中川颯投手(ブリスベン/横浜DeNA)インタビュー
大量失点で「ごめんなさい」。チームメイトの「なんで謝るの?」のひと言に救われた
2024年、オリックスから横浜DeNAに移籍した年に先発、中継ぎでフル回転。チームの26年ぶり日本一に貢献した。しかし一転、今季は自身にとっても「納得のいかないシーズン」に。そこで感じた課題を打開するため、中川投手が選んだのはオフのABL派遣だった。オフシーズン、南半球での野球は中川投手に何をもたらし、どんな成長を促してくれたのか聞いた。(トップ画像はⒸBaseball Australia)
(ⒸBaseball Australia)
オフの今も試合勘を養えるのは大きい
――今回、オーストラリアABL派遣を希望した理由から教えてください。
昨年(2024)、初めてシーズンを通して一軍で戦わせてもらいました。途中、ケガで2カ月ほど離脱もしましたが、先発とリリーフ、それもワンポイント、ロングと様々な場面で投げて、経験を積むことができました。ところが今年は、火消しやロングリリーフの場面で、なかなかうまくいかなかった。技術的にもそうなんですが、メンタル面で厳しいシーズンになりました。その中で一度、8月に(一軍登録を)抹消されたとき、次のシーズンのことも考えて「ちょっと環境を変えて、野球観も変えてみたい」と思い、オーストラリア行きを志願しました。
――迷いなのかカベなのか、何が中川投手の前に立ちはだかったのでしょうか。
シーズンの初めごろ、急遽登板したときがありました。そこでメンタル的にも技術的にも自分の思うようにコントロールできなかったことが、シーズンを通してずっと残り、それを引きずってしまいました。マウンドに行くのが、怖かった。24年は一軍のあんな大観衆の中で投げられることなんてなかったから、いつもワクワク、楽しさがあったんです。それが25年は「打たれたらどうしよう」とか、怖さのほうが楽しさに勝ってしまいました。無理やり楽しもうと思っても、やはりそういう感情は自然に出てくるもの。そこが一番の課題と感じました。
――こちらに来て、最初は先発を任されましたね。あれはご自分で希望したのですか?
自分としては「どこでもやります」というスタンスでした。ただ今は(日本の)オフシーズンですし、トレーニングもしたいので、投げる日が決まっている先発のほうがトレーニングのメニューが組みやすいかなと思ったんです。ところが僕、もともと先発がメチャクチャ苦手で。自分のルーティンが見つからないというか、いろいろ試してもどうもしっくりこないんですね。24年の前半2カ月ほど先発をしたときは、自分の中で幅を広げられればいいかなと思ったんですが、やはりそんなに甘くはなかった。やっぱりリリーフのほうが自分には向いているのかなと思ったとき、(ベネット)監督が面談で「ハヤテはワンポイントとかリリーフのほうが絶対合ってるね」と言ってくださって。
――それで第4ラウンドから、ブルペンに回ったんですね。肩は割と早くできるタイプですか?
そうですね。先発だと早くできすぎちゃって、間延びしてしまうみたいな感じです。うずうずするんだけれども、動いたら動いたで疲れてしまう。それにしても(ABL)最初の先発(11月15日、シドニー戦)は、1アウトしか取れず9点も取られるなんて人生初めての経験でした(苦笑)。
――そうですよね。絶対なかっただろうなと思っていました。
相手が(今首位の)シドニーだったんですけれども、選手個々のポテンシャルも高くて、自分が想像していたリーグのレベルとは違いました。半面そこで、さらにやりがいを感じましたね。
――今、マウンドで意識しているのはどんなことですか?
いつものオフシーズンだと投げ込みはできても、対バッターの感覚はなかなか養えません。とはいえ11月から1月までの3カ月間の、そうした試合勘のブランクは結構大きい。だから、今はまず“バッターに投げる感覚”を大切にしています。また投げ込みだけだと、どうしても自分の投げる球の球質にフォーカスしがち。でも僕はあまり球速が速くないから、いかにバッターのタイミングをずらせるかがポイントで、そこを意識しないと生き残れません。ここでもそうしたタイミングを意識して投げています。
――データの少ない相手と対戦するのは、どんな感じですか?
僕の場合、投げ方が(アンダースローで)他の投手と違うので、日本でもデータがあまり参考にならないことが多いんです。だから、打席内で相手がどんな待ち方をしているかを常に見ながら、投げています。こちらの選手は打つ、投げる、走る、それぞれのポテンシャルが非常に高いので、とてもいい練習になっていますね。ただ投げていたら、ポテンシャルで打たれてしまう。こちらも工夫してバッターに臨まなければなりません。
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生存本能をかき立てたいと思ってここに来た
――オーストラリア代表の捕手でもあるロビー・パーキンス選手がマスクを被っていますが、彼の印象は?
初戦で打たれたあと、2戦目からは僕の持ち味や、その日いいボールをきちんと理解して、サインを出してくれています。その理解のスピードも速かったし、自信を持ってサインを出してくれるので、僕も彼を100%信じて投げることができています。中にはアンダースローだとよく分からないのか、自信なさげにサインを出す捕手もいるんですよ。そこはさすが代表捕手だなと思いました。
――中川投手がオーストラリアで学べていること、ここに来てよかったなと思えていることは、どんなことですか?
こちらの人って、いい意味で周りの目を気にしないんですよね。僕もそこはだいぶ、染まってきたと思います(笑)。日本にいると、特に失敗したときに首脳陣、チームメイト、ファンの目がどうしても気になってしまうんです。そのへんの感覚が少しずつ変わってきているかなと思います。いざ日本に帰ったときにどうなるかは分かりませんが、自分自身そこを変えたくてオーストラリアに来たので、それが一番ですね。
――こちらに来た選手で、同じことを口にする方は多いですね。
僕、最初の試合に打たれたとき、 “Sorry, sorry(ごめんなさい、ごめんなさい)”って言ったんです。そうしたら、リクソン(ウィングローブ選手が)が「なんで謝るの? ハヤテはちゃんと準備して、全力を尽くして戦ったんだろう。謝る必要なんかないよ」と言ってくれて。確かにそうだな、それは一番大事なことかなと思いました。そこから気持ちが楽になりました。
――ウィングローブ選手以外のチームメイトとも、仲良くなりました?
特に投手陣はみんな、仲がいいですよ。よくコミュニケーションを取っていて、みな結構僕に対してはゆっくり話してくれるので、僕も少しずつ英語が聞き取れるようになりました。
――DeNAからは投手1人、野手1人の派遣で、練習や試合のとき別々になることについては、当初心配していましたか?
いや、なんとかなるだろうと思っていました(笑)。そこも覚悟してきたというか、むしろ生存本能をかき立てたいなと思って来ているので(笑)。いいことがあっても、悪いことがあっても、すべてがいい経験になるはずです。
――オーストラリアで得たことを生かして26年、どんな中川投手をファンに見せてくれますか? NPBでも、ブルペンのほうで行きたい?
おそらく球団も、そう考えていると思います。自分としても、便利屋じゃないですけど、いろんなところで投げたほうが監督も使いやすいでしょうし。その中で、楽しんで野球をしている姿をお見せできれば、僕としても、またファンの方々にとっても喜ばしいことかなと思います。
なかがわ・はやて◎1998年10月10日生まれ、神奈川県出身。
184㌢80㌔。右投左打。投手。
桐光学園高から立教大を経て21年、ドラフト4位でオリックス入団。
23年オフに戦力外通告を受け、24年横浜DeNAと契約。
長身を折り曲げるようにして投げるアンダースローからの、浮かび上がる速球が特長。
NPBでは25年、27試合に登板し、0勝1敗2H、防御率1.93。
ABLブリスベンでは8試合(うち3試合に先発)登板、2勝2敗、防御率12.79。


中川颯さんへ。 何で謝るの?の、チームメイトの言葉は素敵ですね。 颯が、NPBで首脳陣、チームメイト、ファンの気持ちや視線が気になっていた。 の記事には、私もハッとしましたね。 私は野球に関してはポジティブやけど、私に関してはネガティブでしたから、颯の気持ちにすごく共感しました…