ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】 作:タク@DMP
──スカッシュ・アカデミア。
それは、荒野の広がるオシアス地方の海辺に座す巨大な学園都市である。
腕利きのトレーナー志望者が集うトレーナー科だけではなく、技術科や商業科も存在しており、在籍者は5000人以上とされている。
そして、学生寮は大きく分けて3つ。
紫電の如き黄の旗を掲げる【サンダー寮】。寮長は風紀委員会委員長のレモン・シトラス。
烈火の如き赤の旗を掲げる【ファイヤー寮】。寮長は体育委員会委員長のラズ・クランベリ。
氷海の如き青の旗を掲げる【フリーザー寮】。寮長は文化委員会委員長のシャイン・マスカット。
学科だけでなく、この寮の所属により、派閥が決められてしまっていると言っても過言ではない。
それぞれの寮は単に対抗意識が強いだけでなく、シトラス家、クランベリ家、マスカット家の企業に所属する人間で固められているからである。
イクサが所属するのはシトラス家のサンダー寮。
そして、ポケモントレーナーを養成するトレーナー科だと説明された。
「此処で育ったトレーナーは皆、企業が運営するバトル施設のトレーナー・ブリーダー、ジムリーダーに就職するわ。貴方も卒業すれば、うちのグループの会社で働くことになるかもね」
「マエムキニケントウシマス」
「ふふっ、良い返事ね」
そんな感じで学園の大まかな説明を受けた後、イクサは寮の案内をされることになった。
途中、道行く人々の視線が気になったが、レモンが見知らぬ人間を連れているのが珍しいのだろうと考える。
なんせイクサの横に今立っているのは、寮長である以上に大企業のお嬢様なのだから。
(よくよく考えなくてもすごい状況だなコレ……)
「ねえ、聞いてる?」
「ひゃいっ!?」
「……何それ。可愛い反応するのね」
「……やめてくださいよ」
「近年、増えてるらしいわ。貴方以外にも”別の世界から来た”って言ってる人」
「えっ!? 僕以外にも!?」
元々ポケモンの世界にはウルトラホールなどというものが存在する。異空間、別世界に繋がる大穴だ。
しかし、彼女の口ぶりではイクサの通ってきた穴はそれらとは違うものらしかった。
「噂程度でしかなかったけどね。確実に増えた。スカッシュ・アカデミアでも話題が持ち切りになってるわ。貴方、くれぐれも自分の身分をべらべらと喋らない事ね」
「分かってるよ……僕だって自分の立場は分かってる」
「そう。良い子ね。賢いと扱いやすくて助かるわ」
「結局、僕は元の世界に戻れるの?」
「ハッキリ言って、未確定で未知数よ」
「うう……そうだよね……」
(まあ、ポケモンの世界に居られるのは悪くはないけどね……へへへ)
「でもまさか、学園の敷地に落ちて来るなんて、貴方も災難だか幸運だか。オシアス地方は砂漠が多いから、落ちどころが悪いとガイコツになってたかも」
「うへぇ。最高……」
「それで、貴方が泊まるのが──このサンダー寮ね」
「さっき見た」
連れて来られたのは、黄色い寮だった。
「入学手続きの偽の戸籍は既に作らせたわ」
「手が早いね、金持ち……」
「やると言ったからには、逃げたらどうなるか分かるわよね?」
「僕だって砂漠で野垂れ死ぬのはゴメンだからね……にしたって良いの? 此処までしてくれて」
「うん?」
「そっちの事情は分かったけど、それでも寮まで用意してくれるのは正直、至れり尽くせりな気がするんだけど」
「1つは
(それって結構危ないんじゃないかなあ……ポケモンの世界らしいと言えばらしいけど……)
そしてもう1つは──と言って、彼女はカードをイクサに見せた。
それは、彼の宝物であるレックウザのカードだった。
「……私がコレに興味を持ったからよ」
「ちょっと、それは僕の──ッ!!」
「あら、ごめんなさい。さっき、貴方の衣服をチェックしている時に見つけたの」
「ッ……言っちゃ悪いけど、ただのカードだよ。返してよ」
それを聞いて、レモンは少し呆れたような顔をするのだった。
「貴方……これが何なのか分かってないのね?
「とんでも……ない物? 説明してよ。そのカードが一体何だって言うんだ? 実は超年代モノのレアカードで、コレクターの間で取引されているとか?」
「そうね──じゃあ、これを担保にするってのはどうかしら。そんなに大事なら、貴方も私を簡単に裏切れないし……こっちの方が貴方もむしろ私を信用できるでしょう?」
「まだ何にも説明されてないけど」
「勝ったら教えてあげるわ。貴方が
「……ぐぅ……まあ、あのカード1枚と決闘の代理で衣食住が確保されるなら……悪くは無いけど」
「ふふ、賢そうで助かったわ」
そのまま空き部屋に案内され、中の説明を受ける。
制服も明日の朝には用意されるらしい。手が早過ぎである。
「……それで、僕は明日勝てば良いんだっけ。授業とかはまだでなくて良いよね」
「ええ勿論。明日の決闘の代理をして勝てばそれで良いの。負けたら分かってるわね?」
「……勝つ、か」
「不安?」
レモンの問いに──イクサは淀まずに答えた。
「──バトルには自信があるよ。条件が互角ならね」
その目には一点の曇りもなかった。
此処まで何処か気弱さを滲ませていた言動からは信じられない程だった。
「……そう。羨ましいわね」
「何それ皮肉?」
「いいえ、心からの賛辞よ」
(こんな滅茶苦茶な状況に巻き込まれてるのに、バトルは自信がある、か。この子もちょっとネジが飛んでるわね。一体、どんな修羅場で戦ってたのかしら)
ランクマッチとインターネット大会である。
「それじゃあ明日……頑張ってね」
「ああ。極力ね」
ベッドの上に横たわると──どっと疲れが押し寄せてくる。
元はと言えば寝るつもりだったのに、珍事に珍事が相次いでこんな事になってしまった。
(結局カードは奪われるし……勝たなきゃ刑務所行き……初っ端から飛ばし過ぎなんですけどぉ……)
しかし──逆に言えば、勝てば全てが手に入るということでもある。
(ゲーム以外のポケモンバトルなんてやったことないけど……やれるだけのことはやってみよう)
※※※
──次の日の朝。
この学園では、決闘が授業よりも優先されるらしい。一種のエンターテイメントだ。
それが、寮長クラスの実力者のものであれば猶更であるという。
(案の定、学園単位で決闘脳だなぁ……アニメや漫画じゃあるまいし……)
係員に案内されながら連れて来られたのは、学園都市にある特設リング。
火山帯を再現しているのか、フィールドは岩石に覆われており、熱っぽい。
「それで? 昨晩はよく眠れた?」
「おかげさまで」
「そう。じゃあこれは餞別よ」
【オーバングルと オーカードを3枚手に入れた!】
渡されたのは、金属製の腕輪。そして、3枚の金属製のカードだった。
腕輪には見たことが無いような輝きを放つ宝石が埋め込まれている。
そして、カードには、レーザーでそのポケモンの姿が絵で描かれていた。
「……あのー、知らないアイテムが一気に渡されたんですけど、これは?」
「あら。バトルには自信があるって言ってたじゃない」
「いや、そうだけど、僕の世界にこんなものは無かったなぁ……チュートリアルとかない?」
「無いわ。すぐに実戦よ」
「勝たせる気あります!?」
「冗談よ」
くすくすと笑うレモンは続けた。
「学園の決闘バトルでは基本、6匹の中からポケモンを1匹だけ選んで選出するの。今回は互いに使うポケモンが分かり切ってるけどね」
「そ、それじゃあ、普段の決闘バトルって……言ってしまえば、じゃんけんじゃないですか」
ポケモンには1匹1匹に18のタイプのうち、2つまでが設定されている。そして、ポケモンの技にも18のタイプのうち1つが設定されている。
出した技のタイプが、相手ポケモンの持つタイプに有利だと、与えるダメージが倍になる。
一方、自分のポケモンのタイプが、相手の出した技のタイプに有利だと相手から受けるダメージが半減するのである。
炎は草に強く、草は水に強く、水は炎に強いといった3すくみだけではなく、各タイプ毎に相性設定が存在するので、ポケモンの相性はどのゲームの中でも最も複雑とも言われるのだ。
そして、通常のポケモンバトルには通常「交代」という選択肢が存在する。
例えば相手ポケモンに不利なポケモンを対面させてしまった時に、有利なポケモンと交代させる……と言ったように。
この「交代」が存在しない決闘バトルには、一度不利なタイプのポケモンと対面してしまうと、そのまま負けるしかなくなってしまうのではないかとイクサは危惧する。
しかし──
「いいえ。トレーナーにはバトル中にポケモンを”オーライズ”させる権利があるわ」
「オーライズ?」
聞きなれない単語にイクサは聞き返す。
「ええ。これは、他のポケモンのオーラを別のポケモンに纏わせることで、ポケモンのタイプと特性を変化させるの」
解説すると、戦っているポケモンAに、控えにいるポケモンBのオーラを纏わせるのがオーライズの基本だ。
ポケモンAのタイプと特性は、ポケモンBのタイプと特性に上書きされる。
これにより、相手が苦手なポケモンであっても逆転の目が出るのである。
(テラスタルの超強化版ってことか! ……交代できない代わりに、これでタイプ相性をひっくり返すんだ。要はこの地方に於ける、メガシンカやZワザ、ダイマックス、テラスタルみたいな要素ってことだな)
「更に、オーライズしたポケモンは、オーカードに記録した技を一時的に習得してバトルで使えるわ。それがOワザよ」
「じゃあ、例えば水タイプのポケモンにオーライズしたけど、使える水タイプの技が無い……って事には」
「ならないわ。その代わり、Oワザは1つしか習得できない。これだけ覚えておいて頂戴」
「……便利だなあ。でも、オーライズって、どうやってできるの?」
「このカードを使うのよ」
渡されたのは金属製のカードだった。
そこに描かれていたのは、水/飛行タイプのポケモンのギャラドス。草タイプのアマージョ。炎タイプのウインディ。
いずれも、対戦では相手をするとなかなか強いポケモンばかりだ。
「これはポケモンのオーラを込めた”オーカード”。言わばオシアス地方の技術で作られたデータカードってヤツよ。これを宝石のオージュエルに翳せば、ポケモンにオーラを纏わせることができる」
(ポケモンのタイプは悪くない……パモ様との相性補完にもなってる。相手の地面を完全に封じるなら、地面技が効かないギャラドス。後は相手に応じてアマージョとウインディってところか)
「って事は、相手の見せているオーカードに応じて、どのポケモンにオーライズするかを考えないといけないってわけか」
「いきなりだけど、出来るかしら」
「……そこは問題ないよ。3匹共タイプも特性も比較的優秀だ。ただ、相手のオーカードを見ないと何とも言えないかな」
「じゃあ決闘が始まってからのお楽しみね。最後に──これが、パモ様のボールよ」
そう言って、レモンはボールをイクサに手渡した。
「……何度も言うけど、こんなに大事なポケモンなら、自分で戦って守るべきだと思うけどね」
「ええ、何度でも言ってちょうだい」
「……食えない人だなあ」
「よく言われるの」
ボールを手に取ると、彼はそのまま会場へと向かっていく。
後姿を見つめると、レモンはベンチに座って呟くのだった。
「……そんな事……私が一番分かってるに決まってるじゃない……」
※※※
「おい、逃げずに来たみてえだな」
──場内に人は居ない。
しかし、宙にはドローンが飛び回っている。
そして──フィールドの反対側には、ファイヤー寮の寮長・ラズが立っていた。
「貧乏人。テメェも不運だな。レモンのヤツに振り回されて代理の代理とはよ」
「……不運、か。確かにそうかもね」
「レモンのヤツが何考えてるかは知らねえが……憂さ晴らしにテメェをぐっずぐずに潰してから考えるとするよッ!!」
『それでは、今回の決闘のルールを、放送部2年のクロミが解説するにゃーんっ♪』
モニターが映ると共に、猫撫で声の女の子の声が会場に響き渡る。
赤いブレザーを着たスタイル抜群の女子生徒がウォーグル──大鷲のようなポケモン──に乗って現れる。
「な、何だっ……!?」
「ふんっ。新入りにしっかり教えてやれ、クロミ」
『はいにゃー♪ 今回のルールは特別決闘バトル! 互いに使用ポケモンが分かっている状態で、決闘直前に3枚のオーカードを公開し、バトルを開始するのにゃー♪』
「……さっき聞いた通りだ」
『ところでラズ様ぁ、何で今回はわざわざ決闘の相手にパモ様を指名したのかにゃーん?』
「決まってんだろォ! 俺様はな、欲しい物は
『流石高潔な我らがファイヤー寮の寮長だにゃーん!』
(成程ある意味潔いな……結果的にそのルールが、この世界でトレーナード素人の僕に、有利に働いてくれてる)
パチパチと頬を叩くと、イクサはパモのボールを握り締めた。
(ラズさんはさっき、僕の事を不運だって言ったけど……案外、そうでもないのかしれない)
「──パモ様。頼むよ」
「……俺の手持ちはコイツだ。ニャビー!!」
互いにボールが投げられ、ポケモンが中から飛び出す。
パモの敵となるのは、赤い猫のポケモン・ニャビーだ。
(このマッチアップは昨日から知らされてたけど、猫はネズミに強いとでも言わんばかりだな……!)
『それでは、事前に提出された、両者の3枚のオーカードを公開するにゃーん!!』
──イクサのオーカードは、
ギャラドス(水/飛行)、アマージョ(草)、ウインディ(炎)。
──ラズのオーカードは、
ヤナッキー(草)、エンニュート(炎/毒)、ヌオー(水/地面)。
互いに、炎・草・水タイプのポケモンを揃えた形となる。
(案の定、電気タイプと相性が最悪の地面タイプが居る……ッ! えーとパモ様の技は……マッハパンチ、電気ショック、電光石火、なきごえ……だよな)
渡された端末でパモの状態をチェックしながら、イクサは戦術を組み立てていく。
(先ず、どれを選ばれてもパモ様の技のどれかは半減されてしまう。電気技は草タイプには半減、地面タイプには無効だ。その中でマシなのは、一致技じゃない格闘技を半減されるエンニュートかな)
(流石レモンだ。オーカードにも隙がねぇ。だが、これで条件はほぼフラット。素人は決闘バトルがジャンケンだと思ってる奴が居るが、それはちげぇ。頭も使うし、ポケモンのフィジカルも重要なのよ)
そもそも電気タイプと炎タイプは相性上の有利不利が存在しない。
この試合のオーライズの使いどころは攻撃ではなく防御。
相手の技を防ぎたいタイミングで使う事になる、とイクサは判断した。
後は、戦ってみなければ分からないことだらけだ。
(やれるだけのことは……やってみるッ!!)
「パモ様。行くよ」
「ぱもぉ!」
『それでは──試合、開始ッ!!』