ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】 作:タク@DMP
第1話:学園モノ、決闘で物事を決めがち
──ポケモン廃人。
それは、ポケモン対戦や色違いに命を懸けるがあまり、ゲーム時間の殆どを対戦──ではなく、その準備に必要なレイドバトル周回に費やしている人種の事を指す。
無限とも言えるレイドバトル周回は、ポケモントレーナーの義務である。虚無のような顔でボタンをカチカチ押しながら、彼は溜息を吐いた。
この少年・イクサはポケモンが好きだ。現実に居れば良いのにとさえ考えている。
ポケモンを戦わせるのはもっと好きだ。戦略的なゲームが昔から好きなのである。
ポケモン好きが高じて、ゲームにのめり込み、廃人の域まで片足を突っ込んでしまった。いや、今となってはもう両足を突っ込んでいると思う。
だが──それはそれとして、レイドバトルの周回は虚無だった。
このゲーム、昔から対戦にかける時間よりも対戦の準備にかける時間の方が圧倒的に長いのである。
「あー……テラスタイプ変更にテラピース50個って設定したの誰だよ……いつになったら溜まるんだよ、50個……」
思わず漏れてしまうくらいには、この仕様にイクサは不満を抱いていた。
イクサの目の下にはごっそりと隈が出来てしまっている。
そうしているうちに──彼は飽きて、ニンテンドーSwitchをベッドに放ってしまった。
これ以上続けると、明日の学校に響いてしまう。
眠気が襲い掛かってきた辺りで、彼はベッドに突っ伏した。
そこで、学校最強大会の金策の事を思い出し、眠い身体を引っ張って連射コンを用意し、充電器にSwitchを繋ぐ。
「ふぃーあ♪(以下無限ループ)」
「……これで良し」
──ニンフィアが延々とハイパーボイスを撃つようにセッティングするだけ。
今作の育成は金で全部解決できるが、その金を稼ぐのに最も効率が良いのがこれなのである。
それが、ニンフィア1匹がハイパーボイスを連打して敵を全部倒すという自動周回であった。ニンフィアの稼いだ金は自動的にトレーナーの懐に入る仕組みだ。
これだけ自動で金を稼いでも、ポケモンを育成するとすぐに金が無くなるのであるが。
正直、ズル休みして一日中ポケモンをしていたい。
していたいのだが──問題は、したところで殆どは作業に時間を費やす羽目になりそうなところである。
昔は孵化厳選、今はテラピース集め。
誰が好き好んで作業ゲーをしたいと思うのだろうか。
(もういいや。寝よう。そうしよう)
カチッ、とスマホのアラームをセット。明日は月曜の朝課外でいつもより早く出ないといけない。
(学校は学校でも、グレープアカデミーだったら良かったんだけどね)
ゲームの中の学園に想いを馳せる。
パルデア地方にあるグレープアカデミー(ないしオレンジアカデミー、バージョンで名前が異なる)はポケモン好きからすれば夢のような学校だ、と彼は考えていた。
朝課外なんてないし、怖い生活指導の先生はいないし、体育祭の練習も無いのである。
それどころかポケモンに関する授業を受けたり、ポケモンと一緒に受けられる授業もある。
何と言っても最たるは、宝探しと呼ばれる課外授業。各々が各々の「宝物」を探しに、舞台であるパルデアを冒険するのだ。
こんな学校があればいいのに、とイクサは夢想する。そんなものは現実に無いのであるが。
(はぁーあ……憂鬱。憂鬱だけど……)
スマホの横には、ローダーに入れたボロボロのポケモンのカードが入っている。
これを見ていると、何となく元気が出てくるのだ。
緑色のドラゴンのようなポケモン──レックウザ。
(小さい頃に……優しいお兄さんに貰ったんだよね……もう顔も覚えていないんだけど……)
両親に後から聞いたところイクサが初めて触れた「ポケモン」のグッズらしい。
だが後年調べてみたところ、このようなカードは何処にも売っていないことが分かった。
所謂「ポケカ」でなければ公式のグッズでもない。よく見ると製造番号のようなものもない。
おまけに本来登場するよりも遥か昔に存在したカード。ハッキリ言って謎だらけだ。
だがそれでも、持っているだけで力強いものが感じられるのだ。
(レックウザ……早く君がパルデアにやってくるのを待っているよ)
そう相棒に想いを馳せながら、彼はベッドに横たわるのだった。
「──”見ツケタ”」
──声が何処からか聞こえてくる。
おかしい。Switchの音量はミュートにしているはずなのに、確かに音声が聞こえてくる。
イクサは思わず飛び上がり、Switchに近付いた。
良かった、音声はきっちりオフになっている。
(ん? じゃあ何で聞こえた? Switchのファンの音かな? やだなぁ、これもう古いんだよなぁ、買い替えかな?)
そうやって近付いたその時だった。
突如、空間に──丸い穴が開く。
「──は?」
そこからすっ飛んできたのは──手。
ぞっとしたが、本当に手だけが飛んできたのである。
青白く、そして屈強な腕だ。
見るからにホラー映像なのだが、現実である。
それが部屋に入り込んで来るなり、スマホの横に飾っていたレックウザのカードをひょいと持ち上げてしまう。
「ちょいちょいちょい待って──!?」
すぐさま腕はレックウザのカードを奪うなり、引っ込んでいってしまう。
「それを奪うのはダメだよーッ!? それは僕の宝物で──ッ!!」
追いかけるようにイクサも、穴の中に手を伸ばす。次の瞬間──
「えっ──身体が引っ張られ──」
──彼の身体は、一気に穴の中へと吸い込まれ──落ちていくのだった。
だが、それでも彼は諦めずにカードを握った例の怪腕へ向かっていく。
「──こ、このやろっ、そのカードは僕の宝物だぞっ!! 返せぇぇぇーっ!!」
「──ッ!!」
ガブリ。
思いっきり歯を突き立てて噛みつくと驚いたのか、痛みで腕はカードを放す。
そして、それをすかさずイクサはキャッチ。
したところまでは良かったのだが──
「ああ、落ちる──ッ!?」
──そのまま異空間の通路の中を自由落下する羽目になったのだった。
※※※
「──何処だ……此処……」
頭を激しく何処かにぶつけた気がする。
「……カードは……あるな……うん」
落っこちていたレックウザのカードを拾い上げて、ポケットに入れた。よくよく考えても、カード1枚の為に知らない所まで来てしまったな、と彼は考える。
少なくとも家の中ではないことは確かだ。
揺れる頭を抑えながら、辺りを見回した。
近くに大きな建物が見える。真っ黄色の派手な、煉瓦仕立ての趣味の良さそうな建物が。
夢だと思いたいが、頭の痛みがこれを痛みだと思わせてくれない。
起き上がると──
「ぱもぉ? ぱもぉーっ!?」
──何かが頭の上に乗っかっていたのか、ころころ、とイクサのお腹の上に転がってくる。
黄色いネズミのような生き物だった。
ずんぐりと丸っこく、頬には黄色い袋が目立つ。
「ぱも? ぱもぱもっ」
「……えーと、こいつって──パモ、だよな!?」
──ネズミポケモン・パモ。
それが、この生き物の名前だった。
ゲームやアニメの存在であるポケモンが目の前に居ることに、イクサは目を輝かせ、思わずパモを両手で持ち上げる。
「すっごい! ポケモンだ! ポケモンが──居るっ!」
「ぱもぱもっ」
「夢じゃないよな……? いや、夢じゃないっ」
「ぱもぱも!」
こちらに懐くように頬を擦りつけて来るパモ。
ぱちぱちと静電気の鳴るような音が聞こえるが、発電器官がまだ未熟なのか痛くない。
そしてよく見ると──黄色いスカーフのようなものを首に付けている。
野生に生息しているものではなく、誰かに飼われている個体ではないか、と彼は推測する。
(しっかし、まさかポケモンが居るなんて……もしかしてとんでもないことに巻き込まれちゃったんじゃないか、僕……ん?)
唸り声に囲まれていることに気付いた。
鮮やかな黄色い体毛のシェパードのような犬だった。
「……犬……? 犬……ってか」
「ぱもっ……!?」
その特徴的な体毛。図体に似合わぬつぶらな瞳。
そして、牙からバチバチと流れている放電音。
「も、もしかして、もしかしなくてもっ、パルスワンッ!?」
思わず目を光らせた瞬間に、頭からかぶりつかれた。
だらだらと頭から生温い液体が流れて来るが──構わずイクサはパルスワン──と呼ばれるポケモン──の胸元をわしゃわしゃわしゃ。
横でパモがドン引きしている。
「よーしよしよしよしっ、今度はパルスワンと出会えるなんてビックリだよっ! よーしよしよし、僕、喘息だから犬ダメって言われて飼えなかったんだよねぇ、よーしよしよし」
「ガルルルルルル……」
なんか追加で3匹くらいやってきて手と足も噛まれているが気にしない。
初めて目にした生のポケモンを前に興奮が抑えきれない。それがよろしくなかった。
「もしもし──寮長、パルスワンに頭を噛まれて悦んでいる変態が居るんで引き渡しますね。え? 変態を引き渡されても困る? やだなぁ、そう言われたって……そのための寮長兼風紀委員長じゃないですか、あんた俺らの上司でしょ、ええ、良いですね?」
そうして、悦んでいた所為でイクサは、周りにパルスワンだけではなく人も集まっていることに気付かなかった。
近寄ってきたのは学生帽を被り、黄色いブレザー姿の背が高い、真面目そうな顔をした少年達だった。
そのタスキには──見た事の無い字で何か書かれている。
しかし、何故かすぐにその意味をイクサは理解することが出来た。「風紀委員」と書かれている。
(──風紀委員? 此処ってどっかの学校ってことか? ハハハ、風紀委員なんて今時漫画でも古いって──)
「オイ変態。抵抗すんじゃないぞ、連れてくからな。そこのパモも」
(あ、もしかしてマジに風紀委員?)
「これは誤解ァい!! 違うんです!! 変態じゃァありません!! 僕は只の一般人なんです!! えーと──東京ってところから来たんですけど、分かります?」
「何言ってんだコイツ」
「おかしいんじゃないか? カントーなら知ってるけど」
「あ、そう! カントー! カントーです!」
(──間違いない。僕は……あの穴から──)
「いやまごう事なき変態だろ……変態で侵入者だろオマエ。こんなヤツ見た事ねえ」
「此処はなァ!! 学生寮なんだよ!! サンダー寮!! 分かる?」
「が、学生寮ォ……!?」
「取り合えず連行するか」
「ああ」
「えっと、僕、これからどうなるんですかね?」
「それを決めるのがうちの寮長で風紀委員──この学園の治安を司るお方だ」
「パモォ……ッ!!」
ごしごし、とパモが両頬の電気袋を擦り上げているのが見えた。
明らかにこの風紀委員たちに威嚇しているようだった。
「……そのパモも連れていく」
「待ってください! ……貴方達、そのパモの何なんですか?」
「──ッ!!」
「こんなに人懐っこいポケモンが威嚇するなんて普通じゃない。もしかして──」
パモは歯を剥き出しにしながら臨戦態勢を取っている。
それを横目に──風紀委員はボールを取り出した。
「──確かにそのパモは俺のポケモンではない」
そのボールからビームが放たれ、パモに当たると、あっさりと吸い込まれていった。
イクサは沈黙する。完全に彼らに飼われているポケモンだったらしい。
「──うちの風紀委員長の管轄のポケモンだ」
「逃げだして探してたんだよ」
「後、人懐っこくもない! 逃げるわ威嚇するわ電気を放つわで大変なんだ!」
「あっ、はーい……スイマセンデシタ」
これで悪人は唯一人。つまり侵入者のイクサだけが残る。
パルスワンにかぶりつかれたまま、イクサは脇を「風紀委員」の少年に掴まれ、何処かへ連れていかれていく。
※※※
(で、よくよく考えたら僕、何もしてないのに捕まってるんだよな……もしかしてヤバい……)
喜んでいられたのも、最初の数分だけだった。
だが、しばらくして言葉を失う。
そこらの有名大学に匹敵する巨大な学園都市が広がっている。
(広い、大きいッ……何なんだここ……!? 学校なんだろうけど、町一個分の広さはあるぞ!?)
そのうちの建物の1つに連れていかれたイクサを待っているのは物々しい門で閉ざされた部屋だった。
手錠で繋がれたまま彼はロープで簀巻きにされて、そこにぶち込まれる。
部屋の入り口には「風紀委員会室」と書かれていた。
「──寮長ォ!! 不審者を捕まえてきました!!」
「後ついでに
「逆では? 頼まれたのは元々パモ様の捕獲だろ」
「そうだ、逆だった。ついでは不審者の方だった」
「もう少し、人間らしい扱いはできませんかね……」
「不審者が何か言ったかァ!?」
足蹴にされながらイクサは顔を持ち上げる。
本棚がぎっしりと詰まっている。
その中央に執務机が置かれており、更に「風紀委員長」の立札が掛けられている。
そこに座っているのは、黒い長髪を流した少女。
可憐の二文字が似合うが──視線はとても冷たい。
その横には大量の書類が山のように積み上がっており、仕事人間であることが一目で分かった。
「……ご苦労です。では、もう出て行って頂戴」
(……か、可愛い……)
思わずイクサは見惚れてしまっていた。
まだ幼さが残るが、はっきりと威厳が上乗せされた声。
それに驚きつつも風紀委員たちは顔を見合わせて反駁する。
だが、既に気圧されているのか声が震えている。
「え? し、しかし、不審者と委員長を二人っきりには出来ません!」
「……私が出て行けと言ったの。早く出て行って頂戴。明日の試合の準備もしないといけないのに、面倒事を増やさないで頂戴」
「ッ……!?」
「まあ良い、行こう。委員長は
「……では、失礼します!」
敬礼をすると風紀委員たちはそのまま立ち去っていく。
後に残るのは、イクサと──少女だけだ。
「変態さん」
「ひゃいっ!? い、いえ、変態じゃないです……」
思わず声が上ずる。
こっちの耳を撫でるような声だ。
明らかに手玉に取っているような、遊んでいるような声だ。
「私はレモン。サンダー寮の寮長で──風紀委員会の委員長よ。よろしくね、変態さん」
「だから変態じゃないんですけど……」
【サンダー寮”風紀委員長”レモン】
「──貴方、何者? いきなり学園の敷地に現れて……アキラカに怪しい。そのまま自警団に引き渡しても良いのだけど」
「いやぁ、確かに不審者と言えば不審者なんですけど……」
「でも、そのくせ
「ぱもぉ」
「えっ?」
気が付けば──頭の上にさっきのパモが乗っている。
くしくしと毛づくろいをしている。
「その子、滅多に人に懐かないの。血統書付きの超良血種だけど、気位が高いって言うのかしら。やんちゃだから、すぐに逃げちゃうのよ。だからみんなからパモ様って呼ばれてるの」
「だからさっきの風紀委員たちに威嚇してたのか。あれ? じゃあ何で僕に懐いてるんだ……?」
「……再度聞くわ。貴方、何者?」
「えーと、だから僕……迷子みたいなものなんですよ。気が付いたら此処に居て」
「それは無理があるわ。……だってここ、気が付いたらで入れるような場所じゃないもの」
「……此処は何処なんですか?」
「……話にならないわね」
「だから本当に迷い込んだっていうか、事故なんです!」
「何処から?」
「うっ……」
「何処から迷い込んだの?」
観念して、頭がおかしいと言われるのを覚悟でイクサは切り出す事にした。
「僕は──変な穴を通って此処に来たんです」
「……変な穴?」
「はい……えと、部屋の中に穴が開いて。それを通ったら、ひゅごーって吸い込まれて」
「……例のワープホールの被害者って事ね」
「いやあ、信じて貰えなかったら結構なんですけど──何て? ワープホール?」
「成程。それなら話が早いわ。それなら変態さん。私から一つ、提案があるのだけど──」
「いや、話が早すぎる。僕何にも分からんのですけど」
「──おい、レモンは居るかァーッ!! サンダー寮の寮長のレモンはよォ!!」
その時だった。思いっきり委員会室の扉が開く。
「……おでまし、ね」
「な、何だ……この人……!?」
「今日も今日とてしみったれてるなァ、ご苦労なこって……」
現れたのは、屈強な肉体に身を包んだ大男。
何かのスポーツでもやっているのか、上から下までバッキバキである。
肌は真っ黒に焼けており、髪は燃えるようなオレンジ色だ。
そして彼は足元に転がっているイクサを見ると嫌悪感丸出しの顔で「何だァ?」と眉を顰めるなり──
「オイオイオイオイ、何なんだァ、この薄汚ェ貧乏人はよォ」
(貧乏人て……マジで嫌な人だな……)
──思いっきり睨み付けて来る。
それでパモもイクサの陰に隠れてしまうのだった。
「──やめなさい」
「あん?」
「……彼は今、私の管轄よ。下手な事をすると貴方もしょっ引くわよ」
「チッ……そんな事はどうだっていいぜ。明日の決闘バトル、
「……そうね」
「漸く本気のオメェと久々にやり合えると思うと、ワクワクしてよォ!! ……来るんだよな?」
(ひえっ、殺気凄……)
「……その件なのだけど、話が変わったわ、ラズ」
「ああん?」
「そこに転がっている彼が──明日の代理よ」
(は? 代理って?)
ギッ、と男は──イクサを睨み付ける。
彼は首を横に振った。何にも聞いていない。知らない所で話が勝手に進んでいる。
「ハッハハハハ! 笑わせんじゃねえぜ! コイツが代理!? テメェ……勝負を捨てたか? 何処の誰とも分からんポニータの骨が代理!?」
「ええそうよ。前から言ってるでしょう? ……私、弱いヤツとは戦いたくないの」
涼しい顔で彼女は言った。
「……ナメてんのか、レモン。このラズ様の試合であっても代理を立てるってのか?」
【ファイヤー寮”体育委員長” ラズ】
「代理を立てる事が許されているのはルール通りだもの。何も問題無いわ」
「そこの貧乏人の陰に隠れてる……
「ぱ、ぱもぉ……」
怯えた様子でパモがイクサの傍で震えている。
だが、それでも至って涼しい顔でレモンは言ってのけた。
「ええ。奪えるものなら奪ってみなさい。……ルールに則ったバトルでね」
「ッ……!!」
火山のようにラズと呼ばれた男の顔が真っ赤になっていくのがイクサにも見えた。
「……テメェ、明日は覚えとけよ……ぐっずぐずにブッ潰す」
(何でェ……!?)
機嫌が悪そうにラズは風紀委員会室を出て行くと──そのまま乱暴に扉を閉める。どぉん、と衝撃波のような音が聞こえてくるのだった。
「レ、レモンさん、酷くないですか!? いきなりバトルの代理に僕を立てるなんて!」
(大体何だよこの学園!! グレープアカデミーどころか、校風が鳳〇園やア〇ティカシアじゃないか!!)
「そうね、順を追って話しましょう」とレモンは立ち上がり、イクサの元にまでやってくる。順を追って説明すれば良いというものではないのであるが。
「数日前、ラズはこの私にそこのパモ様を賭けた決闘バトルを挑んできたの。マッチアップ条件は【パモ様VS相手の同じレベル帯のポケモン】よ」
「ッ……!? そんなの断れば良いじゃないですか!? 血統書付きの大事なポケモンじゃないんですか!?」
「……断れないのよ。他の有象無象ならともかく、相手も寮長クラスだもの。ライバルである【クランベリ家】の御曹司よ。断ったらうちの家の名前に傷が付く。私だけの問題じゃないの」
「そんなぁ……! 自分の家の見栄の為にポケモンを賭けたバトルを受けたってことですかぁ!? ポケモンは景品じゃないんですよ!?」
「あら。純情なのね。昔はゲームコーナーの景品がポケモンだったりしたらしいじゃない、珍しいことじゃないわ」
(そう言えばそうだった……! って、納得できるわけないじゃん!)
「でも、いつもの代理は運悪く昨日高熱を出しちゃってね。しかもパモ様は、なかなか他の生徒に懐かない。言う事を聞かない。じゃあどうするか──」
「貴方が戦えば良いじゃないですか!? 何で代理なんて立てるんですか、わざわざ!」
「嫌よ。私……あんな奴とバトルしたくないもの」
(さ、最悪だこの人……ッ!!)
イクサは正直、この時点で帰りたくなった。第一印象がひっくり返るレベルである。簀巻きにされている今、それも叶わないのであるが。
この女は意地でも自分でバトルを避けたいらしい。さっきの話を聞くにいつも決闘の際は代理人を立てているようだった。
しかし──それでも表情は真剣そのもの。
「……でも、パモ様は誰にも渡すつもりはない。勿論、ラズにも」
(矛盾してるなぁ……そんなに渡したくないなら自分で戦えば良いのに)
「でもこれって、貴方にとっても悪くない話だと思うけど?」
「何で──何処にも僕にメリットなんて無いじゃないですか!?」
「ねえ、取引しましょ。貴方に残された選択肢は2つ。この【スカッシュ・アカデミア】に入学して、この私の決闘代理人となり、衣食住を確保した生活を送るか。それとも大人しく警察に引き渡されるか」
「えっ……」
「……どうする?」
この時点で──イクサは自分の置かれている立場が詰んでいることに気付く。
(──もしかして僕、ヤバい学園と、お嬢様に捕まっちゃいました─ッ!?)
──「ポケモン廃人、知らん学園に入学した。」