ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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第17話:学園モノの生徒会、悪役になりがち

「なかなかふざけたメールね。でも残念ながら何から何まで本物よ。貴方と私の危機って事も」

「そんなぁ……」

 

 

 

 足を組んだ風紀委員長・レモンは眉を顰めた。

 文面は、決闘を受けなければイクサの身分を全校生徒に公開するという脅迫文だったのである。

 

「あの、レモンさん……この生徒会って、本当に生徒会なんですか?」

「残念ながら本物でしょうね」

 

 文面からして本物であるということ、そして「奴らならやりかねない」という二重の意味が含まれていた。

 更にメールには複数の添付ファイルがあり、その中には音声ファイルもあった。

 再生してみると──この間の展望台でのイクサとレモンのやり取りが録音されていたのである。

 その中には──「迷宮でポケモンを亡くしたが故にバトルが出来ない」という秘密も含まれているのである。

 

「なっ、何ですかコレ!!」

「……サイテーね。あの展望台で、あそこで盗聴されてたに違いないわ」

「盗聴って……!?」

「……私としたことが迂闊だったわ。多分、相当高度な盗聴器を作ったヤツが新入生に居るわね。あの展望台は普段私が鍵を掛けているし、何も仕掛けられていないのをチェック済みだったのに」

「あ、チェックはしてたんですね……」

 

 しかも誰も来ないのを良い事に展望台を私物化していたらしかった。彼女にとっては数少ない憩いの場所なのだろう。

 

「当然よ。自分の秘密を話すんだもの……でも結果はこの通り。こんな事になるとはね」

 

 流石のレモンも予想外だったのだということが、口ぶりからもひしひしと伝わってくる。

 

「そんな……僕の所為で」

「バカね。私がしたいからしたことを、何で貴方の所為になるの。むしろ巻き込んでしまったのを申し訳なく思ってる」

 

 彼女としても誰も来ない展望台だと思っていたから、腹を割って話せたのに、と彼女は続ける。

 よもや此処までイクサをターゲットとした悪意が芽吹いているとは彼女も想定外だったのである。

 

「一体、何なんですか、この学園の生徒会って──人の秘密を使って脅迫するなんて、サイテーですよッ!!」

「言ってしまえば、決闘を始めとした学園のルールを制定する最高機関よ。決闘や学園のイベントを面白おかしく盛り上げる為、そして学園のパワーバランスの為なら何でもやるような連中ね」

「それって面白おかしく言ってるけど、相当タチが悪い連中じゃないですか!?」

 

 生徒会とは名ばかりの、学園の支配者、真のトップ層だと彼女は語る。

 学園の運営に位置する人間やオシアスの政治家の子息といったメンバーで固められているらしい。

 そのため、寮長達とも1人1人が権力で拮抗する面々が揃っているのだという。

 

「私でも口出しするのは難しいし、何ならこの脅迫文こそが貴方の身分を証明してしまうわね。相当連中、準備をしてきたみたいだわ」

「でもおかしくないですか? この決闘の文面を見て下さい」

 

 そう言って、イクサは添付された決闘のマッチアップをレモンに見せる。要約すると──

 

【Xが賭ける物、上の秘密の保守を確約 イクサが賭ける物、学生寮の居住権】

 

 ──ということであった。

 つまり、イクサが勝てばメールに書かれた秘密の保守を約束する。

 一方で彼が負けた場合、学生寮の居住権を手放す旨が書かれていた。

 しかし、負けた場合でも秘密を公開するといったことは書かれていない事、何より最重要な報酬であろうイワツノヅチが書かれていない。

 これをレモンはかなり不可解に思ったようで、眉間に皺を寄せながら考え込んでいる。

 

「ッ……妙ね。イワツノヅチが欲しいなら、そして秘密をバラしたいなら、そう書けば良いのに」

「寮の居住権ってこれ……僕、負けたら寮を追い出されるんですか!?」

「そうなるわね。そして、決闘の結果は絶対。私であっても干渉できない」

「勝つか追い出されるか……しかも負けたら秘密は奴らに握られたまま」

「となると、貴方を住まわせる場所は他に無いわ。校則で生徒は寮以外から学園に通う事を認められていない」

「そんなぁ!! 何とかならないんですか!?」

「私の秘密は最悪どうでも良い……と言いたいところだけど、この学園の風紀、私の名前で守られてる側面もあるのよ。もしも私がバトルできないって皆に知られたが最後、やんちゃ坊主共に学園は蹂躙されてオワリ」

「終わってる……本当になんなんだこの学園」

「そして問題は貴方よ。今全校生徒に貴方が異世界出身だってバレたら大変な事になる。大騒ぎだわ。私と貴方が密接に繋がってるのを見越して、このメールを送ってきたに違いない」

「じゃあ、決闘を受けて勝つしか道は無いってことですか?」

「……そうなるわね」

 

 重い沈黙が横たわる。

 完全に状況は詰んでいる。

 決闘に勝利する以外に状況を打開する手段は無い。

 

「……こんな事を目論む生徒会の生徒会長ってどんな人なんですか? さぞ素敵な性格をしてるんでしょうけど」

「色んな意味で恐ろしい奴よ」

 

 珍しくレモンは皮肉ることもしなかった。

 

「単純なバトルの腕ならオーデータポケモンが居る私達が上かもだけど、カリスマや人心掌握に長けている。後は自らも権力者だわ。あの年で会社を経営してるの」

「ッ……レモンさんが”恐ろしい”って言うくらいならよっぽどなんだろうな」

「ちょっとどういう意味かしら」

「あ、いや、ナンデモナイデス」

「……今はオシアスの別の学園に交換留学しているから不在で、私達も動きやすかったの。でも、6月の半ばには帰ってくる。その時に向けて何か準備をしてるのかしら」

「僕は──決闘に向けた準備、ですよね」

「ええ。だけど、相手はこちらの秘密を握ってる。決闘の内容が不服だったら秘密をバラされてもおかしくない。正当手段で勝つしかないわ。こっちからの援助は期待しないで頂戴」

 

 本来ならばポケモンを貸してあげるくらいはするのよ、と言いたげであった。今回はそれすらも出来ない状態だ。

 

「心配しなくても、レモンさんの秘密は僕が守りますッ!!」

「……頼もしいわね。でも貴方は自分の秘密の心配をして頂戴」

「はい……」

「大丈夫。私はバジルと相談しながら、何かあった時の為に動いておくわ。君は──安心して戦って」

 

 そんな事を言われても、イクサの中では珍しく怒りが滾りつつあった。

 

 

 

(許せない……僕の秘密だけなら良い、でもレモンさんの秘密まで決闘のダシにするなんて……ッ!!)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──決闘当日に至るまで、メールの差出人は姿を現さなかった。

 しかし、ドローンによって全校中継がされる中、その時はやってきたのである。

 

『レディースエーンジェントルメーン!! 今回の決闘は、オーデータポケモンの持ち主・イクサ選手に、生徒会がまさかの挑戦状!! 相手は同じく1年生、技術科のデジー選手だにゃーん!!』

 

 

 

「ぴょん、ぴょーんっ! みーんなーっ、ボクの事見てるーっ?」

 

 

 

 現れたのは、これまでのどの寮とも違う白い制服を身に纏った少女だった。

 しかし、そのサイズはダボダボ。明らかに服に着られている状態だ。

 そして、頭にはカチューシャが付けられているが、そこからはバニーの耳が生えている。

 煽情的で小悪魔的な笑みを浮かべるデジーに魅了されてしまう男子生徒は数多いらしい。

 しかし、イクサの顔は──これまでにない程に強張っている。

 

「……君か? あんなメールを送ったのは」

「ぴんぽんぴんぽーんっ! そうだよ。ボクの発明品でやったんだ。自律歩行盗聴器、【聞けるんです君V2】でね!」

 

 すごいな探偵要らずじゃん──と、こんな時なのに頭に過ってしまった。

 

「改めてご紹介! 技術科1年、生徒会庶務……”いたずらウサギ”のデジー! こーんなに可愛くてゴメンね♡」

 

 てへぺろ、と舌を出すウサ耳少女。

 正直暴力的な気持ちが流石のイクサにも湧いて出てくる。

 

「……勝ったら秘密を守るって本当に確約するんだよね」

「てゆーか、此処に来た時点で確約してあげるよ。ボクの目的は……君をこっちの勝負の場に引きずり出す事だからさ! あの秘密は僕の中でクシャポイしてあげる」

「信用できないね、人の秘密をダシにするヤツなんて!」

「そう、残念」

 

 展開されたオーカードは、互いに3枚。

 イクサがマリル、ハルクジラ、パモ。

 デジーがアママイコ、ホルード、ゴビットだ。

 地面タイプとゴーストタイプを併せ持つゴビットのカードを用意している辺り、かなり用意周到にイクサのポケモンを対策しているのだろう。

 

「んじゃあ、後はボクに惨めったらしく負けてくれればそれで良いかな! ──ミミロップ!」

「きゅるるるーん、きゅるる」

 

【ミミロップ うさぎポケモン タイプ:ノーマル】

 

 現れたのは、二足歩行の兎のようなポケモン。

 丸みを帯びた煽情的なフォルムが特徴的だ。

 その姿はさながら、ポンポンとニーソックスを履いたバニーガールの如し。

 

(じ、実物見ると本当にすごい姿してるな……びっくりしちゃうよ)

 

「くっすす、釘付けになっちゃったかな?」

「まさか。蛇は兎も喰らう。この意味が分かるよね。僕が使うのはイワツノヅチだ」

 

 ボールから出るなり咆哮するイワツノヅチ。

 それに凄まれながらも、デジーは余裕綽と言った様子。全く格上の敵を恐れていない。

 

「……ふぅん、食べちゃうんだあ。怖いなあ♪」

 

 一見すれば、ノーマルタイプのミミロップは、鋼/岩タイプのイワツノヅチに攻撃が通らず、不利に見える。

 しかし、オーライズによってデジーはこの相性差を幾らでもひっくり返す事ができる。

 否、そうでなくとも、ノーマルタイプであるミミロップは数多くの技を覚えるポケモンだ。

 イクサからすれば何をしてくるかさっぱり分からない相手でもある。

 

(格闘タイプで弱点を突くか、それとも補助技を使うか……補助技のバリエーションも多いんだよな)

 

 

 

『それでは、決闘開始だにゃーッ!!』

 

 

 

「先ずはこれ! 悪戯しちゃうよ、”すりかえ”!」

「んなッ……!?」

 

(まさか”ぶきようすりかえ”コンボ!?)

 

 ぴょん、と宙を飛んだミミロップは、持っていた何かをイワツノヅチに押し付ける。

 次の瞬間、イワツノヅチの身体はずしん、とフィールドに沈み込んでしまう。

 確かにイワツノヅチの重量は凡そ700kg──ポケモンの中では重い方ではあるが、それでも今までの試合でフィールドにめり込むことはなかった(これでも質量の割に軽すぎるくらいである)。

 

「持たせたのは”こうこうのしっぽ”! これで、そいつの武器である素早さは完全に奪った!」

「防ぎようがないだろこれ……!」

 

 ──”こうこうのしっぽ”は、相手の行動を必ず遅くする道具だ。

 それを押し付ける事で、完全にイワツノヅチの素早さを奪ってしまおうという算段である。

 そしてミミロップの特性は”ぶきよう”。持っている道具の効果が無効化されるというものだ。

 

(このデジーって子、相当バトルが強いぞ……!?)

 

 持ち前の素早さを”こうこうのしっぽ”で殺すことなく、速やかに相手に道具を押し付けることができるのである。

 さて、こうして見事にイワツノヅチに対して素早さ上のアドバンテージを取ることに成功したミミロップは、そのまま軽やかなステップで跳びあがり、膝を向けて飛び掛かる。

 

 

 

つぶれちゃえ(”とびひざげり”)ッ!!」

 

 

 

 ──それは格闘タイプの超強力な技。威力は非常に高い130で、命中も90と高い。

 外せば代わりに自分がダメージを受けてしまうが、今のイワツノヅチは”こうこうのしっぽ”で動きを押さえつけられており、地面に潜行することすらできない。

 格闘が4倍弱点のイワツノヅチが喰らえば只では済まない。

 ならばイクサが取れるアプローチは唯一つ。

 

「オーライズ”マリル”!!」

 

 格闘タイプを軽減できるフェアリータイプのマリルにオーライズすることだった。

 これにより、とびひざげりのダメージは大幅に軽減。

 イワツノヅチの装甲で受け切れる程度にまで抑えられる。

 

「ふぅん──やるね……なーんて言ってみたり」

「!?」

「……()()()が君達だけの専売特許と思ったら大間違いだよ? ボクは天才だから……こういう事もできるんだっ!」

 

 にやり、とミミロップの顔が意地悪に歪む。

 

「嫌な予感がする……イワツノヅチ!! ”いわなだれ”!!」

「そんなの当たらないよーう!」

 

 ぴょん、ぴょん、と降ってくる岩を足場にして飛び跳ねるミミロップ。

 そのまま華麗にムーンサルトを決め、イワツノヅチの頭部に乗っかった。

 

 

 

「……ミミロップ、見せてあげなよ! ”オーラジャミング”!!」

 

 

 

 ──この瞬間。

 この場に居らず、中継で決闘を観戦していた生徒達にどよめきが上がった。

 その技は今に至るまで、オーデータポケモンのみが使う事ができるはずの技だ。

 オーライズを解除し、更にダメージを与える、逆転の一手。

 それを扱うことが出来るのがオーデータポケモンの特権だったはずである。

 しかし今現に、イワツノヅチの纏っていた装甲は剥がれ落ちていき、光の粒子となって分解されていく。

 そしてこの瞬間、オーライズによって隠されていたイワツノヅチの弱点は晒されてしまったのである。

 

「なっ、ウソだろ……!?」

「弱点はオーライズでカバーすれば良い? そんな時代はもう終わり。三大家だけがズルできる時代も終わり! この学園のパワーバランスは今、変動の時を迎えてるんだよっ!」

「何でその技を使えるんだよ!? オーデータポケモンだけが使えるんじゃないの!?」

 

 その問に、デジーは意地悪な笑みで返す。

 

 

 

()()()()()()に決まってるじゃん」

「……え?」

「このボク、デジーが──”オーラジャミングの技マシン”を開発したんだよっ!! あっはははは!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「何だぁ、こりゃあ……どうなってやがる……!?」

 

 

 

 中継を見ていたラズの顔は引き攣っていた。

 自分達の持つオーデータポケモンのみが使えると思われていた”オーラジャミング”が今、ただのミミロップによって使用されている。

 そして彼女の弁では「開発した」とのことで──

 

 

 

「……あんなに解析しても完成しなかった”オーラジャミング”の技マシンを、俺達よりも先に開発された、だとォ!?」

 

 

 

 ──技マシンメーカーの御曹司である彼にとっては穏やかではない。

 完全にお株を奪われてしまったのである。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……バジル。この子について今すぐ調査して頂戴」

「合点デース! でも、この決闘は……」

「こうなってしまったらもう、イクサ君に勝ち目は無いわ」

「そうデスけど……!」

 

 ラジオで決闘の状況を聞いていたレモンは、

 

 

 

「……あのデジーって子、一体何者……!?」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……やれやれ……とんでもないことになったね……寝耳にミミズズってところかな」

「オラッ!! 大人しくお縄に着け!!」

「あんたこれで何回目だッ!! シャイン・マスカット!!」

「時代は繰り返すのさ。君達もいずれ分かる日が来る」

「分かって堪るか!!」

 

 この男はいつも通り半裸でドライブして衝突しただけである。当然決闘の内容は何にも知らない。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「”とびひざげり”!!」

 

 

 

 4倍弱点の痛打がイワツノヅチに突き刺さる。

 悲鳴を上げた大野槌はそのまま──成す術なく、地面に倒れ落ちるのだった。

 

「ま、負けた……ウソだろ……!? 何で”オーラジャミング”を……!?」

 

『ま、まさかまさかの結果です!! 勝者は──デジー選手!!』

 

 イクサは崩れ落ち、何も言うことができなかった。

 限られたポケモンしか使えないはずの技を、技マシンにした? この少女、言っていることが無茶苦茶である。

 

 

 

「皆ーっ! 皆も”オーラジャミング”の技マシン、使いたいよねーッ!! これから生徒会主導で希望者に”オーラジャミング”の技マシンを販売するから、こぞって買いに来てねーッ!!」

 

 

 

 そんな事をデジーが言っていたような気がするが、もうイクサには何のことだかよく分からなかった。

 淡々と決闘の結果が付きつけられる。

 

 

 

『というわけで、決闘の結果に従い──イクサ選手は、寮への居住権を失うにゃーっ!! 明日からどうやって暮らすつもりだにゃーっ!?』




【Tips】
オーラジャミング ???タイプ 物理/特殊 威力70 命中100
物理か特殊、能力が高い方で攻撃する。オーライズしたポケモンのオーライズを解除し、効果抜群のダメージを与える。(この時、特性:ふしぎなまもりも貫通する)。
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