ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】 作:タク@DMP
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「──何が目的だ……ッ!?」
「どうやら、ビッグなゲームをやるからその前にパワーバランスを崩したかったんだって」
テントの外に出た後、デジーは言った。
「君は良いプロモーターになってくれたよ。これで、生徒達のゲームへの参加意欲は上がる……ってボクは聞いてるんだけど」
「ふざけるな!!」
敵意剥き出しでイクサはデジーに掴みかかる。いつもの彼からは考えられない程に気が立っており、既に彼女の胸倉を握り締めていた。
「……転校生君って……見た目に反して獰猛なんだ」
「ボクが怒ってるのは──無茶苦茶な決闘吹っ掛けたことだけじゃない。レモンさんの秘密を握って脅してきたことだ。何考えてんだよ、言えよ!」
「……ッ!!」
彼女はボールを手前に投げ込む。
ミミロップが飛び出し、イクサを羽交い絞めにする。
しかし、一方のパモも勝手に飛び出してイクサの頭に飛び乗ると、バチバチと電撃を拳から放ちながらデジーの鼻先に突きつける。
互いの相棒が互いの主人の敵をいつでも攻撃出来る一触即発の状態と相成る。
「……ふぅん。反応速いねーっ」
「ッ……コイツッ!! 離せ……ッ!!」
「そのパモを引っ込めて、そっちの手を離してくれたら引っ込めてあげるよ」
しかし、万力のようなミミロップの力にイクサの顔は青くなっていた。
腕を全く跳ね除けられる気がしない。
その全長は2.7メートル。通常の個体よりも一回り以上大きい。
ぺろり、と挑発的な笑みを浮かべながら舌なめずりしているのは、イクサの気の所為ではない。
(ミミロップを、此処まで脅威に感じる日が来るなんて……思わなかった……ッ!!)
硝子細工を見るような目だ。
だが一方のパモも負けてはいない。
既に頬を擦って発電を完了しており、いつでもデジーを気絶させられる状態である。
パモと言えど、その電圧はスタンガン並みの威力を誇る。頭脳を除けば只の幼児体型の少女でしかないデジーは、喰らえば気絶は免れない。
「君、この学園に居るには優しすぎるよねーっ。入る前にココがどういう場所なのか知ってたでしょ? いや、異世界から来たから知らなかったのかぁ」
「だからって、やって良い事と悪い事があるよね」
「……この学園ではやって良い事なんだってばぁ。君ももっと賢く生きなきゃ。じゃなきゃ、ボクなんて可愛く見えるような悪い奴に、プチッと潰されちゃうかもね」
「ッ……賢く、か。その結果が生徒会の言いなりなんだね」
「……!! 処世術、世の渡り方って言ってほしいかなー、にしし。結局人間、長い物に巻かれるのが一番安全なんだよね。君だってそうでしょ? 風紀委員長のお気に入りの転校生君」
イクサは反論できなかった。
今でこそレモンという後ろ盾が居るが、もしそれが無い状態で入学していれば、本当になすすべなくこの学園に磨り潰されていたかもしれない。
「此処はお互い納得して引き下がろうよ。ボクだって無暗にケンカしたくないんだよねー。暴力はキライだよ」
ミミロップがイクサの身体を解放すると、彼女は踵を返し、テントから出て行く。パモが食ってかかろうとしたが、すぐさま身体を掴んで止めた。
「ボクは好きだよ、この学園。此処は、ボクの才能を生かせるし、理解してくれる人が居るしね。強いて言うなら、仕事に仕事が続いてる所為で趣味の
「いきなり……何の話だよ」
「なーんでもっ」
そう言って彼女は去っていくのだった。
(……過去に何かあったんだろうけど……あの子はキケン過ぎる……色んな意味で……)
しかし、現状のイクサでは彼女に太刀打ちできない。
2人分の秘密を握られたまま、そして寮生活も失ったままだ。
(それに……レモンさんの後ろ盾でこの学園に居られるのを……何も反論できなかった……あの子は自分の力で、今の立場を勝ち取ったんだ)
※※※
「──ウサギ狩りの時間よ」
「どうしたデス急に」
──バジルさえも見た事ないくらいに幼馴染は怒り心頭のようだった。
普段は物静か。そして滅多な事で感情の琴線を動かすことはないものの、一度激せば雷神の如く。それがレモンという少女である。
こうして彼女が怒っているのは一年に一度あるか無いかのレアケースなのだ。
不謹慎だがバトルが出来ない状態で良かった、と幼馴染はつくづく感じた。
もしも今目の前にいるのが全盛期のレモンだったなら、ポケモンを繰り出してカチコんでいる所である。
「ところでバジル知ってるかしら、食用とされているウサギポケモンなんだけど、オシアスでは高級食材としてミミロルの──」
「ひぃっ、聞きたくないデース!! あんなに可愛いのに!!」
「可愛い? 憎たらしいの間違いでしょう。たとえ今目の前に座っている貴女がウサ耳を付けてきた日には秒で耳を縛ってやる自信があるわ」
「昨日はこんなんじゃなかったデース! 一体何があったのデス!? レモンらしくないデスよ!」
「何故私が怒ってるか分かる? これよ」
「うわぁ面倒くさいカノジョと思いきやすぐ理由を教えてくれる……って何デスかコレ!?」
静かに彼女はぐしゃぐしゃにした紙切れをバジルに差し出した。
例の添い寝写真だ。流石の探偵も、相手のやり口のえげつなさにドン引きするしかない。
わざわざイクサの寝床を特定して入り込み、この写真を撮影したことは明らかである。
挑発しているのだ。レモンを狙い撃ちにして。
「……破廉恥だわ。確かに婚前交渉を否定するのは時代錯誤だと思うの。どうぞ勝手に夜のねずみざんでも何でもすれば良いと思うわ。だけど付き合ってない男女が寝所を一緒にするのはどうかと思うの」
「落ち着くデスよ、レモン! この写真のイクサ、どっからどう見ても被害者、怒ったら相手の思う壺デス!」
「私を狙うなら私を狙えば良い。だけど、転校生君に悪戯するのは許せない。彼をおちょくって良いのは私だけよ」
「あのレモン……? 怒りに任せてとんでもない事言ってないデスか?」
互いに似た傷を刻まれ、それを互いに明かした仲。
そして、自分を導くかのように勇気を振り絞ってイワツノヅチに立ち向かった姿。
その全てが鮮烈で、彼女の心を焼いていた。
最初は面白そうだと思って拾ったつもりが、いつの間にか此処まで彼女は心を乱されている。
他の異性と同衾している写真を見ただけで、当のイクサにそのつもりが無かったとしても──鬼の風紀委員長を荒ぶらせるには十二分だった。
「それじゃあ、イクサがレモンの所有物みたいじゃないデスか……! 何でそんなに入れ込んでるのデース?」
「ええ所有物よ。私が拾ったんだから私のモノ。分かるかしら」
「ワガママお嬢様デース!!」
「何を今更……貴女、私と何年の付き合いよ」
「そんな事より、レモンが考えるべきは、そのウサギ狩りの方法を考えることじゃないデスか?」
ぱちん、とバジルはレモンの額にデコピン。
「あたっ」と声が漏れて彼女は恨めしそうに幼馴染を睨んだ。
鬼の風紀委員長相手に、こんな事ができるのはバジルくらいなものである。
「……そうね、考えているわ。考えているけれど、結局彼女は爆弾そのもの。情報の爆弾よ。取り扱いは危険。しかも、こと情報戦だけに絞るなら、諜報能力は貴女の上位互換ね、バジル」
「WTF!?」
「安心して頂戴。貴女には、あの野兎には無い体力、執念、根性があるでしょう」
「あんまり褒められてないデース……」
「でも、情報戦に於いては話が別。貴女、プログラミングはできる? ハッキングは? 私は無理」
「その両方が出来るってことデスね……電子機器はハッキングされ、今此処での会話も発明品で聞かれているか分からない」
「ええそうよ。ハッキリ言って、あの子は色んな意味で危険過ぎるの。今は生徒会が首輪をつけてるでしょうけど、飼い主が良くないわ。案の定私達に牙を剥いた」
「何であんな連中に付き従ってるんデショウか? プライドが高そうなのに」
「さあね。彼女の経歴は仕事の合間に調べてるけど……
「うへぇ……」
「ま、デスクワークは私に任せて頂戴。貴女は体を動かすのが仕事。手筈通りに頼むわよ、私がこの世で只一人認める名探偵さん」
いざストレートに褒められると直ぐに赤面してしまう己の馬鹿正直さに、この時ばかりはバジルも嫌気が差した。
このレモンという女、普段は表には出さないが、一度仲間だと認定した人間には好意も信頼も100%傾ける少々危うい傾向がある。
(よくも悪くも育ちが良いのデスよ、レモンは……この学園で清濁併せ呑むことを覚えたからマシになっただけで、とても危なっかしいのデス)
「……ほんっと人使いが荒いデスね……人を煽てて、良いようにコキ使うのが上手デス」
「あら、私が生徒会の役員に変装して忍び込んでも良いのだけど。一度潜入捜査ってやってみたかったの」
「絶対無理だから超可及的速やかにそれを仕舞うデス」
アフロのカツラと、付け髭を取り出す風紀委員長。それも心なしか顔が輝いている。皮肉ではなく本気で言っているのだ。
しかし、バジルは知っている。この女に隠密行動は一生無理であることを。
「えーと、捜査はさておき、もっと手っ取り早いのは私がデジーに決闘して勝てば良いだけの話だと思うんデスけど」
「あら、忘れたの? デジーは1年生。格上である2年生の貴女が決闘を挑むことはできないわ」
「あッ……!?」
ショックを受けた顔を浮かべるバジル。
決闘は基本的に同格相手か、格上に挑戦する場合しか成立しないのである。
特に1年生は決闘制限が敷かれ、同じ1年生同士でしか決闘を挑む・挑まれることもない。
「奴らが1年であるデジーを前線で動かしている理由が分かる? あの子、使い勝手の良い駒なのよ。イクサ君がやられたら、1年生で他にあの子に勝てるのはもう他の寮にしか居ないわ」
「つまり真っ先に動くであろう寮長級が手を出せないようになってるんデスね……」
「ええ。生徒会が決めた決闘のルールできっちり守られている。オマケに技術科だから機甲戦は通用しないわ。戦車の弱点は熟知されてるし、むしろあっちが使う可能性すらある。ポケモンも強く、イクサ君を圧倒出来る程」
今朝発覚した重戦車持ち出し事件を解決したのもデジーなのだろう、とレモンは推測する。
「結論を言えば、我々の目下最大の目標は、生徒会庶務”いたずらウサギ”デジーの無力化。彼女の秘密爆弾を暴発させずに討滅する方法を何としても……
「無力化……どうするのデス? 捕まえて牢屋にブチ込むわけにはいかないデショ?」
そもそも大人しく捕まってくれる未来が見えない。
「それが難しいから困ってるんじゃない。あの子は時限爆弾。自爆ボタンを抱えて飛び跳ねながら田畑を荒らすウサギポケモンよ」
「死ぬほどタチが悪いのデース……」
「猟銃で撃ち殺すのは簡単。だけど、死ぬ前に田畑まとめて吹き飛ばされたんじゃあ堪ったものじゃない」
「焼畑農業って言葉があってデスね……」
「この迷探偵。そういうことを言ってる場合じゃないの」
お茶らけるバジルを窘めると、レモンは再び書類に向き直った。
「そして、うさぎ狩りの前にやらないといけない事がもう1つあるわ」
「何デス?」
「どうやってあの子がこのタイミングで技マシンの開発に踏み切れたか、よ」
「……そんなの分かるワケないデショ」
「そう。分かるわけがないわ。だってあの技は、かのクランベリ・ディスクシステムスでも解析できず、技マシンにすることが出来なかったのよ」
技マシンに必要なのは、その技についてのデータやそれに関係するポケモンの素材だ。
最初の1枚さえ作れれば、後は工場で複製することで技マシンは大量生産することができるのである。
閑話休題。
これまでオーデータポケモンのプラズマや本体部分の欠片といった素材からも”オーラジャミング”の技マシンを作ることはできなかった。
故に、ここにきてデジーが”オーラジャミング”の技マシンを完成させたことは、オシアスに居る誰もが寝耳にミミズズだったのである。
だが幾ら彼女が天才と言えど、技マシンを無から作れるはずがない。必ず元となったポケモンの素材があるはずだった。
「オーラジャミングの技マシンは、何の素材で出来ているのか……デスか」
「既に売り切れ、次の生産が待ち望まれているのが現状よ。でも、風紀委員が既に手に入れてる」
「かと言って、卵焼きを卵に戻せないように、技マシンから元になったポケモンの素材なんて分かるわけないデスよね?」
「それは勿論その通りよ。でも、分からないものを分からないままにしておくことはできないわよね」
特に──同じく技マシンの開発者であるクランベリ・ディスクシステムスの御曹司であるラズは今も現在進行形で解析にいそしんでいる。
成功する見込みが無くとも、ファイヤー寮の威信にかけて徹夜で作業をしているらしい。
「あのラズ先輩が……ッ!」
「ええ。彼の心中察するにあまりあるわ。”オーラジャミング”の技マシンをいち個人に開発された所為で、クランベリ・ディスクシステムスの株は大暴落だもの」
「ふぅん……いっそのこと、彼女を買収して社員にすれば良いのに」
「バカね、向こうにも面子というものがあるじゃない。だから彼らが正面きってデジーをスカウトなんて出来やしないわ。私が同じ立場でもやらないもの」
そもそも、あんな爆弾を色々抱えていそうな少女を雇うことなど大企業に出来はしない。
たとえそれが天才的なエンジニアであったとしても、だ。
「貴女には色々任せちゃうけど良いかしら、バジル」
「そっちこそ。エナドリの缶が沢山落ちてるデス」
「大丈夫よ、7徹目までは誤差よ誤差」
「……」
風紀委員の通常業務に加え、難易度の高いビジネス科の授業、そしてデジーの調査。
現在、レモンはこの学園で最も忙しい生徒の一人と言える。
それでも、未だにテント暮らしのイクサの事を考えれば、このくらいの辛さは何てことはなかった。
(……絶対どっかで倒れるからその前に手を打たないとデスね……)
と、バジルが予見するくらいには今の彼女はあまりにも生き急ぎ過ぎている。
しかし、此処でデジーを止めなければ、今後レモンもイクサも──更には他の生徒も彼女の魔の手に晒されることになる。
「……この狩りは、誰かが欠けても達成できない。どんな手を使ってでも、爆弾兎を仕留めるわよ」
──第二章「ポケモン廃人、ウサギ狩りに行く。」