ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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CC36話:目指すは方舟

 ※※※

 

 

 

「──捉えましたッ!! ”方舟”はサイゴク山脈の直上を飛行中!!」

「やっぱり最後はそこなんスね……呪われた聖地……何でわざわざ海じゃなくて山の上なのかは分かんねーッスけど」

 

 

 

 方舟は現在、サイゴク山脈の頂上で停止しているという。

 光学迷彩によって透明化している上にレーダーからも逃れるようになっており、場所の特定には非常に時間がかかったが、忍者達の活躍により漸く判明したのである。

 此処まで来れば、後は殴りこんでキャプテン達を救出、そして中に居る敵幹部を撃滅して、ついでに方舟も機能停止させるだけの簡単なお仕事であった。

 

(バカ……やることが……やることが多いッ……!!)

 

 ノオトの額から脂汗が山ほど流れ出る。

 あまりにも色々足りない。以前は地理が知れているサイゴク山脈での戦いだったから良かったものの、これからノオト達が向かうのは全く未知の巨大な円盤なのだ。

 中には敵のトレーナーやポケモンがわんさかいることは確実だろうし、警備も厳重であろうことが予想出来る。

 あれだけ自信満々にテレビで映像を流して来たのだから、恐らくこちらが乗り込んで来るのも織り込み済みであることは容易い。

 

「ンなモン決まってるっしょ!! ナメられたままで終わるか!! あの方舟に向かって攻撃を仕掛けるッスよ!!」

「さ、作戦は──」

「……全軍突撃」

「ノオト様ァ!?」

「……えーと、ま、先ず各おやしろの状態を考えると──」

 

 ──すいしょうのおやしろ・おやしろにトレーナーがあまりいない。指揮系統麻痺。よりによってキャプテンが関与していて混乱中。

 

 ──ようがんのおやしろ・おやしろにトレーナーはいるが、指揮系統麻痺。ハズシのカリスマのおかげで一致団結はしている模様。

 

 ──なるかみのおやしろ・そもそもおやしろが再建中でそれどころではない。ユイ不在で町は大パニック。

 

 ──ひぐれのおやしろ・キリ不在だが、部下のミカヅキが指揮を執っている。現在進行形で方舟の調査中。

 

 と、このように、各おやしろが大小あれど混乱状態に陥っているのである。

 また、テロリストたちが各町に侵入してくることを考慮すると、おやしろのトレーナーも残していなければならない。

 とてもではないが、全軍突撃している場合ではない。

 

「取り合えず、偵察は”ひぐれのおやしろ”に任せて、突入はオレっち達がやる! これで良いんじゃねーッスか!?」

「ノ、ノオト様自らが突入を……!?」

「ひぐれとよあけ、ようがんから腕利きのトレーナーを用意するんスよ! ひぐれとようがんは、ライドポケモンには困ってないと思うし……困ってるのはオレっち達ッスね……」

「むしろ、大きく動き過ぎると相手に察知されるのでは……? キャプテンが奪われている以上、戦力差は覆しようがないし……」

「だぁぁぁーっ、どうすれば良いんスかーっ!? 忍者投入したところでひぐれの抜け忍が居たら、意味ねぇっしょ!?」

 

 

 

「その心配をする必要は無いもの、よあけのおやしろの──もう1人のキャプテン・ノオト様」

 

 

 

 何処からか声が響く。

 両隣に居たおやしろのトレーナーも、そしてノオトも、身体の自由を失い、逆さ吊りにされてしまった。

 よく見ると、部屋の中にはピアノ線のような鉄糸が張り巡らされている。

 何が起こったか分からないノオトは部屋の入り口を見た。そこには、白いワンピースに身を包んだ少女が佇んでいた。

 此処に居るのが当たり前だ、と言わんばかりに。

 

「い、いつの間に侵入されたんスか……ッ!!」

「おやしろの警備をどうやって突破した……!? まさかこいつが、例の抜け忍……!?」

「ふふ、無論、この私の忍術に決まっているもの。あのキリりんでさえ、破る事が出来なかった私の鉄糸忍術。そして──デンチュラちゃんの”でんじは”でね」

「チュルルルル」

 

 ネムの傍らには、毛に包まれた巨大な蜘蛛のようなポケモン・デンチュラが糸を吐き出していた。バチュルの進化したポケモンだ。当然、その身体は発電器官を有しており、吐き出す糸に電気を通すこともできる。

 

【デンチュラ でんきグモポケモン タイプ:虫/電気】

 

「鉄糸に電気を通せば、凶器になるもの。即席のスタンガンの完成。黒焦げにしなかっただけ有情だと思って頂戴」

「てんめぇ、おやしろの皆に手ェ出しやがったな……ッ!!」

「忘れ物をしたから取りにきたの、最弱のキャプテン君。でも、私は優しいから、きっちり回収は忘れない」

 

 ぐるぐるに糸で巻かれていくノオトは、そのまま抜け忍──ネムの手元に引き寄せられる。

 

「キャプテンを完全に落とせば、サイゴクの人々はもう抵抗する気も無くなっちゃうもの。お邪魔虫は駆除するに限るもの」

「1つ聞きてえ事があるんスけど……ひぐれのおやしろを捨てて、何でわざわざこんな事やってんスか!」

「うん?」

「……キリさんの姉御的存在だったらしいじゃないッスか……!! 何で、何で忍軍を抜けたんスか!!」

「自由が欲しかったの」

 

 当たり前のようにネムは言ってのける。

 

「じ、自由……!?」

「忍者の家系に生まれたからって、忍者の修行をさせられて、忍者になるように育てられる。そんな窮屈な人生、イヤだと思わない?」

「ウソッスよ! だってあんた……忍軍抜ける前は、すっげー努力家だったって聞いたッス!! そんなあんたがいきなり忍者をやめちまうなんて、何かあったんじゃねえッスか!?」

「……ボウヤ、教えてあげるもの。女の秘密には軽々しく踏み込むものじゃないの」

 

 より強く鉄糸がノオトの身体を縛りあげた。

 ネムの顔は笑っていたが、目は笑っていなかった。

 忍軍を抜けた過去は彼女にとっても触れられたくない出来事だったようである。

 

「キリりんは勿体ない事をしたもの。あれだけの力が、才能があれば、自分の力だけで幾らでも成り上がる事ができるのに。力があれば、何だって手に入るのに。自由って最高なんだもの!」

「……自由ね。オレっちには、あんたが自由という名の檻に囚われてるように見えるッスけどね。まるで虫籠の中で飛び回る虫ポケモンッスよ」

「何ですってェ……?」

「ぐぅっ……!!」

 

 ノオトの首に糸が縛り付けられる。

 その先にはデンチュラの頭。放電すればいつでも彼を感電させられる状態だ。

 

「デンチュラ。ちょっと、このやかましいボウヤの口を塞いでやるもの」

「……じゃあこっちも教えてやるッスよ。おやしろには、軽々しく踏み込むモンじゃねーッス」

「は? 一体この状況で貴方に何が出来ると言うの──」

 

 はらり、と鉄糸がほつれた。

 ポケモンの技でも滅多に切れないはずの鉄糸が目の前で解けたのだ。

 思わずネムは振り向いたが、その時にはもう遅かった。デンチュラも、彼女も、背後から突如現れたそれに対応できず、吹き飛ばされる。

 部屋中の鉄糸も一気に切断されていく。

 

「……ヌシ様。流石ッスよ」

「エリィィィス!!」

 

 アケノヤイバだ。

 キャプテンの危機を察知し、おやしろのこの部屋まで飛んでやってきたのである。

 全身が影で構成されたこのポケモンに、鉄糸での拘束は通用しない。

 縛られていた他のトレーナー達も解放され、ボールを地面に投げ付ける。

 ゴースト、そしてサワムラーの二匹がネムに向かった。

 

「ッ……久しいわね、アケノヤイバ……!!」

「エリィィィス……ッ!!」

 

 可愛い可愛いおやしろの御子に手を付けたことで、既にアケノヤイバは怒り心頭だった。

 影の剣を五本浮かび上がらせている。

 しかしここは室内。暴れればおやしろが壊されてしまう。

 

「ッ……外に逃げるもの、デンチュラ!!」

「チュルチュララ!!」

 

 窓から鉄糸を撒き散らしながら飛び出したネム。

 それを追って、ノオト、そしてアケノヤイバも飛び出す。

 

「ふふっ、そう来ないと拍子抜けも良い所だもの……ッ!! ヌシポケモンとキャプテンが相手とはね……」

「姉貴たちを返してもらうッスよ」

「ハッ、無理なご相談だもの」

「無理な相談? じゃあ、此処で捕まってもらうッスよ!! アケノヤイバ、”デュプリケート”!!」

 

 一気に分身するアケノヤイバ。

 しかし、次の瞬間アケノヤイバを狙うようにして無数の手裏剣が飛び交う。

 それを回避すると、今度は周囲に煙幕が巻かれる。

 

「ごほっごほっ、何にも見えねえッス──!!」

 

 となれば危ないのはノオト。すぐさまヌシはキャプテンの傍に移動し、敵が来るかどうかを警戒。

 更に分身たちに消えた敵の捜索を任せる。

 だが、幾ら未来予知で居場所を捉えても、透視をしても、アケノヤイバがネムを捉えることは出来なかった。

 

「くすすっ、幾ら未来が見えても、この素早さは捉えられないもの! しばしさらば!」

 

 煙幕が晴れた瞬間、そこに居たのは──全身に帯を巻きつけたナメクジのようなポケモンだった。

 その背中にネムは乗っかっている。

 

「お姉さんを取り返したいなら、私達の方舟に来るの! 尤も、取り返せれば、だけど!」

「しまっ、アギルダー……ッ!!」

「アギルダー”こうそくいどう”!」

 

【アギルダー からぬけポケモン タイプ:虫】

 

 その速度は残像が残る程であった。このアギルダーというポケモンは、殻を無くした軟体動物──即ちナメクジに近しいポケモンだが、非常に動きが素早いのである。

 粘液で生成した帯を全身に巻きつけており、その姿はさながら忍者だ。

 更に特性:かるわざで素早さは二倍。

 幾らアケノヤイバでも捉えられるものではなく、すぐさま空へ向かって逃げ去ってしまうのだった。

 追いかけようとするアケノヤイバだったが、すぐにノオトが手で制する。深追いは危険だ。

 

「ありがとうッス。やっぱヌシ様は強ぇーッスね……!!」

「エリィス……」

「でも今ので決心がついたッスよ。確かにあのネムって奴はキリさん並みに強い。逃げたとはいえ、あれは手の内を隠すためッス。だけど……このまま黙ってはいられねえッス」

 

 

 

「おーい、何かあったのか!?」

「ふるーる!」

 

 

 

 その時だった。

 アブソルを連れたメグル、そして後ろにアルカが走ってやってくる。

 どうやら、アブソルが危険を察知してメグルに知らせたらしい。

 久々に会ったからか、アブソルはアケノヤイバに挨拶と言わんばかりに笑いかけており、アケノヤイバも成長した彼女を見て何処か満足げだった。

 ノオトはメグル達に此処まで起こった出来事を話す。

 おやしろが襲撃されたこと、そしてキリ以上の実力者と言われるネムの力は決してふかしではないことだ。ヌシが居たから何とか敵の魔の手から逃れる事ができたものの、居なければ自分も連れ去られていた、とノオトは語る。

 

「そうか……あいつら、キャプテン根こそぎ攫うつもりだったのか」

「完全に忘れ物を取りに来たみたいなノリだったッスけどね、抵抗したらすぐ逃げていったし」

「それよかどうするよ。相手はお前まで狙ってるんだろ」

「おやしろの守りを固めるの?」

「……どうするもこうするも関係ねえッスよ。最初っから後ろで作戦を立てるとか、オレっちらしくもなかったんスよ」

 

 ポキポキと拳骨を鳴らし、ノオトはアケノヤイバの方を見つめる。

 今は確かにサイゴクに1人しか居ないキャプテンだ。

 だが同時に、ノオトはノオト。今すぐキリのような司令塔になることはできない。

 しかし、家族や仲間の危機に自ら乗り込むことならばできる。

 

(オレっちがおやしろに居ることで、他の皆に危険が及ぶ可能性がある……それならこっちから、奴らをぶっ潰してやるッスよ)

 

「おやしろを頼んだッスよ、アケノヤイバ。姉貴を取り返してくるッス」

「エリィス」

「……じゃあお前……行くのか」

「今度はオレっち達の方から攻め込んでやるッス。お礼参りの時間ッスよ!」

「それでこそ、ノオトだよね!」

「とはいえ、作戦は必要ッス。後、方舟に侵入するのに使うライドポケモンも。更に人手も」

「じゃあ現実的には、まだまだ色々足りてないってことか」

「そうなるッスね。だから──頼みがあるッス」

 

 ノオトはメグル、そしてアルカに向かって頭を下げた。

 

「お二人には……オレっちに命を預けてほしいッス! 一緒に、姉貴を……キリさんを……皆を取り戻してほしいんス!!」

「……へっ、何をいまさら水臭い。元からそのつもりだったぜ」

「一緒に旅をした仲じゃんかさ! 3人なら、無敵でしょ!」

「……ふ、二人ともォ……!!」

「でもよ、各町の指揮はどうするんだ?」

「勿論、同時並行でやるッスよ! 取り合えず各町の防衛を最優先! 方舟は少数精鋭で突破するッス」

 

 その少数精鋭とは他でもないメグル、アルカ、そしてノオトの3人組のことなのであるが。

 

「つっても、流石にこれだけじゃあ不安が残るんじゃないか?」

「他に戦力らしい戦力があれば良いんだけど……」

「そうッスね……ただ、ヌシポケモンをおやしろから放したら、各町の防衛がいよいよ怪しくなるんスよねえ」

 

 しかし、これ以上時間を掛けている場合ではない。

 こちらから動かなければ、今度は更に勢力を増した敵がおやしろに攻め込んで来る可能性がある。

 

「どうにか、ヌシ様に代わる強い戦力があれば──」

 

 そうノオトが言った時だった。

 いきなり、周囲の空気が変わる。

 ひりついたような緊張感が漂う。

 何事か、と当たりを見渡すと──

 

 

 

「ららいーっ!!」

「ええいーっ!!」

「すすいーっ!!」

 

 

 

 何処からともなく、雷鳴が啼いた。

 何処からともなく、熱風が吹いた。

 何処からともなく、北風が靡いた。

 それらは前触れもなく顕現する。

 甲高い鳴き声と共に当たり前のように現れる。

 

「ッ……」

 

 思わず全員は見惚れてしまっていた。

 それは、他でもない伝説の三聖獣。

 落雷の化身・ライコウ、火山の化身・エンテイ、そして北風の化身・スイクンだ。

 その威風堂々とした佇まいに3人は立ち尽くしてしまっていた。

 以前、ミッシング・アイランドの事件で助け合って以来の再会だった。

 

「──ライコウ、エンテイ、スイクン……!?」

「も、もしかして、助けてくれるんスか!? 何で──」

「すすいー」

 

 スイクンが帯をひらめかせながらメグルに近付く。

 そして「乗れ」と言わんばかりに背中を差し出した。

 その仕草で、もうメグルには何故彼らがやってきたのかが分かった気がした。

 

「この間助けてくれたから……かな」

「すすいー」

 

 こくり、と彼は頷く。

 そして促されるがままにメグルはスイクンの上に跨った。

 ひんやりとした感触、そして伝わってくる安心感。

 このまま身体を預けても良いのだ、と思わされる。

 

「も、もしかして、オレっち達も乗って良いんスか!?」

「伝説のポケモンに……乗れるの!?」

「ららいーっ!!」

「ええいーっ!!」

 

 早くしろと言わんばかりに催促するライコウ。

 そして、乗りやすいように四肢を畳むエンテイ。

 顔を見合わせたアルカとノオトも、それぞれ跨る。

 アルカはエンテイに、ノオトはライコウに、だ。

 

「……ライドポケモンの問題と戦力の問題……同時に解決したな!!」

「これなら、文句なしッス!! 伝説のポケモンが居れば100人引きッスよ!!」

「……」

 

 喜ぶメグルとノオトに対し、唯一人アルカだけが神妙な顔つきで考え込んでいた。

 

「どうした? アルカ」

「い、いや、何だろう、()()()()()()なあって」

「おいおい、あの島はぶっ潰したんだ。そいつらは偽者じゃねえだろ」

「いや、この子達が本物なのは分かるよ。だけど……前に助けて貰ったから……って理由だけで、伝説のポケモンがボク達の元に来るのかなあって」

「時空の裂け目に脅威を感じたとか?」

「うーん……違う。もっと別の焦燥感のようなものをこの子達から感じる」

 

 彼らの視線は──サイゴク山脈の方を向いている。

 いずれにせよ、此処に居る全員の目的地は同じようだった。

 謎を残しつつも、全員はそのまま、彼らにしがみつくように騎乗し、方舟へ向かう。

 そこらのライドポケモンとは比べ物にならない速度を出しながら、彼らは目的地へと突き進んでいくのだった。

 

 

 

「……まぁ良いか!! よろしくな、スイクン!!」

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