ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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今回はいつにも増して下品です。ご容赦ください。


第20話:ここだけ男子中学生のノリ

 ※※※

 

 

 

 ──寮を奪われ、秘密を握られ、挙句の果てには口論でも負け、イクサは完全に塞ぎ込んでいた。

 周囲からはやれ寮無しだの、ポケキャンだのと揶揄されているのが嫌でも聞こえてくる。

 決闘に勝てば賞賛を浴びて狙いの的に、負ければ嘲笑の的に。

 スカッシュ・アカデミアの吹き溜まりに位置するくすんだ生徒が、どういう集まりなのかがよく分かる一幕であった。

 それでいて生徒会が販売している”オーラジャミング”の技マシンを買ってきっちり恩恵に預かっているので始末に負えない。長い物には巻かれろ、の典型である。

 今や学園の決闘では当たり前のように”オーラジャミング”が使われている。決闘は変わった。一週間と待たないうちに、あの凶悪な技マシンは普及してしまったのだった。

 だが、そんなことはイクサにとってはどうでも良かった。このころになると、生徒達もイクサに興味を失い、一周回って嘲笑の声も少なくなってくる。

 他の刺激のあるもの──例えば騒乱や事件、事故──に群がるのがこの学園の生徒というものである。

 そこから距離を置いているイクサからすれば、驚くほどに静かに時は過ぎていった。

 あれから、レモンから手紙は届いていない。風の噂では相当忙しくしているらしいのだという。

 しかし、自分達がデジーにマークされているのはイクサも分かっていたので直接会いに行くことはしなかった。

 否──本当は合わせる顔が無かったのかもしれない。

 あれだけ勢いよく啖呵を切って決闘に挑んだのに、無様に負けた自分が許せなかったのかもしれない。

 何がポケモン廃人だ。バトルに勝てなければ、ただの廃人だというのに。

 

 

 

「しんみりすなーッッッ!!」

「うわッ!?」

 

 

 

 物思いに耽るイクサを現実に引き戻したのはハッカだった。

 ドンドンと机を叩きながら彼は叫ぶ。感傷に浸っている友人に発破をかけるように。

 

「辛気臭いねん、オマエ!! 普段あんだけ自信家の癖に一回負けたらこの世のオワリみたいな顔すんのやめい!!」

「うるさいな、ほっといてよ……いい加減キャンプに嫌気が差してきただけさ……」

 

 行き着くところはそこだった。

 いい加減にコンクリの部屋とふかふかのベッドが恋しくなってくるところである。

 しかも風の噂で聞いた話によると、誰かが就寝中のイクサを重機で襲撃しようとしていたらしく、それを阻止したのがデジーだったらしい。

 結局の所、自分は彼女に助けられていたのだと思い知らされ、余計に彼は落ち込むのだった。

 

「いーや、放っておかへん! 明日は土曜日、休みの日や。分かるな?」

「……?」

「何ボケっとしてんねん、温泉や!! 温泉に行って、心の洗濯に決まっとるやろ!!」

「いきなり何言いだすんだ、此処はオシアス、列島からは遠く離れてるんだよ、温泉なんてあるわけないじゃん」

 

 温泉というエジプトとは結び付かなさそうなワードが出てきてイクサは困惑する。しかし、これは単に彼の無関心が原因だ。オシアスは地下水による温泉が湧き出る、立派な湯治の聖地なのである。

 

「甘い。アママイコより甘いで旦那ァ。オシアスは保養地としても有名なんや。まあ、プライシティからちょっちバスで揺れんといけんけどな」

「えーと、何て場所だっけ」

「スプリングタウン! オシアスきっての観光地やで! 数年前までは秘境って感じやったんやけど、最近開発の手が入ったみたいで今ではすっかり砂漠の温泉街……スパリゾートや! 公衆浴場もある!」

「風呂……風呂!」

 

 いい加減野外シャワーにも辟易してきたところである。

 正直、非常にありがたい申し出だった。というより、彼の風呂事情を酌んでセッティングしてくれたのだろう。

 

(ハッカ君……僕の友達には勿体ない男だよ……)

 

 流石コガネの男、気遣いの達人である。

 

「それじゃあ、行ってみようかな、いや行ってみたいっ!」

「おう! それに、温泉街にはトレーナーも集まる。バトルの修行も出来るかもしれへんで!」

「そこまで考えてたの!? 猶更行かなきゃ……! あれ、でもさ」

「うん、どうしたんや」

「テマリさんは誘わなくて良いの?」

「あいつはあいつで女子の付き合いあんねん! いっつも一緒思わんことや」

 

(いっつも一緒じゃん)

 

 こうして、土日を使ったスプリングタウンへの男二人旅が決定した。

 イクサのサバイバルグッズだが、この旅行の間はハッカが自分の部屋に置いてくれるという。

 

「色々大変な事あったけど、温泉行くでーッ!!」

「おーッ!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──翌日、バスに揺られること約2時間。

 辿り着いたのは、砂の中のスパリゾート街。

 高級リゾートから公衆浴場まで。

 ここ数年でかなり開発が進んだのか、建物はどれも新しい。

 

「よーしっ! 早速風呂入るで風呂! 寮のシャワーはもう飽き飽きやねん!」

「僕も入りたーい!」

 

 そんなわけで、ハッカは目的地に着くなり早速温泉に浸かる事に決めていた。

 体と髪を洗った後、早速二人は目的の大浴場に浸かるのだった。

 

「たはー、生き返るでホンマ……人の少ない時間選んで正解やったわ……」

「そうだねぇ……水風呂とか砂風呂もあるんだって? 奮発した甲斐があったよぉ……あああ、お肌プルプルになっちゃうな」

 

(オマエの顔でお肌ぷるぷるになったらホンマに女子にしか見えんこなってまうがな)

 

 お湯は少しぬめりを帯びており、美肌作用に良いらしい。

 アウトドアで擦れた心と身体が癒されていく。体が芯から温もる。

 風呂とはこんなに良いものだったのか、と心の底から実感する。

 正直ずっとここに居たいくらいだが、ハッカはもう1つ心待ちにしているものがあった。

 ──サウナである。

 

「おいイクサ、俺サウナ入りたいから先出るわ」

「僕は後から行くよー」

「ごゆっくりー」

 

 風呂の後のサウナは列島でも少しブームになったらしい。

 こちらの方でも列島のとある資産家が幾らか出資したのか、サウナ付きのスパが増加中なのだという。

 ぐびぐびとペットボトルの水を飲み干したハッカは、ウキウキで蒸し風呂の中に入るのだった。

 幸い此処は比較的空いている。きっと1人で堪能することができるだろう。

  

 

 

 

「んぐぐぐぐぐッ!!」

「んぎぎぎぎぎッ!!」

 

 

 

 ──我慢比べしている男の寮長2名を目撃するまでは。

 

 

 

「……」

 

 そっ、と扉を閉じた。

 見間違えるはずがなかった。何なら幻のままで居て欲しかった。

 どっからどう見ても我らがスカッシュ・アカデミアのファイヤー寮寮長・ラズと、フリーザー寮寮長・シャインだ。

 再びハッカはおずおずとサウナの中に入る。面倒事になるのは分かっていたが、それでもサウナに入りたかったのである。

 二人とも顔面を真っ赤にして耐えるように唸っている。

 

(気ンまず……ッ!! スカッシュ・アカデミアの大物が二人ッ!! しかも何で金持ちがこんな公衆浴場に入ってんねん、そこは高級リゾートにでも行っておけや!!)

 

「あァ!? 誰かと思えば一年生か……例の貧乏人の隣にくっついてるアイツ。名前は知らねーが誰だっけ」

「おいおいやめたまえ、ラズ。一年生が怖がるだろう? それとも、もう限界が近いから虚勢を張っているのかい?」

 

(しかもやっぱり我慢比べやーッ!! いやでも、こんな面白い光景二度と見れへんかもしれん!! オマケに寮長同士の我慢比べの結果なんて大ニュースやん!!)

 

 此処に来て湧き上がるコガネ魂、後ジャーナリスト魂。

 今ハッカは伝説を目撃しようとしていた。色々聞きたい事はあるが、とりあえず1つ、ハッカは恐る恐る問うた。

 

「あ、あのぉ、一個聞いてええですか?」

「ンだァ!?」

「何でトップ層のあんたらが、こんな大衆浴場に……?」

「この辺りのスパは大体私の会社が経営しているからね。視察の目的で度々来るのさ」

「うせやん……」

 

 マスカットグループは観光事業を展開する大企業だ。

 スプリングタウンのような観光地開発にも精力的に取り組んでいるのだという。

 

「ハッ、視察は勿論だが、この浴場は昔からちょっとしたジンクスがあってだなァ」

「我慢比べをして勝利した者は願いが叶う……だから定期的に二人で通ってるんだよ。というのも、私達の祖父もかつてこのサウナで我慢比べをしていたらしい」

 

 血は争えないとはこの事である。子孫にも変なところで負けず嫌いな点が遺伝してしまった。

 

「へえ、ちなみに願いって何なんでしょ」

「──さァな。言わねえ」

「でも、きっと叶うことはないよ。何故ならこの勝負、私の勝ちで終わるからね」

「テメェ、言いやがったな……ッ!!」

 

(この勝負……一体どっちが勝つんや……ん? 何やこの気配)

 

 ふと、ハッカは辺りに漂う威迫に肌を震わせる。

 この我慢比べにより、両者の闘気が最高潮に上がっているからだろうか、と最初は考えていたがすぐに改める。

 

(このサウナで存在感を放つ……恐ろしいバケモン……!!)

 

 ハッカは確かにこの部屋に怪物が居ると察知したのである。

 それは──龍だ。寮長二人の腰に()()()()()()()()()が放つ存在感である。

 

 

 

(何ィ!? ()()()()()は、オーラを纏えるんかァ!?)

 

 

 

 感じ取った威迫の正体に気付いた時、ハッカは打ちのめされそうになった。直接視認出来たわけではなかったが、威圧感と存在感だけで並みの男ならば戦意喪失してもおかしくなかった。

 最早勝負の行方を見届けるどころではない。彼は戦う前から敗北していたのである。

 

(くっ、これが寮長クラスの実力……ッ!! 完敗や……ッ!! 俺じゃあ勝負にならへんッ……!!)

 

(必死に気取られまいとしてるところ悪いが、君が何考えているかは分かるよ、ジョウトの1年生。だが相手が悪かったね。()()()()()()()()()()なのさ)

 

(どうせまた下らねえ事考えてんだろうな、シャインのヤツ……)

 

「あれー? な、何で、寮長の二人も居るんですか? お邪魔でしたか……?」

 

 

 

(!?)

 

 

 

 甲高い声が急に飛んでくる。

 この男の空間にはとても似合わない転校生・イクサが入って来た時、場の空気は一変した。

 おずおずと入ってくる噂の彼に全員の視線が向いた。タオル越しではあったが──全員に衝撃を与えるには十二分だった。

 確かに普段のイクサは、どちらかと言えば童顔、もっと言えば女顔だ。

 体形が華奢であることも手伝って、正直頼りない──むしろ可愛らしい印象さえ与えることもある。

 だが、彼の中には確かに”龍”が宿っている。

 負けられない決闘の時、大切な人を傷つけられた時、彼の目に宿る野獣の如き獰猛さだ。

 その根源を、此処に居る3人は垣間見た気がした。

 

(女みてーなナヨナヨした顔の裏に、獰猛なモンを飼ってるとは思っていたが……ッ!! まさか()()()()()()()()()を飼っているとはなァ……ッ!!)

 

(ほう……決闘の際に見せる獣性の正体はこれだったのか……ッ!! 只可愛いだけではなかったようだね……ッ!!)

 

(あかん……ッ!! さっきまで浴場で女みたいな顔しとったのがウソみたいや……こいつは間違いなく男や!! 男ン中の男や!!)

 

「……皆さんどうしたんですか? こっちをじろじろ見て……ハッカ君まで」

 

 全く何も理解していないイクサは首を傾げる。無論、このサウナの水面下で男の戦いが静かに繰り広げられていたことなど知る由もない。多分知らない方が良い。

 

「恐れ入ったよ、転校生……今回の所は私の負けということにしておいてあげよう」

「いや、貴方いっつも同じ事言ってるじゃないですか」

「勘違いすんじゃねえ──俺様はまだテメェを認めたわけじゃねえからな」

「僕今何かしました!?」

「すまんイクサ、ハッちゃん、ちょっと横になってくるわ……」

「何があったの!? ええ!? 僕だけこの2人と一緒なの!?」

 

 しかも目の前に居るのは自分を目の仇にしているラズと、正真正銘の変態である。

 ハッカが出て行ったあと──ラズは「さてと」と口を開いた。

 此処からは大真面目。他寮の寮長として、騒動の渦中にあるイクサと腹を割って話せる機会は逃したくないのである。

 

「──無様に野宿してるみてーじゃねえか、貧乏人」

「ッ……ハッカに何か酷い事を言ったんじゃないですよね」

「言ってねえよ!!」

 

 開幕から悪態を吐いた所為で別方面に火種が飛んでしまった。軌道修正するためにやんわりとシャインが「安心し給え、私に誓ってそれは無かったと証言しよう」と擁護し、その場は収まった。

 

「……話を戻すぞ。無様なのは俺様達クランベリ・ディスクシステムスも同じだ」

「”オーラジャミング”の技マシンの件、ですか」

「無名のガキんちょに先を越された所為で会社は滅茶苦茶だ」

 

 心底悔しそうにラズは言った。

 クランベリ・ディスクシステムスは名だたる技マシンメーカーだ。

 開発が長らく進まなかった”オーラジャミング”の技マシンの開発を先を越されたことで社長は激怒。社内は大混乱に陥っているらしい。オマケに株価の大暴落も加わり、真面目に会社の危機らしい。

 

「今日此処に来たのはゲン担ぎだ。この窮地を俺達としても突破してぇのよ」

「私達フリーザー寮としても、あのデジーという少女をどうにかしたいと思っていてね。あの子、そのうちとんでもないことをしでかすんじゃないかな。生徒会のメンバーの例に漏れず、1人で学園全体に与える影響が大きすぎる」

 

 なんせあれだけの発明を簡単にやってのける上にバトルも強いという恐ろしい相手だ。

 それが、三大寮の管理を離れて、よりによって一番厄介な立場にある生徒会に所属しているのがシャインとしても危険視しているようだった。

 

「レモンの弱み握って勝ったつもりになってんのが何より一番気に食わねえ」

「彼女には不敵な笑みが似合うからね。それを乱すならば放っておけないよ」

「……二人とも、何だかんだレモンさんの事を案じてるんですね」

「バーカ、勘違いすんじゃねえ。俺様はな!! いずれ正当な場でレモンの奴を真っ向からぐっずぐずにブッ潰すと決めてんのよ」

「と口では言ってるけど、実はかなり心配してるんだよね」

「余計な事言うんじゃねえ!!」

 

 最初こそ粗暴な男だと思っていたが──ラズは確かにレモンを対等なライバルだと認めていることがイクサにも分かる。

 こうして同輩と接している時、彼は寮長でもなく、御曹司でもなく、何処にでも居る普通の少年のように見えたからである。

 初対面は最悪だったが、少し彼の事を誤解していたかもしれない、と反省した。

 

「レモンは──決闘でどうにか彼女を無力化しようとしているんだと思うよ」

「だが、その内容、条件を考えあぐねてるみてーだ。もっと言えば、あの兎のガキの扱いだ」

「近々君にも召集が掛かるはずさ。君は次こそ、あの兎に勝たなければならない」

 

 決闘に負ける事へのリスク。敗者は全てを奪われても文句は言えない。

 プレッシャーに押しつぶされそうになる。

 

「しかも、あまり時間が無いんだ。ちんたらしてられねぇ」

「生徒会長の帰還まで残り半月も無い。それまでにカタを付けなければいけない」

「……何で生徒会長が帰ってくる前に決着を付けなきゃいけないんですか?」

「──この学園に於ける生徒会長ってのは……王様だ」

「ああ。今、このスカッシュ・アカデミアの治安が終わっている理由は生徒会長が交換留学で不在であることに起因している」

 

 さながらそれはピラミッドの頂点。それ程までに生徒会長とは権力が強い人物だと彼らは語る。名前を出すことすら憚られる彼が従える生徒会とは、言わば親衛隊。彼の選出したエリート中のエリートの集まりなのである。

 

 

 

「スカッシュアカデミア校則17条第三項……生徒会長が学園に居る限り、生徒会は決闘のルールを書き換える権限を有する」

「生徒会長が帰ってきた場合、デジーを決闘のルールに則って止めることができなくなる可能性が高い」

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