ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
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──むかしむかし、ある所に、イデというしがない旅人が居ました。
イデは昔、あるおやしろで修行していましたが、ヌシ様に選ばれず、キャプテンに選ばれませんでした。そのため、おやしろを出て放蕩の旅をしていたのです。
そんな彼はある時、崖の下にあった大きな裂け目に落っこちてしまいました。
その先は、見知らぬ国、ヒャッキの国でした。
向こうの世界は豊かな自然に豊かな人々、サイゴクのようなしみったれた田んぼばかりのクソ田舎、そう──クソ田舎と比べても居心地がいい場所でした。
更に彼らは、不思議な瓢箪で、後にポケモンと呼ばれる生き物を捕える習慣まで持っていたのです。
そこで彼は向こうの人々に歓迎されながら、冒険を続けていました。
ある時、彼は不思議な話を聞きました。
ヒャッキの幽境の谷の奥深くに、灰色の日輪が燦燦と輝いている、と。
好奇心が抑えられない彼は、持っていた瓢箪と連れていたお供のポケモンと共に谷へ出かけました。
そして、数日もしないうちに、灰色の日輪と呼ばれる鳥を捕まえてしまったのです。
それを捕まえたイデは、すっかり皆からちやほやされて良い気分になっていました。うっかり瓢箪から出したが最後、大暴れするくらい手が付けられないやべーヤツだったのは黙っていました。
さて、調子に乗ったイデは──この地方に伝わるもう1つの伝説のポケモンも捕まえたくなってしまいました。
それが”赫耀の月”、または”赤い月”とも言われる、ヒャッキに生息するルギアだったのです。
このヒャッキに恵みの風を運び、瘴気を吹き飛ばす役割を担うポケモンでした。
捕まえたらヤバいことになるのは分かってたけど、好奇心が抑えられなかったのでウキウキで捕まえにいくことにしました。
当然皆はそれを止めましたが、イデは夜こっそり町を抜け出し、遂にルギアを捕えてしまったのです。
皆は勿論怒りました。悪い事は言わないから赤い月を返せ、と。
イデは言い返しました。
誰が苦労して手に入れたルギアを返すものか、俺はこのまま帰る。帰って皆に自慢するのだ。そんでもって、俺をバカにしたおやしろの連中を見返してやるんだ。
町の人々は言いました。
力づくでも取り返す。逃げるならば、そっちに攻め込んででも取り返すぞ、と。
イデは、今まで瓢箪で捕まえたポケモンで町の人々をこてんぱんにした後──考えました。
このままだとヒャッキの人々はサイゴクに攻めてきます。ヒャッキに幾つかある裂け目を通って。
そうなると真っ先に狙われるのは自分です。
うっかり彼らがサイゴクの人々と手を組んだ日には最悪です。
そこで考えました。
そうだァ! おやしろに全部擦り付けよう! 僕もしかして天才?
そう考えたイデは「自分がサイゴクを支配するおやしろの遣いである」と名乗り、裂け目からヒャッキを出たのです。本当は無関係な只の旅人なのにね。
さあてそれから数日後、本当にヒャッキの人間たちが大きな軍勢を率いてきました。何でだろうなあ。
あー、これはいけません。町が燃えます。人が燃えます。
しかもヒャッキのポケモンが裂け目からどんどん降ってきます。
おやしろ側も、ヒャッキ側も、なんか勝手に衝突して勝手に死んでいきます。
彼らが求めるのは赤い月。当然おやしろの人々は何のことだか分かりません。分かるわけがありません。何故なら何も知らないから、本当に。
あー、おかしいなあ、赤い月盗んだの僕なんだけどなあ、あいつらおやしろに攻め込んでるよ、何でだろ。ははは、おもしろ。
とはいえ彼も鬼ではありませんでした。
自分で起こした火種は自分の手で消そう。おやしろ元はと言えば悪くないし。ヒャッキの連中さえ追い払えばそれで万事解決だし。そう考えて──瓢箪から二匹のポケモンを解き放ったのです。嫌な予感はしてたけど、知ったこっちゃありませんでした。
何と言う事でしょう、二匹のポケモンは全くと言って良い程イデの言う事を聞きません。
それどころか、灰燼の日輪はイデを炎で焼いてしまったのです。
おまけにその炎は不思議な炎。イデの身体を焼き尽くすと、不死身の身体へと変えてしまうのでした。すっごく熱かったそうです。
そのまま赫耀の月と灰色の日輪もサイゴクの地を嵐と炎で焼き払っていきます。そりゃそうだ、いきなり違う所に連れて来られたら、どんな生き物でもビックリするに決まっています。
伝説のポケモンだから、びっくりして暴れるスケールが桁違いだっただけのことです。
サイゴクの民もヒャッキの民も関係ありません。両陣営は壊滅的な被害を迎えたのでした。
うーん、これもしかしてマズいヤツ?
イデは瓢箪に彼らを戻そうと思いましたが、暴れ狂う彼らに成す術もなく、木陰に隠れていることしかできませんでした。
そのうち、暴れて気が済んだのか、灰色の日輪はアラガミ遺跡の方へ飛んで行きました。
しかし、赤い月は全くと言って良い程大人しくなる気配がありませんでした。多分性格の違いなのでしょう。きっと。
おやしろの人々は考えました。そして──5つのおやしろそのものを結界と化し、ルギアをサイゴク山脈に封じることにしたのです。海の化身だから、山に封じ込めれば力を弱められるんだってさ。はは。
その後、それをどうやって封じたのかはイデも知ったこっちゃありませんでしたが、結局の所おやしろの手で災禍は収まったのです。
ルギアはサイゴク山脈に封じられ、ホウオウは何処へやら行方知らず。
封印を解こうにも、二度と封印が解けないように解呪法諸共、当時の記録はおやしろによって闇に葬られてしまったのでした。
そしてホウオウの炎の所為で死ぬに死ねなくなってしまったイデは今に至るまで、不死身の身体をエンジョイしつつも──何とかルギアとホウオウをもう一度その手に収める方法を探すことにしたのです。
──ちゃんちゃん☆
※※※
「──灰燼の日輪ってポケモンは谷の底で暮らし、ひっそりと瘴気を貪る。だから……ヒャッキの人々にはあまり深く知られてなかったんだ。一方、赫耀の月は空高く飛び、風に乗った瘴気を吹き飛ばす。だから有名だったんだよね」
「ッ……」
「……分かった? これが、ヒャッキとサイゴク、むかしばなしの真相……ってワケ」
「……ウ、ウソですよね? イデア博士。あんたが……やったんですか? あんたの所為で──500年前の災厄は起こったんですか!?」
今のイデアの告白が全て本当ならば、ヒャッキがサイゴクに攻め込んできたのも、ヒャッキが荒廃したのも、テング団とサイゴクの戦いが起こったのも、そしてアルカが冷遇されてきたのも、元を辿れば──全部彼の所為ということになる。
元は辿れば全て彼が元凶ということになってしまう。
「だって──君なら分かるでしょ? トレーナーなら、強いポケモンが欲しくなるよね。珍しいポケモンが欲しくなるよね」
「……ヒャッキ地方を犠牲にしてまで、やることじゃなかったでしょ……!? その後にサイゴクも……ッ!!」
「自分に降りかかる火の粉はできるだけ避けたいからね。おやしろが良い傘になってくれた」
「何で、それを今、俺に言ったんですか……ッ!!」
軽薄な笑みを浮かべながらイデアは答えた。
「──感謝を伝えたかったんだよね。君のおかげで、ルギアもホウオウも手に入ったからさ」
そう言った彼の手にはハイパーボールが握られていた。
半透明になってはいるが、そこには確かに、かつてメグルが捕まえた赫耀の月が丸まって入っていた。
「俺が捕まえたルギア……ッ!!」
「いいや、500年前に僕が捕まえたルギアだ。僕の手に掛かれば、ボックスに預けられたポケモンのID書き換えと引き出しなんて簡単に出来るんだよ。だって君、誰が管理してるボックスにポケモン預けてたと思ってるんだい?」
「……ッ」
博士だ。
博士の管理しているボックスに、今までメグルはポケモンを預けていたのだから、管理権限も彼にある。
「いやー、助かったよ。テング団の事件を解決してくれてありがとう。サイゴク地方を救ってくれてありがとう。僕の為に──今まで戦ってくれてありがとう」
「ッ……」
「ありがとう、ありがとう、ありがとう、ありがとう」
メグルは俯く。
此処までの自分の行動、全てがイデアが2つの伝説を手にするためのものに繋がっていた事に恐怖すら覚えた。
「フィッキュルルィィィッ!!」
「おおっと、そんなに唸るなよニンフィア──もしかして、本性を見透かしてたとか? ……まさかね」
イデアはもう1つのボールも宙に放る。
中から現れたのは、赫耀の月。それが両者ともに、メグルの敵となって相対する。
「ギャアァァァァース!!」
「ショォォォォォォーッ!!」
「ルギアに、ホウオウ……ッ!!」
「さあてと、楽しいショーの前に……僕以外の不死者には消えて貰おう」
イデアが狙ったのは──哀れにも動力カプセルの前で慟哭する白髪の魔女。
「ヒャッキの瓢箪と現代のボールの性能は比べるまでもない。どんな伝説のポケモンも、僕程のトレーナーになれば……こうやって従ってくれるってわけ」
「ひっ──」
「おい待て、やめろ博士──ッ!!」
「──”かいじんのほのお”」
※※※
「──ルカリオッ!!」
「──ヘラクロス!!」
二匹のメガシンカポケモンが連携しながら巨大なヤドカリのようなポケモン・イワパレスを打ち砕く。
更に、攻撃の勢いでルカリオが跳躍し──トドメだと言わんばかりに、タイプ:ゼノへ”はどうだん”を撃ち放った。
その攻撃に耐えられず、リザードンの姿をしていたタイプ:ゼノは沈黙して昏倒。そしてイワパレスもまた、倒れ伏せるのだった。
これで、ネムとサーフェスの使っていたポケモンは全て倒されたのである。
「……もう観念するッスよ、ネムさん。ワイヤーマシンもルカリオがブッ壊した。あんたには何も残ってねえよ」
「──噓でしょう……!? 何で……!! 私はキリりんよりも強くなったはずなのに!!」
「悪いけど、キリさんの方があんたよりも何倍もつえーよ。バトルの腕だとか忍術だとかじゃなくって」
ぐっ、とノオトは胸を指差す。
「重要なのは……ここの強さじゃねーんスか、ネムさん」
「ッ……だって! あの子は何処まで行っても天才なんだもの! 追いつこうと思ってもすぐに引き離される! 私よりも年下なのに……人見知りでまともに話せないくせに!」
悔しそうにネムは叫んだ。
そして、縋りつくような目をノオトに投げかける。
「あなたなら分かるでしょう!? 優秀なお姉さんを持ち、全キャプテンの中でも最弱と蔑まれている貴方なら!」
「──分かりっこねーよ」
ノオトは冷たく言い放った。
「どんなに人からバカにされようが……自分が自分を見放したらオシマイなんスよ。ポケモン達にも……申し開きがねーッスから」
「ッ……」
「それにキリさんは──自分の弱さに人一倍向き合った、それだけッス。あんたは……キリさんより劣る自分を直視できなくて、全部投げ出しただけの、只の弱虫ッス」
「……そんな……ッ!!」
「あーあー、女の子を泣かせちゃって罪深いですねぇー、貴方って人は」
茶化すようにサーフェスは言った。当然アルカが、彼女に詰め寄る。
「ッ……ちょっと! 人が真面目な話をしてるんだよ!? その言い方は無いじゃん!」
「そんな事よりおかしいんですよね。私、前と違ってオペレーションAIじゃないので此処のシステムの事は分からないんですけど……それでも、圧縮次元砲が発射された気配が無いんですよ」
「まさか──メグルさんが次元砲を止めたとか!?」
「本当にそれだけなんでしょうかねえ?」
訝しむようにサーフェスが語る。
「……怪しい動きが起きているのは確かだ」
全員は振り向いた。
そこには──ボロボロで傷だらけのキリが引きずるようにして歩いて来た。
すぐさま駆け付けたのはノオトである。彼女を抱きかかえ「大丈夫スか!? キリさん!?」と呼びかける。
「しょ、正気なんスか!? キリさん!?」
「ああ……拙者は大丈夫だ」
「ッ……ウソでしょ!? 洗脳できなかったから檻に繋がれてたんじゃ──」
「鎖と鉄格子に切れ目が入っていた。だから、自力で突破出来たでござるよ……ついでに、我々の大事な手持ちも返してもらった」
そう言ってキリはズダ袋を掲げてみせる。
その姿を見て──ネムはへたり込んでしまった。
確かに勝負では勝ったかもしれない。しかし、忍者としては完敗だ。
「は、はは……薄々勘付いていたもの。不意打ちに逃げて……そして、何があるか分からない自由な新時代に逃げて……逃げてばかりの私に、勝てるわけがなかった」
「忍に勝ち負けはござらん」
キリは続ける。
「大事な物を守る為に耐え忍ぶ……それが忍の在り方。あの時拙者は確かに、ネム殿にしてやられたのでござるよ」
「ッ……ふふっ、貴女にそう言われても嫌味にしか聞こえないもの」
「いーや、キリさんがそういうことを言えない人なのは……あんたも知ってるっしょ?」
「……そうね」
観念したようにネムは俯いた。
しかし、その顔はすっかり憑き物が落ちたようだった。
「──って、キリさん! 怪しい動きってどういうこと!?」
「先ず、拙者を打ちのめしたのはヒルギ殿だ」
「あの裏切り者……ッ!!」
「しかし、ヒルギ殿は拙者が意識を失う直前にこう言ったのでござる」
──クガイの計画は俺が止める。目が覚めたら1階保管庫にある仲間のボールを取り戻せ。
「……とな」
「ッ……ヒルギが、クガイを止める……!? そんなのウソっぱちッスよ!! まさかそれを信じて、保管庫に行ったんスか!?」
「どの道今の拙者では、クガイを止める事は出来んだろうからな。鉄糸も無ければポケモンも居ない。ならば、先に戦力を取り戻すことを優先し、貴殿たちが来ることを信じた」
現にこうして来てくれたからな、と彼女は続ける。
「そして、ヒルギさんの言った通りに保管庫にボールがあったんだ」
「ヒルギのヤツ、何考えてるんスかね……ッ!!」
「分からん。ところで、例の圧縮次元砲とやらは──」
「メグルが止めに行ったよ」
「そうか……発射されていない辺り、食い止めたのかもしれんな。後は、他のキャプテン達を探し出すだけでござろう」
「それなら今、イデア博士が相手してるッスよ! 確か──でっかいホールみたいな場所で!」
「中央ホールか。なら博士に任せておけばいいか。我々は管制室とやらに向かおうか」
それで、とキリはポケモンと鉄糸を奪われた抜け忍、そして手持ちを失ったAIに呼びかける。
「貴殿達はどうする」
「……降参だもの。抵抗しようにも抵抗できないし──するつもりも、もう無いもの」
「あれ? もしかして私も降参しないといけない流れです?」
「たりめーっしょ、この場でぶっ壊しても良いんスけど」
「しかも今キリさんがキャプテン全員分のモンスターボール持ってるんだよ」
「ひいい、勘弁してください! 前と違って、これが本体なんですゥ!!」
と、サーフェスが悲痛に叫んだその時だった。
『──警報、警報、動力炉に深刻なダメージ!! 総員退艦せよ!! 警報!! 警報!!』
明らかに不穏なアラートが船内に響き渡ったのである。