「県も大学も甘えてきた」自治医大・修学資金3766万円“一括返還”巡る訴訟で原告側が会見 「悪魔のような制度」改善訴える
50年間、なぜ問題視されなかったのか
A氏は自治医大の修学資金制度が半世紀にわたり存続してきた背景を以下のように説明する。 「自治医大は開学して50年を超えますが、これまでこういった形で訴訟を提起したのは、おそらく私が初めてです。 同級生や先輩方、後輩には上から言われたことをしっかりやる『いい子ちゃんタイプ』が多くいました。こうした卒業生がへき地医療に従事してきたことで、自治医大は一定の意義を発揮してきたのです。 しかし、その陰で私のように仕方なく義務年限を離脱しなければならなかった人や、精神疾患を発症した人もいます。それでも、多くの人が義務年限を完遂し、へき地で勤務してきたという実績に県も大学側も甘えて『今のままで良いだろう』と制度を続けてきたのではないでしょうか」
「病気の原因に何も対処していないのと同じだ」
また、A氏は自治医大以外の医学部でも地域枠制度の導入が広がっている現状について、「自治体や大学の甘えが広がっている」と指摘。医療にたとえて批判した。 「今、地域枠を使用する学生の数も増えており、医学部入学者の2割を超えてきています。 しかし、これはへき地に医師が行きたくなくなっている根本的な原因に目を向けず、強制的に若者を縛りつけることで、対症療法的に問題を処理しているだけに過ぎません。 腹痛を訴える患者さんに対し、原因を精査することなく痛み止めを処方し『痛みがなくなってよかったね』と言っているのと同じです」(A氏)
10年、20年後には制度が改善されていることを願う
原告側は今後、労働基準法上の主張に関する意見書の提出を予定しており、その後、消費者契約法上や憲法関係の主張も順次行うという。 A氏は3月の提訴時の会見で、自治医大の修学資金制度について「無知な受験生を囲い込んで、卒業後、退職の自由を奪った上、不当な労働条件で使いたおす、まさに悪魔のような制度」と非難していた。 次回期日は2026年3月に開かれる予定で、判決は早くとも再来年ごろになる見通しだという。 「提訴をし、初めて記者会見を開いてから、次回期日で約1年が経つことになります。前例もない中での提訴ですが、似たようなことで困っている方々に対して何かを示すことができる先例を作りたい。そのためにも、時間はかかりますが、判決を急ぐのではなく、裁判所にも審理・判断を尽くしてほしいと思います。 現在、私のもとに同じような状況で困っているという人から相談を受けることもあり、判決が出るまでその方々をお待たせしてしまっているという点では思うところもありますが、10年後20年後に現在の制度がより良い形に改善されるのを願って、前向きに主張を続けていきたいです」(A氏) なお、自治医大は弁護士JPニュース編集部の取材に対し、次のようにコメントした。 「係争中の本事案については、訴訟前から先方に対して再三にわたり、大学の姿勢と考え方を伝えて、修学資金の返還を求めてまいりました。 本事案で原告となっている医師は、本学の制度を理解した上で本学を受験し入学され、本学との貸与契約に基づき修学資金の貸与を受けて本学にて医学を学び、その結果医師の国家資格を取得されている方です。 そして、その後、当該医師の判断で、地域医療に従事することを断念され、貸与契約の返還免除の要件を満たさなくなったことから、本学は、貸与契約に基づき、当該医師らに対して返還を求めており、かかる返還請求は、契約に基づく正当な対応であると考えております。 本学としては、引き続き修学資金の返還を求めていくとともに、この制度の社会的意義の大きさ、憲法はもとより関係法令に適合していること等について、今後も必要な主張を尽くしてまいります」
弁護士JPニュース編集部