2025/03/28 コーナーで差をつけろ

推す

 という言葉があまり得意ではない。別にそれを使っている人に何かしらを思うことはないのだけれど。
 その言葉が持つ「対象との接触性」が、僕がしたい「対象とファン」の関係性と少し違うからだと思う。
 これはもう感覚のものなので解らない人には本当に解らないと思うが、「応援している」のイメージが「マラソンを走っている人に路肩から声をかけている」なのに対して、「推している」のイメージは「足取りがおぼつかない子供の背中を支えてあげている」なのだ。
 なんというか「自分がいないと成り立たない感」が強すぎる。
 もちろん、何においてもファン──つまりは消費者──がいないと成り立たず、そういう意味では相互関係にあるということは分かっている。そういう意味では「推す」という言葉は正しいのかもしれない。
 だが、以前(「推す」という言葉が膾炙する前)僕たちはその相互関係を理解しながらも、そういう物質的な関係ではなく、感情のようなものによって関係性を作りあがっているという「てい」でファンをやっていたのではないか。意識的な「ごっこ遊び」をメタ的に楽しんでいたのではないか。と思う。
 僕はきっとその「ごっこ遊び」に対して潔癖なんだろうな。
 ごっこ遊びをごっこ遊びと解りながらも、そこに真剣になることを、真剣であるということにしているということを、すごく大事にしているんだと思う。
 そこに「成り立たせるために」という事情が含まれた「推す」と言う言葉が入ってくるのが生理的に嫌なのだ。

本を聞く

 「名前は知っていて興味はあるけど、わざわざ現物を買って読むほどじゃない」みたいな本を、筋トレなどの運動中にオーディオブックで聞くようにしている。
 朗読なので普通に読むより多少の時間はかかるが、読み始めるまでのハードルが低かったり何かをしながら読めたりする分、途中で放り出すということがないので「とりあえず読破しとこう」くらいのものにちょうどいい。
 今のところは主に自己啓発本や学術書、舞姫のように文体が現代語から遠く目で追うだけでは意味が拾いづらい文章が中心になっている。
 「嫌われる勇気」を聞きながら懸垂をし、「ホモサピエンス全史」を聞きながらダンベルを胸に効かせ、「人は話し方が9割」を聞きながらスクワットをする。筋繊維が上げる悲鳴をかき消しながら高尚な情報が耳を通って脳を叩く。
 絶対にこういう感じで摂取する情報じゃない。だけどこうでもしないとそもそも摂取しない情報だ。

オッペケペー節

 技術の発展に伴って、AIで比較的容易に曲が作れるようになったと聞いた。歌詞を入力し、あとはジャンルを選択するだけで曲を作り上げることが出きるらしい。
 「もしかして」と思って調べてみたら、案の定2ちゃんねるのコピペをAIで曲にしたものがたくさん出てきた。しかもそれが結構な再生数をたたき出している。
 これっていいのだろうか。
 別に著作権どうこうの話ではなくて、「コピペに代表されるネットミームってそんな色々な人に知られて嬉しいものなんだっけ」と言う意味で。
 同じ趣味を持つ人同士の符号みたいなものだと思っていた。

瞬足

 これのキャッチコピーが「コーナーで差をつけろ」なのすごいな。
 小学生に向けて「足が速くなる」と売るときに、直線距離の速度ではなく、コーナーと言うテクニックが活きるところを推すなんてこと、僕ならできない。
 このコピーを決める会議を見てみたい。

 こういうことを言い出すのは決まって活きのいい新人だろうから、きっと周囲の重役からの反発もあったはずだ。
 「わかりやすく50mのタイムの話をした方がいいのではないか」
 「『コーナーで差がつく』という概念を小学生は理解できるのか」
 「コーナーで差がつく小学生を見たくないだろ」
 きっとこういう会話が繰り広げられたであろう。
 そこに、一代でこの会社を立ち上げた会長が一括。
 「大いに結構! やってみなさい。『コーナーで差がつく』いいじゃないか」
 その鶴の一声によって半ば強権的に決定したこのキャッチコピーは、今や世代を超えて印象に残るフレーズとなっている。

 話は変わるが、それこそ世代を超えて膾炙する言説に「足が速いとモテる」というものがある。
 これって「コーナーで差がついた速さ」にも適応されるのだろうか。
 「わーたけし君! 直線は競(せ)ってたけどコーナーで一気に追い抜いた! すごい! かっこいい! 」みたいなことを考えている小学生ってあまり想像がつかない。


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2025/03/28 コーナーで差をつけろ|駆け付け毒三杯
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