ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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CC最終話:いつまでも、どこまでも

「は、はは……まさか、全部、全部潰されるとはね」

 

 

 

 ぽつり、とイデア博士が言った。

 なんてことはないと言った様子で、ふらふらと、倒れたドーブルに近付いていく。

 

「まあいいさ。僕にはセンセイが居るんだ。次の500年後に……期待かな」

「テメェ、このまま逃すと思ってるんスか!!」

「……僕にはホウオウもルギアも居るんだ。本当に、捕まえられると思ってるのかい? ねえ──センセイ?」

 

 ドーブルを抱き起こすイデア。

 しかし、その身体は──どろり、とした墨のように崩れてしまった。

 犬のような姿は、もう保てていなかった。

 

「っ……え」

 

 イデアの目が焦燥に襲われる。

 

「あれ? センセイ? ねえ? センセイ、どうしたのさ。センセイ!?」

 

 初めてそこで──彼は取り乱す。

 そして、どろどろになってしまったその墨の塊から、幾つも光が抜けていくのが──彼には見えた。

 

「ど、どうしたんだよ、センセイ!! どうしたら戻るんだよ、センセイ!! センセイ、センセイ、センセイ──ッ!!」

「……()()で力を使いきっちまったんじゃねえか」

 

 メグルは──イデア博士の前に立つ。

 

「……不死の炎に焼かれたあんたと違って、ドーブルは不死じゃなかった。そして、そのドーブルにトドメを刺したのは──あんた自身だ」

 

 あの一閃を放った後、ドーブルが力尽きたのをメグルも、アルカも、ノオトもはっきりと見ていた。

 

「でも、それを分かっていたのに……最後まで博士の言う事を聞いてた辺り……」

「手持ちにとっちゃ……()()()じゃなかったみてーッスね……」

「ああ。現に、あのドーブルはずっと……博士の所に居たからな」

「ッ……ダ、ダメだよ、センセイ!! 僕を置いていっちゃぁ……だって、あんなに、僕達一緒だったじゃないかぁ!! まさか、今更、今更先に逝くなんて、ないだろ!? センセイ!?」

 

 ずるずると、墨は地面に吸い込まれていき、消えていく。

 他のポケモンの死など、幾らでも見てきた。今更1匹死んだところでなんてことはないと思っていた。

 しかし。500年も一緒に連れ添って来たポケモンは、少なからず永き時を生きてきたイデアにとっては掛け替えのないものとなっており──

 

「僕が、僕が、僕が──センセイを──あ、あははは、ひひひひっ、ひひひひっ」

 

 がくり、と彼は崩れ落ちる。

 そのまま彼はずっと、項垂れ、笑みを浮かべていた。

 ずっと若い姿だったはずなのに、ひぐれのおやしろの忍者達に連行される頃には、何十年も老け込んだ老人のようになってしまっていた。

 きっとあの博士は、これから永遠に死ぬよりも辛い責め苦を受け続けるのだろう。

 その時、ずっと連れ添って来たドーブルは傍には居ない。

 

(せいぜいエンジョイしろよ、博士……永遠の命ってヤツをな)

 

 すっかり小さくなってしまったイデア博士の背を眺めながら──メグルはぽつりと呟いた。

 長い戦い、長い因縁。しかし、それは今此処に全て終結したのである。言い知れない感慨、そして一抹のほろ苦さを残して。

 

「終わった……な」

「そうッスね……」

「うん……」

 

 すっかりボロボロになってしまった町を見ながら──3人は座り込む。

 空には、正気を取り戻したのか、ルギアとホウオウが、穏やかに羽ばたき宙を舞う。

 

「あいつら、もう暴れねえんスかね?」

「……スイクンの技が、ドーブルの墨を浄化したんだ。同じように、あいつらも鎮圧してくれたってところかな」

「でも、この2匹は元の世界に戻らなきゃいけないよね」

「そうッスね。だから暴れてたってのもあるだろうし」

 

 

 

『その心配はいりません』

 

 

 

 何処からともなく声が聞こえてくる。

 セレビィの姿をした機神・テツノサクヤが──空から舞い降りてくる。

 

「っ……森の神様!? ……メグルさん、これが話に聞いてた」

「そうだ。俺をこの世界に連れてきたポケモンだ」

『私の力で、この世界に広がっていた裂け目を1つずつ消していたのです。海の底、火山、色んな所に人為的に開けられたものがありましたから』

「そんな事出来たんだ!? じゃあ、さっきも居てくれれば安心だったのに」

『すみません……突発的に開いたものでしたから。でも──メグル様が間に合わせてくれたようですね』

「ああ。礼なら俺じゃなくて、ニンフィアに言ってくれ」

「ふぃるふぃー♪」

 

 得意げにニンフィアが胸を張ってみせる。

 

「もうこの世界から裂け目が広がることは……無いんだね」

『いいえ、後1つだけ、敢えて残していたものがあります。それ自体は、10年ほど前に自然発生したものですけど』

「それって?」

『……ヒャッキと、サイゴクを繋ぐ時空の裂け目です。貴方達の知るテング団が、こちらに攻め込むのに使ったものです』

「それって──よあけのおやしろがこないだ、コンクリートで固めたヤツッスよね!?」

「お前ら……そんな力業で裂け目を塞いでたのか」

『穴を塞ぐものならば、彼らの力でなら破壊できるでしょう。後は──私がルギアとホウオウを導くだけです』

 

 ひらりと彼女は舞うと──ルギアとホウオウの前に現れる。

 そして、彼らを先導するようにして、空を飛んで行くのだった。

 

「なぁっ! お前はこれからどうするんだ!?」

『またしばらく──眠りにつくとします。今回の件で力を使い切ってしまったので』

「……そうか」

『それと──改めてお詫びさせてください。貴方を、この世界にいきなり連れてきてしまって──』

「謝らなくて良いよ!! 命を拾われたようなもんだし、大変な事も多かったけど……」

 

 メグルはノオトとアルカの肩を抱き寄せて──言った。

 ニンフィアがメグルの頭によじ登り、テツノサクヤに向かって前脚を振る。

 

 

 

「今となっちゃ……結構気に入ってるんだ、この世界も!!」

「ふぃるふぃー!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──こうして、アークの船団が起こした事件、そしてイデア博士が起こした事件は幕を閉じた。

 アークの船団は残党もひぐれのおやしろの忍者によって一掃され、もう二度と圧縮次元砲のような兵器が作られることは無いらしい。

 そして、イデア博士はというと、500年も練り続けていた計画と、ドーブルが居なくなったことでおかしくなってしまったらしく、今はもう何も出来ない状態で地下牢に入れられているらしい。

 とはいえ、殺しても死なない博士なので、きっと永遠に牢屋暮らしは確定だろう。それこそ、世界が終わるその日まで。

 会いに行きたいとは微塵も思わないが──せいぜい永い時の中で犯した罪を償ってほしいものである、とメグルは考える。

 そして、ルギアとホウオウの姿はサイゴク山脈に消え、例の時空の裂け目も完全に塞がっている。

 もう二度と、サイゴクとヒャッキが繋がることはないだろう。

 こうして、500年前、ある一人の男の愚行によって引き起こされた一連の悲劇は、完全に終息した。このサイゴク地方に、ひいてはポケモンの世界に平穏と安寧の時が訪れようとしていた──そんなある日の事だった。

 

「パルデアのアカデミーに入学!?」

「そうっ! これまでの仕事と、トレーナーの賞金でコツコツ貯めた貯金で、アカデミーに行こうと思ってるんだ! 後……ボクを拾ってくれたおじいちゃんとおばあちゃんの残した貯金もあるしね」

「それで……何を目指すんスか?」

「考古学者! 将来は、研究員になろうと思ってね! そのために、アカデミーで勉強しようと思ってるワケ」

「アルカさん、あんた勉強出来たんスか?」

「しっつれいだなぁ! ヒャッキ地方の勉強って、此処の勉強よりもすっごく難しかったんだよ! 算学、語学、生物、兵法その他諸々!」

「は、はは、その中の落ちこぼれだったから、こっちの勉強なんて屁でもねぇと……」

 

 此処はジョウト地方・エンジュシティ。紅葉が舞う、古き町だ。

 そのポケモンセンターで、久々にアルカ、ノオト、キリの3人は落ち合っていた。

 

「それで、ノオト()はいつまでジョウトに居るの? あんまりおやしろを空けるのって良くないんじゃない?」

「オレっちは姉貴が居るから大丈夫ッスよぉ」

「拙者も暇を出されてな。まだ三日しか徹夜していないのでござるが」

「あのッスねぇ、キリさん。三日しかとは言わねえんスよ、それは」 

 

 キリの青い瞳の下にはくっきりと隈が出来ていた。相も変わらずデスマーチをしているところを部下に止められているようである。

 だが、1つだけ変わったことがあるとするならば、人前でも見知った相手と居る時ならば仮面を取って接することができるようになった点だ。

 あの事件があってしばらくした後、キリはメグルとアルカにも自らの正体を明かした。牛歩ではあるが、少しずつ人前で喋れるようになっていきたいという彼女の意思だった。

 何より、数多い災禍に立ち向かっていった彼らに、勇気づけられたことが大きいらしい。

 

「……良いのでござるよ。拙者、ノオト殿の隣なら、幾らでも疲れが取れるでござる」

「あ、あのッスねぇ!? 人前ッスよ!?」

「どうせ、アルカ殿しか居ないでござるからな」

 

 口数は少ないが、キリはその分ボディランゲージが多い。

 すりすり、と猫のようにノオトの肩に頬を擦りつける。

 見知らぬ人間の前ならいざ知らず、アルカの前ではもう平気のようだった。

 平気ではないのはアルカの方である。

 

「見せつけてるの? ねえ、見せつけてるの? ひどくない?」

「……失礼。激務でストレスが溜まっていてだな」

「キリさんって、人見知りだけど……結構良い性格してるよね」

「忍者でござるからな」

「関係ないよね!?」

 

 彼氏不在のアルカの頬には軽く青筋が浮かんでいた。

 そして、ボールからデカヌチャンを出し、彼女は抱き上げる。

 

「いいもん、ボクにはデカヌチャンがいるもん」

「カヌヌ!」

「デカヌチャンのハンマー直ったんスね!」

「1から作り直したんだ。ドーブルとの戦いで壊れちゃったからさ」

「しかし、それでまた絆はより強固になったようでござるな」

 

 自慢げにデカヌチャンはハンマーを二人に見せつける。

 原形を留めていない程に破壊された所為で、しばらくは落ち込んでいたが、アルカが必死に励まし、一緒に素材を集めたのだ。

 

「じゃ、一先ずはこれで全て丸く収まったってことッスね」

「後は現在進行形で激闘中であろうメグル殿だけか」

 

 ──先日。漸くメグルは、ジョウトで最後のジムバッジを手にした。

 これにより、彼はポケモンリーグへの挑戦資格を得たのである。

 

「勝てるんスかねー、四天王とチャンピオンに」

「勝てるよ」

 

 自信をもって彼女はそう言ってのける。

 

 

 

「だって、メグルだもんっ! 絶対に勝って、帰ってくるよ!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「あのぉーっ、私一応高性能清楚系AIなんですよ、何で円盤掃除機の中に入れられてるんです!?」

「無駄口叩かないの! 教習所の中、埃一つ残さないで綺麗にしなさいな!」

「ふえーん、御無体なーッ!! こんなんだったら山の中で朽ち果てた方がマシでしたーッ!!」

 

 

 

 ──ベニシティ・ひのたまじま。

 あの戦いの後も、ハズシは忙しい日々を送っていた。 

 少々変わった同居人も増えたのであるが。

 

「……ぎゅららら」

「ちょっと、ブースターさんんん!? 掃除機は乗り物じゃないんで乗らないでください!?」

「良いじゃない、ヌシ様もたまには遊びたいのよ」

「熱い熱い、ボディが溶けます、CPUがオーバーヒートしますぅ!! 体温どれだけ高いんですか、この子ォ!!」

「さーてと……メグルちゃん達は今頃どうしてるのかしらね──」

「何良い感じにシメようとしているんですか、あっつぅ!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──イッコンタウン・よあけのおやしろ。

 

「あのーっ、これ以上の負荷はヤバいと思うもの! 骨が軋む音が聞こえてくるもの!」

「がたがた言わないのですよ。キリ様なら、これの倍は耐えるのですよ」

「ひぃぃぃーっ!!」

 

 今更ひぐれのおやしろに戻ることもできないネムは、よあけのおやしろに送られ、罪を償うと共に一から心身を鍛え直されていた。

 そして他方、その面倒を見るヒメノの顔は──ツヤッツヤだった。

 

「ヒメノ様最近機嫌が良いな……胃腸も壊さなくなったし」

「しごく相手が見つかったからだな……本当に性格の悪い……」

「全部聞こえてるのですよー♪」

「ひぃぃぃ!!」

 

 相も変わらず、おやしろでは恐れられているヒメノだが、存外楽しくやっているようである。

 しかし。

 

「ん? ノオトからメールが──エ、エンジュシティのスズのとうの前でキリさんとツーショット──ッ!?」

「あっ」

「やっば……」

「う、羨ましいのですよ! な、何で、何でヒメノだけ──ごふっ」

 

【特性:ライトメンタル】

 

 案の定血反吐を吐き出したヒメノを、ゲンガー、ジュペッタの二匹が担いでいく。

 その姿を、一番の相棒のミミッキュは呆れたように見つめているのだった。

 人間、そう簡単に変われるものではないのである。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

(──お父さん……色々ありましたが、今のサイゴクは平和です。まあ、シャクドウシティも復興に時間はかかるけど……イデア博士もあんなことになっちゃったけど……あたしは1人でも平気です)

 

 

 

 墓前に手を合わせた後──ユイは振り向く。

 

(だって……皆が居るからっ!)

 

「行こっ、皆。メグルが帰ってきたら、ボッコボコにしてやるんだから! 特訓開始ーッ!」

「ばっちららーっ!!」

「ばっちるるーっ!!」

 

 元気よくポケモン達と共に、今日も彼女は森の方へ出かけていく。

 全ては、あのライバルが帰ってきたときに恥ずかしくない姿を見せる為だ。

 そんな彼女の姿を見て──サンダースは墓の上でふっと笑みを浮かべて、再建されたおやしろの方へと走っていくのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「それでシャワーズ、キャプテンは見つかった?」

「ぷるるるるー」

「そうよねえ。無理しなくて良いのよ」

 

 リュウグウ夫人の言葉に、当分は勘弁だと言わんばかりに彼女は丸まってしまった。

 短い間に二人もキャプテンを亡くし、すっかり彼女は落ち込んでいた。

 別離の苦しみは、消えたわけではない。だが、それでも──

 

「おーい、シャワーズ! 遊ぼうぜ!」

「シャワーズちゃーん!」

 

 ──彼女を気にかけてか、子供たちがおやしろにやってくるようになった。

 リュウグウが居なくなった今、もう誰も止める者は居ないし、夫人も止めなかった。

 今すぐでなくてもいい。もしかすれば、この中に、未来のキャプテンがいるかもしれない、と信じて。

 

「ぷるるるるるー」

 

 おやしろのヌシは──相も変わらず、セイランの人々から愛されている。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──ポケモンリーグ。

 それは、栄光へ繋がる道。

 そして、強者と強者がぶつかり合う勝負の殿堂。

 4人の四天王。そしてチャンピオンを下したものは、新たなるチャンピオンとして歴史にその名を刻む。

 カントーのポケモンリーグは「本部」とも呼ばれており、最もオーソドックスで最も過酷とされており、立ちはだかるトレーナーの実力も折り紙付きだ。

 それでも尚、彼は今4人の四天王を下し、此処に立っている。

 モンスターボールが揺れた。

 この扉の先に居る強敵に、心が躍っているようだ。

 勝つか負けるか。それは分からない。

 だが──此処で勝ったとしても、負けたとしても新たなる旅の始まりでしかない。それは変わらない。

 それでも、待っている人達の為に、出来る事なら──否、絶対に負けたくはない。

 

 

 

「──頂点……獲ってやろうぜ、ニンフィア!」

「ふぃるふぃー!」

 

 

 

 歩みを止めない限り、旅は永遠に続く。きっと、いつまでもどこまでも。

 ポケットの中に居る相棒たちがいる限り──知らない世界が、まだ出会わぬポケモンが、人が──メグルを待っている。

 

 

 

 

──「ポケモン廃人、知らん地方に転移した。」(完)




此処まで読んでいただき、本当に本当にありがとうございました!これにて「ポケモン廃人、知らん地方に転移した。」完結です!
100万字超えの長編になってしまいましたが、続けることが出来たのは此処まで付いて来てくださった皆さんのおかげです。この作品で書きたかったことは、全て書ききることができたつもりです。当初は試しに書いていたこの作品でしたが、想像以上に読者の皆様からの反応が良く、それがモチベーションになっていました。メグルを描いたお話は此処で終わりですが、彼の冒険はきっとこれからも続いていくのでしょう、きっと。それでは皆様、また次の物語で会いましょう。

──次の冒険は案外、すぐそこに迫っているかもしれませんよ?
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