深刻な人手不足に陥っている自衛隊が女性の採用活動を強化している。配置制限の撤廃で、戦闘機や護衛艦といった「国防の最前線」でも女性が活躍できるようになったほか、女性専用区域の拡充も進む。典型的な「男社会」のイメージを変えようとPR活動も強化。採用者に占める女性の割合は令和6年度には17・3%に上り、目標を達成した。日本を取り巻く安全保障環境の厳しさが増す中、女性隊員に求められる役割は重要性を増している。
女性艦長が見学会案内
京都府舞鶴市の海上自衛隊係留地で11月28日、護衛艦「あさぎり」の女性対象の見学会が開催され、11人が参加した。
見学会では艦長の羽田野由佳2等海佐が案内役となり、砲術長や調理を担当する給養員など女性隊員4人もそれぞれの職務を紹介した。羽田野艦長との懇談会では、参加者が「お子さんや家族との時間はどうつくっていますか」「女性はどの職種で多いですか」などと矢継ぎ早に質問し、働き方や私生活の話に興味深く聞き入っていた。
護衛艦が係留地を離れると乗組員は数カ月間、海上で任務にあたりながら生活することも珍しくない。ある女性隊員は「艦内には女性専用区画が整備されており、海上での生活に支障は感じない」と話す。
「女性隊員を実際に見てもらい、われわれの存在や仕事を知ってもらえた」と羽田野艦長。自衛隊は女性の採用を強化するため今年、こうした女性対象のイベントを神奈川や静岡などでも開催している。
「女が何をしに来た」
自衛隊は昭和29年の設立時、全隊員約16万人のうち女性隊員が150人程度でいずれも看護職だった。43年に一部の職種で陸上自衛隊婦人自衛官制度による採用が始まり、職域は徐々に拡大。女性が戦闘機のパイロットや護衛艦の艦長などを務める事例も出てきた。今年7月には、化学防護隊でも装備の改善により配置制限が撤廃され、自衛隊で女性が働くことができない職場はなくなった。
ある女性幹部は「私が入隊したときは希望する業種に女性の配置制限があり悔しい思いをしたが、今の女性隊員は自分の夢がかなえられる」と語る。
防衛省は3年、年間採用者に占める女性の割合の目標を、10%から17%に引き上げた。達成に向け更衣室や居住スペースなどの女性専用区画を拡充し、女性のキャリアプラン事例を掲載した冊子を配布するなどして働きやすさをPR。6年度には採用した自衛官9724人のうち女性は1684人(17・3%)となった。
これまで女性採用が進まなかった背景には職域の制限だけではなく、男社会の組織風土が根強かったことも影響している。
女性自衛官として33年間勤務した元海上自衛隊1等海佐の竹本三保さん(69)は昭和33年に入隊した当初、男性隊員から「女が何をしに来たんだ」などといわれ、妊娠後も思うように休みが取れず流産を経験。女性初の地方本部長に就任した際はメディアに大きく取り上げられ、「初めて女性で得をしたと思った」という。
竹本さんは「自衛官として国のために仕事をしているとの思いで耐えてきたが後輩たちに同じ思いをさせないよう、同世代の女性隊員たちと労働環境の改善に取り組み少しずつ変わっていった」と振り返る。
女性活躍に期待
令和4年にも元陸上自衛隊員の女性が在職中の性被害を実名で告発するなど、組織のコンプライアンス意識の低さが浮き彫りになった。隊内ではハラスメントに直面した際の対応を実践的なロールプレーで学ぶ研修などが定期的に実施されているが、女性の隊員や幹部が増え隊内での存在感を高めれば、女性の権利を守ることにもつながるという。
自衛隊全体の人手不足は深刻化している。6月の関係閣僚会議では人員の充足率が約89%と、平成11年度以来25年ぶりに9割を下回ったことが報告された。小泉進次郎防衛相は「SNSも積極的に活用したい」と強調し、採用活動に力を入れる方針を示している。
日本を取り巻く安全保障環境は戦後最も厳しい。日本周辺で軍事活動を活発化させる中国、ロシア、北朝鮮の他、サイバー攻撃など脅威は多様化している。「国防の砦」である自衛隊の魅力をいかに高め、女性も含めた若い世代を引き付けることができるか。正念場となっている。(東九龍、写真も)