ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】 作:タク@DMP
「──寮長が……集結した」
ごくり、と生唾を飲んだイクサは辺りを見回す。
やはりライバル同士ということもあってか一触即発。
「ヘッ、代理に任せといて随分と偉そうだな風紀委員長サマは」
「あら。代理にも勝てないなら、私には一生勝てやしないわ」
「あんだとコラ」
「……ふふっ、手厳しいねぇ、レモン君。それじゃあ敵を作るばかりだ」
「元々敵同士でしょう? 私達は」
「ケッ……それで? 要求はなんだ、レモン」
「ああ、そう言えば……こっちの条件は”何でも私の言う事をひとつ聞く”だったかしら」
「ぐぅっ……そうだよ」
悔しそうにラズは口を歪める。
悪戯っ子のように笑みを携えたレモンはクスクスと笑いながら言った。
「──じゃあそうね……そこの彼……イクサの学費を前払い、ってのはどう? 貴方の家の財力ならそれくらいできるでしょう?」
「んなッ……!? そんな事──」
「決闘の結果には従う。それがルールよ。人の家の血統書付きポケモンが欲しいって言っておいて、ただで済むと思わない事ね」
雷の如き眼光がその場の全員を怯ませる。シャインだけが一人、自らの肉体美を誇示していたが──
「……ああ。分かったよ」
「素直な子は好きよ」
「覚えとけよ。必ずテメェの尻尾を掴んで、穴倉から引きずり出してやるからな──レモン」
「ふふっ、余計な口を利くと小物臭く見えるわ、ラズ」
捨て台詞を吐くと、彼はフィールドから去っていく。
(なんか……学費の問題が一発で解決してしまった……てか、そこまでしてパモ様が欲しかったのか? この人……)
納得がいかない、と言わんばかりにラズは身を翻し帰っていく。
(とてもじゃないけど、そうには見えない……)
「おやおや、荒れてるねえ、彼。でも、大体君の所為なんじゃないかな、レモン」
「私、また何かやってしまったのかしら?」
「罪作りだなあ、君は。そうやって、何人もの男を誑かしてきたんだろう? イケナイ風紀委員だ」
「あら。勝手に惑わされているだけよ。綺麗な花には勝手に虫が集るでしょう?」
「……手厳しいね。ラズでさえ、君にとっては”虫”扱いか」
「無駄口を叩くのはそこまでよ」
「うん?」
「あれを見てほしいのだけど」
──通路から風紀委員たちがぞろぞろと現れる。
「おやおや、豪華なお出迎えだね。これは一体?」
「──半裸でブロロロームの頭部に乗っかってドライブしている変態が居ると通報を受けまして……」
「後は、そこの壁を破損させた現行犯ね。始末書たっぷり書いてもらうわよ」
「フッ……世界はこんなにも哀しいね」
カシャリ、とすぐさま彼の手に手錠が掛けられた。慣れた手つきだった。皆「またお前かよ……」と呆れた顔をしていた。きっと常習犯なのだろう。
「どうやら、氷の如き私の肉体美に、まだ時代が追い付いていないらしいね──見事だよ、レモン。今日は潔く私の負けという事にしておこう」
「このバカを連れていきなさい、独房に」
「ハッ!!」
風紀委員たちに連行されていく彼の背中は、どこか清々しかった。
「だけどいずれ、氷の冷たさが君を射抜く──その時を覚えておいてくれたまえよ」
「オラッ!! きりきり歩け!!」
その場に残されたのは──イクサとレモンだけだ。
しかし何故だろうか、勝ったのにこんなに微妙な気持ちなのは。
多分きっと、あの文化委員長の所為だと思われるが。
「風紀委員があんなに雑に扱っても良い御曹司なんてアイツくらいなものよ。私が許可してる」
(とりあえず……あのシャインって人にラスボスは無理そうだね……)
どうして脱ぎたがるのか、そればかりはイクサにも理解出来なかった。
※※※
──その後、イクサは風紀委員長室に呼び出される。
「──おめでとう。貴方もこれで晴れて、スカッシュ・アカデミアの生徒よ」
「……もしかして入学試験も兼ねてたんですか? 今日の決闘」
「何の事かしら?」
「……」
「結果オーライ。ついでに、貴方の分の授業料もラズのヤツからふんだくれたしね。私もパモ様を守る事ができたし。貴方は此処で元の世界に戻る手段を探せる」
「うーん、実はその件なんですけど……元の世界に戻りたいって気持ちよりも、今は……この世界で知りたい事が、やりたい事が沢山あるんです」
「あら、そうなの?」
不思議そうに首を傾げるレモンに、目を輝かせてイクサは身を乗り出した。
「今日の決闘バトル……パモ様におんぶにだっこで、パモ様のおかげで勝てたようなものだったけど……」
「強いに決まってるじゃない。鍛えたのよ。この私がね」
「あっははは……」
執務机に飛び乗ると、パモはしゅば、しゅば、と拳を打ち出し、蹴りを入れるような動作を見せる。
鍛えたというのは伊達ではないらしい。小さな体に見合わぬ俊敏性と格闘能力は、彼女のトレーニングの賜物だったらしい。
「実戦には出したことがなかったから、技は弱いままだけど……技が強ければ良いってもんじゃないのよ、ポケモンって」
「よーく知ってます。こんなに可愛いのに、あんなに強いんだ。びっくりしちゃいましたよ」
「ぱもぉ?」
「そんなパモ様が俺の指示で戦ってくれて、それが上手く噛み合って……それが嬉しくて」
「ふふっ……クレイジーね。自分の命が懸かっていたようなものなのに」
「僕、もっとこの世界のポケモンバトルを知りたい、極めてみたいんですっ! だから、しばらくこの世界に居させてくださいっ! 元の世界に戻る方法が見つかるまででいいんですっ!」
「貴方にも親や友達が居るんじゃないの?」
「そうだけど──こんな経験、逃したらきっと二度と出来ない。僕は……大好きなポケモンの世界で、バトルを極めてみたいんです!」
「……そんなにバトルが楽しかったのね」
「はいっ。楽しかったですっ!」
始まる前は不安しかなかったが、いざやってみるととても夢中になっており──今思い返せばとても「楽しかった」のだとイクサは考える。
ゲームの中では味わえない、血沸き肉躍るバトル。これこそが自分が求めていた「闘争」だと。
(……顔も声も可愛い子だと思っていたけど……存外、内に獰猛なものを飼っていたわね。彼なら……任せられるかもしれない。今の私にはできない事を)
そんな彼を見て──レモンはふっと笑みを浮かべてみせる。
「それにしても驚きよ。私以外で、こんなにパモ様が懐く相手が現れたってことに」
「そうですか?」
「私の代理にも、ここまでは懐かなかったから」
「……そうなんですか。本当に何でだろう」
理由は未だに分からない。
だが、此処まで仲が良いのならば、レモンはこの1人と1匹の関係を見届けても良いかもしれないと考える。
「……しばらく、そのパモ様を貴方に貸すわ」
「良いんですか!? 大事なポケモンなんですよね!?」
「勘違いしないで。貸すだけよ。この学園で、しかもトレーナー科なのに……ポケモンが居ないと何かと不便でしょう? それに……貴方の手でその子が強くなるのを見るの、結構楽しみにしてるの」
「ぱもぉ」
嬉しそうにパモは──イクサに飛びついた。
「そっかぁ。僕も君と、もっとバトルがしたいって思ってたんだ!」
「ぱもぱもっ!」
「よろしくね、パモ様!」
改めて、イクサとパモはタッチを交わす。
此処に──異例のコンビが結成されたのだった。
「……その子の飼育については、資料を追々渡すわ。とりあえずはボールの中に仕舞っておけば大丈夫だと思うけど」
「ありがとうございます……でも本当に良いんですか?」
「あんまり渋っていると返してもらうわよ。私……ポケモンの判断は信じる事にしてるの」
「パモォ!」
※※※
──改めてモンスターボールを渡され、パモをボールの中に入れた後、イクサは気になっていたことを問うた。
「もう1つだけ良いでしょうか」
「なぁに?」
「パモ様を貸してもらうのは良いんですけど、僕のレックウザのカードは……?」
「ああ、あれね……」
面倒そうにレモンは言った。
「ハッキリ言うわ。あれは相当に厄介な代物よ。オーカードについての説明はしたわよね」
「ええ。……まさか」
「そのまさかよ……旧式で壊れていたけど、れっきとしたオーカードだったわ」
「ッ……!?」
イクサは目を丸くする。
つまり、ポケモン等存在しないと思っていた彼の元居た世界に──本来存在しないものが眠っていたということである。
「……何で、そんなものが」
「良い? 伝説のポケモンというのは、存在するだけで天変地異レベルの災害を起こすの。そんなものを貴方に持たせておくわけにはいかない」
「で、でも、いきなりそんなこと言われても納得できません……ッ!」
「でしょうね。でも、事実としてそうだったの。だって、あたしの家……オーカードのメーカーだもの。自社の製品を見間違えるはずないわ」
「いッ!? そうだったんですか!?」
「ええ。だから、オーライズとオーカードについては一家言あるつもりよ」
シトラス・トレーナーズ。
トレーナーの使う道具や、ポケモンを育成するのに使う道具を開発し販売しているメーカーだ。
自社製品を販売するショップもオシアス地方に展開しているのだという。
だが、その最大の要はオーカードの開発及び製造であり、その研究を行っている。
「貴方が持ってきたそれは、かつて伝説のポケモンのオーカードが製造された大きな証拠。ハッキリ言って大事件よ」
「ッ……オーカードが製造されたってことは伝説のポケモンが居るってことですよね?」
「伝説のポケモン・レックウザが居るとして、このオシアスの何処にいるのか? あるいはもう居ないのか? まあ、この形式のカードはもうかれこれ20年前に製造されたものだから分からないかもだけど」
問題点と謎は幾つも湧き出て来る。
先ず、何故イクサの世界に、オーカードが存在していたのか。
そして、オーカードを製造した以上、製造した誰かが居るはずであること。
何よりも大本となるレックウザがこのオシアス地方に存在するという事を意味していた。
「でもレックウザって、上空に生息しているポケモンですよね」
「そうね」
イクサの知識では、レックウザはオゾン層付近に生息し、塵を食べるポケモンだ。
それがごく稀に地上付近に姿を見せることがあるだけとはいえ、言ってしまえば、世界中のどこにでも出現し得るポケモンとも言えるのである。
「……それじゃあどこに居てもおかしくないんじゃないですかね? たまたま昔、オシアス地方の近くに降りてきただけなんじゃないですか? それをオーカードに記録したとか?」
「貴方、簡単に言ってくれるわね……色々考えると……有り得ないのよ。レックウザが上空に居る事を加味すると猶更ね」
「どういうことですか?」
「このオシアス地方は、一筋縄じゃいかない所なのよ。だからわざわざ、こうやってトレーナーや技術者を育てる大きな学校があるの」
「……一体何があるんですか? 砂漠が広がってる荒れた地って聞いてましたけど」
『緊急速報。緊急速報。学園から8km先の湾岸に震動を感知。教師と生徒、共に安全を確保してください』
けたたましいアラーム、そして放送が鳴り響く。
これは、イクサが元居た世界でも頻発していた大地の唸り──地震だ。
──がたがたがたがたがたッ!!
次の瞬間だった。
外から大きな音が聞こえてきて、そして学園の建物が大きく揺れる。
地震!? と直感したイクサは頭を隠してしゃがみ込む。
がたがたがたと本棚が揺れ、本が落ちていく。パモも怯えてイクサのブレザーの中に潜り込んでしまった。
しばらくすると、揺れは収まり──落ち着いた様子でレモンは言った。
「……出てきたわね……”迷宮”」
「迷……宮!?」
「──このオシアス地方に、野生ポケモンはあまり生息していないわ。
「何なんですか、迷宮って」
「見れば分かるわよ」
頃合いを見計らってか、レモンはパソコンのモニターにSNSの動画を映し出す。
そこには、異様な光景が広がっていた。
一見すれば何の変哲もない砂浜だ。
しかし、ある一点。地面が大きく隆起して、大きな洞穴が口を開けている。
「な、何だこれ……!?」
「これが……迷宮。たった今生まれたヤツね。自然の恵みにして災禍の洞穴。この学園が強いポケモントレーナーの育成を行っている理由よ」
(シンオウ地方の地下大空洞みたいなものか……?)
「中には様々なポケモン、あるいは財宝があるなんて話もあるわ。オシアス発展の背景は迷宮にあると言っても良い」
「ポケモンに財宝……!」
何とも胸が躍るキーワードだ。
「でも……今みたいに迷宮が出来る事って」
「割としょっちゅうあるわ。むしろ此処最近は迷宮が出来る頻度が短くなってるまである」
「大変ですね……その度に地震が起こるなんて」
「もう慣れたわよ」
本当の地震とは違うから、というのも大きいのだろう。
程度に差はあれど、迷宮の出現で都市部が大きな被害を受けることはあまりないらしい。
それでも、町中に迷宮が突如出現したことで、それなりの人的被害・物的被害が出た時もあるにはあるので油断はならないらしいが。
「そしてここからが、さっきの話の続きよ。迷宮に生息しているポケモンは、オシアス磁気というものを纏っているの。そして、それを無記名のカードに記録することで、初めてオーカードとして成立するの」
「オシアス磁気……?」
「ええ。微弱な電磁波のようなものよ。逆に言えば、これを纏っていない他の地方のポケモンをオーカードに記録することはできないわ」
「じゃあ、レックウザが……このオシアスの地下に居るってことですか?」
「そうよ。それが問題なのよ」
伝説のポケモンは、他のポケモンとは一線を画す能力を持つ生ける天災だ。
存在するだけで生態系に影響を与え、周囲に甚大な被害をもたらすこともあるという。
そのような存在がオシアスの地下に居るかもしれないということが、イクサの持ってきたオーカードによって証明されてしまったのである。
そして、迷宮が存在する限り、いつそのような存在がオシアスに這い出てきてもおかしくない。
「どちらにせよレックウザのオーカードはしばらく私が預からせてもらう。そうね……パモ様と交換ってことでトントンじゃダメかしら」
「いや、もう、そこまで大層なものだったなら、僕の手に余りますし……レモンさんに任せます」
「……ありがと。素直な子は好きよ」
「……」
簡単に好きと言う彼女だが、それはむしろ小さな子供や動物を可愛がるようなニュアンスだった。
それが正直、イクサにはむず痒かった。
気を取り直しながら、彼はレモンに問いかけた。自分は比護されるだけの存在ではない、と証明するために。
「……迷宮を探していたら……いつかはレックウザに会えるかもしれないんですよね」
「保証はしかねるけど……貴方まさか」
「そのまさかですっ!」
レモンの目を真っ直ぐに見て──彼は宣言する。
「僕、目標が出来ましたっ! 此処でバトルを極めて、強いトレーナーになって……迷宮に潜って……レックウザを捕まえてみせますっ!!」
それは、トレーナーからすれば途方もなく遠い夢だ。
伝説のポケモンに会わずに一生を終えるトレーナーの方が圧倒的に多いのだから。
そんな事はストーリーでの特別な扱いを見ればイクサだって分かっている。
だがそれでも諦められない。むしろ目指す。そう考えてしまうのがポケモントレーナーのサガだ。
だから、レモンも──その目標を嗤いはしない。
「それくらい強くなればきっと……ッ!」
「……ふふっ、貴方って……この学園向いてるわ」
「それって……誉め言葉として受け取っても良いんですかね?」
「ご自由に。むしろ此処で物怖じする方が心配だもの」
レモンは──改めてイクサに手を伸ばす。
「──ようこそ、砂漠の地・オシアス地方へ。ようこそ、スカッシュ・アカデミアへ」
「はいっ、これからよろしくお願いします、レモンさんっ!」
「ぱもぉ!」
それをイクサもまた、握り返す。
今此処に、イクサの学園生活が幕を開けたのだった──
※※※
「こんな事はあっちゃならねぇ……ッ!!」
自室でラズは壁に拳を叩きつける。
納得がいかないのは、レモンの要求だ。
もっと重い要求でも、決闘に負けた以上は受け入れるつもりだったのである。
しかし、失ったのは金銭だけ。一般人からすればとんでもない額だが、ラズからすればはした金だ。
それがむしろ、彼のプライドを傷つけた。
(これも元はと言えば、レモンが1年以上も決闘で代理を立て続けてるからだ! 恥は無いのか、あいつめ! それに──急ごしらえの代理に、この俺が負けるゥ!?)
レモンに負けるのはまだ良い。彼女は同等、真っ向に戦えば五分五分だ。
彼女が何時も立てている代理に負けるのもまだ良い。レモンが不敗なのは、その代理人が強いからである。
問題は、今日転校してきたばかりの代理の代理に負けた事だ。
(有り得ねーぜ、今日は厄日だッ……!)
ルールが特殊だったとはいえ、大事件も良い所である。彼にとっては屈辱も良い所だった。既に他寮の生徒から、ラズは嘲笑の的となっている。
(イクサって言ったか……ならば、この屈辱、いずれ倍に煮込んで返すッ!!)