶつかる相手は皆格上だ。

 デジーも、生徒会も、恐らく今の自分を上回るだけの実力を持ち、使うポケモンも強敵揃いのはずだ。

 だが格上が相手でも必死に食らいつき、その首を噛み千切らなければならないのである。

 そうでなければ──レモンを守ることはできない。

 

(僕は心の中で、バトルを恐れて萎縮してたのかもしれない。まだ勝負がついてないのに! そんなのは……僕らしくない!)

 

(ん? 女の子みたいだったのに、一気にオスの顔に変わったね)

 

 イデアが思わず二度見する程にイクサの顔つきは変わっていた。

 呼吸を整え直すと、イクサもまた──パモの真似をするように構える。

 

「勝つ。勝ってみせる──この試合も。その次の決闘も! 君が諦めないなら、僕も諦めない!」

「ぱもっ!!」

 

 力強く宣言してみせたその時だった。

 引き金となったのは己の殻を破る事。限界へと挑む事。

 カッ、と閃光がパモを包み込んだ。

 電撃などという言葉では生温いエネルギーの塊が爆ぜた。

 その身体は今までよりも強く、そして大きくなっていき──

 

 

 

「ぱももももっ!!」

 

 

 

【パモット(パモの進化形) ねずみポケモン タイプ:電気/格闘】

 

 

 

 ──次の領域へと()()したのである。

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