ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】 作:タク@DMP
※※※
「──先日は、結局情けない所を見せてしまったわね……親からもしこたま怒られたわ。無理するなって」
「あはは……でも良かったじゃないですか。全員無事だったし……寮は少し壊れちゃいましたけど」
「……そうね」
──後日。諸々の後始末を終えた後、改めてイクサはレモンに呼び出されていた。
捕獲されたイワツノヅチは一度シトラス家の手に渡り、充満していたオシアス磁気を抜き取っている最中だという。
オシアス磁気によって強化、そして狂化されたオーデータポケモンは、通常以上の力を発揮するが、そのままではまともに人の言う事を聞かないらしい。
「結局、あのオーデータポケモンって何なんですか?」
「……転校生君はオーパーツって知ってるかしら」
「単語は知ってますけど……僕の世界のそれと、意味合いが同じかは知りません」
「オーパーツとは、オーライズに必要なオーラを含有した物質よ。オーカードも広義の意味ではオーパーツね」
「ああ、僕が知ってる奴と大分違うや」
イクサの世界に於けるオーパーツとは、その時代では有り得ない技術で作られた工芸品を指す単語だ。
例えば水晶で作られた髑髏、黄金シャトル、アンティキティラ島の機械……と言ったものが有名である。
一方、この世界に於けるオーパーツはオーライズに必要なポケモンの力を含んだ物体全ての事を指すらしい。
「そして、この地に訪れた人々は、かつて最初に迷宮が現れた際に、幾つものオーパーツを発掘した。それは、ポケモンの力を宿した古代の遺物、工芸品だったの」
「それがオーパーツ……」
「そしてとうとう──他のポケモンとは比べ物にならないオーラを含有したオーパーツを発見したの。それが──”黄金グライダー”、”氷の髑髏”、”大電球”の3つよ」
「……なんか僕が知ってるオーパーツに似てきたなあ」
「あらそうなの」
どうも類似したものをイクサはよーく知っていた。特に髑髏なんて、イ〇ディ・ジョーンズのおかげで超有名である。
「ただ、オシアス磁気を受けたからか、はたまた長い年月が経過していたからか、それらはある日突如ポケモンの姿となって暴れ回ったらしいわ」
それは炎を纏った黄金のマンタイン──名をアマツツバサ。
それは氷の骸から現れしヨノワール──名をイテツムクロ。
それは雷光を放つ狡猾なアーボック──名をハタタカガチ。
既存のポケモンに何処となく姿が似たそれらは、既存のポケモンとは全く違う力を振るいながら暴れ回ったという。
更に、全員が相手のオーライズを解除した上に大ダメージを与える”オーラジャミング”を持ち、オーライズが通用しないことも手伝って、探索者たちは苦戦を強いられたという。
(オーライズ殺しの”オーラジャミング”……か。逆転の手段を使ったはずが、逆転されてしまうってことか……パモ様も、一撃で落とせてなかったら危なかったんだろうな)
「そして、これらを捕まえた3家が、それぞれクランベリ家、マスカット家、そして私達シトラス家よ」
「そう言う歴史があったんだ……でも道具がポケモンになる事例って前例がありますよね」
「ええ。パルデアの災厄ポケモンなんかが有名ね」
(やっぱりその手のポケモンの代表例なんだな……あの生ける厄災共)
パルデアの伝説のポケモン──通称・四災はかつて別の地方の商人が持ち込んだ四つの祭器に籠った怨念がポケモンと化した存在だ。
それぞれが雪崩、地割れ、荒廃、そして火難を司り、古代のパルデア地方に大災厄を齎したとされている。
あるポケモン使いによって杭を打たれた上で祠に封じられたとされているが、現代で封印を解くものが現れてしまったのはまた別の話。
閑話休題。
「さて、結局出自不明のこれらのポケモンを、研究者たちは特級不明生物──”オーデータ”として記録。彼らは全員、オーデータポケモンと呼ばれるようになったわ」
「何にでもオーって付ければいいもんじゃないと思うんですけど……」
「私もそう思うわ……ただ、こんな扱いをされるくらいだから、ハッキリ言って全員が他の地方の伝説のポケモンに匹敵するだけの力を持つの。その代わり、とてもデリケートで、トレーナーの力量や環境次第で強さが乱高下するの」
「繊細なんですね」
「ええ。だから、貴方がそれを手にすることが出来たのは……とてもすごい事なのよ。誇って良い」
「いやあ、レモンさんがハタタカガチの電撃で弱らせてくれたおかげですよ。あいつきっと、とても防御が硬かったから、パモ様の攻撃でも落とせたか怪しかったです」
「それと──レックウザのカードね。アレのオーラに屈服させられたんだと思うわ」
「……そうですね」
レックウザのカードは、あの後ボロボロになって戻ってきた。
今度こそ使い物にならなくなってしまっており、オシアス磁気も完全に抜けきってしまったようだった。
「良かったの? 宝物が……ああなっちゃって」
「もうオーデータポケモンが引き寄せられることもないから、これで良かったのかなって」
「……ごめんなさい。結果的に、貴方の宝物を失われる結果になってしまったわ」
「良いんですよ! 僕も覚悟の上だったし……イワツノヅチの狙いがあのカードだったって察してからは、多分無くなった方が良かったんじゃないかって……それに、おかげで被害も止められたし」
(それに──これで
さらば、向こうの世界の宝物。今度はこっちの世界で会おう。
それがイクサの決めた覚悟だった。
完全に割り切れたわけではないが、結果的に皆を守って消えたのだ。役目を果たせたのだと考える。
「……やっぱり君は強いのね。私と違って」
「そんな。今でもまだ、ポケモンは怖いですよ」
そう言った後──イクサはボールを取り出した。その中から、勝手にパモが飛び出し、彼の肩に登る。
「でも……僕と一緒に戦ってくれたパモ様の事は……もう怖くないです」
「……そう」
「それに勇気が出たのは、レモンさんのおかげなんです。レモンさんが身体を張ってくれたから、僕も頑張ろうと思えたんです」
「あんまり褒めないで。あれはどっちかって言うと醜態よ」
「醜態なんかじゃありません!」
「醜態よ、忘れて頂戴……あんなの……あんなの、情けないったらありゃしないわ。バトルなんてもう出来なくて良いって思ってたのに……もう、そんな事言えないじゃない」
むすっ、と頬を膨らませた彼女はそっぽを向いてしまった。
そして──何処か肩の力が抜けたように、ふわりと柔らかい笑みを浮かべてみせる。その時の彼女は、年よりも何処か幼い少女らしい表情で、思わずイクサは見惚れてしまう。
立ち上がった彼女は真っ直ぐに彼の目を見つめる。蠱惑的な目に、彼は釘付けになり、思わず目を逸らした。
「もう半ば諦めてたけど……バトル、もう一度克服できるように頑張ってみるわ」
「でも、バトルは好きじゃないって……」
「そうね。でも……人間、いつかは戦わないといけない日が来るかもしれないじゃない? 先日みたいに」
「……レモンさん」
「そんなに悲しい顔しないの。いつまでも逃げてるわけにはいかない、って誰かに教えてもらったしね」
ぐいっ、と彼女は一気に顔をイクサの耳元に近付ける。
「……ありがと」
囁きが耳をくすぐった後、ふわりと柔らかな感触が頬に当たる。
イクサはそれが何なのか分からなかったが、すぐに顔が燃え上がり──狼狽えて「レモンさん!? い、今、何を」と取り乱した。
「あら、私何かしてしまったかしら、転校生君」
「か、からかわないでくださいっ! じょ、冗談でやって良い事と悪い事があると思いますっ!」
「何のことか分からないわね」
耳まで真っ赤になったイクサは、その場にへたり込んでしまう。
肩に乗っかったパモも、恥ずかしそうに顔を手で隠していた。
「……風紀委員長が不埒な事はダメだと思います」
「あら、知らなかった? この学園では私がルールよ」
「……やっぱりレモンさんは無茶苦茶な人です」
もうまともに、イクサはレモンの顔を見る事ができなかった。
その場に気まずい沈黙が横たわる──その時だった。
静寂はいきなりぶち壊されたのである。
「Hello!! Good Mornin!! 可愛い可愛い学園の名探偵・バジルちゃんの復☆活デース!!」
二人の視線は突然の乱入者に向いた。
金髪碧眼、そして瞳には星型のマークが浮かんでいる。
そして声は明るく溌溂としており、周りに居る者皆を朗らかにさせるような魅力を放つ。
比較できるものではないが、クールなレモンとは真逆と言っても良い。
そんな彼女は我が物顔で風紀委員長室に入ってくると、真っ先に噂の転校生に目を付けたのだった。
「おーっと! Youが例の異世界から来た転校生? レモンから話は聞いてるヨ! 会いたかったデース!」
しかし、イクサからすれば心穏やかではなかった。
そのあまりにも特徴的過ぎる特徴は、あまりにも彼の元居た世界の「ある人物」と合致していたからである。
「師匠?」
「What?」
「師匠が何で、こんな所に居るんだよッ!? 何で──ッ!?」
「ちょ、ちょっと!? 師匠って誰デス!?」
「何よバジル。貴女、転校生君と知り合いなら教えてくれれば良かったのに」
「No! こんなしょうもないウソは吐かないデスよ!」
「……好きな小説のジャンルは?」
「勿論推理モノデース! 愛読書は”名探偵ピカチュウ”デスね!」
「嫌いなものは?」
「怪盗デース! 悪党の癖に探偵では唯一負かせない相手、みたいな扱いになってるのが気に食わないのデスよ!」
「……誕生日は10月の17日で、好みのタイプはパイプが似合う渋い男性」
「ッ!? よく知ってるデスね!? You、もしかして探偵デース!?」
「……ねえ転校生君。貴方、ちょっと気色悪いわよ」
「いやもう、此処まで来たら純度100%の師匠なんですよ!!」
レモンのツッコミを意にも介さずイクサは叫んだ。
「……Sorry! アプローチは嬉しいけど、多分人違いデース。まあでも仕方ないデスねー、バジルちゃんは可愛いので!」
【サンダー寮2年生”探偵同好会”部長・バジル】
そんな馬鹿な、とイクサは考える。
あんなに濃い人間が他に居るはずがないからである。
「そんな、自分の事を探偵だと思い込んでいる自己肯定感マシマシの頭のおかしいド変人、まかり間違ってもこの世にもう1人生まれるなんて……」
「ちょっと? 私でも怒るんデスよ?」
「いや、変人なのは合ってるわね、転校生君の見る目は間違ってないわ」
「折角快気祝いしてもらえると思ったらDisられてるデース!! Why!?」
──その後、状況を整理した結果。
レモンは一つの結論に辿り着く。
「悪いけどバジルの言ってる事は合ってるわ。だって、バジルと私は幼馴染。小さい頃から一緒だもの」
写真フォルダに入っている幼い頃のレモンとバジルが一緒に並んだ画像を見せられ、イクサは是が非でもその事実を受け入れなければならなくなる。
更にバジルが小学校に入った時、中学校に入った時、そしてスカッシュ・アカデミアに入った時の写真まである。
レモンの方が1歳年上なので、いつも彼女の方が背が高い。
しかし、それらの事実は目の前の「彼女」がイクサの知る「彼女」と似て非なる存在であることを思い知らせるには十二分だった。
「そ、そんなあ……」
「だから考えられるのは──並行世界上の同一人物、ね」
「……ど、同一人物……?」
「要するに高次元な他人の空似よ。多次元世界理論って奴ね」
所謂パラレルワールドと呼ばれるものだ。この世界は干渉しない似て非なる世界が無限に存在するというものだ。
例えば「あの時ああしてたら」という分岐が、別の世界を作るというものである。
そうした無数の分岐の繰り返しの違いにより、全く違う世界が生まれるとされている。
それが貴方の元居たポケモンの居ない世界、こっちのポケモンが居る世界のように大きな違いを作ることもあるのだ。
「例えば、師匠と
「ちょっと!? 私は絶対怪盗になんてならないんデスからね!!」
「うちでは並行世界についての研究をしている部門もあるのよ。ウルトラホールの事例もあるしね。だから結構そういうことには詳しいのよ、私」
「……じゃあ、師匠は師匠じゃないのかぁ……」
「ねえ、私勝手にがっかりされてるんデスけど……?」
「察してあげて頂戴。未知の世界に自分1人だったのだから。そこで知人に似た人が居たら、縋りたくもなるでしょ」
「1人……」
それを聞いたバジルは──落ち込んでいるイクサに思いっきり抱き着いた。だが、当然それは彼からすれば身体が密着する姿勢になるわけで、
「確かに……事情を酌んであげるべきデシタ! No problem! これも何かの縁、私の事を向こうの師匠だと思ってくれて良いデスからね!」
「ちょっ、師匠、胸、胸が──」
「あのバジル? ……転校生君が窒息死しちゃうからその辺で」
構わずぐいぐいと柔らかい物を思いっきりイクサに押し付けるバジル。その光景を見ながら眉を顰めたレモンは自分の胸に手を当てた。
「……これから成長するもの、絶対」
誰にも聞こえない声で彼女は言ったが、恐らくもう成長期はとっくに過ぎ去っているのだった。
「あ、そうだ! You,私の探偵部に入りまセン!? 部員私だけデスけど! 掛け持ちでも良いのデ!」
「……バジル、私の機嫌が悪くなる前に転校生君から離れなさい」
「えーっ!? ダメデース!! 私はこれから、彼を探偵部に勧誘するのデスよ!」
「貴女昨日、まだ寝てないといけないのに防衛戦に出たでしょ」
「……」
「元々こんな雑談で呼び出したんじゃないの、それで呼び出したのよ? 反省文……書いてもらうわよ♪」
「あ、あははは……ちょっと急用を思い出したのデース」
「──ハタタカガチ、”へびにらみ”」
「あうっ!?」
”まひ”してしまったバジルはその場に倒れ込む。体が痺れて動かない。是が非でも反省文を書かせるつもりらしい。
「転校生君、この辺で出ていってもらえるかしら」
「……それじゃあ、また今度会えたら良いですね、師匠」
「ちょっと! 師匠って呼ぶなら私を助けるデスよ、転校生ッ!! Help me-ッ!!」
悲鳴が聞こえる風紀委員長室を後にしながら、改めて自分が別の世界に来たのだとイクサは思い知らされる。
何もかもが自分の居た世界と常識が違う学園、ポケモンの存在、何より並行世界上の同一人物。
(とんでもないことになっちゃったな……改めて)
※※※
「おっ、風紀委員長の呼び出し終わったんか? 長かったやんけ」
「うん。ちょっと時間かかっちゃって」
「ほんま無茶苦茶するわ。まだトラウマ抜けてへんのに……まさかオーデータポケモンを捕まえるなんてな」
「必死だったからさ。自分でも無我夢中で。でも、ちょっとした荒療治にはなったかもね」
「もうっ! そんなん言い訳にならへんよ!」
「そうやな。今度は……俺らがお前を守れるくらい強うならなあかん」
「気持ちは嬉しいけど──僕だって、夢があるんだ。だから、守られっぱなしってのは違うかな」
「……ヘッ、言うてくれるやんけ」
まだポケモンへの恐怖心は薄れたわけではない。
しかし、今肩に居る相棒への信頼感は少なからず築けた気がした。
こうして恐怖から逃げたり立ち向かったりを繰り返して──人は向き合っていくものなのだ、と感じる。
「ぱもっ!」
元気よく鳴くパモが、頬をイクサに押し付ける。
次の授業の時間が迫っていた。
「じゃあ、次の授業に行こうか! 二人共っ!」
「おうっ!」
「うんっ!」
──第一章「ポケモン廃人、知らん学園に入学した。」(完)
ここまでのぼうけんを レポートにきろくしますか?
▶はい
いいえ
※※※
「……一つ、気になってることがあるのよ、バジル」
「何デース?」
「……転校生君が迷宮に落ちた時、彼は確かに複数のポケモンに襲われた形跡があった。でも、何故か彼は、迷宮の裂け目の近くに落ちていたのよ」
「……それは妙デスね? まさか襲われている間逃げなかったわけじゃないデショウし、かと言ってずっとその場に居たなら、死んでマスよ」
「ええ。そこが問題なのよ。つまり、あの迷宮で彼を助けた誰かが居るってことになるの。でも、オシアス磁気で狂暴化した野生ポケモンが人間を助けることなんて無いわ。絶対に」
「もしかしてレモン、貴女……」
「そうよ。迷宮には……あの時、他に誰かが居たってことになるわ。私達が救助に訪れる前に、転校生君を助けて裂け目の近くまで運んだ誰かがね」
「それを相談するために呼んだのデスね!」
「んな訳ないでしょ、反省文を書いて貰うためよ」
「ふええええーんッ!! 終わらないデース!!」
反省文、A4で残り10枚──
第一章これにて終了です! 前作「ポケモン廃人、知らん地方に転移した。」とは、学園モノというだけあって違う点も多い今作を受け入れてくださってる方が多く、嬉しい限りです。それでも、馴染みのあるゲームの世界に飛ばされてしまった主人公が、馴染みのない舞台に飛ばされて四苦八苦しながらも成長していく、という骨子は変わりません。そして、ポケモンは人の良い隣人でありながらも、時に牙を剥くこともある自然の権化ということも変わらず描いております。ポケットに入っていないポケモンはモンスターでしかないですからね。
前作のメグル以上に天才肌で、最初の相棒にも恵まれるイクサでしたが、早速ポケモンへのトラウマを刻まれて挫折を経験します。天才である彼も、結局は年相応な15歳の少年でしかなかったということですね。それでも間を置かずに迫りくる危機を前に、似た古傷を持つレモンの奮起する姿を前に、彼もまた勇気を出して立ち向かう、そんなお話になりました。傷は消えず、恐怖もまだ消えたわけではないですが、それを引きずりながらもきっと彼はこの世界で生き抜く術を身に着けていくのでしょう。前作のメグルの名前に込めた意味が「廻」、ずっと続く旅路ならば、イクサは「戦」、つまり「己と戦い続けること」です。イクサとパモ様のこれからの戦いにご注目下さい。
また、今作ではマルチバースであることを前提として描いています。ポケモンの世界もマルチバースで、例えば「メガシンカのある世界」と「メガシンカの無い世界」の2つが現状確認されています。「オメガルビー・アルファサファイア」をプレイした方には馴染み深いものと思われます。これを前提に今後も「よく似た別人」が登場するかもしれません。過去作から読んでくださってる方はそこにも注目してくださると幸いです。
今回は珍しくあとがきで語り過ぎてしまいました。近いうちに第二章で会いましょう。ではでは。