正名僕蔵まさなぼくぞう
俳優
1970年、神奈川県出身。92年より活動開始。ドラマ『ショムニ』『HERO』で注目を集める。裁判官役で出演した映画『それでもボクはやってない』では、第17回東京スポーツ映画大賞助演男優賞を受賞。主な出演は、映画『カツベン!』『前科者』『死に損なった男』、ドラマ『DOCTORS〜最強の名医〜』シリーズ、『おっさんずラブ-in the sky-』『真犯人フラグ』『PICU 小児集中治療室』、舞台「お勢、断行」「う蝕」「彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd Vol.1『ハムレット』」など。NHKでは、連続テレビ小説『ウェルかめ』『エール』、大河ドラマ『軍師官兵衛』、BS時代劇『立花登青春手控え』、土曜時代ドラマ『アシガール』などに出演。2025年大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』では、花の井ら数多くの女郎を抱える老舗女郎屋「松葉屋」の主・松葉屋半左衛門を演じた。
- 出身地
- 神奈川県
『べらぼう』出演のお話をいただいた時はテンションが上がりました。私が夢中になって視聴していた『大奥』の制作チームによる大河ドラマだということ。さらに落語が好きで、日ごろから聴いていた「明烏(あけがらす)」「付き馬」といった“廓噺(くるわばなし)”の世界の住人を演じさせていただけること。加えて落語に「松葉屋瀬川」という噺(はなし)もある吉原の老舗・松葉屋の役というのですから、本当に光栄なことだと思いました。
役作りについては、演出の大原(拓)さんとの話し合いの中で次第に明確になってきた感じですね。たとえば「目が笑っていない感じで何を考えているのかわからないような人物にしたいから、眉を少し薄くしましょう」とか。吉原のおやじ衆が集まる場面でも、それぞれのキャラクターがしっかり立っていてバランスがとれている。松葉屋の場合は“後出しじゃんけん”の人というのかな。様子を見ていて、ぽんとおいしいところを持っていく。そんなずるいところがあったりします(笑)。
蔦重=蔦屋重三郎(横浜流星)との距離感にも松葉屋ならではのずるさのようなものが感じられます。蔦重が「おかしいじゃないですか」とわんわんほえても、そしらぬ顔でお茶を飲んでいる。文句を言ってきたことに目くじらを立てるでもなく一切スルー。何を考えているのかわからないような人物なので、蔦重からしたら訴えがいがなくてイライラが募る。そんなシーンが多々あります。
この先、蔦重に対して優しさを感じさせるかのような場面もあるのですが、それも素直に受け取っていいのか。撮影はまだですが、くせ者感が漂う演出になりそうです。
吉原のおやじ衆というのは“忘八”と言われるように道を外れた者たちですから、どこかに怖さがなくてはいけない。一方で憎めないところもある。ただの気のいい親父になって和気あいあいというのも違う。やはり一般人とは違うんだなということで、意外にさじ加減は難しいですね。
松葉屋のような人物が実際に私の周りにいたら、あまり顔を合わせたくない(笑)。ちょっと面倒だし、怖いから警戒してしまうというのかな。初めてといってもいいような役ですから探り探りではありますが発見も多い。人としては好きになれない人物ですが、だからこそ演じるのは楽しいですね。
個人的にこの作品で楽しみにしているのは写楽のミステリーがどう描かれるのかということ。もう一つ、田沼意次(渡辺謙)をはじめとした江戸城中でのお偉方の権力闘争も興味深い。吉原とは別のところで、お上はえらいことになっているぞというヒリヒリ感、せめぎ合い。そんなところも視聴者目線で非常に楽しみだし、見どころだと思います。
この作品では、主人公の古山裕一(窪田正孝)に映画『決戦の大空へ』の主題歌を依頼する映画会社の三隅という人物を演じました。初登場のシーンで古山先生に予科練のための歌をオファーするのですが、彼がなんだか不思議な方で捉えどころがない。そのことにイラッとして彼が出て行った後にドアをバターンと閉めたんです。かなりきつめだったのですが、現場では監督から「そのくらいやっていいと思いますよ」と言ってもらえてそのまま本番でもやったんですね。それがふたを開けたらネットニュースで「物に当たる人間、最低」と取り上げられていて。まさか、そこを責められるのかとびっくりしましたし、モラル的にも厳しく見られているんだなと考えさせられたことを覚えています。
その一方、歌の依頼に熱弁をふるい、古山先生の難題ともいえる要望をすべてかなえようと奔走する。最初はすれ違っていたかのような2人がやがてパチンと収まるところに収まっていく。『エール』という物語の中で面白いエピソードを担わせていただいたので、すごく楽しんでやらせていただきました。
先ほどのドアの一件では、最後まで見てもらえたら……みたいな気持ちがあったのですが、実際皆さんきちんと見てくださって、結果的には「感じの悪い人」から「なんていい人なんだ」とバーンとひっくり返った(笑)。そんなふうな温度で朝ドラを見られる方たちがいて、それがふつうにネットニュースになるんだということを、あの役を演じたことで認識させてもらいました。
この時から、視聴者の意見がすぐにネットに上がり話題になることを頭の片隅で考えながら撮影に臨むようになりましたね。良くも悪くもSNSを意識し始めるきっかけになったのが『エール』です。
私自身が好きだったのは、2人で訪問した海軍航空隊の宿舎のハンモックで一緒に寝ているシーンです。おだやかな空気に包まれたあの時間がなぜかとても印象に残っています。
一人二役、それも現代と戦国時代に生きる人物というとても面白い役を演じさせていただきました。現代では主人公・唯(黒島結菜)が通う高校の歴史の先生。そして唯がタイムスリップした戦国時代では羽木家の家老。一つのお話の中で2人の人物をやらせていただけてその演じ分けも楽しかったし、何より戦国時代の武将というのがうれしかったですね。
現代を生きる歴史オタクの木村先生は、これまで私が演じることが多かったタイプの人物。得意分野といったところです。ところが戦国武将はまったくの初めて。殺陣(たて)が得意ではないし、馬にも乗れないから大河ドラマなどの武将役には縁がないと思い込んでいました。
木村政秀という主君思いで家臣たちも大切にする家老役をいただいて、初挑戦ともいえる役柄にどこまでちゃんと演じられるのかと不安な部分もありました。それがシーンを重ねていくうちに手ごたえを感じられるようになり、自信を持てるようになった。それが本当にうれしかったし楽しい撮影になりました。
『アシガール』がかなえてくれた戦国武将役。演出の中島(由貴)さんはじめ、何人かの方たちが過去に出演させていただいたドラマで出会い、またご一緒できたことも併せて、とても感慨深い作品になりました。
高校の理科の科目「科学と人間生活」をもとに身近な「科学」を学ぶという番組で、私が演じたのは科学好きの八百屋(やおや)のおじさん。放課後、遊びに来た2人の高校生とおしゃべりをしているうちにスイッチが入って科学の話が始まるという設定でした。
1か月分を1日で撮影するのですが、台本がぎりぎりだったこともありセリフを覚えるのは大変でした。やはり生物や天体、光や熱、微生物や生態系など科学分野の難しい言葉が多く、間違えるわけにはいかない。カンペ(カンニングペーパー)を用意してくださったのですが、さりげなく見ることができなくて(笑)。カンペを見るのにも技術が必要なんですね。
私はそれが苦手だとわかったので全部覚えて現場に臨むと決めて、そこからセリフとの格闘が始まりました。結果、独自のセリフ覚え術を編み出すことができて大きな収穫を得たとも言えますね(笑)。
楽しかったのは実験コーナーです。テーマの理解を深めるためいろいろな実験をしたのですが、必ずしも成功するとは限らない。だけど、それ自体が楽しくて、いい息抜きのような時間にもなっていました。
この番組をやっていたことで、思いがけないご褒美のようなものもいただけたんですよ。私が土橋桂順という医者の役で出演していたBS時代劇『立花登青春手控え』。そのシーズン2の撮影で久しぶりに顔を合わせた平祐奈さん(ヒロイン・ちえ役)から「先生、ありがとうございました」とお礼を言われたんです。何事かと思ったら、彼女は『科学と人間生活』を見て勉強していたそうで、「おかげで大学に無事合格しました」って。
私なりに必死につとめていた番組でしたが、それを見て勉強して合格する人もいるんだ。1年間、死に物狂いでやってきたことが報われた。そんなふうに思えて本当にうれしかったことを覚えています。
初めての朝ドラ、それも大阪局制作の作品ということで非常に印象に残っています。大阪に滞在しての撮影ですから、リハーサルや本番が終わっても「お疲れ様でした」と家に帰るのではなく、スタッフやキャストの皆さんと食事に行かせていただくことも多く、それがすごく楽しかった。そうした機会を通してより濃密に撮影に関われたし、日常を忘れてドラマに没頭することができたと思います。
一つの役を半年かけて演じるというのも初めての経験でした。当時39歳、ある程度の仕事はこなしていた時期で、現場では物わかりや察しのよい役者でいたいと思っていたところがありました。ところが『ウェルかめ』には演出家が6人くらいいて、それぞれの撮り方がある。それをいちいち察して変に物わかりのよい役者でいる必要はないということに気づいたんです。改めて役者は役のことを考えるのが仕事だと再確認させてもらえたし、映像についてもいろいろなことを考えさせられたのが『ウェルかめ』でした。
私が演じた友近という編集者は空気が読めなかったり、人との笑いのツボがずれているといったコミュニケーション能力があまり高くない人物。私はそういう人物を演じるのが好きで(笑)、まさに自分好みの役をやらせていただいた感じです。
ありがたかったのは徳島が舞台ではありましたが、標準語でしゃべる役だったこと。方言に引っ張られることなく人物のキャラクターに沿っていろいろセリフを考えることができました。残念だったのは徳島ロケにほぼ参加できなかったこと。その代わりというか、ファンの集いのイベントでようやく訪れることができました。徳島ことば指導を担当されていた俳優の谷口知輝さんから、いろいろ情報を仕入れていたので「ここが徳島県か!」と思い切り満喫しましたね(笑)。










