ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】 作:タク@DMP
オーカードは粒子となって分解され、パモの身体に鎧として纏われていく。
そして、パモの右腕に、テッポウオの顔の形をしたランチャーが装着された。
更にカードに登録されていたOワザは”バブルこうせん”。水タイプの特殊技だ。
【パモ<AR:テッポウオ> ねずみポケモン タイプ:[水]】
「押しきれッ!! ”バブルこうせん”!!」
「Oワザ”バブルこうせん”!!」
集中砲火。
効果抜群の攻撃がじならし君に降り注いでいく。
『ええい、こうなったらままよ!! とっておきの”トゲキャノン”発射!! ポチッとな』
最後っ屁と言わんばかりにじならし君のトゲがミサイルとなってイクサ達目掛けて飛んで行く。
しかし──
「ぱもぉっ!!」
──パモ様、渾身のアッパーカットが炸裂。
ミサイルは一気にひっくり返り、向きを変えてじならし君へ飛んで行く。
『ハッハハハ! よく見えないけど、今頃奴らは黒焦──』
──直後、爆音。そして爆炎が戦車から吹き上がった。
黒焦げになったのは戦車の方だったのである。
じならし君は、そのまま頭部が外れ──ごろごろと転がる。
「パモ様……すごい……」
「ぱもぉ」
何事も無かったかのようにキュッ、と前脚を引き締める仕草をするパモ様。
果たしてレモンがどのような英才教育を施したのか、知りたいような知りたくないような半々のイクサだった。
ともあれ、これで戦車は廃車である。
「おーっ、派手にやったなぁ、大手柄やでホンマ」
「いやいや決めたのはパモ様だったから。それに、ハッカ君がオーカードを貸してくれたおかげだよ」
イクサはハッカにテッポウオのカードを返す。
「謙遜すんなや、自分も大手柄やったで。よう分かったな、あいつの電飾がメインカメラって。そんで、戦闘中のごっちゃになっとる時に、メインカメラ攻撃して技を封じようって発想になるのが凄いわ」
「観察してただけだよ。あいつがロックブラストを撃つ時、電飾の目がチカチカしてたし、狙う時、目の奥で何かが動いているのが分かったんだ。だから、あれが照準に関するところじゃないかって睨んだんだ。後は、そこを潰せばもう狙えないよね」
「それをバトルの中で冷静に……か。お前、やっぱ勝つべくしてラズに勝ったんかもしれへんな」
「元居た──じゃなかった、故郷に変わったお姉さんが居てね。その人に色々教わったんだ。人やモノを観察するコツ。後は、ピンチの時に冷静でいられるコツ」
──Check! 見るべきものを見ないから、一番大事なモノを見落とすのデスよ、イクサ!
今思い返せば、本当に変わった人だった、とイクサは回想する。
彼女は推理小説が好きで探偵に憧れていたらしく、近所に住んでいたイクサに、よく「観察」のいろはを叩き込んだのである。
それは時にアクションゲームの敵キャラクターを、時に対戦ゲームで相対する人間を「観察」する癖を身に着けさせた。
また、メンタルコントロールの方法なども教えてもらえた。それはポケモンバトルに限らず「勝負」における彼の最大の武器となっている。
(あの人のおかげで身に着けた力が……ゲーム以外でも役に立つ日が来るとはね)
「納得いかなぁぁぁい!!」
中から、やんちゃそうな女子生徒達の姿が露になった。
全く状況が掴めないまま困惑した様子でリーダーと思しき生徒は涙目で這い出てくる。
しかし、戦車がやられても尚、ファンクラブ達は諦める様子が無い。
その手にはモンスターボールが握られている。
「げぇっ!? まだやるんかいな!?」
「もう終わっただろう!?」
「うるさい!! 私達はなァ!! ラズ様の為なら玉砕する覚悟なんだよッ!!」
ぽんぽんぽん、と音を立ててボールの中からせきたんポケモンのトロッゴン、こいぬポケモンのガーディ、そしてどくトカゲポケモンのヤトウモリが飛び出してくる。
あくまでも彼女達はまだ徹底抗戦するようだった。
「くっそ、めんどいやっちゃな……!」
「往生際悪いよ……ぶぶ漬け出したろかな」
「うるさいッ! どうせ1年のポケモンなんて、弱っちいんだ! 囲んでやっちまうぞ!」
「ッ……」
鬼気迫る迫力だ。
きっと生半可な覚悟ではない事がイクサにも伝わってくる。
一触即発、延長戦が始まろうとしていたその時だった。
「──バイバニラ、”フリーズドライ”でお仕置きしちゃって」
──周囲の温度が一気に下がる。
そして、ファンクラブ達のポケモンが、一瞬で氷の柱と化したのだった。
それも体温が高いはずの炎ポケモン達が、である。
フリーズドライは、一気に相手を急激に冷やし、細胞諸共凍結してダメージを与える技だ。
しかし、本来ならば半減されるはずの炎タイプ相手ですら凍らせるのは尋常ではない冷気を放っているからに他ならない。
ファンクラブの少女たちも、イクサ達も、全員が下手人であるポケモン・バイバニラに視線が向けられる。
ソフトクリームのような形状で、そこに目と口が付いたような生き物が2つ、連なっている。
【バイバニラ ブリザードポケモン タイプ:氷】
「こひゅぅぅぅとす」
「──ダメだよ、お嬢さんたち。君達の行為は逆にラズの顔に泥を塗っている」
現れたのは──フリーザー寮の寮長・シャインだった。
「──あ、あばば……ッ!? シャイン……!?」
「何でこいつが、こんな所に!?」
「ドライブの途中に立ち寄っただけのことさ」
──見ると、向こうの方ではブロロロームが倉庫の扉に突っ込んで煙を噴いていた。
またやらかしたのかこの男は。そして、それに対して誰もツッコミを入れていない。きっと事故は日常茶飯事なのだろう。
「ッ……まさか、こんな所で寮長クラスを目にすることになるとはな……ごっつい冷気、感じるで」
「うん……ッこれが、寮長のポケモン……!」
(もっと他に目立つところがあるよね? 僕がおかしいの?)
「彼は正当な決闘のルールに従って勝利した。それに文句をつけることはできないよ」
ぷつ、ぷつ、と音を立ててシャインはブレザーのボタンに手を付けた。
「それに文句があるというならば、彼の代わりにこの私のバイバニラが相手をしよう」
ブレザーを脱ぎ捨てたシャインの視線に、ファンクラブの少女たちはギョッとした顔をする。
「……あまり手荒な真似はしたくないが、決闘を穢すならば見過ごせない」
「あ、あわわわ」
「──さあ。ポケモンバトルの準備は出来ているかい? 全員まとめて凍てつかせてくれようか」
「きゃああああーッ!! 逃げろォォォーッ!!」
すぐさま尻尾を巻いたように、甲高い悲鳴を上げて少女たちはボールにポケモンを戻し、そのまま逃げていった。
後に残るのは、バイバニラとシャインだけだった。
その凄まじさを前に、テマリはハッカの後ろに隠れてしまう。
「何てヤツや……ッ!! バイバニラ1匹であの軍勢を追っ払いよった!」
「ああ……凄い”フリーズドライ”だったね」
「──イクサ君」
シャインはこちらを向くと、すたすたと歩いてくる。何はともあれ、助けられたのは事実。
じならし君1号相手に消耗させられたこの状況では、ポケモンを相手にするのはしんどかったところである。
そして、驚いたのは、やはりバイバニラの実力。寮長クラスの力を目の当たりにし、不思議と心が昂っていた。
「……えーと、助けてくれてありがとうございます」
「何、どうってことはないよ。決闘の結果を理由に暴れられるのは、ラズとしても不本意だろうからね。だけど、彼が知ったら多分怒るどころじゃないから、先に私が鎮圧したまでさ」
「……寮長にも立場があるもんなぁ。えらいこっちゃやで」
「とはいえ、まさか戦車まで持ち出すとは思わなかったよ。熱狂的なファンクラブが居るのは前から私も知っていたんだがね」
「ホンマや、ホンマ。部室は壊されるし、バトルになるし、散々やで」
「おっと部室──確かに壊れてしまっているな」
トタン小屋の残骸を見た彼はお安い御用だと言わんばかりに笑みを浮かべた。
「じゃあ、こうしよう。この壊れた部室は私が建て直させるよ」
「ええんですか!? だって、あんた関係ないじゃないですか。しかも俺ら、サンダー寮の生徒やけど……」
「何。学園で起こった問題を解決するのは、上に立つ者の務め、立場も派閥も関係ないよ」
「部室問題、一発で解決したね……」
「流石、寮長様や!! 器がデッカい!! よっ、大統領!!」
(この人、結構良い人なのかもしれないな……だけど、1つだけ不可解なことがある)
此処まで堰き止めていた疑問を、イクサはシャインにぶつけることにした。
「あの……すいません、1つ聞いても良いですか?」
「おや、質問かい。熱心な生徒は嫌いではないよ」
「さっきからずっと気になっていたんですけど……」
イクサは──脱ぎ捨てられたブレザー、ワイシャツ、そしてズボンを指差した。
「何でパン一になったんですか?」
「ぱもぉ……」
浅黒い筋肉質な肌とトランクスがオシアスの光に照らされ、燦然と光っていた。
ファンクラブの少女たちが逃げた理由など唯一つ。
バイバニラに恐れをなしたのではなく、シャインが突如ブレザーのみならず、更にシャツもズボンも高速で脱ぎ始めたからである。
テマリが口をぱくぱくと開けたまま、ずっとハッカの陰に隠れてしまっているのは──突如目の前の男が脱ぎだしたからである。
パモも、イクサの肩に乗っかったまま、恥ずかしそうに顔を手で覆い隠していた。
「……ハッカ君もハッカ君だよ、何でなにも言わないのさ」
「……風物詩みたいなモンやし突っ込んだら負けかなって思うて」
「この学園は私の家のようなものさ」
涼しい顔でシャインは返す。
トランクス一丁で。
脱ぐのは自宅だけで勘弁してくれ、とイクサは考える。
「家のようなものであって、家じゃないと思うんですけど……」
「それに、互いに全てを曝け出す事で深まる仲もあると思っていてね。君もどうだい?」
「遠慮します」
「──ところで君、顔も声も可愛いらしいね、男子だっけ、女子だったっけ」
「ヒッ──」
イクサの顔が一気に蒼褪める。
やれ可愛いだの女のような顔だのと言われたことは今までも何度もあるが、此処まで恐怖心を覚えたのは初めてかもしれない。
「おっと喉仏を確認。やっぱり男子だったか」
「あ、あばば……」
「良いね。君のこれからが楽しみだ。是非とも、この私に追いつけるくらい強くなってほしいものだ。ポケモンバトルで戦う日を楽しみにしているよ」
「風紀委員だッ!! 神妙にお縄に着け!!」
「通報があってきたぞ!! ……またあんたか!!」
──遅れて、黄色いブレザーの風紀委員たちが集まってきた。出来れば戦車が出てきた辺りで登場してほしかったが、この学園の治安を考えるとそうもいかなかったのだろう。
そして、最早お決まりと言わんばかりにシャインの手首に手錠をかけるのだった。
だが、当の変態は微笑みを携え何でもないかのように言ってのける。
「イクサ君。どうやら、今日の所は私の敗北らしいね……だけどレモン君に伝えておいてくれないか」
「敗北ってか自分で脱いで捕まっただけだよね」
「ありがとう、頼むよ。いずれはこの私が、学園最強のトレーナーである君を下し、頂点に立つ……とね」
「何が聞こえてたんだこの人」
「だから突っ込むのは止せっちゅうたんや、時間の無駄やでホンマ」
「ぱもぉ……」
「オラッ!! きりきり歩けッ!!」
【文化委員長シャイン──逮捕(昨日ぶり今年で10回目)】
彼が連行された後。
ずっとハッカの後ろに隠れていたテマリは恐る恐る前に出て──叫ぶ。
「何なんあの人!? 何でいちいち脱がんと気が済まんの!?」
「僕もそう思うよ……」
「ああ……これもまた、この学園の日常っちゅうわけやな……」
あまりにも受け入れがたい日常であった。
「ま、まあ、気にしたら負けや! これがスカッシュ・アカデミアやねん! 刺激的やろ?」
「刺激的過ぎて口内炎になりそうだよ……それよりも、二人とも。ごめんね、僕の所為で部室が壊されて……」
「アーホ」
「あだっ!?」
イクサにデコピンしたハッカは、あの調子の良い笑みを浮かべてみせる。
「──こういう時はな、コガネやと”おおきに”って言うんや」
「……ハッカ君」
「それに礼を言うのはこっちやっちゅうねん、自分居らんと勝てへんかったかもしれんからな」
「じゃあ……その。出来れば、これからも仲良くさせてもらっても良いのかな」
彼の言葉に、ハッカとテマリは顔を見合わせて当然だと言わんばかりに手を差し出した。
「アホゥ、あったり前や! 水臭い事言うなっちゅうねん!」
「うんっ! うちらはもう、友達やもんね!」
(──元居た世界のお父さん、お母さん、友達へ。スカッシュ・アカデミアはとんでもないところです。治安が悪く、決闘騒乱爆発は日常茶飯事です。正直此処で過ごすのは不安しかありません)
「ねえ、ところでそろそろ2限終わりそうやけど、次の授業どないするん?」
「僕そろそろ行かなきゃいけない!!」
「俺らもやな。3限出なあかんわ」
「もしかしたら同じ授業だったりして」
「……同じや。俺ら揃って、同じ選択科目受けとる」
(でも、こんな学園でも……新しい友達が出来ました)
「ほなっ、3人で教室まで競争や!! 急ぐでーッ!! 疾風迅雷ーッ!!」
「あ、置いていかんといてよ、ハッちゃん!」
「ビリのヤツがジュース奢りやーっ!」
「ま、待ってよ……僕、あんまり走るの得意じゃなくって……後、今お金持ってないんだけど──!?」
※※※
「──成程。沿岸部に出現した迷宮の危険度は……3……丁度真ん中ってところかな」
「ええ。各社の調査隊が調べてる。だけど、最近本当に多いわね、迷宮出現」
──風紀委員長室で、レモンとシャイン──二人の寮長が向かい合っていた。
周囲には風紀委員たちがただならぬ顔で警備を固めている。
学園の中でもトップクラスに位置する生徒の対談に、周囲の空気は緊張感が漂っていた。
互いに大企業の御曹司とお嬢様。周りの生徒から見れば、彼らは雲の上のような存在である。
「そのうちこの学園も巻き込まれたりしてね」
「縁起の悪いことを言うものじゃないよ、レモン」
「冗談よ」
「……でも君の興味は迷宮じゃなくて転校生君に向いているようだね。何かあるのかい? 相当入れ込んでいるようだけど」
「あら、悪い? 素直で可愛い子は嫌いじゃないわ」
「そうだね……私もそれには同感だ。私達は敵同士だが、案外感性は似通ってるかもね」
「貴方が言うと危険な香りがするわ」
「ふっ……」
「ところで、その可愛いイクサ君に、ファイヤー寮の女子生徒達が重機持ち出してカチコんだって聞いたけど。貴方が対応したらしいじゃない」
「おや、もう耳に入ってしまったのかい。でも結果は見ての通り。戦車は廃車だ。最近の1年生はレベルが高いね」
「……そ。やっぱり、私の見込みは間違っていなかったようね」
レモンは色っぽく唇をなぞると、笑みを浮かべた。
「それにしても、この学園は……正直騒がしすぎるわ。次から次へと事件に事件で休む間もない。たまには誰か労ってくれないものかしら」
「ははは、弱音かい? 君らしくもない」
「……どうかしら。意外と乙女はか弱いものなのよ」
底知れない穏やかな笑みで「何処まで本当かな?」と問うシャイン。
一触即発の空気が部屋の中に張り詰めていた。
張り詰めているはずだった。
張り詰めていれば良かったのに。
「──ところで私はいつになったら帰して貰えるんだい、レモン? 今日の騒乱の事後処理をしないといけないんだけど」
「始末書全部書き終えたらよ、変態さん」
「オラッ!! 手が止まってるぞッ!! 早く書かんか!!」
全てはシャインがトランクス一丁の変態でなければ──の話である。
どさっ、とA4用紙の束が追加で置かれたのを見て、彼は憂いを帯びた溜息を吐いた。なんもかんも自業自得なのに。
「フッ……世界は冷たい。こんなにも残酷だね」
「手を動かしなさい変態君」