ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
太陽と、龍の如き水流がぶつかり合う。
互いに喰らい合い、飲みこみ合い、そしてぶつかり合う。
水は蒸発しても尚、絶えることはなく、太陽を冷却し続ける──
「ッ……おいおい、ウソだろ冗談じゃない! こっちは伝説のポケモンが付いてるんだ! そう簡単に負けられたら、僕は一体何の為に500年ドブに捨てたか分からないじゃないか!!」
「ならこっちには……今までのキャプテンとヌシ達の思いが付いている!!」
「そんなものは科学的に存在しない! ……思いで勝負の結果が決まるなら、苦労はしないよね!」
「そうだな。だけど──思いの強さは、それだけ人を前に進める力があるんだ!」
がちり、と水龍の顎が太陽にがっちりと嵌った。
熱を全て奪い、冷やし、そして遂に噛み砕く。
そして荒ぶる風巻さえも突っ切り、巨大なドーブルを貫いた。
それで、巨獣の形が保てなくなったのか、墨は一気に爆散し──辺り一面に飛び散る。
「砕けて──消えろーッ!!」
更に、溢れ出した墨は全て浄化されていき、透き通った水へと化す。
そのまま、最初から無かったかのように、消えていくのだった。
「──墨が、浄化されて……消えていく……っ」
「……すすいー」
「おわぁっ!?」
スイクンの身体から結晶が消えていく。
ギガオーライズが解除されたのだ。
そして、今のオオワザは少なからずスイクンにも大きな負担をかけたようだった。
地面に降り立ったスイクンは力無く倒れてしまう。
「スイクン!! 大丈夫か!? スイクン!!」
「……すすいー」
「……ありがとな。助けてくれて。後は俺達に任せてくれよ」
見ると、ルギアとホウオウの2匹も倒れたまま、動かない。
力を全てドーブルに吸い取られたからか、もう戦う力が残っていないのだろう。
となれば、残るのは後1人──もとい1匹だけだ。
「ッ……よくもやってくれたね。まさか伝説のポケモンと組んでまで僕を邪魔するとは、恐れ入ったよ」
イデア博士はよろめきながら、こちらへ迫ってくる。あれだけ高所から落ちたからか血塗れではあったが、流石不死身といったところだろうか。全く響いていない。無論、ドーブルも今の攻撃では本体にダメージが入っていなかったのか、未だに健在だ。
「センセイ──お願いね!!」
「バサギリッ!! 先発は任せた!!」
先発と言わんばかりに飛び出したバサギリがドーブルに回転斬を見舞う。
しかし、その攻撃を何度も何度も避けてみせる。
”がんせきアックス”は空振りし、思いっきり地面に叩きつけられ、突き刺さってしまう。
「遅い。遅いね!! それじゃあ、センセイは捉えられないかな!!」
横から入るのは膝による一撃。
それがバサギリの意識を刈り取った。
一度も技を当てられることなく、だ。
「ヒャッキのドーブルは長生きすればするほど、墨の呪力でパワーアップしていくんだ。そして、今センセイが纏っている墨の力で……特性は”ちからもち”に変化している」
「おいおい、改造ポケモンじゃねーんだぞ……ッ!!」
「物理技の威力は2倍。並大抵のポケモンじゃあ、耐えられない」
「……なら次は、アヤシシ!! ”リフレクター”だ!!」
繰り出されたアヤシシはすぐさま、障壁を展開。
しかし、逆に距離を取ったドーブルは筆を振り回すと、ヒャッキのポケモンの大群を作り出し、それをアヤシシに一斉にぶつけるのだった。
「そいつに好き勝手されると、僕も困るんだよね! さっさと倒れてもらうよ!」
圧倒的な物量差を押し付けられたアヤシシは、そのまま倒れてしまう。
だが、もうドーブルにも墨が残っていないのか、現れた百鬼夜行はすぐに消えてしまうのだった。
「チッ……ガス欠だね。まあ良いや、センセイは己の身一つでも強いからね……ッ!!」
「デカヌチャン、”デカハンマー”!!」
「──ッ!?」
突如横から強大な鋼鉄の一撃が降り落ちる。
地面にはクレーターが開き、思わずドーブルは飛び退いた。
しかし、空中に跳んだ隙を突くかのように、閃光がぶつけられた。
「”ラスターカノン”!!」
「どぅー!?」
攻撃力と素早さは高いが、打たれ強くはないのだろう。
そのままドーブルは地面へと墜落してしまう。
「──チャンスが来たら一斉攻撃、でしょ? メグル!」
「信じて待ってたッスからね!」
「お前ら──俺だって、信じてたよ!」
ルカリオ、そしてデカヌチャンだ。
勿論傍には、ノオトとアルカも立っている。
3人は並び立ち、博士とドーブルと相対した。
「で? メガシンカ無しで僕に勝てると思ってる?」
(したくても出来ねーんスよ! クールタイムの所為で!)
さっきメガシンカをして倒れたルカリオとヘラクロスは体に大きな負担がかかっており、次にメガシンカをするまでには時間がかかる。
そんな事は博士も分かり切っているはずなので、わざとこちらを煽っているのだ。余程、ドーブルの実力に自信があるからなのだが。
「ニンフィアッ!」
「フィッキュルルルル!!」
デカヌチャン、ルカリオの間にニンフィアが立つ。
博士に向けていた積年の敵意。それを解き放つように、全身の毛を逆立てる。
「……メグルさん。このドーブル、3対1でもあぶねーかもしれねえッス」
「そうだな。しかも、あれだけオオワザ叩き込んだのに、こいつにはダメージが入ってねえ」
「速いし、一撃も重い……ッ!」
「ふふっ──ドーブル、”ぶちかまし”!!」
すぐさま跳んだドーブルが地面に向かって足を叩きつける。
衝撃波でアスファルトの地面が抉れて、一気に断層が飛び出した。
リフレクターによって、その威力は半減されているとはいえ、特性で強化された分が元に戻っただけだ。
大地が揺れる程の攻撃にニンフィアは吹き飛ばされそうになる──のをルカリオに前脚を引っ張られ、何とか耐え切るのだった。
「あーあ、邪魔くさいなあ。リフレクター……ッ! ならまずは、そのルカリオから仕留めるとしようか。”フレアドライブ”!!」
全身を火の玉に変え、ドーブルはルカリオに突っ込む。
だが、直線的な動きだったこともあり、ルカリオはそれを躱してみせ、波動弾を反撃と言わんばかりに放つ。
しかし──それらは全てすり抜けてしまうのだった。
「やっぱゴーストタイプッスか!!」
「ゴースト……ゴーストだけか……?」
「いや、他にもタイプは持ってそうな気はするんスけど……!!」
「技のタイプも多いし、誰を出しても弱点突かれちゃう……!!」
ヒャッキ由来の墨の力は減衰していると言えど、未だにドーブル本体は健在。
被弾はしていると言っても、まだ倒すには至らない。
武器は圧倒的な素早さに加え、圧倒的な攻撃力だ。
それを抑え込もうにも”でんじは”すら躱されて、対策にはならない。
バサギリの”がんせきアックス”でステルスロックを、アヤシシの”リフレクター”で障壁を張ったが、これらは気休めでしかない。
今のままでは、ドーブルに──イデアに勝つことはできない。
(見えた技は”ぶちかまし”、”とびひざげり”、”フレアドライブ”……確かにこれら全部を半減以下に抑えられるポケモンは、今の俺の手持ちにはいない……)
ヘイラッシャに変えるか? とボールを構えた瞬間、ニンフィアが振り向いて威嚇した。
このバカだけは自分で止める、と言っているようだった。
(……だよな。俺もお前を信じる。これは俺達全員の戦いだもんな)
「単純で明快! 上から高い攻撃力で押して、叩き潰す。……ただ、それだけの話だ。君もトレーナーなら分かるだろ?」
「嫌という程な」
「……ま、そういうわけだからさ、大人しく消えてくれないか」
「……博士、一つだけ聞きたい事があるんだけど」
「何だい?」
「俺達にウソ吐いてた時──あんた、どんな気分だったんだ?」
「はっは、そんな下らないことを今更聞かないでくれよ。ウソなんて吐いてない。君を励ましたのも、アドバイスしたのも、助けたのも! 全部全部、僕の本心からの行動さ」
晴れやかな笑みでイデアは言ってのける。
「時にはおやしろを助けた時もあったし、テレビに出た時もあった。いやあ、楽しかった! 新人のトレーナーを手助けするのも、イーブイ達のお世話をするのも楽しかった!」
「長生きしてんなら分かるだろ? それで良かったんじゃねえかって」
「ポケモン博士イデアとしてはそうだね。だけど……イデとしての僕はそうじゃない。今あるもの全部をかなぐり捨てても、ホウオウとルギアの力で──この世を面白おかしくしたいのさ」
「……おかしいだろ。何がそこまであんたをそうさせるんだよ」
「別に? 長生きするとね、人との繋がりとかどうでも良くなっちゃうんだよね。その時は楽しいんだけど──鬱陶しくなっちゃうんだ。あーいや、これは別に昔からか。結局1人が一番楽なんだ」
「……それで振り回される側は堪ったもんじゃないよ!」
「それにね。許せないんだよな。もう500年も経ってるのに……未だにおやしろなんて古ぼけたものがあるこの地方もさ」
「結局はそこッスか。あんたみたいなのを選ばなかった当時のヌシ様は大正解ッスよ」
「でもねキャプテンなんて立場に今更未練はないよ。今は──ただただ見てみたい。力を得たその先に、頂点に立ったその先に、何があるのか。そう言う意味では、僕とクガイは似てるかな」
ただし、と彼は付け加えた。
「──僕が求めてるのは……平穏なんかじゃなくて──伝説のポケモンによって巻き起こる
ただただ面白おかしいから、という理由で彼は今ある全てをひっくり返そうとしている。
「……あんた、寂しいヤツだな」
「は?」
イデアの下瞼が痙攣した。
「……寂しい、か。ふふっ、そうだねえ。そう見えても仕方ないのかもね」
「どぅーどぅる」
「……でも、君なんかに僕の何が分かるのかな、メグル君!! ドーブル、”ぶちかまし”!!」
一気に足を踏み出したドーブルは、再び地面に巨大なクレーターが開く程の一撃をぶつける。
だが、既にそれが来ることが分かっていたデカヌチャンもまた飛び、ドーブルの脚に──ハンマーを叩きつける。
「ッ……先読みしてたのか!? 押し切れドーブル!!」
「”でんじは”!!」
インパクトの直前。
ハンマーから微弱な電気が流れる。
そのままデカヌチャンを地面に叩きつけるドーブルだったが──砕けたのはハンマーの方。デカヌチャン本体は、途中で柄から手を離してしまったからか空中に舞い上がってしまっている。
追撃しようとしたドーブルだったが、既に身体は麻痺しており、痙攣を始めていた。
「ッ……やられた!! まさか捨て身でこっちを止めに来るなんて!!」
「ルカリオッ!! ラスターカノン、ッス!!」
「──させないよ。センセイ、”ぶちかまし”!!」
跳び出すドーブル。
地割れを起こす程の一撃が今度はルカリオに襲う。
閃光さえも突っ切り、ルカリオにぶつかった──しかし。
「ッ!?」
「こういう時こそ、根性ォーッ!!」
──だが、意識を手放す瞬間、ルカリオはしっかりとドーブルの身体を掴んでいた。
腕によって、がっちりと身体が固められてしまっており、ドーブルは動くことができない。
「ッ……しまった、小柄さが裏目に──!!」
「ニンフィアッ!!」
それが一瞬の隙となる。
「これが最後だッ!! たっぷり博士の顔を思い浮かべて──ブチ砕けッ!!」
「フィッキュルルィィィーッ!!」
「センセイ!! ”ぶちかまし”──」
速い。
遥かにニンフィアの方が速い。
何故ならば、その技は必ず先制するから。
そして、その威力は──博士憎しで跳ね上がっている。
凶悪な捕食者の笑みを浮かべ、ニンフィアは、漸くルカリオの拘束から逃れたドーブルのどてっぱらに──渾身の頭突きを見舞うのだった。
「”でんこうせっか”だッ!!」
【効果は抜群だ!!】
吹き飛んだドーブルは──ビルの壁に叩きつけられる。
瓦礫が一気にその上に降り注ぎ、漸く大暴れしていた水墨ポケモンは沈黙したのだった。
「……やったの?」
「……やったみたいだな」
「勝った……ッ!?」
「──センセイ。こうなったら奥の手だ」
ぽつり、とイデアが呟く。
がたがた、と瓦礫が鳴る音。
その中からドーブルがふらふらとよろめきながら現れる。
「ま、まだ動けるんスかぁ!?」
「……今の間に、墨が多少は溜まったはずだ。描け!! 破滅への扉をね!!」
ドーブルは空に跳び出し、思いっきり絵筆を横一文字に振るう。
そして──力尽きたように、落っこちるのだった。
次の瞬間、宙に浮かんでいた一文字は空間を切り裂き、罅割って──大きな孔を作り出す。
「じ、時空の裂け目ーッ!?」
「ふっふふ! こればっかりは何度か試したけど出来なかったんだよねえ! だけど……伝説のポケモンの力を吸収した今のセンセイなら……ッ!!」
「ねえ、あれってまさか──」
時空の裂け目は一気に開く。
その先は暗い。暗いが──奥底に星のようなものがキラキラとしている。
そして、どんどん裂け目そのものが広がっていっている。
「おっと。その先は宇宙空間!! 生命が生きることができない真空の世界!! このまま放っておいたらどうなるか分かるよね? 直にこの世界は……此処から崩れ落ちるよ!!」
孔は更に大きく広がっていく。
それが意味するのは、宇宙空間からありとあらゆる災厄が運び込まれる可能性だ。
その先に待っているのは、メグルの住んでいた世界と同様の悲劇だった。
「ね、ねえ、なんか、裂け目の向こうから──近付いてきてない!?」
「光──火の玉!? まさか隕石ッスか!?」
それも1つや2つではない。
幾つもだ。空間の裂け目は、隕石群の進路に繋がっていたのである。
「はっはっは! これは傑作だ! まあ僕は死なないから関係ないけどね!」
(考えろ──考えるんだ! 隕石をどうにかする方法!? 無理だ! まだ遠くにあるはずなのに、すっごくデカいんだぞ!? 相当なサイズだ!! 時空の裂け目すらどうにもならねえって言うのに、このままじゃ──)
考えを巡らせていった果てに、メグルが思いついたのは──あるポケモンの姿だった。
(そう言えばアイツ、時空の裂け目を開いたり閉じたりしてたな……ッ!!)
「ニンフィア!! ……最後の大仕事、頼めるか!?」
「ふぃっきゅるる!!」
「何をするの!?」
「たった一つの冴えたやり方って奴だよ! 腹括ってくれるか?」
「……勿論だよ。言ったでしょ? 世界最後の日なら、君と一緒が良いってね!」
「オレっちの事も忘れねえでほしいんスけど!」
メグルは再びオージュエルに手を翳す。
そして、鞄から取り出したのは、歯車の付いた透明な羽根だった。
「オーライズ──”テツノサクヤ”!!」
「ふぃっきゅるるる!!」
次の瞬間、ニンフィアの目は翠色に輝いていた。
背中からは妖精のような翅が現れ、周囲には木の葉が舞う。
その姿を見て──イデアの顔色が変わった。
「待てよ、まさか、その姿は──森の神様の──ッ!!」
理屈ではない。理論でもない。
だが、この時、この瞬間の為に、この羽根は存在していたのだとメグルは確信していた。
ニンフィアも一瞬だけこちらを振り向く。
「行けるよ」と──
「──オオワザだ、ニンフィア!!」
「ふぃーッ!!」
一瞬だけテツノサクヤの姿が浮かんで消えた。
彼女が吼えると共に、時空の裂け目が時が巻き戻るように、閉じていく。
「お、おいおい、ウソだろ!? そんな馬鹿な事が──ッ!!」
赤く光る彗星が近付く中──裂け目は閉じていく。
「間に合えェェェェーッ!!」
「ふぃるふぃいいいいいいーッ!!」
ぱきん、ぱきん、ぱきん。
砕けた硝子が元に戻っていくようだった。
破滅の光が迫る中──ニンフィアが一際甲高く啼いた時。
森がざわめき、一筋の風が吹く。
隕石が最接近したその瞬間。
──裂け目は完全に閉じたのだった。