ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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第21話:博士、登場

「──そんなに強い権限を持つんですか、生徒会長って……ッ!!」

「ああ。普段は生徒による自治を推奨しているものの、その態度はいざとなれば自分達で幾らでも現状の変更ができるから……って自信の表れだ」

 

 

 

 相手はそんな生徒会のメンバーの1人。

 真っ向から戦うにせよ、盤外戦にせよ、一筋縄ではいかない。

 それどころか生徒会長が帰還したが最後、もう誰も彼女を止められなくなる可能性が高い。

 

「例えばヤツの一声で決闘の報酬の内容にケチをつけることだってできる。下手したら決闘の結果すら変えられるかもな」

「そんなぁ……」

「まあ、あくまでウワサってだけさ。生徒会長のスタンスなんて、代によって変わるしね」

「ただ今年の生徒会長……いや、()()生徒会長って言った方が正しいか。奴は……かなり強権的ではあるな。この学園を生徒が競う場と考え、この3年間様々なゲームを考案してきた」

「待って。3年間って」

「ああ。現生徒会長・アトムは──1年で当選して以降、ずっと生徒会長だ」

 

(アテムだかアカムだかATMだか知らないけど、んな滅茶苦茶な……)

 

「奴は……ハッキリ言ってヤバい。野獣も暴漢も、奴の前では大人しくなっちまう。何でそうなるのか原理も理屈も分からねえが……」

 

 1年の頃から才覚はあった、と二人は語る。言ってしまえば、相手を跪かせる「王者」の才能であった。普段は大人しくって私達に干渉することも無いが、万に一つアトムが動いた場合、誰も彼に反抗することはできない。

 三大寮長はさも自分達が学園の長であるかのように振る舞ってはいるものの、実際は生徒会長であるアトムの逆鱗に触れないように立ち回っていたのである。

 そこまで聞いて、イクサは気になった。最早普通の人間としての域を超えているアトム自身がどのような人物なのかが。人は愚か、ポケモンさえも問答無用で屈服させる「王」の正体を知りたくなった。

 

「何者なんですか? アトム生徒会長って」

「クラウングループっていう海外の財団の御曹司さ。そして彼は、完全なる競争の中に進化が生まれるという価値観を持つ。だから、学内の勢力バランスの崩壊を目論んだのかもしれない」

「奴の考案したゲームは大盛況。毎年大盛り上がりよ。だが良くも悪くもゲームマスターに徹してるからか、奴自身が何考えてるか分からねえ。だけど、ヤツをゲームマスターとして捉えた場合、今までの行動すべてに納得が行く」

「オーデータポケモンの優位性を崩す。それが可能となる”オーラジャミングの技マシン化”が可能になったから、動き出したのかもね」

「だが、どっちにしても生徒会長が直々にスカウトした子分を、やられたまま放置するとは思えねえ」

「だから、彼が帰ってくる前にデジーを叩く必要がある。あいつに今度はうちの機密情報をすっぱ抜かれるかもしれねえしな」

 

 生徒会長が手綱を握っている限り平気なのではないか、と一瞬思われたが飼い主が何を考えているか分からない状態ではそう考えるのはあまりにも楽観的と言わざるを得ない。

 やはりここは飼い主が居ない間に兎を煮る必要がある。それはイクサも同意だが──

 

「でもどうやって? どうやってあの子を無力化するんですか?」

「……これは非常に極端な例だけど、仮に彼女を殺したとしても、何か一計を案じていそうまで……あるからね」

「デジーを納得させる形で決闘に持ち込み、デジーが納得する形で決闘を終わらせるしか……ねえ」

 

 それ以外に秘密を保持する方法は無いのである。それが難しいのであるが。

 

「そんなの出来っこないですよ!! あの子だって大概何考えてるか分かりっこないのに!!」

「……」

「……」

  

 寮長達は腕を組んだまま何も返事をしなかった。事態は完全に閉塞している。

 タイムリミットがある上に、そもそも決闘に勝たねばならない。

 更に彼女を完全に封じ込めるような条件を考えなければならない。そして同様に、彼女の情報爆弾を暴発させないような立ち回りも必要となる。

 相手は生徒会の誇る”いたずらウサギ”。如何なる手段も通用しないかに思われた。

 

(……これがポケモンなら、捕まえてお終いなのに……)

 

「……」

「……」

「あの、先輩方?」

 

 しん、と静まり返ったサウナ室。

 寮長達は未だにだんまりを決め込んでいた。

 そして──灼熱の木の床に、二人揃って倒れてしまったのである。

 

 

 

「ああああーッ!! 先輩方ーッ!!」

 

 

 

 我慢比べの結果は引き分け。両者同時に熱中症という形で幕を下ろしたのだった。

 命にかかわるので、良い子は真似してはいけない。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「で、何や。アホ二人は今そこで寝っ転がってる、と」

「体が頑丈だから冷やして経口補水液飲ませて寝かせておけば治るだろうけど、世話焼かせも良い所だよ」

「うーん、うーん、俺様の方が耐えてたぞ……」

「いや、私の勝ちだね……」

 

 この期に及んで競い合っているバカ2。

 やることはやったので、さっさとイクサ達は公衆浴場を後にするのだった。

 しかし、当のイクサの顔は晴れていなかった。

 

「なんや、また落ち込んでるんか? あの二人になんか言われたんか」

「違うけど……ただ、あのデジーって子は絶対に止めなきゃいけない。今後色んな所の機密を暴きかねない力を持ってる」

「ふぅん……それでお前が燃えとるんは、やっぱりウチの寮長絡みか」

「……ああ。恩があるからね」

 

 詳しくは言えないので、そう説明することにした。

 しかし、何となくハッカは彼が「恩」以上のものを次の決闘に持ち込んでいることを察していた。

 それをあえて詮索することもしなければ、問いただすこともしなかったが。

 

「あーあ、これがポケモンなら捕まえてオシマイなのに」

「人間は捕まえられんしなあ」

 

 そんな他愛のない会話が続く中──イクサ達が辿り着いたのは、ポケモン用の入浴施設だった。

 此処は源泉かけ流しになっているらしく、身体が大きなポケモンの為のスペースも用意されている。

 料金を払い、巨大なプールになっている温泉に、ボールを放り投げる。

 パモ、マリル、キルリアの3匹が嬉しそうに飛び込んでいく。

 ハッカもボールからテッポウオを繰り出した。

 一方、氷タイプのハルクジラは温水を嫌うし、イワツノヅチはそもそも岩タイプで水が大の苦手だ。

 実は温泉に入れないポケモンは結構多いのかもしれない。

 大はしゃぎしながら泳ぐ自分のポケモン達を見ながら、イクサは今後の事を考える。

 だが、考えど考えど、結局彼に有効な手立ては思いつかないのだった。

 そんな彼の思考を遮断するように──顔面に冷たい水がぶっかけられる。

 

「どわぁ!?」

「りっるるぅ♪」

 

 パンパン、と短い前足を叩いて笑うのはマリルだった。

 決闘の報酬で手に入ったこの個体は、なかなか悪戯っ子なのである。

 こうしてイクサが考え込んでいると、すぐに水を吹っ掛けてくるなかなか困った性質をしているのだった。

 

「な、何するのさマリル……」

「ポケモンの前で、トレーナーがそんな険しい顔しとったらあかんやろ、ドアホう」

「もしかして顔に出てた?」

「めっちゃ出てたわ」

「……ごめん、マリル。折角楽しんでるのに、不安にさせちゃったかな」

「りーるぅ?」

「……ねえ、この子全然そんな事考えてなさそう」

「ポケモンは人間の事なんて知ったこっちゃあらへんからな」

 

 追加でもう一発、水鉄砲が飛んで行く。

 

「きぃーっ」

「ぱもぱもっ!」

 

 悪戯は良くない、と真面目組二匹──パモとキルリアが窘めるが、今度はマリルは泳いでいたテッポウオを掴むと、パモとキルリアの顔面に強烈な水鉄砲を放つのだった。

 心なしかテッポウオもやんちゃな顔をしている。

 

「き、きぃーっ……!」

「ぱもぉ……っ」

「りっるるるる♪」

「ヤ、ヤバイかも……」

「おい、喧嘩はあかんでお前ら!」

 

 子供同士の遊びが喧嘩に発展するのは珍しい事ではない。すぐさま念力を使って身体能力をブーストしたキルリアが、パモを頭の上にのっけたままマリルを追いかける。

 マリルはテッポウオを放り投げ捨てると、尻尾を巻いて泳いで逃げ出した。

 幾ら泳ぎが得意なマリルと言えど、怒ったキルリアにはすぐに追いつかれてしまう。

 故に必死に尻尾をオールのように回転させて泳ぐのだが──前方不注意だった。

 勢いよくぷかぷかと浮いている子熊のようなポケモンの頭にぶつかってしまい、そのまま転覆してしまうのだった。

 異変に気付いたキルリアは、そのまま念力でマリルを起こす。目を回してしまっている。

 そして──ぶつかった子熊のようなポケモンは、くりくりとした丸い目から涙を流しながら、そのまま大泣きしてしまうのだった。

 

 

 

「ぷ、ぷ、ぷ、ぷまぁぁぁぁーっ!!」

 

【ヒメグマ こぐまポケモン タイプ:ノーマル】

 

 

 

 ヒメグマは子熊のポケモン。

 全身筋肉(特性:ちからもち)のマリルにぶつかられたことで、泣き出してしまうのも無理はない。

 その泣き声を聞いてやってくるのは親であるリングマ、ではなく。

 

「ちょっとちょっとちょっとぉ! 大丈夫かい! ほらぁ、君もそんなに泣かないの、ヒメグマ!」

「あ、あかん、他所様のポケモンに迷惑が……!」

「ごめんなさい! 僕の不始末不注意です! この通りです! すみません!」

 

 二人揃って飼い主、そして抱っこされたヒメグマに謝る。上がってきたパモとキルリアも、平謝りするのだった。

 飼い主は20代くらいの若い男性だ。白衣をアロハシャツの上に羽織り、髪をオールバックにした陽気そうな青年である。

 その傍らには、えかきポケモンのドーブルが立っている。

 尻尾が筆のようになっており、絵具のような体液を分泌する犬型のポケモンだ。

 

「いーんだよぉ、ポケモン同士がつい興奮して暴れちゃうことってあるよね。ほら、ヒメグマ……何処も怪我してない? 怪我してないみたいだね、良かった良かった。そっちのマリルは大丈夫かい? ヒメグマ、こう見えて全身筋肉のつよつよポケモンだからさぁ、結構痛かったかもよ。骨も硬いしね。熊型ポケモンをナメちゃいけないよ」

「そういえば、ぶつかったマリルの方が気絶してたな……」

「多分、大丈夫だろうとは思うけどね。マリルもマリルで頑丈なポケモンだし」

 

 ヒメグマを抱っこしながら青年は優しく言った。

 チャラそうだったが、大人の対応をしてくれて助かった、と二人は胸を撫で下ろす。

 

「うーん、それにしても兄さん、何処かで見たような気ィするんやけど……」

「あれ? この人もしかして有名な人なの?」

「おっと、このオシアス地方にもひょっとして僕のビッグウェーブが来ちゃったかもね、()()()()

「どぅーどぅる」

 

 センセイと呼ばれて返事をしたのはドーブルだった。

 絵筆のようになっている尻尾を握りながら、相槌を打つように鳴いている辺り、付き合いがかなり長いように見える。

 

【ドーブル えかきポケモン タイプ:ノーマル】

 

「君達、学生かな。もしかしてスカッシュ・アカデミアとか?」

「そうですけど」

「やっぱり。ちょっと話題になってたよね、転校生の君。大人の僕たちにも噂は伝わってるよ」

「……えと、もしかして、学園の関係者の方ですか?」

「あーっ!! 思い出したで!!」

 

 横でハッカが叫んだので、イクサは思わず耳を塞いだ。間髪入れずに友人は青年を指差して言った。

 

「この人テレビに出とったで! オシアスの図鑑アプリの開発者で、サイゴク地方出身の……イデア博士や!」

「せいかーい♪ ま、僕も多少は有名になったのかなぁ」

 

【オシアス特別研究顧問”ポケモン博士”イデア】

 

 曰く、彼の住んでいるサイゴク地方でも図鑑開発者として名を馳せており、大学の講師もしているのだという。

 現在はスカッシュ・アカデミアで特別顧問として招集され、オーデータポケモンを研究しているらしい。

 チャラそうな見た目の所為で凄い博士には見えなかったが、「スカーレット・バイオレット」のジニア先生も若い見た目の図鑑研究者だったので、こんなものなのかもしれない、とイクサは納得した。

 

「改めて。僕はイデア。この子は最近育ててるヒメグマで──このドーブルは”センセイ”って呼んでるのさ」

 

 軽く自己紹介した彼はイクサの方を見ると「それにしても」と続けた。

 

「時に学生君……なんか悩んでるみたいだけど」

「えっ、顔に出てました……?」

「出とった言うたやろ、さっき」

「こうして会ったのも何かの縁。そのモヤモヤ、バトルで晴らさない?」

「良いんですか?」

「ああ。丁度育ててる途中の子達を運動させなきゃいけなくってね。君、結構強いんでしょ? 僕も図鑑開発者として興味があるんだよねぇ」

 

 どうやらこのイデアという博士、ポケモンバトルもそれなりに嗜んでいるらしい。

 元々リゾート地に来ているポケモントレーナーとバトルをする予定だったので、そうなると話が早い。

 更に相手は博士、その戦い方から何かヒントを得られるかもしれないと考える。

 

(今の僕は……何でも貪欲に取り入れて強くならなきゃいけない……!)

 

 それに、イワツノヅチやハルクジラのような元から強い面々はさておき、パモとマリル、キルリアの練度はまだまだ足りない。

 

「是非、お願いしますっ!」

「良い返事だね! トレーナーはそう来なくっちゃ。勿論、後でコガネ弁の君も相手したげるよ」

「ホンマですか!? イデア博士とバトルできるなんてカンドーや!!」

「じゃ、表出ようか。コートがあるんだ」

 

 彼に連れられて、イクサ達は外にあるバトルコートに並ぶ。

 ルールはオーライズ無しの3対3のシングルバトルだ。

 

「僕の先発は──ヒメグマだ。さあ、何処からでもどうぞ」

「……頼むよ、マリル!」

 

 最初のマッチアップは、先程ぶつかったもの同士。

 可愛い見た目の通り臆病なヒメグマは、指を咥えてイデアのズボンを掴んで離さない。

 

「こらこら、ヒメグマ! ダメじゃないか、バトルだよ、バトル! ほら、ぐずらないの」

「ぷまぁー……」

「大丈夫かな……あのヒメグマ。ちゃんと戦えるのかな」

「イクサァ! 油断したらあかんで! 俺ァジョウト出身やから分かるけど、そいつはパンチで木ィ薙ぎ倒せるくらい腕力あんねん!」

 

 その光景を想像すると冷や汗が流れ出る。幾ら子供と言えど、やはり熊は熊なのだった。

 

「ひえッ……! それなら猶更マリルで正面からぶつかり合うしかないか」

「りっるるる」

 

 気合十分と言わんばかりに腕を振り回すマリル。

 その特性は”ちからもち”。物理技の威力を倍増させるというものだ。

 そのため、腕力だけならばヒメグマに勝るとも劣らないのである。

 

【マリル ねずみポケモン タイプ:水/フェアリー】

 

「そんじゃ、俺が仕切るで──始めや!!」

 

 ハッカの合図で両者は動き出す。

 マリルは尻尾で地面を叩いて一気に距離を詰め、そしてボールのように転がり始めた。

 

翻弄しろ(”ころがる”)!!」

「”じならし”だ、ヒメグマ!!」

 

 転がりながら接近するマリルに、ヒメグマは足を思いっきり踏み鳴らし、揺れを引き起こすことで対抗してみせる。

 マリルはバランスを崩し、そのままあらぬ方向へ転がっていく──

 

「先ずはかるーく行こうか。”きりさく”」

「ぷまーっ!!」

 

 ぶんぶん、と腕を勢いよく振り回したヒメグマは、そのままマリルに急接近。

 腕を乱暴に振り下ろす。危機を感じたマリルが尻尾を地面に叩きつけて、反動で跳躍するが──次の瞬間には、ごっそりとクレーターがバトルコートにできていた。

 想像を絶するヒメグマの筋力に、イクサもハッカも声が出てこない。

 

 

 

「ふふふ、この子の力、ナメてもらっちゃ困るよ──てぇっんさいポケモン博士の僕が育てたポケモンだからね!」

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