ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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前作「ポケモン廃人、知らん地方に転移した。」と今作は、元々構想を1つとする同じ作品でした。学園モノや迷宮と言った要素を、今作が引き継いでいます。


第8話:迷宮

 ※※※

 

 

 

 ──スカッシュ・アカデミアは学園都市ということもあり、校内には食堂だけではなくチェーン店も多数存在する。

 それでもランチタイムやディナータイム帯は混雑していて席を確保するのは大変だった。

 彼らの夕食はハンバーガー店。窓からは大砂漠が見えるほどに近い。

 

「ほんま、こっちに留学する時一番懸念しとったんが飯や飯」

「そやな……海外はゴハンの事情が全然違うもん。だから、こういうお店があるのはほんま助かるわ」

「海外展開のチェーン店でしっかりしてるところなら、口に合わないってことはそう無いだろうからね」

 

 海外旅行をする時の基本的なライフハックだ。

 食事で失敗したくなければ、海外展開のチェーン店を探せ、である。

 

「でもくれぐれも飲み水には気ィ付けぇや。水道の水は腹壊すで」

「ああ、それ僕も寮に入る時口を酸っぱくして言われたね」

「こっちの水は列島民には合わへんのや。お水買っておくのが一番手っ取り早いかもな」

「それにしても、イクサ君大丈夫? 全然食べてへんよ?」

「あ、あははは……僕小食で」

 

(言えない……こっちの世界に転移してきたばっかりの所為で、レモンさんから貰った小遣いしか無いだなんて……)

 

 学費の問題が解決したとはいえ、極貧貧乏学生街道まっしぐらであった。

 正直、イクサも幾ら圧倒的格上とはいえ、女の子のヒモのような状態はプライドが許せない。

 こう言った交際費に掛かる分くらいは自分で稼ぎたいと考えていた。

 

(学園都市内の食堂なら無料だけど、混むからなあ……困ったもんだよ本当)

 

「ええ? あんまり食べてないと不安になるやないの」

 

(……テマリちゃんが食べ過ぎなのでは?)

 

 テマリのトレーの上には、山のようなハンバーガーが今にも崩れそうになっていた。

 完全に運動部か力士が食べるような量である。

 

「あのな! 誰もかれもテマリちゃんみたいにアホみたいな量食べるわけやないんやで!」

「ちゃ、ちゃうもんっ。うちは今日色々あってお腹空いただけやもん……」

「聞いてぇや、コイツな、昔から飯を山ほど食うねん。それでこんなちっこいんやから、食った分何処に消えとるんか、分からへんやろ」

「ハッちゃん……恥ずいから、やめてぇよ、いけず」

「胸もぺったんこのまんまやったなあ結局……」

 

 ゴリッ

 

「お、おおおお……ッ!! 二回目!! 本日二回目や!! 砕ける……ッ!!」

「イクサ君、ハンバーガー1個あげよか?」

「いや、大丈夫。大丈夫だから……」

 

 悶え苦しむハッカを横目にハンバーガーをもさもさ頬張っていると、更に疑問が1つ湧き出て来る。

 

(後、こうして当たり前のように肉食ってるけど、()()()なんだコレ……)

 

 この世界には大体人間かポケモンしか居ない。

 つまり、こうして食べている肉は──必然的に何かのポケモンの部位であることが確定してしまっているのである。

 気になってしまったので軽く調べ、そして調べなきゃよかったと後悔したイクサは、そっとタブレットの電源を落とすのだった。

 

「どうしたんや、進んでへんで」

「いやっ、何でもない! 何でも……」

 

(僕はこれから……この世界の食事にどうやって折り合いをつけていけばいいんだ……)

 

 モォー、とミルタンクの鳴き声が頭の中で響いた。食わないと生きていけないのであるが。

 

「ハッちゃん、そう言えば明日やったよね? 迷宮演習って。準備はできてはるん?」

「ああ、基礎演って明日やったっけ……ごっちゃになっとったわ」

「もう!」

「そう言えば──迷宮演習って、何をやるの? 僕、まだ転校してきたばかりで、その辺りがよく分からなくって」

「文字通り、迷宮に潜るんや。スリーマンセルで班を作るねん」

「うちらが潜るのはまだ練習用迷宮で、危険度がとても低いんよ」

「危険度?」

「うん。内部に充満してるオシアス磁気の量と、ポケモンの強さで迷宮の危険度は変わるんよ」

 

 曰く、練習用迷宮とやらの危険度は1。

 中に生息しているポケモンも、非常に弱く、オシアス磁気の量も少ないので長時間居ても危険性が低いという。

 

「此処で先ずは迷宮の何たるかを学ぶんや。中でポケモン捕まえたりすんねん」

「ふぅん……それにしても、不思議だな。迷宮って地下なんだろ? でも、オーカードを見ると明らかに地下に居なさそうなポケモンもいてさ。よくもまあ、太陽の光も届かない地下で生きてられるなってな」

「ああ、それは見てからのお楽しみや」

「そやなぁ、多分驚くと思うよ?」

 

 ネットにも迷宮内部の画像はあまりない。

 オシアス磁気が電子機器に影響を与えるかららしい。

 

(ま、どうせダイパリメイクの地下大空洞みたいなカンジなんだろうけどさ)

 

 正直ポケモンの世界で深く考える方が野暮なのだろうとイクサは考えるのをやめた。

 既にテマリは10個目のハンバーガーに手を付けていた。

 

「……んーっ、おいし……! やっぱもうちょい御替わりしよかな」

「出禁なるでホンマ!! ぶぶ漬け出されんのオマエの方や!!」

「だって夜お腹空くんやもん……」

「それ以上はパフュートンなるでホンマ」

「誰がパフュートンよ! 太らへんもんっ!」

 

(ほ、本当に全部食べるつもりなんだね……)

 

 夫婦漫才のようなやり取りを繰り広げる二人を見ていると微笑ましい気分になってくる。

 ひょっとしなくても邪魔なのではないか、と思わないでもないが。

 そんな事を考えていると、ピコン、とタブレットにメッセージが入ったのが見えた。

 開くとレモンからだった。

 

『大変だったようね。例のファンクラブはこっちで処分したから安心して……と言っても安心できないでしょうけど。割とこういうことがしょっちゅう起こる場所なのよ』

 

 そんな文言がつづられていた。

 

『何かあったら、また相談して頂戴』

 

 風紀委員にも今日の件は伝わっているのだろう。

 日頃はクールに人を弄んでいるようだが、何やかんやこちらの気を遣ってくれているらしい。

 

(もしかして、僕も既に手玉に取られてしまってるのかな……うーん?)

 

『大丈夫です。お気遣いありがとうございます。それと──友達が出来ました』

 

 あまり心配させたくもないので、すぐに送信し返した。

 すると、ピカチュウのスタンプが間を置かずに押される。

 

(……意外とスタンプ可愛いんだな……レモンさん)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──意外と満喫してるのね。ま、あの状況で正面きって自分の目標を言えるくらいだもの。図太い通り越して肝っ玉ね」

 

 

 

 誰も居なくなった風紀委員室で一人、レモンは安心したように笑みを浮かべた。

 執務机には書類の山が相変わらずたまっている。そして夜食のハンバーガーの包み紙が隅に置かれていた。

 

(元気づけられるのよね……逆境を物ともしない力……そっくりだわ、()()と)

 

 未だに熱が下がらない代理の顔が頭に過った。症状が症状なので見舞に行くことすらできないのがもどかしい。

 

(何かあった時、私じゃ助けてあげられるか分からないし……()()が復帰するまでに何事も起こらないと良いけどね)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──翌日。

 その日は午後から迷宮演習の授業だった。 

 パモ様にフードを上げて、ブラッシングしてあげてボールに戻し、準備は上々だ。

 そして、集合場所に辿り着くと──後からハッカとテマリが手を振ってやってきた。

 

「おいおい、俺らよりよっぽど早いやないか! 気ィ早すぎとちゃうんか?」

「もしかして、迷宮に潜るって聞いてテンション上がってはるん?」

「そうだよっ! やっとポケモンを捕まえられるんだ! この地方で初めて野生ポケモンに会うわけだし!」

 

 何よりポケットモンスターというゲームはポケモンを捕まえるのが醍醐味のゲームだ。

 それを実際に自ら体験することが出来るのだから、楽しみではないはずがない。

 

(此処から……僕のレックウザへの道は始まるんだ! ワクワクするなあ!)

 

 その後もまばらに生徒が集まっていき、5分前には全員が揃っていた。

 基礎演習は比較的小人数のグループを教師が面倒を見るらしく、集まったのは全部で12人。

 そして、学園の用意したバスに順々に乗り込んでいく。発車後、改めて教師から説明があった。

 軍服を身に纏った瞳孔の開いた妙齢の女性だ。こういった実技の授業では人間の教師が担当する事が多いらしい。

 

(ま、AIにポケモンが扱えるはずがないし、当然か……)

 

「私語を慎みたまえ。今回ひよっ子の貴様等の面倒を見るのは、この私ダイモンだ。探索するのは危険度1の”ザザの地下迷宮”。中に住んでいるのは子ウサギ程度のポケモンばかりだが、油断は禁物だ」

 

【サンダー寮”トレーナー科教師”ダイモン】

 

 ザザの地下迷宮は、学園から最も近い場所に位置する迷宮だという。

 

「今回の課題は、迷宮内部に私達が事前に置いた”お宝”を取得する。貴様等は4つのグループに分かれてもらい、迷宮を探索。お宝を最も多く獲得できたグループの勝利となる」

「お宝かァ……何やろなア」

「私語を慎めと言ったはずだが?」

「ハイ……」

 

 鷹のような眼光、そしてあまりにも低くドスの利いた声。

 あのやかましいハッカも一瞬で黙らされてしまった。

 そんな中、恐れ知らずな生徒が1人、手を上げた。

 

「──質問! 1位になったグループに何かご褒美とかあったりするんですか!?」

「無い。そんなものを用意して無茶な事をされたら困るのでな。此処の生徒の血の気の多さは、既に貴様等もしっかりと味わっているだろう。言っても無駄だろうが──くれぐれも似るなよ」

 

 私語ではなく質問であれば、真摯に対応してくれるようだ。だが、その回答には何処か疲れ切ったものをイクサは感じ取っていた。

 

(切実だ……)

 

「これで迷宮内で激しく争い合うチームが出たりしたからな……ああ、思い出しただけで胃が痛くなる……去年は迷宮演習1回目で流血沙汰だったからな……お前達が大人しそうな奴等で正直私は大分助かっている」

 

(厳しそうな先生だと思ってたのに、だんだん可哀想になってきたな……)

 

「重ね重ね言うが、くれぐれもお前達は人間同士で迷宮内でバトルしないことだ。本来、迷宮内ではそんな事をしている場合ではないからな。全員で生還しなければいけない時にお互いに潰し合ってどうする。そう言ったはずなんだが……ああ、思い出しただけで憂鬱だ」

 

(成程、迷宮の中でトレーナーとバトルしちゃいけないのか)

 

 先生たちもあの治安の悪さには頭を悩ませているであろうことは容易に想像できた。

 後半はもう注意喚起とか説明ではなくほぼダイモン先生の愚痴になっていた。

 そんなこんなで目的地にバスがたどり着き、降りた生徒達は、早速今回の迷宮に相対することになる。

 太陽が強く照り付ける砂漠に、大きく口を開けた洞穴だ。砂漠を突き抜けて、石の洞窟がせり出してきている。

 一昨日のような地震で地殻変動が起き、地中から出現したのだということが目に見えて分かる。

 

「さて、転校生。改めて私の方から貴様に向けて迷宮探索の基本を説明しておこう」

「はい──お願いします」

「先ず、今貴様が持っているポケモンは()()()の1匹だけだろうが……迷宮という場所に、ポケモンは1匹だけしか連れていけない」

「はい……はい!?」

 

 イクサは思わず迫真で聞き返す。

 

「い、一体、何で」

「オシアス磁気はボールを通してポケモンに影響を与える。そして、磁気が非常に強い場所ではポケモンが暴走する事がある」

「……じゃあ猶更ポケモン数匹持って行った方が抑えられるんじゃないですか?」

「ボール越しに……と言ったはずだ。これが何を意味するか分かるか?」

 

 イクサはしばらく考えて──鳥肌が立った。

 手持ちのポケモン6匹が同時に暴走する可能性である。

 

「暴走したポケモンは勝手にボールから出てきて見境なく暴れる。これは非常に危険だ」

「な、成程……じゃあ、1匹だけに絞る理由って何ですか?」

「──絆だ」

「え?」

「オシアスでは昔からポケモンと人間の強い絆の力が信じられてきた。そして、オシアス磁気の影響を最も受けにくいのは、ポケモン1匹だけを連れている時という研究結果が出ている。何故かは分からないが……此処では絆の力でどうこう、ということになっている」

 

 非科学的極まりないがな、とダイモンは続けた。

 

「だから、人々はオーカードとオーライズを駆使し、一匹のポケモンと、時に他のトレーナーとのチームワークで迷宮を攻略する必要があるのだ」

「もしかして、決闘がポケモン一匹だけを選出するのも──」

「ああ。迷宮の探索という”実戦”を見据えたものになっている。転校生、お前はなかなか勘が良いな」

「じゃあ、この迷宮でもポケモンが暴走する可能性があるんですか?」

「いや、危険度1の迷宮は磁気自体の濃度が非常に薄い。ポケモンが暴走する危険はないと言っても良い。だが、将来的には危険度が高い迷宮に授業で潜ることになるだろうから、その練習だ」

「成程……ありがとうございます」

 

(将来的な進路は色々あるけど、これだと迷宮の探索者を育てる為の学校みたいなものじゃないか……)

 

 それほどまでに、このオシアス地方に於ける迷宮の重要性の比重は高いのだとイクサは考える。

 ポケモンの貴重な生息地というだけではなく、古くから「財宝」があり、災害だけではなく恵みも与えてきたと考える。

 

「では、私は迷宮内を回り、君達の動向をチェックする。出くわすこともあるだろうが、驚かないように。では──宝探しゲーム、始めッ!!」

 

 

 

【ザザの地下迷宮 危険度:1(磁気の濃度が非常に薄く、ポケモン暴走の危険無し)】

 

 

 

 その声と共に、生徒達は洞穴へ入っていく。

 中は暗い洞窟のようだった。

 本当にこんなところに、沢山のポケモンが居るのか、とイクサは疑問に感じる。

 ライトで照らしても、岩壁が広がるだけ。出てくるのはせいぜいコウモリの姿をしたズバットくらいなものだろう。

 当たり前のように3人一組になったイクサ、ハッカ、テマリは洞窟の中を進んでいく。

 

「ねえ、ハッカ君。本当にこんな所にポケモンって沢山出るの?」

「あれを見てみぃ!」

「……?」

 

 ハッカの示した場所をライトで照らすと──イクサは目を見開く。

 岩壁に裂け目のようなものが現れていた。

 

「な、何コレ……!?」

「これが本当の”迷宮への入り口”や」

「迷宮の裂け目、やね。迷宮内の決まったところに繋がってはるんよ」

「さあ、覚悟決めたらさっさと入りや!」

「ちょっと押さないでよっ!?」

 

 裂け目の先は光っており、その先がどうなっているかは分からない。

 思わず立ち竦むイクサに、ハッカが背中を押し出す。

 

「ほらほら、はよ行かんと他のチームに”宝”獲られてまうで!」

「って、うわああああ!?」

 

 裂け目の前に立つと、身体が磁石のように強く吸い寄せられる。

 そして、気が付いた時、視界に広がっていたのは──森林のような空間だった。

 

 

 

「な、何だ此処……!?」

 

 

 

 明るい。太陽が無いはずなのに、明るいのである。

 そして、周囲には木々が生い茂っている。

 これが迷宮が不思議な場所と呼ばれる所以だった。

 地下のはずなのに、地下では有り得ない環境、そして空間が広がっていたのである。

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