ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】 作:タク@DMP
※※※
「パモさ──んんんん!?」
──凄まじい地鳴りだった。
そして、何かを砕くような音と共に、それは地中から現れる。
全長6メートル超。全身を鋼の身体にコーティングした岩蛇のポケモンだった。
【イワツノヅチ オーデータポケモン タイプ:???/???】
男子寮の扉は半屋外となっている。
故にドアノブを開けた途端、イクサの視界に入ったのは、飛び込んで来るパモ──だけでなく、全身を勢いよく地中から突き出した巨大な大野槌だったのである。
パモ様を胸で抱き留めるも、現れたそれにイクサは尻込みしてしまう。
「よりによって、お前かよ……ッ!!」
イクサにとっては、自分を裂け目の奥に追いやり、ポケモン達にリンチされる原因を作った天敵。
そして、それはパモにとっても同じだ。
(どうする、どうするどうするどうする……!? このままじゃ、殺されるッ……!!)
あの時の記憶がフラッシュバックする。
(いや、僕はポケモントレーナーだ……僕が怖がって、どうするんだ……ッ!!)
「──パルスワンッ!! 10まんボルトッ!! 撃てーい!!」
激しい稲光がイワツノヅチを討ち払う。
風紀委員たちのポケモンが大野槌に激しい電撃を浴びせる。
ぐらりと巨体が揺らぎ、地面に激しい音を立てて倒れた。
「有効!! 有効!! 電撃の有効性を確認!!」
「通るなら撃て!! 撃てーッ!!」
そしてすぐさまスピーカーから音が響き渡る。
「奴の地面技を抑え込むぞ! オーライズだ!」
「オーライズ”アママイコ”!!」
更にパルスワン達は草タイプのポケモン・アママイコにオーライズしていき、Oワザでイワツノヅチに集団で攻撃を仕掛けていく。
しかし、巨体に生半可な攻撃は通用しない。
それどころか、イワツノヅチの素早さは想像以上に速く、尻尾で薙ぎ払うだけでパルスワン達は吹き飛ばされていく。
更にオーライズしたパルスワン達に向かい、イワツノヅチは強烈な電磁波を浴びせかけた。
【イワツノヅチの オーラジャミング!!】
シャワーのように浴びせられた電磁波は、次々にパルスワン達の身体に纏っていた草の鎧を消去する。
「ひっ、オーライズが解除されたァ!?」
「ジャミングだ!! オーデータポケモンにオーライズが通用しないってのはこう言う事だったのか!?」
『サンダー寮全生徒に告ぐ!! 速やかに避難してください!! 繰り返します、巨大ポケモンが現れました、直ちに避難してください!!』
「ッ……そうだ、逃げなきゃ……!!」
「ぱもぉっ!」
放送に促されるがままに、イクサは最低限の荷物と──宝物であるカードをポケットに入れ、寮から飛び出す。
次の瞬間、再び咆哮を上げてイワツノヅチは起き上がった。
そして巨体の分裂を解除し、鋼鉄の塊である自らのパーツを次々に落としていく。
それがパルスワン達にぶつかり、ダメージを与えていく。
この戦線も長くは持ちはしない。
走り、走り、走り続ける。
しかし──
「ゴオオオオオオオッ!!」
咆哮したイワツノヅチの目はずっと、イクサの方を狙っていた。
寮を飛び出した瞬間、彼目掛けて岩が飛んでくる。
自分の部屋があった場所がへしゃげていた。
そのまま大野槌はこちらを狙い、巨大な頭を伸ばす。
完全に腰を抜かしてしまったイクサは、塀をばりぼりと喰らい、こちらへ首を伸ばす大野槌相手に為す術も無かった。
「ぱもっ、ぱもぉっ」
「……パモ様」
ぱちぱち、とパモが頬を叩く。
そして「早く逃げろ」と呼び掛けてるようだった。
「ダメだよ、僕……怖くて、足が動かなくて──」
「ぱもぉっ!!」
「ごめん……折角助けに来てくれたのに……僕──もう」
「
今までとは比にならない程の電撃がイワツノヅチを襲った。
雷でも落ちたのではないかと思う程の雷撃だった。
地面に倒れる大野槌。それだけで地響きが鳴る。
下を覗いてみると──光り輝く電球を冠の如く頭に被ったキングコブラの如きポケモンが蜷局を巻いていた。
胸元には、まるで人の顔の如き模様が電飾で浮かび上がっており、チカチカとずっと輝いている。
その隣に立っているのが誰なのか遠巻きにでも分かった。
「レモンさんッ……!?」
バトルは出来ないと言っていた彼女が、ポケモンを繰り出し立っている。
それも、イワツノヅチと同様に、身体の殆どがプラズマ化したポケモンだ。
「藪をつついてアーボックを出す……ただし、うちのアーボックは少々痺れるわよ。貴方と同じ、迷宮からやってきた
「ぎゅらるるるるるー……ピピピピ!!」
「寮に手は出させない。貴方の相手は……このレモンと”ハタタカガチ”。さあ、蛇同士、仲良く絡み合いましょうか」
【ハタタカガチ オーデータポケモン タイプ:電気/毒】
霹靂を意味する古語・ハタタと、大蛇を意味する古語・カガチを組み合わせた名前を奉られたその大蛇は、人からアーボックと呼ばれるポケモンに酷似していた。
しかし、その頭部には王冠の如く巨大な電球が取り付けられており、そこから全身の電気が送られ続けている。
その象徴的な姿から、長らくシトラス家の番人としての任を任され続けてきたこのポケモンは、今現在レモンの最大の忠臣として傍に在り続ける。
「き、来た!! 無敵の電気アーボック!!」
「久々に見たぜ──ッ!!」
「委員長、俺達も加勢しますッ!!」
歓声が沸く風紀委員たち。
しかし、それに反して彼女は必死の形相をずっと浮かべていた。
時折吐き気を堪えるように手を口で覆ってさえいる。
そこにいつもの余裕は全く無い。
(まさかレモンさん、相当無理して……ッ!!)
恐怖を抑え、風紀委員たちの前に立ち、それでも彼女は戦っている。
何故ならば彼女は寮長であり、風紀委員長。
学園の平穏を乱す者、寮の平和を破る者、それが誰であっても許しはしない。
動く天災であるオーデータポケモンが相手だったとしても。
(──怖い。怖いわ。今すぐにでも逃げ出したいくらいよ。あの頃の記憶が蘇る。だけど……時間はかかってもいつかは克服するって決めたの……あの子の為にも……ッ!!)
「逃げなさいっ!! まだ、寮に残ってる生徒は直ちに逃げなさいっ!! この場は、寮長である私が抑え込むッ!! 私に任せて逃げなさいっ!!」
その叫び声は悲痛で──必死で、恐怖で縮こまっていたイクサの心を勇気づけるには十二分だった。
「貴方達も逃げなさい! 命あっての物種よ!」
「そんな、委員長を置いて逃げられません!」
「これは委員長命令ッ!! こんなバケモノと戦えるのは私だけなんだから!! 速くッ!!」
(ッ……逃げなきゃ……レモンさんの頑張りを、無駄には出来ない……!!)
多くの生徒達に遅れを取る形とはなったが、イクサも非常口から駆け出す。
だが、その瞬間にイワツノヅチは動きを見せた。一番の脅威であるはずのハタタカガチを無視し、逃げたイクサの方を目掛けて這いずり始めたのである。
当然、その方向に非常口があると知っているレモンは蒼褪めて追撃する。
「足止めよ!! ”でんじは”!!」
微弱な電気が地面を走り、大野槌を捉える。
しかし、すぐさまイワツノヅチは地面に潜り、その電気による妨害を逃れる。
速い。図体以上に、ありとあらゆる行動が速過ぎる。
そして大野槌は地面に穴を開けた後、標的であるイクサを狙い、彼の足元から穴を開けて飛び出して来たのである。
「なあああああ!?」
巨体はバラバラに地面から飛び出し、再び空中でプラズマによって数珠のように繋ぎ合わさり、蛇の如き姿と化す。
そして、震動に足を取られたイクサの身体を、
間もなく駆け付けたレモンは驚愕する。
イクサの身体は、巨体に絡め取られていた。
「し、絞め殺される──ッ!!」
「ゴオオオアアアアッ!!」
咆哮を上げながらイワツノヅチはイクサを口に近付けていく。
このまま捕食するつもりだ。
「ッ……パモ様!! マッハパンチ!!」
「ぱもぉっ!!」
だが、お留守になった脳天にパモが拳を叩き込んだ。
しかし流石に硬いのだろう。衝撃が跳ね返り、パモの方が前足を痛めてしまう始末だった。
一方弱点を突かれたことで少なからずイワツノヅチも怯んだのか、尻尾の力が緩み、イクサの身体は地面に落ちる。
「コイツなんで僕を狙ってくるんだよ……!?」
「ゴオオアアアアアーッ!!」
「転校生君ッ!!」
駆けてくるレモン。
既に心境はグロッキーそのものだったが、イクサ相手に凄んでいるイワツノヅチを見たことで足が竦んでしまう。
だが、戦場では往々にして、その一瞬が命取りとなる。
【イワツノヅチの じならし!!】
イワツノヅチは頭で思いっきり地面を叩き、邪魔者であるハタタカガチに向かって地均しを放つ。
その振動は大蛇に直撃。
電気/毒タイプであるハタタカガチには致命傷そのもの。
当然、ハタタカガチも主人が直前でオーライズを使い、自身のタイプを変えることを期待していたが──
「ッ……!!」
──完全にトラウマで立ち竦んでしまった彼女には土台無理な話であった。
ぐらり、とハタタカガチの身体は地面に倒れてしまう。
電飾の目は光を失い、身体を構成するプラズマも消え失せる。
それを見たレモンの顔は更に蒼褪めていく。
「やだッ……私、また──ッ!!」
「──ゴアアアアアーッ!!」
しかし、イワツノヅチはもう戦えないハタタカガチにもレモンにも興味を示さなかった。
彼の狙いは最初からイクサ唯一人だ。
「何でッ……僕を狙うんだ……ッ!?」
「ゴアアアアアアアーッッッ!!」
「なーんて聞いても、答えてくれるわけない、よな……!」
尻込みしたまま、イクサは迫りくる大野槌を前に頭が真っ白になっていく。
(どうすれば良い、どうすればどうすればどうすれば──ッ怖い。恐怖で頭がいっぱいだ。殺される、殺される──ッ)
──Check! 見るべきものを見ないから、一番大事なモノを見落とすのデスよ、イクサ!
頭が混乱する中、最後に響いたのはその言葉だった。
見るべきものを見ないから、一番大事なモノを見落とす。
それは「彼女」が一番敬愛するとある名探偵のセリフだった。
大きく息を吸って吐く。本当に命の危機に瀕したこの時、イクサの生存本能は──彼の最大の武器である「観察力」を呼び起こさせるべく、彼の脳を再び冷却していく。
(落ち着け、イクサ。お前の武器は何だ?
目をカッと見開く。
目の前には、拳を痛めたパモ。
そして倒れて動かないハタタカガチ。
じりじりと迫ってくるイワツノヅチ。
(見るべきものを見て整理しよう。奴が此処に現れた理由を。わざわざサンダー寮の前に現れた理由を)
「ゴアアアアアアアアアアーッ!!」
「ぱもぉ……ッ!」
(ここに現れてから、奴は僕しか狙っていない。何故なら寮が狙いなら僕が逃げた後も寮を攻撃するはずだし、他のオーデータポケモンが狙いなら、逃げた僕をわざわざ追尾してくるのはおかしい。そして、奴の見た目からして他の生物を捕食してエネルギーに変えられるようには見えない)
しかしここで不可解なのは、あの岩蛇と最初に遭遇した時、遺跡エリアが崩落した後イワツノヅチは彼を深追いしなかったことである。
(あの時と今!! 僕に決定的な違いがある……僕を狙うに足る何かがあるんだ。そしてそれは1つしかない……勝利への道は通った!!)
「パモ様……ごめんね、信じてあげられなくって」
ぽつり、とイクサは呟く。
起き上がったパモはきょとん、とした顔でこちらを見つめていた。
「ぱもぉ?」
「さっきだって僕を助けてくれたのに」
「ぱもぱもぉっ!」
君が元気ならそれで良い、と言わんばかりにパモは前足を振る。
こんなに無邪気に自分を信じてくれるポケモンを怖がっていたのか、とイクサは悔む。
確かに今だって怖い。こうして立っていられるのもやっとだ。
だが、それでも──この学園で出会った人を、ポケモンを、自分の所為で喪うのはもっと怖い。
「……こんな僕でも一緒に戦ってくれるなら、1つ、賭けに出て良いかな」
「ぱも? ぱもっ!」
「──おい、イワークモドキ。お前が欲しいのは……これだろ」
「ゴアアアアアアアアアアーッ!? ゴオアアアアアアアアアーッ!!」
レックウザのカードをイクサは掲げてみせる。
それを見て、イワツノヅチは激しく興奮したようだった。
此処でイクサの推測は確信へと変わる。
レモンにあの展望台で渡された、レックウザのカードがイワツノヅチを引き寄せていたのである。
壊れて使い物にならなかったとはいえ、元はオシアス磁気によって伝説のポケモンが記録されたカード。
そしてオーデータポケモンはオシアス磁気を大量に含む謎の生物。
カードにイワツノヅチが引き寄せられて、イクサを追っていたとすれば?
「あげるよ。……これが
イクサはレックウザのカードをオージュエルに読み込む。
「オーライズ──”レックウザ”!!」
カードが粒子の如くバラバラになって消え失せる。
やっぱり失敗か、と彼は目を瞑る。
これでカードが失われるならば、それでイワツノヅチはこちらを狙う理由が無くなる。
しかし──ばらばらになった粒子はそのままパモへと纏われていく。
だが、それは他のオーライズのように鎧のように装着するのではない。
パモの周囲に、かの伝説の龍が浮かび上がっている。
そのオーラを前に、興奮して飛び掛かるイワツノヅチ。まさにそれこそ自分が求めたものだったからだ。
オーライズを解除する”オーラジャミング”を放つべく大口を開けて電磁波を放とうとする。
しかし、それよりも遥かにパモの方が速い。
(何故ならこの技は先制技!! お前がどんなに速くても、パモ様の方が先に動くことが出来るッ!!)
強く強くアスファルトの地面を蹴り、脳天にロケットのように飛び出すパモ。
厳しく鍛えられたその拳から放たれる音速の一撃を叩き込む。
「パモ様、
一瞬、レックウザの姿が浮かんで消えた。
音速よりも速い拳に、龍の威迫が乗り──堅牢なる大野槌の身体を打ち砕く。
バラバラになって崩れ落ちていく大蛇。
プラズマで繋ぎ合わされていたパーツはごろごろと周囲に転がった。
「これで終われェェェーッ!!」
鞄から空のモンスターボールを取り出す。
あの巨体が相手なら、どんなノーコンでもボールを当てることができる。
バラバラになっていた身体には再びプラズマが宿り、数珠のように連なろうとしていた。
だがそこに、イクサが思いっきり投げたボールが飛んでいく。
弱ったポケモンは、モンスターボールをぶつけることで捕獲することが可能だ。
それは、どんなに強力なポケモンであっても例外ではない。
弱ったポケモンの身体は一気に収縮し、ボールの中に吸い込まれていく。
かくん、かくん、かくん、とボールが3度揺れた。
(頼む……入ってくれ……!)
最後にゆっくりと──かくん、とボールが揺れた。
そして、カチッとロックが掛けられる音が鳴り響く。
周囲に静寂が横たわった。
ボールの中から、もうイワツノヅチが出てくることは無かった。