ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】 作:タク@DMP
(ファ、ファンクラブゥ!? じゃあ何、僕がラズさんを負かしたから逆恨みして襲って来たってこと!?)
にしては、随分と大掛かりな装備である。
どうしてもイクサとパモ様を潰したいらしい。
信仰心は時に狂気へと昇華されるものなのである。
『お前の所為でラズ様の顔に泥が塗られた!! 我々の手でラズ様の名誉を取り戻す!! 汚名挽回!!』
「汚名返上なんよ、それを言うなら……」
しかも現在進行形でラズの汚名を挽回していることに彼女達は気付いていない。とはいえ、この巨大な重機は脅威そのもの。すぐさまハッカは叫んだ。
「──すいませーん!! ちょっちタイム貰ってもええやろか!? タイム!!」
『えっ、あっ、ハイ、どうぞ──』
がちゃり。
トタン小屋の扉を閉めると、ハッカはイクサの胸倉をつかんだ。
「お前が決闘に勝ったから大変な事になっとるやないかーい!! どないすんねーん!!」
「そんな事言われても!!」
「それで俺達の部室が現在進行形で大ピンチやないか、お前どうやって責任取ってくれんねん!!」
「君達が僕を連れてきたんじゃないかあ!!」
「それもそうやった……まぁ春やし、おかしいのも湧いて出て来るってことやな、取り合えず此処は間を取ってテマリさんに責任取って貰いましょ」
「何処をどう間を取ったらそうなるんよ、このスカタンッ!!」
ゴリッ!!
ハッカの足の小指に、思いっきりテマリの足が落とされた。
効果は抜群。そのまま彼は床に蹲るのだった。
「おっ、オ”お”おおおお……ッ、小指がッ、小指が砕ける……」
悶絶しながら床を転げまわるハッカ。
どうやら見た目以上にカカア天下だったらしい。
「ふざけとる場合やあらへんよ!」
「せ、せやな、こっからは真面目、大真面目や、おおおッ……!! とにかくここから逃げ出すか、戦うかせんとあかん、おっごごご、転校生……自分だけでもなんとか逃がしてやりたいんやけど」
「……こうなったら、僕が前に出るよ。君達を巻き込めないし。元々彼らは僕を追ってきたんだし」
「あかん! あかんよ! 重機持っとる相手にパモ様1匹で、どないするん!?」
「考え直せ! 此処はな──」
『って、よくよく考えたら何で我々が待たないといけないんだッ! 10数える前に出て来い!! さもないと、そのボロ小屋諸共吹き飛ばァす!! いーち──』
──ズガドォォォォォォンッ!!
テンカウントの「1」で、サイドン型重機の角に装填されていたミサイルは発射された。
そして、真っ直ぐにボロのトタン小屋を狙い、そのまま──爆発炎上させたのである。
当然、中に入っているイクサ(と、他二人諸共)。無論、きっちり10カウント待つつもりだったリーダー格の女は大困惑。
すぐさま大暴挙をやらかした砲手の女に怒鳴り散らす。
『あっちょんぶりけェェェーッ!! 何ワンカウントでミサイルぶちかましてんだオマエ、トゲキャノン発射は最後の手段つっただろがッ!! 何で撃ったの!? 撃っちゃったの!?』
『だ、だって!! トゲキャノンって、撃つためにあるものじゃないですか!! 撃たなきゃ可哀想ですうううう!! えへ、えへへへへ』
砲手の口からは涎が垂れていた。完全に気持ちよくなるためだけに撃ったとしか思えない。
『トゲキャノンに可哀想もクソもないだろが、転校生の巻き添えで中に居た他二人が一番可哀想だわ、どうすんのアレ、中身原形留めてんの!? 殺っちまった!? 殺っちまった、ひょっとして!!』
『わ、私また何かやっちゃいましたぁ!? えへへへへ』
『殺っちゃったんだよなあ!!』
何故そんな奴に砲手を任せたのだろうか。
『落ち着いてリーダー。こういう時こそ運転の基本のキ、まだ中で生きている
『かもしれない運転ってそう言う事じゃないよね!?』
運転手の発言に、更にツッコミを入れるリーダー。「かもしれない運転」を心がけるにはあまりにも遅すぎたのである。
『聞いていますか? ラズ様、我々は見事に貴方の仇を取りました』
『えっ、コイツ誰と通信してんの、こっわ……』
『なんか知らん奴等二人くらい巻き込んだけど誤差です誤差、ああでも、こんなに呼びかけているのにラズ様は私に話してくれない』
『そりゃそうだよ、通信機の先に誰も居ないんだから』
通信手が無線機を手にしながら恍惚とした顔で何か呟いている。しかし、無線機の先に当のラズは居ない。全くの無関係だから当然である。所詮はファンクラブの片思いであった。恐ろしい事に、どいつもこいつもイカれたヤツしかいないのである。
『何にも事前の打ち合わせ通りやってくれないじゃん、君達!! え!? もしかして嫌いなの!? 私の事嫌いなの!? ねええ!?』
『だって私達が好きなのはラズ様だけだし……L・O・V・E!! ラズ様!!』
『ファンクラブの鑑だったぁ!! むしろリーダーとしては喜ぶべき!?』
「あーあーあー、派手にやってくれたやないか……どう落とし前付けてくれんねんホンマ」
燃え盛るトタン小屋。
その中から真っ先に現れたのは──もっこもこに綿毛を膨らませたチルットだった。
【チルットの コットンガード!! チルットの防御がぐぐーんと上がった!!】
『ハ、ハハハハ!! ま、まさか生きていたとは!! マジで良かったぁ……ごきげんなチルットちゃんに感謝感謝……てっきり今ので跡形もなく吹き飛んだかと』
チルットの羽毛はただ柔らかいだけではない。
大きく膨らませる事で、衝撃を大きく吸収させるクッションとなる。
”コットンガード”は、その特性を最大限に増幅させる技で、使えばチルットの防御力を大きく上げることができるのだ。
それにより、ミサイルの衝撃や爆風は全て受け流され、チルットの綿毛に吸収されたのである。
「俺は悪の圧力には屈さへんで!! 覚悟しぃや!!」
「偉そな事言うてはるけど、やったのうちのチルットちゃんやないの」
「うぐっ……それは言わんお約束や……」
(もうやだこの学園……スター団でさえスターモービル持ち込んでも、主人公以外には使わなかったのに……こいつらカジュアルに主砲ブッ放してきたよ……そしてこの人らも当たり前のようにそれを防いでみせたし……よく生きてたよ僕ら)
これだけ暴れても大騒ぎに発展していない辺り、本当にこの学園では流血沙汰が日常茶飯事なのかもしれない。
トレーナー科の人間はポケモンを、そして技術科の人間はマシンを抱えているので、学園中が武器庫のようになっているのである。
「でも部室、壊れちゃったね……」
「……折角ハッちゃんが作ったのにぃ! 大炎上してはる……!」
「アホォ!! こんなボロい小屋、また俺が建てたるわ!! せやから自分らは、自分の心配だけせぇ!!」
ニカッ、とハッカは笑ってみせる。
しかし──右手は拳を強く強く握り締めている。
「……そんな事、出来ないよ。こいつらは、君達の部室を壊した。こいつらが狙うべきだったのは僕だけだ。──許せない」
「──へっ、言ってくれるやんけ転校生。悪いけどおセンチになんてなってないで、俺ァ。だから──3人で、あのふざけた戦車ぶっ壊そうや」
「ああ。頼める? パモ様!」
「ぱもっ!」
パモはイクサの肩から飛び降りると、巨大な戦車を前に構えの姿勢を取る。
「動力はギアル、後はオシアス磁気を貯蔵した汎用モーターってところやな……」
「ねえ、オシアス磁気って危ないんじゃないの?」
「危ないで。せやから、モーターに使う時はきっちり厳重に鋼のカードの中に記録するんや。そのカードを入れたらマシンにポケモンのタイプの力を付与できる」
(何でもありなんだな、オシアス磁気……元々オーカードにポケモンのデータを記録できるくらいだし……)
「相手が戦車なら、こっちは鉄砲で応戦や!! テッポウオ!! 自分の出番や!! いっけぇい!!」
「キィキィ」
飛び出したのは銃口の如き丸い口をした魚のポケモンだ。
それをまるで無反動砲のように肩に構え、ハッカは一歩後ろに下がる。
【テッポウオ ふんしゃポケモン タイプ:水】
「テ、テッポウオって、そうやって使うの!?」
「せや。そして、こいつの狙いは正確無比ッ!! 狙撃は任せときッ!!」
「前はうちとイクサ君に任せといて!」
(もしかしてこの子も意外と怖いもの知らずなのか……?)
最初のはんなりおっとりとした印象から、もう既に肝っ玉オカンとしてのイメージが付いてしまっていた。
誰のオカンなのかは言うまでもない。
この二人も、何も言わずともハッカが後ろから射撃、テマリが前に出て防御、というコンビネーションを完成させている。
普段は口喧嘩ばかりだが、やはり幼馴染というだけあって互いの戦術への理解は深いのだろう。
「僕達も負けてられないね、パモ様」
「ぱもぉ!」
こうして三者は巨大なサイドン戦車に向かい合う。
『行けい”じならし君1号”!! 全自動”じならし”装置起動ッ!!』
『”じならし”入りまーすッ!!』
『入りまーすッ!!』
じならし君1号と呼ばれた戦車は、思いっきり飛び上がると、地面を思いっきり揺らす。
すぐさま地面が波打ち、3匹に襲い掛かる。
特にパモは電気タイプで地面技が弱点。喰らえば耐久の低いパモでは一撃で斃れてしまうだろう。
しかし、すぐさまチルットがパモの下へと飛んで行き、パモの首の皮を咥えると自分の頭の上に放り投げ、再び宙を舞う──直後、強烈な揺れがイクサ達を襲うのだった。
「どわあああ!?」
「あかんあかん!! こんなんパモ様が喰らったら堪ったもんやないで!! 空に逃がして正解や、テマリちゃん!!」
「そ、そやね……ッ!!」
(な、成程、電気タイプのパモを空中に連れていくことで地面技を無効にした──ッ! そういう戦い方もあるのか!)
──チルットは飛行タイプ。地面タイプの技は通用しない。
地を揺らすインパクトは空中に逃げてしまえば受け流せてしまうからだ。
しかし、当然空中に逃げられて終わりではない。じならし君1号は両腕を持ち上げると、空を飛ぶチルットを狙い──岩の礫を放つ。
そして電飾になっている目がチカチカと光り出す。
『ええい逃がすか!! 撃ち落とせ!! ”ロックブラスト”!!』
『標的ロックオン!! ”ロックブラスト”、全弾撃てッ!!』
『てーッ!!』
【じならし君1号の ロックブラスト!!】
岩は空飛ぶ鳥を落とす、故に岩タイプの技は飛行タイプのチルットに効果抜群だ。
弾数は5発。チルット目掛けてそれが正確無比に飛んで行く。
「甘い甘い!! 飴ちゃんより甘いでッ!! テッポウオ、いてこましたれ!! ”タネマシンガン”!!」
「キィキィッ!!」
ハッカの抱えたテッポウオが空を飛んで行く岩の礫を狙い、種の弾丸を撃ち放つ。
1発、2発、3発、4発、5発──全てが正確に命中。
チルットを狙っていた礫は全て破壊されたのだった。
「す、すごい!! 相殺した!!」
「どんなもんや!!」
『これで撃ち止めだと思うな!! 撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃てーッ!!』
喜んでいるのも束の間だった。
再びじならし君1号の目がチカチカと光り、チルットを狙って岩の礫を大量に飛ばす。
ゲームと同じ5発なんてものではない。何十発もの岩の礫が飛んで行く。
流石のハッカも顔を青くした。あの量ではテッポウオでは対応しきれない。
撃ち零しが発生し、チルットに何発か岩の礫が当たってしまった。
「チルット!?」
「落ち着け! さっきコットンガード使ったばっかや!」
「う、うんっ……チルット、”しろいきり”!! ”しろいきり”で身を隠して!!」
チルットの身体は真っ白な霧に包まれていく。
『くそっ、目晦ましか!! 卑怯な……ッ!!』
チカッ、チカッ、とじならし君の目が光る。
だが、完全にロックオンしなければ、発射できないのか、チルットが降りて来るのを待つのみだ。
「あ、あかん、霧もずっと出とるわけやない……しかも、テッポウオがバテてしもうとる……ッ!」
「コキュ、コキュ……」
「……そのテッポウオで、どうにか倒せないの?」
「あの装甲はごっつ分厚いで。仮に水技が弱点だったとしても、テッポウオの攻撃でも一発じゃ無理。一斉に弱点技ブチ込まんと勝てへん。3匹で一斉攻撃するか、奴のミサイルを打ち返しでもせん限りは無理やろ……ッ!」
「じゃあチルットが降りたらええんとちゃうん──」
「アホか、テマリちゃん! 今降りたら蜂の巣やで!! 見えた瞬間、砲火が待っとる!!」
「ほな、どないするん!? 打つ手なしやないの!」
「じゃーかし、それを今考えとるんやないか!」
『霧が晴れた時がチャンスだ!! あのにっくきパモを、チルット諸共撃ち落としてやる!!』
チカ、チカ、と電飾の目を光らせながら”じならし君1号”はチルットを霧の中で捕捉しようとする。
イクサは考える。考えに考える。
(本来なら5発正確に当たる事自体が珍しい”ロックブラスト”を正確にチルットに狙ってきた辺り、命中率を上げる何かがあるはずだ。そもそも戦車だし、ターゲットをロックオンする機能があるのかも。でもどこから──)
──そう考えながら、イクサは”じならし君1号”を観察していく。
狙いをつける砲塔が動くのに応じて、電飾の目の中で何かが動いている。
(いや、簡単な話だった! 賭けてみる価値はあるかもしれない!)
「──ハッカ君! 目の電飾だ! あれがメインカメラなんだ!」
「目……そうか、俺としたことがテンパっとったわ! どんな攻撃も当たらなければどうということはあらへんッ!! そして、目だけなら簡単に壊せる!!」
テッポウオを構えたハッカは思いっきり前に出る。
霧はもう晴れかけている。チルットの影が映りかけていた──その矢先に飛び出して来たハッカにファンクラブ達は面食らったようだった。
『死にに来たのか!? 全自動”じならし”装置──』
「遅いわアホ!! テッポウオ、目や!!
大量の泡の光弾が真っ直ぐにじならし君1号の目にぶつけられる。
ばきん、とガラスが割れる音が聞こえ、そして火花を飛び散らし、爆ぜる。
『リーダーッ!! 真っ暗です!! ターゲット捕捉出来ません!!』
『ええい、うろたえるな!! たかがメインカメラをやられただけだ!! マニュアルに切り替えろ、下手なロックブラスト数撃ちゃ当たる!!』
『絶対当たりませんよぉ!!』
空に浮かんだ霧目掛けて大量のロックブラストが放たれる。
しかし、さっきとは違い、岩の間隔はまばらだ。チルットが空中から突っ込んで来るのに、全く当たりはしない。
『リーダーッ!! 全くと言って良い程当たりませんッ!!』
『クソッ、この暴れん坊照準めェェェーッ!!』
「イクサ君っ、後はお願い!」
「ああ、テマリさんありがとう──パモ様ッ!! ”ほっぺすりすり”だよっ!!」
チルットから飛び降りたパモは、ごしごしごしと頬の電気袋を手で擦って発電させると、思いっきりじならし君の頭に擦りつけた。
バチン、と何かが焼き切れる音が聞こえてくる。火花がじならし君のあちこちから飛び散っていく。
『電気系統やられました!! 全自動”じならし”装置、機能停止!!』
『リーダーッ!? こいつ地面タイプじゃないんですかぁ!? ”じならし”使えるのにぃ!?』
戦車内は一気に警報が鳴り響く。
メンバーたちが慌てふためく中、リーダーの少女は一言。
『おかしいなあ、何でなんだろかなぁ……? ほ、ほら、地面タイプじゃなくても”じならし”って割とどんなポケモンでも使えるしぃ……』
『リーダー?』
『こいつのタイプ、岩タイプだけ……』
『えええ!? リーダァァァ!?』
【じならし君1号 タイプ:岩】
「電気が効いた!! あいつ、地面タイプじゃないぞ!?」
「かまへんかまへん!! 押し切るで!! これ使え!!」
そう言ってハッカはイクサに1枚のカードを手渡す。
テッポウオのオーカードだ。
「ハッカ君、
「最後に集中砲火や!! 水技で一気にドカンと行くで!!」
(成程! 複数匹で相手の弱点を攻めるのにも使えるのか、オーライズ!)
「行くぞパモ様──オーライズだ!!」
「ぱもぉ!」
腕のオージュエルに、ハッカから渡されたテッポウオのカードを翳す。
「オーライズ……”テッポウオ”!!」