ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
※※※
「ひぐれのおやしろの捜索結果、円盤はステルス機能を駆使し、更に光学迷彩で消失を繰り返しています。進路が分かりません」
「チッ……!!」
ノオトは考える。
山岳地帯に拠点を構えるのは、おかしいことではない。
山は要害、攻め込まれにくい場所だ。だが、それ以上に飛行して移動できる円盤がわざわざ海に陣取らない理由が分からない。
「あのクガイという女についてもある程度調べが付いているようです」
「……大企業アーク・オブリビオン社の美魔女社長ッスか。年齢不詳……見た目は女の子ッスけど、何歳なのやら」
「相手が大企業ということもあり、テング団の時とは大違い。なんせ、あの円盤を我々は落とさなければならない」
「こりゃあ困った事になったッスね。企業の資金を、あの円盤と計画の為につぎ込んでいたんスか」
「なまじ財力がある分、手強い相手になるかと」
「……そして社員やアークの船団のメンバーも、あのクガイという女の掲げる理想に共感している。まるで宗教ッスね。理想の世界の為に、今ある秩序をブッ壊すつもりッスか」
世界丸ごと巻き込んだ傍迷惑な無理心中だ、とノオトは考える。
「でも、分からんですね。どうやって時空の裂け目とやらを開いたのやら。いや、今からどうやって開くつもりなのか」
「そうそう簡単に時空の裂け目なんて開くわけがねーッスよ。ほいほい開いたが最後、世界の終わりッス」
「どわあああああああ!?」
「いやあああああああ!?」
「ふぃーっっっ!?」
パキ、パキパキ、と空が割れるような音と共に、叫び声が聞こえてくる。聞き覚えしかない叫び声が。
そして、ノオト達の真後ろに彼らに転がってくるのが見える。
メグルにアルカ、そしてニンフィアだ。
彼らを見つめながら──僧の一人が首を横に振った。
「……世界の終わりかもしれんですね、ノオト様」
「今の今の今まで何処にいたんスか、あんたらぁぁぁーッ!?」
パキパキと音を立てて塞がっていく裂け目を横目に、ノオトはメグルの胸倉を掴む。
「わ、わりぃわりぃ、ちょっと森の神様に拉致られてて……」
「こっちは大変な事になってるんスよ!」
「こっちも大変な事になってたんだよ、信じて!」
「何言ってるんスか! サイゴクの危機、世界の危機って時に──それ以上に大変な事なんてあるわけねーッス!!」
「待てよ、ノオト。それってもしかしなくて、時空の裂け目ってヤツか?」
「……ッ!! 知ってるんスね、メグルさん」
「うん、ボク達、まさにその件で呼び出されたんだよね」
ノオトの目に──涙が浮かぶ。
そして、メグルの手を握り締めて、叫んだ。
「メグルざんんんんんっ、だずげでほじいッスぅぅぅーっ!! 姉貴がぁ、キリさんがぁ、ハズシさんがぁ、ユイさんがぁぁぁ」
「おいおい、待て待て、きたねえ!! 鼻水が手に付いただろーが!!」
「今はニャースの手も借りてえんスよ!!」
「……なんだか、ボク達が居ない間に、大変な事になっていたみたいだね……」
「居ない間じゃねーッスよ!! 2日!! 丸2日も鬼電したのに何で出てこなかったんスか!!」
「……うわ、通知凄い事になってる!?」
──どうやら、時空の裂け目を通ると時間も歪むらしい。
メグル達が向こうで少し過ごしている間に、こちらでは既に2日が経過しているのだった。
そして、まさにその2日目に起こった出来事は、メグルとアルカを驚愕させるには十二分なものだった。
サイゴク地方に突如現れた時空の裂け目。
大合議の途中に起こったキャプテンの拉致。
何よりもテロ組織”アークの船団”によって、時空の裂け目が更にこれから増える事が告げられたことである。
時空の裂け目が増えた結果どうなるかを見て来たメグルとアルカにとっては、決して他人事に感じられるものではなかった。
メグルとアルカも、森の神様──テツノサクヤによって見てきた真実を告げる。
それは、時空の裂け目が増殖すると迎える世界の末路であった。
「や、やべーッス……じゃあ、裂け目が増えたが最後、マジで世界は終わるんじゃねーッスか!! 何が新時代ッスか、終わりッスよ!! 全ての終わり!!」
「それだけじゃねえよ。この世界以外の他の世界にも、裂け目が増えていく。事はもう、この世界の話だけじゃなくなってんだよ」
「なんか、壮大すぎて話が見えてこねーッスよ!! 映画か何かッスか!?」
「相手が神様とか、宇宙からやってきた怪獣とかじゃないだけマシじゃないかなあ……ああでも、この円盤はUFOみたいだけどね」
「問題は相手がどうやって裂け目を開けてるか、だろ。どうせ、ポケモンの力を使ってんだろうけどな」
「そうッス。今のテクノロジーだけで、ぽんぽん空に穴を開けられて堪るかって話ッスよ」
「ああ。そう簡単に……世界を滅ぼされて堪るかってんだ」
「……メグルさん。大丈夫なんスか?」
気遣うようにノオトが問うた。
故郷が滅びていたメグルを少なからず心配しているのである。
「へっ、大丈夫に決まってんだろ。この世界まで滅んだら困るし、頑張らせてくれよ」
「……」
正直、まだ気持ちの整理はついていない。
滅びたあの街を見せられて、貴方の故郷は滅びました、と言われても全く実感が湧かないのである。
「我々はキャプテンを失った全てのおやしろと連携し、アークの船団の円盤──”方舟”を追う必要があります」
「……しかし、相手の中には裏切者のヒルギが居ます。既にこちらの動きが読まれている可能性も」
「ヒルギって、あの新しいセイランのキャプテン……だよな」
「敵だったんだ……!」
「でも、おかしな話だよな。ヌシポケモンに選ばれなきゃキャプテンにはなれねーのに……シャワーズはむざむざ裏切るようなヤツをキャプテンに選んだのかってな」
「あれでもシャワーズは、ヌシの中じゃ幼い子供同然ッスからね。そこまで見抜けなかったのかもしれねーッスよ」
(本当にそうなんかね……?)
メグルは腕を組んで考える。
幾ら幼いと言っても、既にシャワーズも20歳。長寿な他のヌシに比べれば確かに若いのであるが、それでも初めて会った時のあの超然とした雰囲気をメグルはしっかりと覚えている。
「そんでもって残りのキャプテン4人……いや、
「最強の味方が、最強の敵に……って訳か」
「残ってるのはノオトだけだしね」
「誰がサイゴク最弱のキャプテンッスか!!」
急にノオトが気色ばんだ。まだ何にも言っていない。
「残ってるのがお前だけって言っただけだろ」
「被害妄想が過ぎるでしょ……」
「は、ははは、残り物の最弱キャプテン……オ、オレっちだって、オレっちだって……ぐすっ、ひぐっ」
【特性:ライトメンタル】
泣きだしてしまったノオトを放っておき、メグル達は改めて状況を整理する。
「奴らの居場所は不明、敵の目的は時空の裂け目を大量に開く事、そして敵は──キャプテン5人か……」
「……こっちの戦力は、ボクとメグル、ノオト、後はヌシポケモンとおやしろのトレーナーってところだけど」
「指揮をするキャプテンが居ないのが問題だよな」
じっ、とメグルとアルカはノオトを見やる。おやしろのトレーナー達も、皆ノオトの方を向いている。
数分後、彼の頭には「臨時筆頭キャプテン」とマジックペンで書かれたハチマキが巻かれていた。
「やっぱこうなるんスねぇ!! 知ってたけど!!」
「いや、だって……お前しか居ねえじゃん、キャプテン。良かったな、今はお前が最強のキャプテンだぞ、喜べ」
「それはオレっちしかキャプテンが居ねえからっしょ!!」
「必然的にそうなるよね。実質君が今のサイゴク全部のおやしろを指揮する筆頭キャプテンってことになるよね」
「待て待て待つッス、幾ら何でもそれは無茶っしょ!?」
「おいおい、そこは気合入れろよオマエ。此処で頑張ったら、女の子にモテモテかもしれねえんだぞ、頑張れ主人公」
「そうだよ。こんな時にヘタれてどうすんのさ、モテモテが待ってるんだよ」
「もうモテなんて必要ねーんスよオレっち!!」
「何だよ見ねえうちに彼女出来てたのかよオマエ」
「じゃあその子に恥ずかしくないように頑張りなよ」
(その彼女がキリさんだなんて言えない……)
そして現在進行形で捕まっていることもセットで、ノオトの胃腸に負荷を掛けていくのだった。
「さあて、ノオト様こちらへ。我々が指南しますので、今後の戦術指針を決めましょう」
「勿論、最後の決断を下すのはノオト様ですよ、このサイゴク地方はノオト様に掛かっていると言っても過言ではありません」
数分後、彼の頭には「五社同盟責任者・総司令官」とマジックペンで書かれたハチマキがその上に巻かれていた。彼の顔が更に青くなっていく。
「何で役職上乗せしたんスかねえ!?」
「いや、だって……お前しか居ねえじゃん、キャプテン」
「さっきも聞いた!!」
「ポケモンは進化するけど、役職も進化するんじゃないのかな、知らないけど」
「オレっちは暴れるのが専門ッスよッ!! わざわざプレッシャーをかける言い方しか出来ねーんスか!! クソッ、恨むッスよメグルさん、アルカさーん!!」
おやしろのトレーナーに連れていかれるノオト。他に適任が居ないので仕方が無いのである。
全ては彼に託された。フォーエバー、キャプテン。フォーエバー、ノオト。
「一先ず御二人は、今晩特別に宿を空けているので、そちらで泊まって下さい」
「俺達も何か手伝えることは無いですか? 幾ら何でもあいつ1人に全部押し付けるのは気の毒かなって」
「
「にしたって惨い気がするけどな……」
「……我々は最初から、ノオト様を信じていますので。周りから最弱と言われようが、ヒメノ様より弱いと言われようが、メンタル弱だとかモテないだとか言われようが」
「今まさにボロクソに言ってんじゃんか」
「──それでも、我らの尊敬するキャプテンです。幼い身で責任を引き受け、町の為人々の為ポケモンの為奔走するノオト様を、私達は見てきましたから」
「……信頼されてるんだね」
「人柄ってヤツだな」
「ですので、お二人は来たるときに備えて下さい。いざという時に寝不足では困りますから」
このまま一夜を明かすのか、とメグルは肩を落とす。
正直居ても立っても居られないのだが、方舟が見つからない以上は仕方がない。
「しゃーねえな、さっさと寝て明日に備えようぜ! 何とかなるだろー!」
「ま、待ってよ」
そう言っておやしろを去っていくメグルを目で追いながら──ノオトは肩を落とした。
「……どうされたんですか、ノオト様?」
「どー見ても、無理してるッスよ。メグルさん……無理矢理、自分を元気づけているような……オレっちの前だから、余計にいつものように振る舞ってるような……不自然なくらいッス」
(アルカさん……頼むッスよ。こういう時、メグルさんを助けてやれるのは、あんただけなんスから)
※※※
──眠れない。
目を閉じれば、あの廃墟の光景が浮かび上がってくる。
長い事帰っていなかったし、帰るつもりもなかった。
だけど、それは帰ろうと思えばいつでも帰る事ができるという選択肢があるのではないか、と考えていたからだ。
自分の中で勝手に元の世界に保険を掛けていたのだ、とメグルは考える。
(いーや、戻れなくたっていいんだ。最後に一回、会いたかった……此処まで育てて貰った事に礼を言って、学費の事とかで怒られたりとかして……それすら出来なくなっちまった)
両親の顔を思い出そうとして──正確に思い出せない事にメグルは気付いた。
すっかりもう、自分の身体はこの世界に馴染んでしまったようだった。
それがとても悲しかった。自分が忘れてしまえば、あの世界も、あの世界に生きていた周りの人々も、全部無かったことになってしまう。
柄にもなく、メグルは枕に突っ伏し、静かに泣いた。
声を殺しながら、成すすべなく滅んでいった自分の世界を思いながら──泣いた。
(この世界も無くなったら……困るな。アルカも、皆も、死んじまう。ポケモン達も、居なくなっちまう。そんなのは嫌に決まってんだろ……)
一頻り枕を濡らし、メグルは窓から空を見上げる。
まだ月が綺麗だ。
だが、こんな綺麗な夜空に、今も尚”方舟”は飛び続けている。
サイゴク、この世界どころか、他のあらゆる世界も滅ぼそうとする災禍が飛び続けている。
何時滅びるのかと考えただけで胸が痛み、拍動は強くなっていくばかりだ。
世界の終わりは、一歩ずつ近づいている。
どうしようもなく不安が抑えきれなくなり──とうとう、メグルはベッドを降りて、部屋に鍵を掛けた。
隣に泊まっているアルカの部屋の前に、気付けば立っていた。
コンコン、とノックをする。
しばらくして何も無かったら、寝ているのだろうと考えてさっさと去るつもりだった。しかし。
「……来るかな、って思ってたよ」
すぐに、部屋の扉が開いた。
全部分かっていたように、アルカが目の前に立っていた。
先読みされていたようで少し恥ずかしかったが、今更彼女に隠す事なんて何も無い。
「……良いよ、入ってきて。ボクも眠れなかったんだ」
「ああ」
生返事した後、メグルはアルカの隣に座る。
表情は──晴れなかった。
「……えーと、その、どうしよっか」
「……何も言わなくて良い」
遮るようにメグルは言った。
「何もしてくれなくたって良い……只、傍に居てくれれば、それで良い。元気で居てくれればそれで良い。それで俺は……明日には、いつも通り、
ポケモン達の姿を思い出す。
彼らの運命もまた、自分達に掛かっている。
今のままの顔を、彼らには曝け出せない。
「今は……ボクがこうしてあげたい気分なんだ」
アルカは胸元にメグルの顔を抱き寄せる。柔らかい感触がダイレクトに伝わってきた。そのまま──ベッドに倒れ込む。
「……こんな時くらい、
「……っ」
「分かるよ。ボクと君は似た者同士だもん。ノオトの前で、弱気を見せたくなかったんでしょ」
涙が彼女の寝間着に滲んでいく。
メグルは何も言わなかった。
失う悲しみが贅沢なものであることくらい、分かっている。
アルカにはその幸せすら許されなかったから。
だが今は、彼女に縋りたかった。人の温もりが、とても心地よかった。
「……もしも明日が世界最後の日なら、お前はどうする?」
「んー……それがもしも変えようがないなら……どうしよっか。いきなりだし思いつかないや」
やりたいこと、まだ沢山あるんだよね、とアルカは続けた。
「でも、博物館には行きたいな。美味しいものも沢山食べたい。ポケモン達とも遊びたいよ。……隣に君が居れば完璧かな」
抱き締める力が余計に強くなる。
「……大丈夫。たとえこの世界が終わっても、ボクは君の隣に居る。居てあげる」
「……良いのかよ、そんな事軽々しく言って」
「君の所為だよ」
彼の額に口づけすると、悪戯っ子のようにアルカは笑いかけた。
「君は──どうするの? もし最後の日が来たら」
「……思いつかねえよ。まだやりたいこと、山ほどあるんだ、俺だって。でも──皆が一緒に居てくれればそれで良いな」
だから、この世界を壊させやしないという決意はより強まるばかりだ。
互いの結びつきを確かめるように、二人は指を絡ませる。
「……寝付けねえな」
「良いよ。悪い事……辛い事、今だけ……和らげてあげる」
夜は長い。
世界の危機が嘘のように静かに過ぎ去っていった。