12月19日:徹底鋼戦
色々な作業が積み重なっていますが私の実質的〆切はエルデンリング発売日です
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攻性子機の銃口は”二つ”ある。一つは威力の低い散弾を放つための大口径………そしてもう一つ、それよりもさらに威力が低くさらに小さい弾丸を飛ばすための細い銃身。それが大口径の銃身に隠れるようにひっそりと配置されている。
そこから放たれる弾丸に威力は無い、毒性も無ければ時間差で爆発するわけでもない。だが、それは着弾と同時に砕けるほどに脆い弾頭の中からあるものを対象に付着させる。
「よーし………付けた」
【安全領域】は今、大量の外部武装によって四脚という異形がさらに人型からかけ離れた姿となっていた。ヘルメットに表示された敵狙撃手の座標に向けて、もう何度目かもわからないミサイル爆撃を仕掛ける。
攻性子機のもう一つの銃身から放たれたのは発信機だ、それはテクノマギジェルスと同様の粘着性のあるジェルによって対象の表面にへばりつく。散弾による攻撃はこの発信機をカモフラージュするための面が大きい。そもそも本気でドローンによる有効攻撃を行うなら、モルドであればドローンに爆弾を取り付けて突進させる。
「うーん……やっていいと言われてもやっぱりちょっと抵抗あるなぁ……」
チェストリアから取り出した外付けのミサイルポッドを解放し、発信機が告げる座標に爆撃を仕掛けながらもモルドは自らの手で破壊されていくサードレマの街並みに申し訳なさを感じていた。
思い返すのは王国騒乱イベントが始まる直前のこと───
……
…………
………………
「あ、そうだルストちゃんモルド君」
「……何?」
「なんですか?」
二人に任せられた役目。情報筋から齎された情報通りであれば王国騒乱イベント後半、サードレマに奇襲が仕掛けられる。
それを防衛する役目を任せられたのがルストとモルドだ。二人にも任せるならともかく二人だけに任せるのはどうなのか、と思わなくもないモルドであったがルストはやる気充分といった様子だ。
それに聞けば奇襲を仕掛けてくるのはおそらく八人程度、とのことだ。あるいは野良のプレイヤーが紛れ込んでくる可能性もあるが、そこは本陣である太公城を固めるペンシルゴン……と知らないプレイヤー達がなんとかする、とのことだ。
「今回の防衛戦なんだけどね、被害を抑えるとかは考えなくていいよ」
「……いいの?」
「え、いいの?」
防衛というからには守るという事だ。流石に街に一切の被害を出さず守れ、と言われたら無理としか返せないがその真逆……存分に破壊して構わない、と言われれば何故と返したくなるものだ。
「ふふふ、この私の肩書を忘れたのかな?」
「……相談役?」
「そう! サードレマ大公はこの私に対して高い信頼を置いている! だからちょちょいと説得入れたら……ね?」
かつてはエインヴルス王国からも指名手配されていたはずの人物が、サードレマの政治中枢に食い込んでいるという事実は一体何をどうやったらそんなことが出来るのか、という疑問と畏怖をモルドに抱かせたがそれを聞いたところでモルドに真似できる事ではないだろう。
「でも、やっぱりある程度は被害を少なくするよう努めた方が良かったり………」
「モルド君」
「あっはい」
すっ、と半目の笑みを浮かべたペンシルゴンにモルドは思わず敬語で返事を返す。
「大公はこうおっしゃられたんだよ? 真に正しき王統の為……サードレマはたとえその半身を焼かれようとも戦い抜く、と」
それはつまり、とペンシルゴンは口を開く。
「半分までなら焦土にして構わないってことだよ」
「いや違うと思う!?」
比喩表現をそのままの意味で受け取ってはいけないし、仮にそうであったとしても許容量が都市機能の半分であって達成量として都市機能を半分吹き飛ばしていい理由にはならないだろう。
「うんうん、確かにそうだね。でもどうせなら半分焦土にしたくない?」
「最悪の発想!!」
「……モルド」
「ん? ああうん何? ルストも何とか言って───」
「……焦土にする前に全滅させればいい、そしたら三割くらいで済む」
「……………」
三割は確定であるらしい。
………………
…………
……
「サ、サードレマの平和が両肩にのしかかっている……!!」
謎にプレッシャーを感じながらも、モルドはミサイル発射の手を止めない。発信機によって筒抜けの座標を狙って先程から幾度となく爆撃と狙撃を続けているにもかかわらず……仕留められない。それは敵が民家や裏路地を巧みに使って爆撃から身を守り、狙撃から隠れているのもあるが………
(段々接近されてる……!)
けん制をした、進行方向を塞いだ、だが発信機の反応は着実に確実にサードレマ大公城へと近づきつつある。逃げているのではない、迫ってきている。
(狙撃戦を諦めて接近戦を狙うつもり? いや、そういう動きじゃない……)
モルドとて対人戦の経験は豊富だ。だからこそ、近接戦を狙う動きとそうでない動きの見分けはつく。
メット内に表示されたサードレマのマップ、そこを動く発信機のシグナルはとにかく距離を詰めようとしている、というよりは………
「くっ」
カチ、カチ、と虚しい音が狙撃銃から鳴る。それは弾を撃ち尽くしたという事であり、リロードしなければならない。外付けのミサイルポッドも無限に発射できるわけではない、あくまでも打ち尽くし次第チェストリア内にため込んだミサイルポッドと入れ替えているに過ぎないのだ。
そしてそのリソースもまた有限………必ず訪れるその”隙”がついにやってきたのだ。
───そして、それこそが敵狙撃手が狙っていた最大の好機。
「っ! 動いた!!」
◇
「原理はこの際どうでもいい、こっちの動きが完全に相手に筒抜けになっている」
発信機でも取り付けられたか、あるいは個人に絞れば残ったドローンで追跡が可能なのか。どちらにせよ絶え間なく爆撃と狙撃に襲われている以上、悠長に身体をまさぐって発信機を探す暇も今更ドローンを狙撃する暇もない。
であればジンジャーエールが取るべき作戦はただ一つ。
「我慢比べは中止だ………一気に攻め落とす!」
ジンジャーエールが設計した戦術機「GGMC:ホール・イン・ワン」は射撃能力に秀でた機体ではあるが、だからといってそれ以外が不得手というわけではない。
ゲームが思い通りにならないことなど百も承知、有利不利の天秤は些細なきっかけでいくらでも傾く。であれば天秤を再び己の側へと傾ける分銅は常に懐に入れておかなければならない。
「相手は防衛戦、もう一人に遊撃を任せている+戦術的にも防衛と支援特化の固定砲台! 場所は割れてるんだ、ならこっちのターンを無理やり作る!」
隠れていては狙えない、姿を見せては狙われる。現状がジリ貧であるというならば取れる手段はただ一つ。
我慢比べを捨て、早撃ち勝負に持ち込むこと───!!
「当然積むだろ、飛行能力!」
轟、とGGMC:ホール・イン・ワンの背部ブースターが火を噴く。魔力によって生み出された推進力が熱波を伴って噴き出し、その機体が上層街と下層街を隔てる壁を一気に飛び超える。
上空、そこは何も隔てる事が無いフィールドだ。それはもはやジンジャーエールが隠れる場所が無い、ということであり同時に敵に至るまでになんの障害物も無いという事だ。
「あとはどれだけ迎撃が来るかだが………っ!」
狙撃。だが敵の使う狙撃銃は魔力式、それ故にほんの僅かだが発射の瞬間と着弾までの過程に激しい発光が伴う。
「なら避けられる!」
左肩を掠めた光の狙撃をやりすごし、GGMC:ホール・イン・ワンはさらに直進する。ミサイルは来ない、撃ち尽くしたかそれともブラフか。もはやジンジャーエールは自身の生存を勝利条件に含めてはいない、とにかくあの後方支援さえ潰せたならば1:1交換でもお釣りが札束で出る。
それに何よりも。
「映えてくるじゃないか……!」
スナイパーライフルを担げば誰だって一度はそのまま最前線に飛び込みたくなるというもの。それをこの戦況、この状況で敢行する。
極論マッチングし直せば何度でもチャンスの巡ってくるFPSとは違う、この取り返しのつかない戦いだからこそ、少し離れた場所からジンジャーエールの猛進に付いてくる隕鉄鏡を通して彼の姿を見るリスナー達は盛り上がり、そして同時にジンジャーエール自身もテンションを上げていく。
「……行くぞ!」
がごん、と脚部に備え付けられた機構が変形し、砲塔を形成する。そして──────
ボボボボボンッッッ!!!
GGMC:ホール・イン・ワンと、大公城。双方向からほぼ同時に煙幕がばら撒かれた。
よーく耳を澄ませると発信機が音を出してるのが聞こえるし若干発光してるんだけどモルドが見えづらいところに張り付けたのと爆撃の音で分からないようにしている
あと地味に戦術機の指だとジェルが剥がしづらいというトラップ