12月17日:メラメラ・ビートアップ Part.6
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チャンネルシステム。それは認識の分岐、あるいは統合を指す。
シャングリラ・フロンティアというゲームは膨大なアクティブユーザーを一つの世界で活動させる。だが不思議に思ったことは無いだろうか? 今なお新規ユーザーが増え続け、サービス開始時からプレイしているユーザーの全てが新大陸に行っているわけでもない現在、何故そこまで広いわけでもない旧大陸マップがプレイヤーで飽和していないのか、と。
少なくともサービス開始時に跳梁跋扈の森がプレイヤーで埋まった、だとか貪食の大蛇挑戦に長蛇の列ができた、なんて報告は無い。サードレマほどの大都市ともなればNPCの数も十や二十そこらではなく、大量のプレイヤーに加えて大量のNPCも合わせれば数千人どころではない数の人間がサードレマ内に詰め込まれていてもおかしくはない。ではなぜそうではないのか。
それこそがチャンネルシステムによるものだ。プレイヤーはそれぞれが特定のチャンネルへと割り振られ、他チャンネルのユーザーをそもそも認識することが出来ない。分かりやすく言えばMMOではそう珍しくない複数のサーバーに分けられるプレイ環境を一つのサーバーで行っているようなものだ。
ではなぜそんな回りくどいことをするのか。それを説明しようとすると「シャンフロはただ一つの世界」と信じて疑わないし周囲にもそれを受け入れさせるワールドアドミニストレーターの存在に言及しなければならないので今は割愛させていただく。
重要なのはチャンネルシステムはあくまでも一つのサーバー内で行われている認識の分岐であり、誰かの視界には十数人しか映っていないとしてもその実、そこには数百人がいるという事。また同時に「複数のチャンネルを跨いで認識される条件」を満たせば特定の個人が全てのプレイヤーに認識されることもある、という事………それだけを理解してもらえばいい。
重要なのは……………
「効いたっ!!」
「要するにこの形態の時は本体がら空きってことかよ!!」
「目玉止まった! 押せ押せ押せーっ!!」
焠がる大赤翅との戦いの中で明確な「有効打」を叩き込んだ彼らの姿と、それを目撃したプレイヤー達の声、そして晒された大赤翅の"隙"はチャンネルの壁を超えてこの場所で戦う全てのプレイヤー達に伝わった、ということだ。
「Kyyyyyyyyyyyyyyy!!」
その象徴とでも言うべき炎の翅大部分を毟り取られた大赤翅であったが、金切り音を出しつつもすぐさまエネルギーを生み出して翅を再構築する。だが獲物が弱った姿を晒してしまったのならば、そこには飢えた肉食獣達が群がり食い付くと相場が決まっている。
「眼球出してる時はノーガードだ!」
「オイカッツォ、畳み掛けるか?」
「いや、防御形態と攻撃形態があるって事はこっからが大縄跳びって事でしょ!」
エンタルピーイーターを構えたエターナルゼロの問いかけにオイカッツォが否を返した直後、上空に展開されていた夥しい数の灼眼球が一斉に消える。
「防御固めたぞ!!」
「叩き割れ!」
「あっバカ! 物理で触れたらアウトだっての!!」
にわかに色めきだった事で混乱状態になりつつある戦場、何人かが氷像になったのを視界に入れつつオイカッツォは声を張り上げる。
「奴が氷で防御してる時は氷系の魔法で防御を砕く! 眼を展開したら本体を叩く! 物理特化はまだ待機! 気張れ魔法職!!」
オイカッツォには、ペンシルゴンのように綿密に仕込んだ筋書きを通すような策略は無い。
オイカッツォには、サンラクのようなその時のテンションで自然と他者を引きずっていくような強引さも無い。
故に、オイカッツォは結果を示して人を束ねる。敵も味方もプレイヤーもNPCも区別せず人の命を将棋の駒扱いするでもなく、誰よりも先を進んで正解だろうが不正解だろうがお前らはこの道を走れとするでもなく、「こうすれば勝てる」という結果を示して信頼を得る。
だからこそこの場にいた魔法職達は結果を示したオイカッツォを認識し、チャンネルを跨いで響き渡った指示に従って魔法の数々が焠がる大赤翅へと叩き込まれた。最初はバラバラだった魔法は繰り返すうちに最適解へと収束していき、焠がる大赤翅の姿が段々と削り取られて小さくなっていく。
「これ物理職そもそも不要論?」
「───いいや、違う」
その様子を見て、ぼそりと呟いた独り言に対して否定したのはエターナルゼロだった。
五歳児程度にまで肉体を小型化させているシャンフロでも屈指のふざけた見た目のプレイヤーであるが、ことベヒーモスに関連する情報に関しては彼一人でライブラリに匹敵する程の情報量を保有している。
というのも、「ママとお勉強」という常人にはちょっと理解できない境地によるデータベースの閲覧を繰り返してきたエターナルゼロはベヒーモスに常駐する【ライブラリ】の面々とのディベートにも積極的に参加するなどして、様々な情報………かつて神代が直面した始源の脅威に精通している。
「焠がる大赤翅は神代の頃は脅威度が低い扱いだった。それは奴がエネルギー生産に集中している間はほとんど敵意を見せなかったからだ……だが神代文明が奴をエネルギー源として利用した時には敵対行為を行った、とベヒーモスのデータにはあった」
「要点をまとめると?」
「熱は副次効果に過ぎねえ、奴の本質は……「尽きない力の塊」って事だ。熱エネルギーだけじゃねえ、奴はあらゆる「力」を行使できる!」
識る事。それこそがシャンフロ世界における大原則。認識は理解に繋がり、理解は対策に結びつく。
オイカッツォは彷徨う大疫青との戦いの経験がある、無論焠がる大赤翅と彷徨う大疫青は全く別のモンスターであるが……同じ「始源眷族」である。
であるならば、今やってない事をやり始めるのは何時なのか。
答えはただ一つ。
「Boooooooooooooooooooommmmmm…………!!」
───其れは、神に最も忠実な眷族である。
───ただ己が種の永劫を願ったその蝶は巨いなる白き神の一部となる事を拒まず、ただ忠実に求められた役目を果たしてきた。
───しかし、永劫とは即ち安定。それを崩されるならば、蝶は自らの力で自らを護らなければならない。
───故に蝶は……遥かなる太古、確たる命として羽ばたいていた存在は白き神に乞い願う。
───どうかひとときの暇を。我が身より出でし力の悉く、神に捧げし供物を我が意のままに振るう許しを。
───亡骸は応えた。
『焠がる大赤翅を縛りし盟約が解ける───』
『赤色の巨躯が蘇る───』
『始源解帰!』
───存分に暴れよ、かつては山河を跨ぎし巨大なる者よ。
赤=炎、ってのは現代かぶれな認識ですね
神代よりもさらに前、始源の時代においてニラ蝶になる前のとある種族はもっとプリミティブかつプライマルな力の塊なのです
責任感が薄かったので白き神のスカウトに特に抵抗しなかった
ニラ蝶「養ってくれるなら別に取り込まれてもいいっすよ」
あとチャンネルシステムですが、竜災大戦辺りの頃から意識してはいるので言うほどぽっと出の設定ではないです。竜災時点で描写しなかったせいでここまで説明挟めるタイミングが無かったので……