ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】   作:タク@DMP

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CC34話:鋼の時神

『手遅れだったのです。……この世界にはもう、あまりにも多くの裂け目が出来ていたから。連鎖的に裂け目が空に現れた。そこからは連鎖的に災禍が訪れるだけ。裂け目から隕石群が現れたのが致命的だった』 

 

 

 

 メグルは──何も言わなかった。

 正直、まだ何も信じられない。

 信じられないが、先ず出向いたのはずっと自分が住んでいたアパートだった。

 しかし、既にアパートも朽ち果てており、只の瓦礫と化していた。

 もうそこにメグルの帰る場所はないと言わんばかりに。

 次に彼が向かったのは──実家だった。

 アヤシシを出して跨り、アルカもモトトカゲに跨って付いていく。

 もう、ニンフィアを探すことは忘れてしまっていた。

 廃墟と化した町を見て、何も言わないメグルを、アルカはずっと黙って見ていることしか出来なかった。

 本当ならバスで通わなければいけないような遠さだったはずなのに、アヤシシとモトトカゲに乗ると、いつの間にか辿り着いていた。

 更地だった。

 そこで茫然とメグルは立ち尽くしていた。

 此処に来るまで、人の気配は一切なく、そして目の前にあるはずのものが無かった。

 それで、何となく全ての末路を察してしまった。

 

「……こんなのねーだろ」

「……メグル」

「もう、本当に何もねえのか!? 本当に!?」

 

 アヤシシから降りて、メグルは崩れ落ちてしまった。

 インフラも、経済も、都市も、自然も、何もかもが潰えて無くなったことが分かった。

 

「何でこんなモンを見せた!! 知らねえままで良かった……ッ!! 父さんも、母さんも……この世界に居た人皆、居なくなっちまったのかよ!?」

『……居なくなりましたよ』

「……お前の力で、どうにかならなかったのかよ!?」

『あの数の時空の裂け目は、そこから降りかかる災厄は──どうしようもなかった』

「ッ……」

『だけど、このまま裂け目の発生源を放置していれば……無数にある他の平行世界にも悪影響が出る。こうなる世界が増える』

「……どうすれば、止められる」

 

 メグルは問うた。

 

「どうすれば止められるって聞いてんだよッ!!」

『発生源を止めれば良い。だけど、簡単な事じゃない。きっと──君じゃないと出来ない』

「メグルにしか出来ないって、どういうこと!?」

『私が選んだ存在だから。私の力に適合できるのは、今は君しか居ない。だから、戦って、メグル。他の世界もこうなる前に』

「……」

「あんまりだよ。あんまりだよッ!! ……今、メグルがすぐに戦えるわけないじゃん。だって、メグルの故郷は……ッ」

「……最初のうちは、帰りたいってずっと思ってたんだよ」

 

 彼はさえぎるように言った。

 

「……そのうち、ポケモンの世界にすっかり慣れ切って、アルカと出会って、もう帰るに帰れねえなって思ってたからさ」

「……メグル」

「最後に……帰れてよかった。最後に……見ることが出来て、良かった」

 

 静かに彼は続ける。

 

「……良かった。俺の帰る場所は、サイゴク地方で……お前の隣なんだ、アルカ」

「ッ……」

 

 絶対本音じゃない、とアルカは分かっていた。

 メグルの声は震えていた。

 何とか自分を納得させるために、自分に言い聞かせているようだった。

 

「……へへっ、すげえよな。身内が1人2人死んだら、あれだけ悲しいのに……全部まとめて滅んだって聞いたら……何にも実感無くなっちまうモンなんだな……」

「ッ……何でこんな景色を見せたのさ、セレビィ!!」

『だって──人はだれしも生まれた場所に帰ってきたいものでしょう?』

「ッ……ふざけないでよ!! ふざけないでよ……」

 

 それ以上アルカは怒ることもできなかった。

 この世界はいずれにせよ、滅びるサダメだった。

 しかし、そう言われて納得できる人間が果たして何人いるだろうか。

 

「メグルは戦う道具じゃないよ! 幾ら世界を救うためって言ったって……! 少しはメグルの心を考えてあげなよ!」

『帰りたいって言ってたから、少しだけ帰してあげたのに』

「ッ……」

 

 明らかな隔絶。

 人と人ならざるものに横たわる断絶。

 それをアルカは明確に感じ取った。

 目の前のセレビィによく似たポケモンは、世界を救う為に動くことは出来ても、人の感情の機微を読み取ることは出来はしないのだ。

 

「もう、良い。もう良いんだ、アルカ」

「でも、メグル──」

「……このまま放っておいたら、サイゴクもこうなっちまうんだろ」

 

 彼はふらふらと立ち上がり、更地となった全てを見渡す。

 

「──じゃあ、止めるしかねえじゃねえか」

「……何で、何でなんだよ」

「覚悟したからな。隣に居るお前を守る。そして、俺の好きなポケモンの世界を守るって」

 

 抑え込むように、自分に言い聞かせるようにメグルは続けた。

 何もかも無くなってしまったわけではない。

 自分の守るべきものはまだ隣にある。そして、自分の守るべき世界が残っている、と。

 しかし、彼まだ、生まれ故郷が喪失したことすら実感できていなかった。

 これはまだ嘘で──どっきりで、夢の中の出来事ではないかと信じたい自分が居た。

 

「でもなぁ……もう一回だけで良いから……顔合わせたかったなぁ……」

 

 彼は弱い。

 元は只の、弱い人間だ。

 幾ら強くなって、サイゴクの英雄ともてはやされても、元は只の弱い人間でしかない。

 何も出来なかった。

 この世界の終焉の間際に──

 

「ふぃるふぃー……?」

 

 後ろから鳴き声が聞こえてくる。

 メグルは思わず振り向いた。

 そこには、心配そうな顔をしたニンフィアが立っていた。

 

「お前……」

「ふぃー」

 

 リボンを伸ばし──彼女はメグルの顔を包み込む。

 

「止せよ、ニンフィア。慰めなんて要らねえよ」

「……ふぃー」

「要らねえんだよ……」

 

 ぽた。ぽた。

 灰色の空から、濁った雫が降ってくる。

 そのまま、何もかもが消え去った静寂な世界に、雨音だけが響き渡るのだった。

 

(大丈夫、大丈夫だよ、メグル……ボク達は……居なくなったりしない。君がボクに言ってくれたようにね)

 

 

 

『私には、人の心が分からない』

 

 

 

 ──どれほど時間が経っただろうか。

 しばらくして、セレビィは呟いた。 

 目の前には、メグルとアルカが並び立っていた。

 足元ではニンフィアが相変わらず不機嫌そうに唸っている。

 雨が降りしきる中、メグルは頬を拭う。

 

『でも、私が元々居た世界も、裂け目によってニンゲンが滅びた。だから──これ以上、裂け目で滅びる世界を見たくはないのです』

「……そうだったのか」

「君も、同じだったんだね」

『この世界よりも、遥かに技術が発達した未来の世界。だけど、裂け目が一瞬で幾つも現れて──逃がされたのが、元から時空を渡る機能を限定的に授けられた私だった。あの世界が、どうなったかは分からない』

「……」

『でも、漸く辿り着いた。裂け目の原因、その根幹となる世界に。ポケモンの住む世界は幾つもあって、この世界に類似したポケモンの居ない世界も幾つもあって、気が遠くなるような旅だったけど──やっと、辿り着いた』

「……そうか。お前からすれば、これ以上ないチャンスだったんだな」

『ええ』

「……ごめん。そりゃあ、君の方にも事情があるよね」

『配慮が足りなかったのは私の方です。でも……その上で貴方達にもう一度頼みます。裂け目を、止めてほしい』

「あったりまえだ。止めてやるよ」

 

 メグルは力強く宣言する。

 もう、今は蹲っている場合では無かった。

 このままじーっとしていれば、ポケモンの世界もこの世界のように滅びてしまう。

 それどころか、連鎖的に災禍は広がっていく。他の世界にも。

 

「……それで、どうすれば良い」

『本当なら今すぐにでも戻ってきてほしいけど……その前に、私の力を貴方達に託すわ』

「お前の力?」

『ええ。だけど、この力は……私のシステムが認めた相手にしか託すことができない。その意味が分かりますか?』

「……要するにお前に戦って勝てってことだろ」

 

 こくり、とセレビィによく似たポケモンは頷いた。

 

「待ってよ、メグル。大丈夫なの? 本当に」

「……それが世界を救う為に必要な事なら、何が何でも手に入れてやる」

『──では、戦闘形態に入ります』

 

 目を一度閉じたセレビィは、大きく飛び上がり──メグル達の前に立ちはだかる。

 

 

 

「ぴるるるー……ピコココ」

 

【野生のテツノサクヤが 現れた!!】

 

 

 

 体は小さいが、凄まじい威圧感がメグル達を襲った。

 そして、彼女に内蔵されたバッテリーが更に彼女の力を増大させる。

 周囲には鉄の葉が浮かび上がり、彼女は甲高い咆哮を上げた。

 

【テツノサクヤの クォークチャージ】

 

【テツノサクヤはブーストエナジーで クォークチャージを発動した!】

 

【相手のテツノサクヤの 特攻が高まった!】

 

「──ッ結局、こうなるのか……アルカ、手出しは無用だ!! こいつは、俺が……決着をつける!!」

「う、うんっ……!!」

 

 廃墟が広がる中、メグルが繰り出したのは──アブソル。

 推定鋼タイプのテツノサクヤに抜群を突けるタイプだ。

 

「ぴるるるるー……」

「ピココ……ピピ」

 

 周囲を渦巻くようにアンノーンが現れる。

 それはビットのようにアブソルの周囲を飛び回ると、次々に”めざめるパワー”を放ち攻撃していく。

 だが、未来予知でそれを予測していたからか、あっさりとアブソルはそれを全弾避けてみせるのだった。

 

「──くそっ、こいつアンノーンまで操れるのか……!!」

「アブソルの機動力で何とかなってるけど、このままじゃ、ジリ貧だよ……!」

「いや、大丈夫だ……ッ! こっちには、ギガオーライズがあるからな……ッ!!」

「ダ、ダメだよ!」

 

 覚悟が決まり切った目で彼はオージュエルに手を伸ばそうとしたのをアルカは止める。

 

「何でだよ──ッ!? オオワザで一気に倒せば──」

「知ってるよ! フェーズ2を使うつもりなんでしょ!?」

「ッ……たりめーだ! あいつは強い、全力で戦わなきゃ……」

「今のメグルがそれを使ったら……ギガオーライズはトレーナーの感情で強くなるんでしょ!? 今のメグル、すっごく怖い顔してる……ッ!! 使っちゃ、ダメな気がする……ッ!!」

「……!」

 

 メグルは、自分でも自覚できていない程に顔が強張っていた。

 アルカに指摘されて、漸く気付いた。

 もしも、ギガオーライズを使えば、戸惑いなく自分の力を全てアブソルに注いでいた。

 

「此処で倒れたら、世界を救うどころじゃないよ!! そんなの、覚悟でも何でもないよ!!」

「……へっ、そうだな」

 

 メグルはメガリングに手を添える。 

 アブソルが頷いた。

 この後に更に大きな戦いが控えているのだ。 

 

「わりー、熱くなりすぎてた。メガシンカだ、アブソル!!」

「ふるーる!」

 

 進化の殻がアブソルを包み込み──そして爆ぜる。

 思いっきりアンノーン達の群れを弾き飛ばし、一気に進撃していく。

 見守っていたニンフィアも思いっきり声を張り上げ、応援する。

 

「進めアブソル!! ”むねんのつるぎ”!!」

「ぴるるー……ピコココ」

 

 

 

『生きとし生けるものは、ある時突然滅びるものなのですよ』

 

【テツノサクヤの ラスターカノン!!】

 

 

 

 

 閃光が灰色の町に満ち満ちた。間もなく、爆風がメグル達を包み込む。

 そして、一気にクレーターが開く。

 その中央に、アブソルは倒れていた。

 とてもではないが”ラスターカノン”などというレベルの威力ではない。

 戦艦の主砲を撃ち放した後のようだった。

 

「ふ、ふるる……ッ!!」

「大丈夫かアブソル……!?」

「しょ、正気……!? ボク達も巻き込んで殺す気……!?」

『私程度に苦戦しているようでは、あの脅威を取り除くことなんて出来ませんよ』

「……よく言うぜ。だけどな、まだ終わってねえよ」

 

 前脚を震わせながらも、アブソルは立ち上がり──テツノサクヤを睨み付ける。

 まだその目は闘志を失っていない。

 そして思いっきり地面を蹴り、再びテツノサクヤ目掛けて”むねんのつるぎ”を放つ。

 しかし、日本刀のような尻尾をいともたやすく彼女は避け続け、そして再びあの”ラスターカノン”を連発し続ける。

 だが、アブソル側も一度喰らった攻撃は喰らわない。

 自らの身体を分身させると、ラスターカノンをあっさりと分身に引きつけさせ、漸く最初の一撃をテツノサクヤにぶつけるのだった。

 

「ピルルッ……!?」

 

【効果は抜群だ!!】

 

 炎はかなり痛手なのか、テツノサクヤはアスファルトに叩きつけられ、更にアブソルの体力もぐんぐんと回復していく。

 だが、それでも全身から紫電を放ちながらテツノサクヤは浮かび上がった。

 仮に本当に鋼/草タイプならば今の攻撃は4倍弱点のはずだが──倒れていない辺り、レベル差に隔絶したものがあるのだろう、とメグルは考える。

 

(そりゃそうだ、どう考えても相手の方が格上だし……ッ!!)

 

「ふるーる!!」

「……でも、お前もやる気だよな」

 

 彼女は振り向いた。

 メグルに降りかかる災厄は自分の災厄。

 ならば、道行くすべては自分が全て祓うと言わんばかりだった。

 元より彼は自分の運命の人。

 彼の為ならば、アブソルは何処までも戦う事ができる。

 

「──ぴるるー」

 

 今度はアンノーンの群れが束になってテツノサクヤの周囲に固まっていく。

 それは次第に、巨大なテツノサクヤの形へと形成されていく。

 そして、アンノーン達のエネルギーを自らのコアに集めていき、テツノサクヤは一際大きな木の葉の嵐を巻き起こす。

 

 

 

【テツノサクヤの リーフストーム!!】

 

 

 

 轟々と巻き起こる大嵐。

 それが、アブソルを狙って襲い掛かる。

 だが既にアブソルは未来予知によって、嵐の渦を見極めており、敢えて突っ込んでいく。

 

「──”デュプリケート”だ、アブソル!!」

 

 一気に分身した彼女は、上昇気流を利用して一気に飛び上がった。

 そして、嵐の中央に居るテツノサクヤを目掛けて、一気に大量の影の弾をぶつけるのだった。

 それは風の壁など無視し、突き進んでいき、そして──テツノサクヤへぶつかっていく。

 

 

 

『……成程。貴方が覚悟を決めれば、ポケモン達もそれに応える。良い信頼関係です』

 

 

 

 嵐は消え失せた。

 その中央には──テツノサクヤがぱったりと倒れていた。

 そして、散らばっていたアンノーン達は、電飾のように次々に消えていく。

 

「おいっ、大丈夫か!!」

 

 思わずメグルは駆け寄った。

 此処でテツノサクヤに倒れてしまうと、ポケモンの世界に戻れなくなってしまう。

 しかし、至ってケロッとした様子でテツノサクヤは跳びあがる。

 

『はい、今のはあくまでも戦闘用リソースの一部ですので』

「……やっぱ強いな、お前。お前が一緒に戦ってくれるのが手っ取り早いんだけど」

『私には、まだ役目がありますので。直接貴方達を助けることはできません──だから、これが私の餞別です』

 

 メグルの手元には、あの透明な羽根が現れる。

 そして、光が灯ると共に、そこに金属製の装飾が現れた。

 

『貴方達の世界ではオーパーツと呼ぶものです。ただし……一度しか使えないので、ここぞという時に使ってくださいね』

「やっぱり使い切りなのか……」

『これ以上は、私の残るリソースを全て使わないといけないので……申し訳ないです』

「……そうか」

『貴方達がこれからやるべきことは、残る仲間を集め、戦う事です。必ず──裂け目の淵源を食い止めてください』

 

 彼女はふわり、と跳ぶと再び目の前に時空の裂け目を開く。

 

「──行こう、アルカ」

「……ねえ、もう大丈夫なの?」

「正直、大丈夫じゃねーけど……」

 

 メグルは一度俯くと──もう一度顔を上げ、裂け目に手を伸ばした。

 

 

 

「……止めなきゃいけねーだろ。何が何でも。俺の好きなポケモンの世界を……壊させやしねえよ」

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