ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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第9話:崩落

「迷宮ってのは、トンデモ空間の集合体やねん。それが裂け目と裂け目で繋がって、アイアントの巣みたいになっとるんや」

 

 後ろからハッカ、テマリもやってくる。

 自分達が出てきた裂け目を確認すると、ハッカはそこに旗のようなものを突き刺すのだった。 

 

「それは?」

「マーカーフラッグや! 迷宮探索する時は、裂け目の前にこいつを刺しておくねん。そしたら、後でロトムタブレットの機能で、自分が行った裂け目の場所が分かるようになる」

「迷子防止ってわけなんよ。ハッちゃんみたいにそそっかしい人には必須やね」

「皆やっとるわい!」

「でも確かに、フラッグを立てなきゃ訳分からなくなりそうだ。迷宮っていうから、石の壁の迷路がずっと続いていくのかと思ってた」

「せやけど、迷宮の部屋には必ず()()()()()がある。普通の森に見えるけど、壁があるんや。空もあるけど、見えない何かで覆われとる」

「箱庭の異空間ってことか……で、でも、何でこんな空間が……!?」

「分からん。ポケモンと同じや。常識が通用せえへんから、迷宮って言うんやで。危険度の低い迷宮は、ポケモンも弱いし、部屋の数も少ない。でも、危険度が高くなると頭おかしいくらい部屋の数も多いらしい、ポケモンもごっつ強いらしいで」

「うちは今から不安よ……」

「なんや、ビビっとるんか? 先が思いやられるで、ホンマ」

 

 けらけら、とハッカが笑ったその時だった。

 彼の目の前に──何かが落ちてくる。

 いきなり現れたそれを前に、ハッカは尻餅をついてしまうのだった。

 

「どわぁっ!? なんや!? なんやねん!?」

「……ハッカ君が一番驚いてるじゃないか……このポケモンって」

「あは、かわいーなぁ、ケムッソやん」

「きゅぃ」

 

【ケムッソ いもむしポケモン タイプ:むし】

 

 落っこちてきたのはトゲトゲとした芋虫のようなポケモン・ケムッソだ。

 もちもちとした口がチャーミングである。

 危険度が低い迷宮という事もあって人間がしょっちゅうやってくるからか、警戒心皆無でこちらを見つめている。

 

「ほんとだ、かわいい! 生で見ても可愛いなあ!」

「きゅぃ?」

 

 ごろん、と寝っ転がるケムッソ。自分が可愛いと分かっていなければ出来ない仕草である。

 しかしその後ろで1人、ハッカだけが顔を真っ青にして震えていた。

 

「俺、芋虫のポケモン全般ムリなんや……うにうにしとるのが怖いねん!! うにうにしてんのが!」

「ええ? 何でさ、こんなに可愛いのに」

「そやそや」

「ひえーっ、病院で感性見てもらいーや二人ともォ!!」

 

(どっかで似たセリフを見たなァ……)

 

 走ってその場から逃げていくハッカ。彼にも意外な弱点があるようだった。

 

「ああクソ、これだから森林エリアは嫌やねーん!!」

 

 そう言って彼が進んだ先に、運良く裂け目が現れている。

 

「お、ツイとるわ! このまま次のエリア行くで!」

「待ってよ! 宝物はええん!?」

「一人で行くと危ないよ!」

「ええわ、ええわ! 今回は転校生に迷宮の何たるかを教えたるのが先や!」

「そんな事言って、虫ポケモンの巣窟から逃げたいだけじゃないの?」

「芋虫が無理なだけやねん! ぞぞ毛が立つ!」

 

 すぐさま裂け目に飛び込むハッカ。

 イクサとテマリも追いかけていく。

 そうして飛び出したのは──最初、イクサが想像していたような石の壁と石の天井、そして石の床の遺跡のような場所だった。

 

「一気に景色が変わった……ッ!!」

「おもしろいやろ? この辺りには岩タイプとか地面タイプが生息してんねん。ダンゴロとかサンドとか。ふぅ、実家のような安心感やわ」

「そやなぁ」

「けむぅ」

 

 うにうにと動くケムッソを抱きかかえたテマリに、ハッカは尻餅をついて引き下がってしまう。

 

「ヒィッ!! ヒェェッ!! 何で持ってきとんねんオマエ!!」

「この子捕まえよかなあって。ええやろ?」

「早く元居た場所に帰して来んかい、アホォ!!」

「えー、何言っとるか分からんわぁ、うち、おっぱいぺったんこの子供やもん、難しいことなんも分からへん」

「ひぃぃぃ、くっつけるなぁぁぁぁ!?」

 

(もしかしてテマリさん、昨晩の事まだ怒ってるのかな……)

 

 乙女を怒らせてはいけない。くれぐれも。

 ケムッソを元のエリアに戻した後、すっかりグロッキーになってしまったハッカは、とぼとぼと後ろの方を付いてきている。

 

「それにしても宝物ってどこにあるんやろなあ」

「知らへん知らへん……もう勝手にしとくれ」

「ねえ、ポケモンも全然見えなくないか? さっきはケムッソがすぐ見つかったのに」

「あん? ……確かにそうやな。割と歩いてたら見つかるモンなんやけど」

「楽しみにしてるんだけどなあ。僕、手持ちがパモ様しかいないし」

 

 しばらく歩いていると──待っているのは、異様な光景だった。

 イクサ達は思わず足を止める。

 待っていたのは、床に開いた大量の穴だった。

 それも裂け目などという抽象的なものではない。

 文字通り、ポケモンが掘削し、掘り進めた穴である。

 だが、この辺りに生息しているであろう小型ポケモンが開けたものではない。

 直径は凡そ1メートル。少なくともそのサイズのポケモンが開けたものと考えて良い。

 それが恐ろしいことに幾つも部屋中に穿たれているのである。

 

「ね、ねえ、ハッちゃん。おかしくない?」

「……こんなサイズのポケモンが此処に生息しとるなんて聞いてへんで」

「……瓦礫の断面はまだ新しい。最近開いたものだ。周りにポケモンが居なかったのって、このポケモンが出てきたから皆逃げてるとか」

「そ、そりゃそうやろ……こんなんおったらあかんて。先生に報告して、俺らは早よ逃げんと……ってか、他のチームが此処に来たらあかんわホンマ」

 

 幸い周りには自分達しか居ない。

 居ないのであるが──このサイズの穴が幾つもあるとなれば、最早敵が何処から出てきてもおかしくはなかった。

 すぐさまイクサ達は退避を始める。しかし。

 

 

 

「ゴォォォォォ……ピピピピピッ!!」

 

 

 

 何処からか声が聞こえてくる。

 そして地面が震えて、イクサ達は足を取られ、動けなくなってしまう。

 天井が落石する中──地面に新たな穴が開く。

 そして、地中から這いずり出るようにそれは現れたのだった。

 鋼の塊が連なった蛇の如き姿をしているポケモンだった。

 そして、その形状や特徴はイクサの知る、とあるポケモンの姿と一致する。

 

 

 

「イワーク……? で、でも、こいつって……!」

 

 

 

【イワーク(?) ???ポケモン タイプ???/???】

 

 

 

「ゴオオオオオオオ……ピピピピピッ!!」

 

 

 

 イワーク。

 それは、岩の塊が連結された蛇のようなポケモンだ。

 その体長は6メートルにも達するとされている。

 しかし、その巨体に反して決して強いとは言えないポケモンだ。

 非常に防御力が高い反面、それ以外のステータスは壊滅的に低く弱点も多いからである。これは、所謂初代ポケモンの1面ボス(つまりジムリーダーの切札)として設定されたからと言われている。

 従ってイワークならば、此処にいるハッカのテッポウオが居れば簡単に倒せるはずだった。

 問題は──その姿がイクサの知るものとは大きく異なる点だ。

 本来岩のようになっている身体は鋼で出来ており、しかも工業製品のような多面体となっている。

 更に、それらを繋いでいるのは青白い電磁波だ。

 よく見るとその多面体の身体も一つ一つが離れている。ばらばらの身体をプラズマでつなぎ合わせているようだ。

 言ってしまえば、プラズマ体である本体を守る為に、イワークを模した鎧を身に纏っているのである。

 

(な、何だこいつ……!? 未来のポケモン──でもない! あいつらがポケモンを象ったロボットなら……イワークの形をした()()()()()()()()だ!! まるでロトムみたいな……ッ!!)

 

 似て非なるポケモン──「ポケットモンスター スカーレット・バイオレット」に登場したパラドックスポケモンの前例から、イクサはイワーク(?)が本物とは違う別物であると判断。

 事前情報から戦うのは危険だと判断する。

 

「何ボケーッとしとんねん!! 死ぬぞッ!!」

「あ、ああっ!! ごめん──」

 

 うねりながら迫りくるイワークに酷似した謎のポケモン。

 そこから逃れるように、3人は駆けていく。

 案の定一番足の遅いイクサが、遅れているのであるが。

 

「お前ッ!! もうちょい急がんかい!!」

 

(ヤバい、胸が痛い……ッ足も……ッ!!)

 

「気張れ気張れ!! 死にたくないやろ、こんな所で!!」

「あーんっ、何でこんなんなるんよ! 聞いてへんよーっ!」

「おい、もうすぐや!! もうすぐ裂け目やで!!」

 

 あのイワーク(?)の巨体では裂け目をくぐることはできない。裂け目にさえ辿り着けば、逃げ切ることができる。

 そう思われた時だった。

 

 

 

【イワーク(?)の じならし!!】

 

 

 

 地面が再び揺れる。

 そして、大きな音を立ててそこを起点に床に幾つもの亀裂ができる。

 次の瞬間、脆くも地面は崩れ落ちていく──

 

「んなっ……!?」

 

 巻き込まれたのは一番後ろを走っていたイクサだ。

 足場が崩れたことで、バランスを崩し、そのままイワーク(?)諸共彼も落ちていく。

 しかし──その手を掴んだのはハッカだった。

 

「ったく、世話焼かせやな、転校生ッ!!」

「ハ、ハッカ君……ッ!」

「しっかり掴まっとけよ、今引き上げたるからな──ごっ」

 

 するり、と彼の手から力が抜ける。

 見ると──ハッカの頭には、天井から降ってきた瓦礫が直撃していた。

 

「ハ、ハッカ君ンンンッ!?」

「ハッちゃんんんんん!? イクサ君んんんんん!?」

 

 テマリが駆けつける間もなく、そのままイクサの身体は重力に従い、落下していく。

 彼女が大穴の底を覗き込むと──そこには、巨大な裂け目が現れていた。

 

 

 

「あ、あかん……イクサ君、あそこに落ちたん……ッ!?」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「何ィ!? 迷宮で見た事のないポケモンが出た上に、フロアが崩落して転校生が落ちたァ!?」

 

 

 

 ──数十分後。

 気絶して大きなたんこぶをこしらえたハッカを背負い、テマリは先生に報告をしていた。

 この異常事態に、生徒達は皆入り口まで呼び戻され、バスの前に集合している。

 テマリは泣きそうな顔で、迷宮のマップの部屋の1つを指差した。

 

「崩落したのはマップの此処……やと思う」

「遺跡エリア2か……崩落した床下にもう1つ隠し部屋があり、そこに巨大な裂け目があったといったところだろうな。そいつは、裂け目から現れるなり、上のフロアに穴を掘って進出してきたんだろう。昨日の前調査の時点では何事も無かったはず──ッ!!」

 

 歯噛みするダイモン先生は学園に連絡をする。

 そして、続けて彼女に問うた。

 

「現れたポケモンは──」

「イワークみたいな姿しとったけど……ばちばちーって光ってて! えーと……シトラス家とクランベリ家とマスカット家に代々伝わってるっていう、あの……」

「……現れたのか、新たな【オーデータポケモン】が。そいつも裂け目に落ちたとすれば……転校生は二重の危機だ」

「そんなぁ!?」

 

 ダイモンの顔が更に変色する。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──ッザザの地下迷宮で異変が!? 転校生がそれに巻き込まれた!?」

 

 

 

 受話器を取ったレモンの顔は青ざめていた。

 そしてすぐさま立ち上がり、モンスターボールを手に取ろうとして──彼女は自らの手が震えたのを感じた。

 

(……バカね……こんな時に、こんな時にまで怯えてたら……シトラス家の名折れ……いつまで経っても()()なんて出来る訳が無い……ッ!!)

 

 嫌な予感が当たってしまった。

 普段のクールさを取り繕っている場合ではなかった。

 しかし、ボールを握ると嫌な汗が流れ出てくる。

 

(……彼をこの学園に置いたのは私……私が責任を持って、彼を助けないと)

 

「そう、任務部隊を結成するのね。私が向かう」

『──』

「ええ、問題無いわ──残りの二人は必然的に決まるでしょ?」

『──』

「……すぐに準備をするわ。侮らないで頂戴。私は学園最強のトレーナーなのよ」

 

 電話口では努めて冷静に言って、彼女は通話を切った。

 そして続いて別の電話がスマホロトムに掛かってくる。

 いつも決闘の代理をしてもらっている「彼女」からだった。

 声色はまだ掠れており、風邪の症状を未だに引きずっているようだった。

 

『──ッ、──ッ!』

「バカね。貴女、まだ熱が下がってないんでしょう」

『──ッ!!』

「心配しないで。久しぶりに出たら案外大丈夫かもしれないしね」

『──ッ!! ──ッ!! ──ッ!!』

「病人は大人しく寝ていなさい。これは寮長命令よ。ただでさえ非常時なのに、のこのこと出てきてウイルスを撒き散らさないで頂戴。いいこと?」

 

 虚勢だった。

 既に右手には手汗が嫌なほど浮かんでいた。

 

 

 

「……寮長として責任は取るわ、イクサ君。この私自らが」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──スカッシュ・アカデミアの3年生の中でも、特に成績優秀と認められた者達は独自の迷宮探索チームを結成することになる。

 彼らはそこらのプロの探索者たちよりも優れた能力を持つと認められており、トレーナーライセンスも所持。

 危険度が高い迷宮であっても平気な顔で帰還できるような面々だ。

 学園付近の迷宮のフロア崩落、新たな裂け目と謎のポケモンの出現。学園が最高戦力を出すには、十二分な状態だ。

 

「裂け目から溢れ出しているオシアス磁気の量は危険度3に相応」

「……じゃあ内部は、下手したら危険度4くらいはあってもおかしくない、か。ザザはもう新入生が入れるような場所じゃないな」

「あら。危険度4じゃ足りないだなんて嘯いてたじゃない、貴方達」

 

 防護スーツを着て、周囲を閉鎖している男子生徒達の前に現れたのは──既に装備を整えた後のレモンだった。

 授業以外では滅多に迷宮の探索に現れない彼女を見て、彼らは色めき立つ。

 

「りょ、寮長!? 何で此処に!?」

「……あら、私が居たらおかしいかしら。今回の探索チームは3人。私達、寮長3人組よ。迷宮崩落は重大事変に匹敵するもの」

「だ、だって、寮長、しばらく迷宮の探索に出てないし……」

「何だって良いでしょう? 気まぐれよ。それとも、私の実力を疑ってるのかしら?」

「い、いえ……」

「おいおい、誤魔化してんじゃねえよレモン。風紀委員長様が転校生の救出に立候補したって聞いて、大事件になってるぜ」

 

 つかつかと歩いて来たのは──ファイヤー寮の寮長・ラズ。隣には、フリーザー寮の寮長・シャインも立っている。

 三寮長が此処に今、集結したのである。

 

「あら、ラズ。貴方はてっきりだんまりを決め込むと思っていたわ」

「テメェの事は気に食わねえがな──あの貧乏人はもっと気に食わねえ!! 寮長になって以来、初めての屈辱だ。だから──きっちり決闘でお返ししてやるのよ」

「ははは、要するにツンデレ……ということかな。ラズも可愛い所があったんだね」

「ブッ殺されてえのか、変態野郎ッ!!」

 

 茶化すシャインの胸倉を掴むラズ。そんな彼を意にも介さず、シャインは続けた。

 

「最近の断続的な迷宮出現と、何かしら関係があるんじゃないかって私は睨んでいるんだがね……」

「要は裂け目の急な出現が全てだろ。原因は何なのかさっぱり分からねえがな」

「その前に救助よ。貴方達、くれぐれも目的を見失わないで頂戴」

「んだよ。一番人命救助に興味が無さそうなヤツが熱くなってんな」

「あら。そう見えるのかしら」

 

 3人は迷宮の入り口に並び立つ。

 

 

 

(……必ず助けるわ。イクサ君)

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