ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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第18話:ポケキャン△

 ※※※

 

 

 

 ──青空の下、テントを立てて一人。焚き木の音は、さながらオルゴール。

 僕はこの時、初めて自由を手に入れられたような気がする。

 寮の窮屈な生活に、心の何処かでは飽き飽きしていたのかもしれない。

 いざ解放されてみると、案外悪くないのかもしれない。

 これが本当に僕が求めていたものなんだ。

 缶詰を切ると、ささやかな晩餐の香りが立つ。今日は──やけに星が綺麗だな。

 

 

 

(──なんて言うわけないよねッ!! 寮の方が100倍快適だし、何が悲しくてポケキャン△なんかしなきゃいけないんだよッ!!)

 

 

 

【同時上映・ポケキャン△】

 

 

 

 ──学園の外れにある森林エリアでテントを設営しながらイクサは今にも泣きそうだった。

 水道栓がある場所は、エリアの中でも結構深い所にあったので、学園に通うのも手間になってしまった。

 快適だった寮の部屋が恋しい。幸い、キャンプグッズをプライシティで多数買いこむことが出来たので、当面の寝泊まりは大丈夫そうだが、何が悲しくて学園の敷地内で野宿せねばならないのだろうか。この学園に入って色々辛い事はあったが、それでも此処2ヵ月は何事も無く平穏だったというのに。

 

(外食すれば飯には困らない。困らないけどさあ……ッ!! 問題は寝る所、後シャワー!!)

 

「ふぅ、終わったなァ、テントの設営」

「ごめん……二人にも色々手伝わせちゃって」

「はっは、持ちつ持たれつやねん、人間。それに、勝負なんやから負けることもあるやろ」

「大変な事になってはるし……何であんな決闘受けたん? 秘密って一体何の事?」

「アホ! 詮索すんな! せや、他にも必要なモノがあったら言ってくれや!」

「ありがとう……こんな時だけど、やっぱり君達は僕の友達だよ……」

 

 条件にはきっちりと「寮の中への侵入禁止」と書いてあった。

 最大の問題はシャワーである。

 正直風呂が無く部屋にシャワーしかないのだけでも参っていたのに、シャワーすら浴びられなくなるとストレスは溜まるばかり。

 風呂は心の洗濯とは誰が言っただろうか。

 

「せや!! 今度一緒にバーベキューしようや!! 折角の野宿やしエンジョイせんとな!!」

「ハッちゃん……レジャーでこうなってるんやないんよ……」

「起こってもうたもんはしゃーないやろ。あるもんで何とかするしかあらへん」

「このままじゃ僕、卒業するまでテント暮らしなんだけど」

「……ずっとやあらへん。俺らも何とか寮に入り直せる方法探したるわ」

「お腹空いたらいつでも言うてな? ご飯いっぱい持ってくるから」

「……ハッカ君、テマリさん……」

 

 救いは友人二人。

 テントの設営、野宿に必要なものの買い出しまで手伝ってくれたのである。

 持つべきものは友である。

 

「それにしても”ぶきようすりかえ”からのオーライズ解除か……初見殺しコンボも良い所やんけ」

「初見じゃなくても対処しづらいよ、アレは。すりかえやトリックを無効にできるのは、メガストーンを持ってるポケモンくらいだし」

「最初っからイクサ君をあの1戦で負かすことを前提にした戦い方やったんやね」

「どうだろ……あのミミロップ自体も相当強かったし、他のポケモンでやり合って勝てたかどうか……」

「……決闘自体が罠だったんやな」

 

 今から対策を講じても何も思いつかない。

 この敗北でイクサはすっかり落ち込んでしまっていた。

 寮に戻れなくなったのは勿論痛い。

 だがそれ以上に、あの憎たらしいデジーに敗北したのが悔しくて仕方なかった。

 

「……とにかく、二人はもう帰ってくれて良いよ、本当にありがとう」

「え? でも……」

「……今は惨めで……悔しいんだ」

 

 ”ぶきようすりかえ”自体は元の世界でも見た事がある戦術だった。

 しかしいざ使われると、此処まで何もできずに完封されてしまうのか、と感心すらした。

 だが状況が悪かった。相手は自分の秘密を盾に脅迫してきたデジーである。

 

「……フッ、行くでテマリちゃん」

「ハッちゃん……」

「安心せい、イクサ。今回は負けたけど……次勝って取り返せばええねん。お前が強いの、俺らはよーく知っとるで」

「……ありがと」

 

 二人が去っていく中、イクサは溜息を吐いた。

 ボールから出てきたパモが心配そうにこちらを見上げている。

 

「……ぱもぉ」

「大丈夫だよ、パモ様。絶対、寮に戻ってみせる」

 

 それにしても気掛かりなのは、あれからレモンやバジルから連絡が来ないことだ。メールや電話にもさっぱり出る気配が無い。

 

(もしかして決闘に負けたから見捨てられたとか……いやいや、レモンさんはそんな事しない……ッ)

 

 そう考えていた矢先だった。

 

 

 

「ぴるるるー」

 

 

 

 鳥ポケモンの鳴き声が聞こえてくる。

 見ると、黄色のスカーフを付けた海鳥のポケモン──カイデンが飛んでくる。

 そしてイクサの手元に止まる。

 足には手紙が括りつけられていた。

 随分古風だなと考えながらもそれを外して広げてみせる。

 

『事態が落ち着くまで、メールや電話は傍受される可能性があるから、これから私は手紙を通じてやり取りするわ。返事を書いてカイデンに括って頂戴』

 

(……レモンさん!?)

 

 思わず声に出そうになってしまった。

 手紙の中はなかなかの長文になっている。

 

『今回の決闘は所謂プロモーション、貴方を公の場で”オーラジャミング”を習得させたポケモンで撃破することで、普通のポケモンがオーラジャミングを使えることへの有用性を示すため』

 

(じゃあ僕は技マシンの宣伝に使われたってのか……!!)

 

『そしてあのデジーは、バジルの調べによると文字通り正真正銘の天才少女。特に電子工学に長けているわ。その腕を買われて、生徒会にスカウトされたみたい。勿論、バトルの腕も折り紙付き』

 

(……やっぱり。本当に強敵だったんだ)

 

『でも、確実に言えることがある。今回の件は彼女の独断じゃない。後ろでは確実に生徒会が動いてる』

 

(何を目的として……?)

 

『奴らは元々、学園全体のイベントやゲームを運営してるの。それを開催する前に、現状のオーデータポケモンが頂点に立つパワーバランスを崩したいのかもしれない』

 

(ゲーム運営? そうか、()()()()を崩しに来たのか……ッ!)

 

 彼らが「ゲーム運営」と言われると、イクサはしっくりと来る。現在のスカッシュ・アカデミアは、オーライズを中心として皆戦っている。そんな中、必然的に頂点に上がってくるのは”オーラジャミング”で相手のオーライズを一方的に解除できるオーデータポケモンと、それを扱う三大寮生だ。

 彼らは近日学園全体で生徒が参加するような大規模なイベントを開催することを目論んでおり、その前に現状のパワーバランスに変更を掛けにきたといったところなのだろう。それが技マシンの一般流通により、誰もが”オーラジャミング”を使える状況にすることだったのである。

 

『貴方をわざわざ寮生活から切り離した理由は分からないけど鋭意調査中よ。だから今は辛抱して頂戴。私は私の出来る事を、貴方は貴方の出来る事をやって。 レモン』

 

(……レモンさん……見捨てられたんじゃないかって思ってゴメン……)

 

 そこまで読んだ辺りで──気配を感じた。

 振り向くとそこに立っていたのは、金髪碧眼の美少女。

 生徒会の仲間ではないか、と警戒していた心は、一気に安心感に包まれる。

 

「──やっほー、イクサ! 私だヨ、私!」

「師匠……じゃなかった、バジル、先輩……!?」

 

 バジルは人差し指でイクサの口を指で封した。大事な事は此処では喋らない、と言わんばかりに。

 

「えーと……何しに来たんですか?」

「それは勿論! イクサのサポート、デース! イクサに何か困ったことがあったら、私が助けてあげようと思ってデスね!」

「……マジで? 何でまた」

「本当はレモンったら寮生が野宿してるのに私だけベッドで寝られない! って言ってたんデス。流石に止めたデスけどね」

「それは口に出して言って良かったのかな……」

「おっと。ついウッカリ!」

「……バジル先輩、探偵向いてないんじゃないの?」

「向いてるデース! 本当に大事な事は喋ったりしないんデスからね!」

 

 可愛く憤慨した彼女は、がさごそと鞄から何かを取り出す。

 

「先ずはコレ! 気休めデスけど、盗聴器を探知する磁気レーダーデース!」

「……確かにこれは必要だね」

「これを用意した上で、レモンは警戒してるみたいデスからね。相手は天才! そう、大天才デスからね!」

 

 分かるデショ? と彼女はカイデンと手紙を指差す。カイデンは手紙の束を咥えると電撃を放って燃やしてしまうのだった。

 

(ぶ、物理的に手紙を始末した……)

 

「後は──私のデリバードが用意してくれるデショ! デリバード!」

「デリー」

 

 彼女の声に応じるように何かが空から降ってくる。

 現れたのは、大きな袋を背負った、サンタクロースのような色合いの鳥ポケモンだ。

 

【デリバード はこびやポケモン タイプ:氷/飛行】

 

 デリバードは、浮力によって羽ばたくだけで物理法則を無視して飛行することができる。

 これにより、どんなに重いものを背負っていても空を飛べるのだ──と聞いた時、イクサはゲームでのデリバードの飛行モーションを思い出した。

 片方の翼で尻尾(袋のようになっている)を握り、片方の翼をパタパタさせながら飛んでいるのである。どんな理屈で飛んでいるのかサッパリだったが、埒外の力が働いていたのならば仕方がない。

 そして、バジルのデリバードは大きな荷物が入っていると思しき袋を背負っていた。

 

「な、何の荷物?」

「それはアウトドア用簡易シャワーデスね。私の私物デース!」

「うわ、これ見つからなくて困ってたんだよ……いや、何で持ってるんですか、こんなもん」

「そりゃもう、探偵はアウトドアで張り込みすることも多いデスからね!」

「どんな探偵なんだよ……いや、師匠ならやるか……」

 

 元居た世界の「彼女」の所業を思い出す。

 

 ──校長先生が浮気してる証拠を張り込んで撮影して弱みを握ってやったデース!! これで探偵部は安泰デスね!!

 

 ──うわぁ……。

 

 前の世界の「師匠」も探偵活動のためならば何でもやるような女だった。そのためにはどんな道具でも用意するのである。

 正直、やっていることだけならば今回のデジーとどっこいどっこいだ。可愛い顔に騙されてはいけない。彼女は性の根から「探偵」なのである。

 

(もしかしなくても、デジーに対抗意識燃やしてるでしょ……)

 

「水道栓がある場所を選んだのはNiceデシタね! ついでに、仕切りも用意したデスよ! これでシャワーは完璧デスね!」

「何というか……どんどんアウトドア設備が充実していくな……」

「これからも役立ちそうなものを見つけたら持ってきマス! もういっそ此処を新しい探偵部の拠点にしマセン?」

「嫌だよ!! しかも探偵部に入った覚えないし! おまけに部じゃないでしょうが、部じゃ!!」

「ちぇー、良いアイディアだと思ったんデスけどねー」

「学園の敷地だし、あんまり好き勝手するのは良くないですから」

 

 とはいえ、彼女のおかげで野宿生活も多少は充実しそうである。

 設備は多い。とても。

 

「……でもバジル先輩のおかげで、色々助かりました。ありがとうございますっ」

「ッ……~~~!! イクサ君は健気デスねーっ! 私も頑張りがいがあるデース!」

「だ、だから胸当たってるんですって、先輩ッ!?」

 

 感極まってぎゅうぎゅうと抱き締める彼女を無理矢理押しのける。さもなくば柔らかい部分で理性がどうにかなりそうだった。

 ガラルの方ではこれが当たり前なのだろうか、とイクサは色々今後が心配になった。

 しかしよく考えてみると、あの「師匠」もボディランゲージが激しい人だったのを思い出す。

 

 

 

(マ、マジでどうにかなりそうだよ……僕が男だって分かってんのかな、この人……)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──その夜。

 

「おい聞いたか? 転校生、この辺りで野宿してんだってよ」

「クッククク、先日の”トゲトゲ君2号”の恨み晴らさでおくべきか……技術科のガレージからこっそり盗み出した”ジシン君初号機”の出番だ」

「クッククク、技術科の力を総結集して作った”じならし君”の改良形よ……ッ!!」

 

【ドサイドン型汎用決戦兵器”ジシン君初号機”(盗品)】

 

 森林エリアを進軍するのは、サイドンの進化形……ドサイドン型の戦車だった。

 操縦するのは、先日決闘に向かうイクサを重機で妨害した生徒だ。

 さも自信作のように語っているが盗品である。繰り返すが盗品である。

 動機は勿論逆恨み。この学園に秩序なんてものはあってないようなものなのかもしれない。

 相手が寮に居るなら闇討ちなど出来るはずもないが、アウトドアしているならば話は別。

 

「今に見てろ、テント諸共この重機でぺしゃんこにしてやるぜ」

「クックック、兄弟、俺も助太刀してやるぜ」

 

 

 

「寝ない悪い子だーれだ?」

 

 

 

「!?」

 

 次の瞬間、前方を照らすライトが破壊される。

 そして、戦車の履帯がいきなり動かなくなった。

 

「ねえ知ってる? 例え力が弱くたって、重戦車を止める方法はあるんだよ。地面に穴を開ける……とかさ」

 

 何処からともなく聞こえてくる少女の声に、男達は怯えた。

 

「ヒッ……!?」

「だ、誰だぁ!? あの転校生か!? 暗くてよく見えねえ!!」

「ウサギは自由。何処を飛び跳ねても自由。でも……野生の世界にもルールってものがある……よりによって技術科(ボクら)のガレージから発明品を盗み出すのは見過ごせないんだよね」

 

 戦車の主砲が曲がった。

 もうこれで砲弾を撃つことはできない。

 

「ボクさ、アンフェアなのが大好きなんだけど、ドロボウだけは看過できないんだよね? 盗聴は犯罪じゃないけど……窃盗は犯罪だし……って、ボクが法律を説くのは違うか。脅迫してるしボク」

「何だテメェ!! テメェに何の権限があって──」

 

 

 

()()()

 

 

 

 その声で二人は完全に固まった。

 次の瞬間、ハッチが無理矢理こじ開けられ、中に乗っていた二人は力づくで引き上げられ、戦車の外に放り出されてしまう。

 彼らの眼前には──獰猛で残忍で、凶悪な笑みを浮かべたウサギが立っていた。

 

「じゃあ、理屈じゃなくて感情での話をしよっか。ボク、人に獲物を盗られるのが一番嫌いでさ。オマエ達……よりによってウサギの耳を掴んだんだよ。分かる?」

「あばばばば……ッ!!」

「あいつはもう、ボクが目を付けたから」

 

 ミミロップの長い耳が鋼鉄のように硬化する──

 

 

 

スクラップにしちゃえ(”ピヨピヨパンチ”)──」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──翌朝。

 イクサは妙に自分の腕が重い事に気付いた。

 そして、首まで寝袋にくるまっていたはずなのに、自分の上半身が出ていることに気付く。

 

「何だ……どうしたんだ……?」

 

 首を横に倒す。

 そこにあったのは、肌色。

 艶やかな橙の長い髪。

 そしてふにふにとした柔らかい感触。

 制服姿の女の子が腕を掴んで眠っていた。

 

 

 

「ギャーッッッ!!」

 

 

 

 思わず悲鳴が飛び出た。

 少女はごろん、と転がると──「あ、朝だ」と呟いて起き上がる。

 

「な、ななななななな、ななな!? 何で!?」

「えー? 昨日の事、覚えてないの?」

「知らない知らない!! 知らない!!」

「……ボクの事を、とろとろに溶かしてくれたの、覚えてないの? 初めてのボクを……激しく……っ」

 

 甘ったるい声で少女はイクサに迫る。宝石のような目だった。顔から零れ落ちそうだ。

 

「知らない! 君のことなんて知らない! 記憶にないよ!」

「くすっ、あっはははは! やっぱり君、からかうと良い顔するなぁ」

 

 その人を食ったような笑い声でイクサは目の前の少女が何者なのかを思い出す。

 そもそもこんな事態になる原因となった相手だ。

 しかし、制服は前が開け放されており、はだけたシャツからは子供っぽい見た目からは想像できない黒い下着が見え隠れしている。

 

「何で、()()()()()()()()()()()──デジー!?」

「……んー、君には悪い事しちゃったし……()()()()()()()()? そも、ボクが何処で寝ようが自由だし。エンジニアは、何処でも寝られるように訓練してるんだよ」

 

 全く説明になっていない。

 この性悪兎が──生徒会の手先が添い寝してきた理由も、何が目的でかも全く分からない。

 どんな神経をしていれば決闘で負かせた相手の所に涼しい顔でやってこられるのか、イクサは彼女の頭の中身を覗いてみたくなったのだった。

 

「何しに来たんだよ!? 人を脅迫して決闘させておいて……ッ!! もしかしなくてもブン殴られに来たのか!?」

「ふぁーあ、そう目くじら立てないでよ。君の寝床に潜り込んだのは、漏れなく君をからかいに来たのが目的だけど──この一連の出来事は、ボクも上から命令されてやってるんだよ」

 

 欠伸をすると、彼女は「あーあ、こんなオモチャ使ってもボクのマシンは捉えられないのにさ」と、バジルの磁気レーダーを取り上げる。

 

「だからあんまり悪く思わないでよ? 君個人に恨みはないからさ」

「恨み無しで此処までの仕打ちが出来るのがビックリだわ」

「立場ってものがあるんだよ、ボクにも。たとえボクでも、上の命令には逆らえないしね」

「立場ってものがあっても僕は許さないからな」

「でも安心して。レモン風紀委員長のヒミツは、ボクの頭の中。まだ生徒会のメンバーにも話してないよ」

「……信用できると思ってるのか?」

「ボクは君を信用してるけどね」

 

 にしし、と笑ってみせるとデジーは続けた。

 

「君との決闘で、オーラジャミングの有効性はハッキリ示された。技マシンはバカ売れだよ。むしろボク個人としては、お礼をしたいくらいだね」

「そう言う意味での信用か……僕をどうしたいんだ」

「どうもしないよ。君が、あそこでボクに敗けてくれた時点で……君の役目は終わったんだ。分かるー?」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……技術科のガレージから戦車を盗み出したってのは本当なのね?」

「ふぁい、ほんとうでしゅぅ……あひぃー、ごめんなさいでしたぁ……」

 

 朝、レモンが風紀委員室にやってきたら簀巻きにされた男子生徒が倒れていた。

 ついでに校舎の外には盗品と思しき戦車も鎮座している。

 件の生徒達を引っ張ると、1枚の写真が足元に落ちる。

 

「……何かしら」

 

 それを拾い上げた5秒後──ぐしゃり、とレモンは写真を握り潰した。

 

「成程……小兎が良い度胸じゃない」

「おはようございます委員長──ヒッ!!」

「どうしたんだオマエ、固まって──ヒッ!!」

「何だよ二人とも──ヒッ!!」

 

 ──その時のレモンは、今までにないくらい恐ろしい顔をしていた、と後に風紀委員たちは語る。

 握り潰されたのは、寝袋に入ったイクサと添い寝するデジーの写真だった。

 ふよふよ空中に浮くことができるスマホロトムにセルフタイマーで撮影させたものを印刷したモノだ。

 ご丁寧に「風紀委員長サマへ♡」というメッセージ付きである。

 

 

 

「良いでしょう……蛇にも立派な逆鱗があること、思い知らせてやるわ」

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