不動産クラウドファンディングで資金を募ったカザフスタンの不動産開発プロジェクトの現場(情報提供者が撮影)
10%の想定利回りをうたって投資家から資金を集めた不動産開発プロジェクトで、実は建物が建設されていなかった。それにもかかわらず、想定通りの利息を付けて投資家に元本が戻された―。
ある不動産クラウドファンディング(以下、不動産クラファン)の海外投資案件をめぐって、不可解な事象が起きている。
楽待新聞編集部は、実際に現地に行ったという人物からの情報提供をもとに、真相を探った。横浜市に本社を置く運営会社に質問状を送ったところ、想定外の答えが返ってきた。
運用レポートでは「建築完了」と報告したが…
不動産会社などが特定の開発プロジェクトや不動産の購入を目的としてファンドを組成し、投資家から資金を集める不動産クラファン。
投資家にとっては、少額から投資できる利点がある半面、運用の実態が見えにくいといった点もあり、投資家保護の面から懸念の声も挙がっている。
最近では、「ヤマワケエステート」の償還延期などをめぐる問題で注目された。
今回問題が浮上しているのは、不動産クラファン「テクラウド」が募集した中央アジア・カザフスタンでの不動産開発プロジェクト。
公式サイトではいずれも「償還済」となっている。これはプロジェクトが完了したことを意味し、実際に償還も完了している。
ところが、住宅建設などを目的に資金を募っていたカザフスタン内の複数の現場に足を運んだ人物から「建物が建設されていない」という情報が楽待新聞編集部に寄せられた。
現地で撮影された映像などを確認したところ、計画予定とされていた建物の存在を確認できなかった。
当初の計画では建物を建設し、売却代金で投資家にお金を返すことになっていた。その建物が存在しないとは、一体どういうことなのか。
ファンドの運営会社が発行した投資家向けの運用レポートでは、同プロジェクトの進捗について「建築工事がすべて完了した」と記載があったことも判明。
不動産クラファンなどの運営ルールを定めた不動産特定共同事業法(以下、不特法)では、投資判断に影響を与える事柄について事実と異なる内容を伝えるなどの「不実の告知」を禁止しており、同法に違反した場合、行政処分の対象となる可能性もある。
急成長の不動産クラファンで何が
「テクラウド」は、駅広告などで活発なマーケティング活動を展開し、急速に成長している不動産クラファンの1つ。2021年のサービス開始以降、これまでに80本のファンドを組成、累計約430億円を調達している(2025年4月25日時点)。
ファンドの約6割はモンゴルやカザフスタン、アメリカといった海外の不動産を投資対象としている。住宅やヘルスケア施設などのほか、ホテルやデータセンターなどを投資対象として資金を集めている。
※出典:テクラ社プレスリリース
通常の不動産投資のリスクに加えて、その国の政情不安や法制度の変更など海外特有のリスクをはらむ不動産開発プロジェクトも多数ある。しかし、テクラウドでは「配当遅延ゼロ・元本遅延ゼロ・元本割れゼロ」の実績を掲げており、このうち50件、総額158億円が償還済みとしている。
※出典:テクラ社プレスリリース
テクラウドを運営するテクラ社(横浜市)が公表している2024年10月期の決算資料によると、直近1年間では19本のファンドを組成し、調達額は計178億円にのぼる。この期間に償還したファンドは18本で、償還額は計57億円とされる。
※出典:テクラ社 2024年10月期決算説明資料
※出典:テクラ社 2024年10月期決算説明資料
調達額が急速に膨らむ一方で、テクラウドの投資案件をめぐっては、一部の投資家らの間で、プロジェクトの実現可能性などに対する懸念の声も挙がっている。
今回、楽待新聞編集部に情報を提供したA氏もその1人。今年3月下旬、中央アジア・カザフスタンでテクラウドが進めた不動産開発プロジェクトの現場に足を運んだところ、「完成しているはずの建物が建っていない」という予想外の状況を目にしたという。
A氏から提供された情報をもとに、まずは現地の実態をレポートしていく。
高級住宅街に「戸建て70戸」計画の実態
テクラウド公式サイトによると、カザフスタンの投資案件は計14件(2025年5月末現在)。早いもので2022年に運用を開始し、遅いもので2024年中に運用終了予定とされており、2024年末までにそのほとんどは償還が完了している。
カザフスタンを対象とするファンドのうち、6件の対象となっているのが、高級住宅街における戸建て住宅の開発プロジェクト「KHAN VILLA」。
カザフスタンの旧首都アルマティ市郊外の約2万平米の敷地に、3期に分けて計70棟の邸宅を建設するというものだ。
土地造成を目的とする「phase1」と住宅建設を対象とする「phase2」に分けて計6つのファンドが組成され、募集総額は38億円超にのぼる。
想定利回りは10~11%で、運用期間は6~14カ月。ファンドで集めた資金を元手に用地(借地権)を取得し、土地の造成工事や建物の建設を行った後、現地のグループ会社に想定売却価格約43億円で売却して、配当・元本償還を行うというスキームだ。
「KHAN VILLA phase2」のファンドスキーム(出典:テクラウド公式サイト)
ファンドの概要ページから、投資エリアの地図や物件の完成イメージを確認することができる。以下は、その一例だ。
高級住宅街における戸建て住宅の開発プロジェクト「KHAN VILLA」の計画図(出典:テクラウド公式サイト)
KHAN VILLAの完成イメージ(出典:テクラウド公式サイト)
最後に募集が行われたファンドの運用開始は2023年10月で、2024年11月に運用が終了、同年12月に償還予定となっており、実際に償還済みとなっている。
この通りなら、計画された70棟の戸建てはすでに完成しており、売却まで完了していることになる。ファンドに出資した投資家たちも、そう受け止めるだろう。
知人を介してある投資家から調査依頼を受けたというA氏。プロジェクトの実態を確認するため、ホームページに記載されたプロジェクト用地の情報などを頼りに、今年3月下旬、カザフスタンに足を運んだという。
「実際に行ってみたら土地は確かにありましたが、建物を建てたり、造成をしたりしている様子がありませんでした。KHAN VILLAの用地内は外部から侵入できないように高いフェンスで囲われていましたが、敷地の外から覗くと、それらしき建物が1軒だけ建っていたんです」(A氏)
テクラウドが組成したファンドの投資対象となっている開発プロジェクトの現場。高級住宅街に70戸の戸建てを建設する計画だったが、それらしき建物は1軒しか確認できなかった(A氏提供)
写真の建物は、公式サイトに掲載された完成イメージ写真に似ているようにもみえる。
しかし、人が住んでいる様子はなく、現地の様子から、A氏は「モデルハウスとして建てられたのではないか」と推測する。
A氏によると、現地の登記情報にあたるデータを確認したところ、広大な土地に70戸の戸建てを建てるための分筆すら行われた形跡がなかった。
カザフスタンの不動産登記情報などが調べられるサイト。KHAN VILLAの土地は分筆された形跡がなかった(A氏提供)
以上のように、A氏が現地調査を行った今年3月下旬の時点で、計画通りに建設が進んでいない状況だった。しかし、テクラ社が公表した2024年10月期の投資家向けの運用レポートでは、このプロジェクトの進捗状況について、以下のように報告されていた。
出典:テクラ社が公表した2024年10月期ファンドレポート
<これまでの進捗>(Phase2)
「本プロジェクトは、建築工事および家具の設置がすべて完了いたしました。既に販売活動を進めており、順調に進行しております。」
<今後の見通し>
運用期間終了までに現地協業先法人への一括売却を行う予定です。売却後、配当・元本償還を行います。
このレポートは、A氏が現地に行く前の昨年秋ごろに作成されたとみられるが、「建築工事はすべて完了」と記載されている。さらに、「売却後、配当・元本償還を行う」と説明がある。
「ビル2棟建設」のはずが「更地」状態
A氏によると、建物の存在を確認できなかったのは、この現場だけではない。
首都・アスタナ市に建設予定だった商業施設と住居の複合施設「Heiwa Residence」もその1つだ。
計画では、出資金を約10億円を集め、約4800平米の敷地に9階建てと12階建てのビル2棟を建設後、想定売却価格約16億円で現地のグループ会社に売却する予定とされていた。
建物は2024年12月に竣工予定で、償還予定日は2025年4月30日となっていたが、「建物の竣工を待たずに、プロジェクト自体を現地デベロッパーに売却した」として、2カ月前倒しで償還が行われている。
Heiwa Residenceの完成イメージ(出典:テクラウド公式サイト)
しかし、現地を訪れたA氏によると、敷地の周囲は高い塀で囲われていたものの、そこにビルは建っておらず、建設工事が進んでいる様子もなかった。敷地の外から塀の中を撮影した映像と公式サイトの写真を比較していく。
公式サイトには開発前の「現況写真」が掲載されている。
Heiwa Residence開発前の「現況写真」(出典:テクラウド公式サイト)
いつの時点で撮影されたものかは不明だが、A氏が今年3月に撮影した現地の映像と比べると、敷地の向こうに似た建物が確認できた。
しかし、敷地内は「現況写真」の状態からほぼ変わっておらず、プロジェクトがほとんど手つかずの状態であることがわかる。
A氏が今年3月に現地で撮影したHeiwa Residence開発予定地の映像。公式サイトの「現況写真」に似た建物が見えることから、同じ場所とみられる(A氏提供)
A氏が撮影したHeiwa Residence開発予定地周辺の様子。写真中央に見える壁画が公式サイトの完成イメージ写真の壁画と似ている。本来なら写真右手に建物が完成しているはずだが、それらしき建物は見当たらない(A氏提供)
そして、先述の2024年10月期投資家向けの運用レポートでは、このプロジェクトについても「工事の進行と並行して販売活動を開始し、順調に進行しております」と、計画通りにプロジェクトが進んでいることをうかがわせる内容が記載されている。
出典:テクラ社が公表した2024年10月期ファンドレポート
テクラ社「工事ストップ」と回答
日本から遠く離れた海外を対象にした、これらの投資案件。投資家が現地に赴いて直接状況を確認することは容易ではない。
そんな中、完成しているはずの建物が実は存在していなかった。
一体何が起こっていたのか。そして、建物完成後の売却代金から支払われる予定だった配当と元本償還のお金はどこから来たのか。
真相を確認するため、楽待新聞編集部はテクラ社に質問状を送った。
テクラ社は、上記2つのプロジェクトに対して、当初計画した建物が建っていない事実を認めた。
ただ、「当初の想定価格で売却した」として、売却代金で償還を行ったと説明。投資家に適切な説明を行わずに、当初の計画から大幅な変更を行ったことについては「投資家の利益を損なわないことを第一に考えて決定したものであり、問題の無い計画変更」との認識を示した。
テクラ社の説明によると、詳細は以下の通りだ。
テクラ社は、先述した「KHAN VILLA」と「Heiwa Residence」の2つのプロジェクトについて、いずれも計画予定の建物が建設されていない事実を認めた上で、その理由について次のように説明した。
まず、KHAN VILLAについては、建物の完成前に物件を売却する「青田売り」で販売活動を行っていたとした上で、現地デベロッパーにプロジェクト自体を更地のまま売却したと説明。
モデルルーム以外の建物が建設されなかった理由については、売却先のデベロッパーの希望で、建物を建築した後に顧客に売却する「建売」形式から、顧客の要望に応じ建物を建てる「売建」形式に変更したため、「建築を止めていた」としている。
Heiwa Residenceについても「基礎工事の段階で現地デベロッパーからプロジェクト自体を買い受けたいとのオファーがあり、デベロッパーが建物の仕様の変更を検討していたため工事をストップした」と説明した。
運用レポートは「記載ミス」
上記の通り、計画していた建物の建築工事が行われないまま、ほぼ更地の状態で売却されたことがテクラ社への取材で明らかになった。
ところが、先述の通り、同社が昨年10月に発行した投資家向けの運用レポートでは、同プロジェクトの状況について、「建築工事および家具の設置がすべて完了いたしました」と記載されていた。
レポートに事実と異なる内容が記載された理由について、同社は「レポートは当社の記載ミスだった」と釈明。
「記載ミス」の原因については「社内連携が不十分であったこと等により、モデルルームに関することを全棟に関することとして表記していた」とした上で、今後発行するレポート内で訂正する姿勢を示した。
「償還金」はどこから?
投資家に支払った配当や償還元本の出処については、「KHAN VILLA」と「Heiwa Residence」のいずれも、当初の想定価格で売却した上で「プロジェクトの売却代金をもって償還した」と説明している。
公式サイトによると、土地の仕入れ費用にあたる「借地権取得費」として、「KHAN VILLA」の3つのファンドの合計で約12億円を計上している。
一方、当初の想定売却価格の合計は約43億円となっている。 建物が建っていない状態の更地を、仕入れ価格の3倍以上の値段で売却したことになる。
「Heiwa Residence」についても、土地の仕入れ費用にあたる「借地権取得費」として約1.2億円を計上しているが、想定売却価格は16.5億円となっている。 仕入れ価格の10倍以上の値段で売却したことになる。
では、計画された建物が建築されずに、ほぼ更地状態にも関わらず、なぜ当初の想定価格で売却できたのか。
この理由について同社は、購入価格を決定したのは現地デベロッパーだとした上で、「事業収支が十分に取れるものと判断した結果、本価格での取得をオファーしてきたものと思われる」との認識を示した。
また、この取引では、土地だけではなく、建設工事業者への支払済み工事代金等含む「施主としての地位」も現地デベロッパーへ引き継いだため、デベロッパーが新たに工事費用を負担する必要がなかったと説明した。
投資家への情報提供は適切だったか
不動産クラファンでは一般的に、投資家と事業者は匿名組合契約を結ぶ。不特法では、重要事項説明書にあたる「契約成立前交付書面」を投資家に交付することを事業者に義務付けている。
この書面には、対象となる不動産の概要、未完成の不動産の場合は完了時の形状や構造などについても記載する必要がある(不特法24条、不特法施行規則43条)。
これらの内容は、投資家が投資判断を行ううえで重要な判断材料となる。また一般的に、契約内容の変更には当事者間の合意が必要とされる。
当初の計画では「KHAN VILLA」と「Heiwa Residence」のいずれのプロジェクトも「建物竣工後に売却し、配当・元本償還を行う」という趣旨の説明をして投資家から資金を集めていたが、建物を建てずに売却する形へと大幅に計画が変更されている。
このような計画変更は、当該ファンドに出資した投資家のみならず、今後同社が組成するファンドに出資を検討する投資家にとっても投資判断の重要な材料といえる。
にもかかわらず、テクラ社はこれらの計画変更について、投資家に適切な通知を行っていなかった。
投資家への情報提供が適切だったかとの質問に対し、同社は「より分かりやすくお伝えできる余地があった」とする一方、計画の変更については「投資家の利益を損なわないことを第一に考えて決定したものであり、問題の無い計画変更」だったとの認識を示した。
「今後同様のケースが発生した場合は、より丁寧に説明することを検討する」としている。
◇
プロジェクトの途中で現地デベロッパーから引き合いがあり、当初の建設計画を変更した―。取材に対し、テクラ社はこう主張したが、現地を調査したA氏は「分筆や造成、基礎工事の形跡がない現場もあり、当初から工事が進んでいなかったのでは」と疑問を投げかける。
投資家が自ら不動産を所有せず、不動産投資の「果実」を受け取れる不動産クラウドファンディング。その果実を実らせたのは、どんな「木」(建物)だったのか―。知らずに投資することのリスクについて、あらためて考えてほしい。
※楽待新聞編集部では、不動産に関するタレコミ・情報提供を募集しています。
(楽待新聞編集部)