デタラメ日本語語源解説シリーズ4「海は朝鮮語!?」

このシリーズでは一日本語母語話者による日本語のデタラメな語源について解説していきます。文献学的な検証は一切行っていないので素人による戯言だと思って見て行ってください!批判も沢山受け付けています!

今回はProjekto Babel Advent Calendar 2025 19日目に掲載いただく記事として動詞の活用についてはお休み;今回のテーマはの語源についてです。

海ってなんだ?

海の語源…そう言われてみなさまは何を思い浮かべるでしょう。海は海でしょ。そう偏に言えども、まず海とはなんでしょうか。

海とは何か。考えてみると難しいですよね。海と水は何が違うのでしょうか。物質としてのものが水であり、自然に存在するものが海…?それなら川や池との違いはなんでしょう。湖という単語の存在からして、塩っぱいかどうか…?考えてみると少し混乱しますね。湖・海の共通点として、大きいという部分が挙げられます。ここから、自然に存在する水の小さなものを池、流れのあるものを川、大きなものを海と呼ぶ…こう整理して大きく問題はなさそうですね。

海は大きな水?

定説の一つとして、海という単語は大きな水「おおみ」の省略である。という説があります。水を「み」と言うのは水面「みなも」や港「みなと」から分かりますね。しかし「大きい」や「水」の古形と「海」についての古形を比較すると矛盾点が見えて来ます。以下はそれぞれの日琉祖語での形です。

  • 大(おお):*əpə

  • 水(みず):*me-NA=tu

  • 海(うみ):*Umi

はい。大文字になっているところは確証要素の薄い部分ですね。日琉祖語での母音「*e・*o」がそれぞれ現代の「い・う」となる変化:中央母音上昇の影響や周辺言語との比較により水(み)は古くは「*me」であったと考えられています。

大(おお)に関しては「*əpə」であり古い記録でも「お乙ほ乙」であることからこれを省略して「*o > う」とすることは不可能でしょう。

以上のことから海の語源として大きな水「おおみ」の省略であるというのはおよそ蓋然性の低いものであると分かりますね。

朝鮮語起源説

今回私が紹介したい自説は、海の語源が朝鮮語起源なのではないかという説です。まず根拠の一つとして、海の古語は「うみ」ではない。こちらについて解説していきます。

海は「うみ」ではなく「わた」

海の古語としての単語に「わた」というものがあります。これは古事記に登場するわたつみ(海つ御)という神様の名前だったり、わたのはら(海の原)わたる(渡る:海を越えることから)などの単語に観測できます。

ここで朝鮮語では海をどう言うのかを見てみましょう。朝鮮語では海のことを바다(pada)と言い、古形を遡ると*바닥(patak)として再建されます。これを日本語のわたと比較していきます。

  • わた:日琉祖語 *bata

  • 바다:朝鮮祖語 *pata-k

はい。日琉祖語では現代語のワ行子音は「*w」ないし「*b(あるいは *ʔw のような音?)」に遡ると推測されており、朝鮮祖語との比較からも「わた」の日琉祖語は「*bata」であったという説が主流です。

次いで朝鮮祖語「*pata-k」ですが、こちらの「*-k」という接尾辞については場所を示す名詞に付属するという説が現在主流であり、国 *나락「nara-k」や地面 *미닥「mita-k」についても観察できます。

続いて日琉祖語「*bata」と朝鮮祖語「*pata-k」を比較した場合の借用の向きを考えてみましょう。結論から言えばこれは日琉祖語から朝鮮祖語であるという考えが主流です。根拠としては単純で、日琉祖語では子音「*b」と「*p」の区別があるのに対し、朝鮮祖語では区別がないことが挙げられます。つまりこれは日本語で「l」と「r」の区別がないためにどちらもラ行で借用してしまう現象と同じです。日琉祖語の「*b」と「*p」を朝鮮祖語では「*p」で借用するしかないのです。

以上のことから「わた」は純粋な海を指す和語であり、朝鮮語に借用された語彙ということになります。それでは逆もあるのではないでしょうか。

海と水は同じ

ここから結論を話すとすれば、私は「うみ」は朝鮮語の水「물」の借用語であると考えています。以下に比較を示します。

  • うみ:日琉祖語 *Umi(アクセント:低―高)

  • 물:朝鮮祖語 *Vmɨl(アクセント:低―高)

朝鮮語「물」の古形については、中世朝鮮語の記録では「·믈(múl)」とされています。中世朝鮮語ではピッチアクセントに「低」「高」「低―高」の三種類があります。こちらの単語は「高」となっていますね。このアクセントに関してですが、現在の仮設段階の研究において朝鮮祖語の名詞には「低―高」のピッチアクセントしか存在せず、中世朝鮮語の「低」「高」アクセントは音節の脱落によるものである;というものがあります。以下に例を示します。

  • 中世朝鮮語 별(pyəl):朝鮮祖語 *pyərI

  • 中世朝鮮語 ·ᄯᅴ(stúy):朝鮮祖語 *sItəl

  • 中世朝鮮語 :말(mǎl):朝鮮祖語 *mal

上記のような例から、中世朝鮮語「·믈(múl)」に関しても脱落した音節を含めた「*Vmɨl」が再建できるわけです。

それではこれがなぜ日本語に借用され、また「海」を表す単語になったのかについては、下記のような根拠を示すことができます。

1.朝鮮語の陰母音・陽母音

まずは朝鮮語の陰母音・陽母音についてです。言語を分析する際に、母音調和という考え方があります。これは一つの単語において用いることのできる母音が限られることを指し、朝鮮語ではこれを陰母音・陽母音として区別しています。朝鮮語での母音調和は以下の通りです。

  • 陰母音:ㅓ ㅜ ㅡ(ə, u, ɨ)

  • 陽母音:ㅏ ㅗ ㆍ(a, o, ʌ)

  • 中性母音:ㅣ(i)

このことから、朝鮮祖語「*Vmɨl」の「*V:不明な母音」に関しては、陰母音「*ə」「*u」あるいは中性母音「*i」となります。ここでは「*u」であると仮定します。

2.借用の向き

次いで借用の向きについてですが、現代の言語学の考え方では一般的に借用が起こった場合、元の言語よりも借用した言語の方が意味が狭まりやすい;という傾向があるとされています。以下のような場面を想像してください。

あなたは道をあるいている知らない生物を見て、現地の方に「これは何ですか」と尋ねるとします。現地の方はあなたの質問を受け「これはデリャですよ」と答えました。あなたはその言語ではその生物を「デリャ」と呼ぶのだと納得し、その語彙を借用して用いることにしました。

しかしその言語では「デリャ」という単語は実はその生物を含めた大きなグループを指す場合、これは借用によって意味が狭まったと言えます。皆さんも子供や外国の方が鳥を指して「あれは何?」と尋ねたとして、わざわざ「あれは雁だよ。」「あれは鶴だよ。」などとは説明せず、単に「あれは鳥だよ。」そう答えますよね。ここから朝鮮祖語で水を指す語彙が日琉祖語において海を指す語彙に変化したとして、それは借用における意味の変化であると納得できます。

3.母音の変化

続いて母音の変化についてですが、ここでは朝鮮祖語の母音+末子音「*-ɨl」を借用した場合、日琉祖語ではどう変化するのかについて考えます。まず母音「*ɨ」についてですが、こちらは日琉祖語には存在しない母音のため近しい母音「*i」や「*ə」で借用すると考えられます。ここでは「*i」で借用されたと仮定します。

末子音「*-l」についても日琉祖語にはそもそも末子音が「*-y」を除いて存在せず、脱落あるいは「*-y」に変化すると考えられます。このどちらで考えても矛盾はありません。

4.アクセントの一致

最後にアクセントの一致についてですが、これは説明する必要さえありませんね。朝鮮祖語の名詞アクセントが「低―高」であることは先ほども説明したとおりで、また古典日本語の記録などから「うみ」のアクセントは同じく「低―高」であったとされています。

まとめ

以上の根拠から、日琉祖語「*umi(低―高)」は朝鮮祖語「*umɨl(低―高)」の借用語である。という仮説についての紹介でした。今のところはかなり根拠に富んだ仮説であると考えますが、矛盾点や歴史的な考証による反例などありましたらコメントお願いいたします!


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