ポケモン廃人、知らん地方に転移した。【完結】 作:タク@DMP
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「大合議の会場から、キャプテンが全員拉致られたァ!?」
快気祝いパーティの準備を進めていた矢先にノオトの耳に入ってきたのは、キャプテン全員が大合議の途中で謎のテロ組織に制圧され、連れ去られたことだった。
突然入ってきた悪夢のような出来事に、彼は頭が真っ白になってしまい、ルカリオに抱き留められる。
「わ、悪い、冗談か何かッスよね……!? 姉貴は、姉貴は帰ってくるんスよね……!?」
「……残念ながらヒメノ様も敵の手に」
「──まさかキリさんも!?」
「ッ……敵の中にはすながくれの抜け忍が……キリ様に匹敵する使い手だった、と……」
ひゅるるる、とノオトの口から魂が抜けていく。
普段は心強いがショッキングな出来事が起こると、一気に取り乱すのは姉も弟も同じのようだった。
しかし今回はショッキングの度合いがあまりにも強すぎる。
キャプテン全員が護衛諸共拉致という前代未聞の事態に、ノオトは気が遠くなりそうだった。
「バ、バカな事があるわけねえッス!! キリさんが、忍術で負けるわけがねぇんスよ……!! しかも、あそこの警備は厳重だったはず……ッ!! サイゴクが誇る、おやしろの忍者が警備していながら!! 何でキリさんや、姉貴まで連れ去られるんスか!?」
「分かりません……只、何らかのポケモンの技を使ったのではないか、とすながくれ忍軍は推測しています。人知では及ばない、恐ろしい技を使うポケモンが犯行の手助けをしたのではないか、と」
「キリさんが気付かないような事、あるんスか……!? そんな敵は一体……何処の馬の骨ッスか!!」
「犯人は【アークの船団】と名乗っており……大規模テロリストだと考えられています。近辺には円盤型の飛行船が浮上していたらしいですが、光彩ステルスで見えなくなってしまったと」
「え、円盤……!?」
ノオトは頭を抱える。
テング団とは真逆に、とんでもない近代技術を持った組織だ。
そして、そのような飛行船を抱えている以上、組織としての規模も財力も、恐らく想像以上。
長らく何処かの財団として水面下で力を蓄えながら、計画を決行するために準備を進めていたのだろうとノオトは考える。
いずれにせよ、サイゴクのキャプテン5人が不在で、ヌシだけが残っている現状は非常にまずい。
各町の指揮系統は麻痺しているも同然なのだ。住民やポケモンにとっての心の拠り所となるのがキャプテンなのだから、これが知られたが最後、サイゴクは大混乱に陥る。
結論、テング団との戦争以上の未曽有の危機に、現在のサイゴクは陥っているのである。
「しかし、事実として──」
「もう良い。それよりも、敵の中核メンバーには、ヒルギ様の姿があってですね──」
「え」
がくり、とノオトは膝を突く。
にわかに信じられなかった。
自分とバトルをして、シャワーズに認められてキャプテンになったヒルギが──頼れる大人だと思っていたヒルギが、敵だった。
そんな事、信じられるわけが無かったし、もし信じてしまえば、それを招き入れたのは他でもない自分だと認めるしかなかった。
「繰り返します。ヒルギ様は──敵です。サイゴクを出た後の経歴は全て嘘っぱちで、ずっとあのテロ組織に所属していたと……ひぐれのおやしろが断定しています」
「問題は、こうして発覚するまでひぐれのおやしろが彼の尻尾を掴むことが出来なかった点。巧妙に隠蔽されていたと思われます。敵は──組織規模として、相当巨大なものかと」
「……オレっちの所為だ……オレっちが、ヒルギさんを誘ったから……」
「しっかりしろ、我らがキャプテンッ!!」
ぐいっ、と僧の一人がノオトの胸倉を掴み上げる。
「キリ様も、御三家も、ヒメノ様も──ッ!! 今は居ないのです!! 今、このサイゴクに居るキャプテンは、貴方様しか居ないのですよ、ノオト様ッ!!」
「……そ、そう言われても……ッい、幾ら何でも無理ゲーッスよ……!! オレっち一人じゃあ……メグルさんも、アルカさんも、全然出ねえし……ッ!!」
「た、大変です、ノオト様!! テレビが!! テレビが!! 公共電波がジャックされて、こんな映像が──!!」
「今度は何ッスか……!?」
パチリ、と部屋のテレビに電源を点けると──現れたのは、白い髪をたなびかせた少女だった。
『サイゴク地方の皆の者! 突如キャプテンが居なくなり、さぞ困惑しているであろう!』
「な、何スかこの女の子……ッ!?」
『我々は【アークの船団】! そして、ワシの名はクガイ!! 我らは、争いの無き美しきポケモンの楽園を目指す同胞の集まりである!』
「テロリストの御題目なんざ、響かねえッスよ!」
「ノオト様、テレビから離れて!!」
「我々も見えません!! ヒメノ様に繋がる手掛かりやもしれないのですよ!?」
『今、サイゴク地方の上空には──幾つかの時空の裂け目が浮かんでいる。あれは、我々が開けたものだ』
「はぁーっ!?」
ノオトはテレビを鷲摑みにした。
キャプテン達を全員制圧した挙句、円盤を所持しており、更に時空の裂け目までこじ開ける。
彼女らは果たして何者なのか、と問いたいが今此処で問うても仕方がない。
ぐらぐら、とテレビを揺らすノオトだったが、配下の僧たちにひっぺがされ、大人しくするのだった。
『直に空が多くの時空の裂け目に覆われる。そうなれば、どうなるか分かるか? 時空の裂け目同士が繋がり、大きな孔を生む! ……それが、我らの目指す新時代の始まりだ!』
「じ、時空の裂け目同士が、繋がる……!?」
「どうなってしまうんだ、そうなったら……!!」
「いや、そりゃあ新時代が始まるんだろう?」
「アホーッ!! この世の終わりっしょ!? 普通に考えて!!」
『さて、我々は新たに本日、4人の同志を迎え入れた』
「……4人?」
ざっ、ざっ、とスタジオに現れたのは──見覚えしかない人影だった。
いずれも黒いガスマスクのようなものを取り付けられていたが、彼らの顔を見間違うはずがない。
『見よ!! これが、我々の思想に共鳴し、同志となったサイゴクのキャプテン達である!!』
全員は一言も言葉を発しはしない。
しかし正気ではないことは誰が見ても明らかだった。
目は虚ろに、そして赤く輝いている。
ユイも、ハズシも、ヒメノも、そして──キリも。
虚ろな顔でクガイの後ろで突っ立っているだけだ。
『こやつらは、アークの船団に……忠誠を誓ったのじゃ! はい、そこの忍者、復唱せい!』
「ハイ……チカイマス……」
『最早この通りである!』
(全然心の底から誓ってるように見えねえんスけど!! 頭に何かされたようにしか見えねえんスけど!!)
「な、何てこったッス……!! キャプテン全員、あいつらに洗脳されちまったッス……!!」
『さあ諸君。後は新時代が始まるのを見届けよ! 争いも日々の労働も搾取からも解放される、ただ一つの世界に全ては統一されるのじゃ!』
ブツン。
そこで、ゲリラ生放送は終了した。
とんでもないことになったぞ、とノオトは頭を抱える。
あまりにも敵は巨大すぎる。
この時点で、自分以外のキャプテン5人が敵に回ってしまったも同然なのだ。
そして現在進行形で鬼電しているが、メグルもアルカも全く出る様子が無い。それが更に苛立ちを加速させる。
(あんのバカップル共、この一大事に一体何処に行ったんスか……!!)
「ノオト様、どうされますか!!」
「ど、どうするって言われても……ッ! あ、姉貴も、キリさんも居ねえんスよ……!? メグルさん達も──居ねえし!! オレっち一人で!?」
弱音が次から次へと口から零れだしてくる。
無理もない。テング団との戦いのときでさえ、此処まで絶望的な戦力差ではなかったのだから。
「姉貴も……キリさんも……誰も居ない……ッ、今、あの人たち助けられるのはオレっちだけ……!!」
かたかた、と揺れるボール達。
(いや、オレっちだけじゃない……か)
「……胃薬」
「え?」
「胃薬ッ!!」
ノオトは何時になく荒れながら──ヒメノがいつも飲んでいるそれを、ぐびりと水で押し込んだ。
「……へ、へへへ、や、やってやらぁ……ッ! オレっちだけじゃ絶対無理だけど……!」
※※※
「何だ……どうなってんだ、此処……?」
「暗い、寒い……? 廃墟みたいだけど」
空が灰色だった。
しかし、無数の赤い裂け目が空を覆っていた。
辺りは焦土と化しており、ビルらしきものが建っていた形跡だけが残っていた。
メグルはアルカの手を引いて、ニンフィアの姿を探す。
先に落ちて来たのは彼女のはずだが、何処にも見当たらない。
「おーい、ニンフィアーッ!! いるんだろー!? 返事してくれーっ!!」
「ねえ、此処って、何処なの……?」
「分からねえ。だけど、時空の裂け目って事は……どっかの世界みてーだけど……」
町が荒廃し過ぎていて、原形を留めていない。
だが、しばらく進んでいくと──メグルは足を止めた。
見慣れた街並みだった。
見慣れたアスファルトだった。
そして、見慣れた気色だった。
焼け焦げて、崩れ落ちてしまっていたが、あまりにも象徴的なそれを見た瞬間、身体が凍り付いた。
赤く、そして長い、圧し折れた塔。
今まで自分が居た世界には絶対に存在しないはずのもの。
思わず彼は駆けだした。
「メグル!?」
もっとはっきりとそれが見える位置まで駆けていく。
「ねえっ、メグルっ、待ってよ!! 待って!! どうしたのさ!! ニンフィアを探すんじゃないの!?」
「ッ……!!」
それの麓に辿り着いた時。
メグルは絶句した。
この辺りの街並みは、幾度となく通った場所だ。
「おい冗談だろ……ッ」
「ねえ、どうしたんだよ……置いていかないでよ……ッ!」
「ご、ごめん! だけど、この世界……見覚えがあるんだよ」
「え?」
「……間違いねえ、この町は……俺の住んでいた町と同じだ」
東京タワーだ。
東京タワーが圧し折れている。
辺りの街も原形を留めない程に焼け焦げている。
何が起こったのかは分からない。
分からないが──これだけは言える。
この世界は、自分が元居た世界か、それに極めて近い世界だ、と。
「これが、メグルの居た世界?」
「いや、いやいやいや、でもおかしいって! だって、俺があっちに行く前は、こうじゃなかったし……ッ!!」
『聞こえる?』
ふと、声が響いた。
メグル達の目の前に現れたのは──全身が機械に覆われたセレビィのようなポケモンだった。
アルカもぎょっとして、その異形におののく。
「……お前は」
「あーっ、メグルが言ってた、全身メカのセレビィ!!」
『そう……聞こえるみたいですね』
前回とは違い、はっきりとセレビィの声が聞こえてくる。
言葉ではない。テレパシーだ。エスパータイプか、それに類する力を持つポケモンの標準技能と言えるだろう。
「何でお前がこんな所に居るんだよ!?」
『ごめんなさい。時が来たから……漸く、私が私の力を取り戻せたから、手始めに貴方達をこの世界に呼んだのです』
「呼んだって──じゃあ、あの吸い込まれたのって、君がボク達を此処に呼んだからってこと!?」
「なあ、どうなってやがんだこれは。何がどうなってる!? この世界、あちこちが廃墟になってるし……誰も居ねえじゃねえか」
『もうじき、貴方達の知るポケモンの世界は……ううん、他の世界も……この世界のようにズタズタになる』
「ズタズタ……?」
そう言えば、とメグルはもう一度空を見上げた。
裂け目のようなものが無数に虚空に開いている。
この世界が滅んだ理由があるとするならば、間違いなくあの裂け目にあると彼は考える。
「ねえ、あれって時空の裂け目、だよね!? ボクもヒャッキで見た事がある……!!」
「こんな形だったか?」
「うんっ、間違いないよ!! ヒャッキには、各所にこんな感じの裂け目があるんだ……!! でも、此処まで数は多くなかった!! だって、空全部を覆ってるじゃん、裂け目!!」
小さい裂け目は空を覆っており、更に大きな裂け目が開いている。
空はズタズタに裂かれていると言っても良い。非常に気味が悪い。
「LEGENDSアルセウス」で神のポケモンが開けた裂け目とは、また違う。
『裂け目自体は自然に発生するものです。言ってしまえば神の悪戯といったところね」
「悪戯ってレベルを超えてると思うんだけど」
『そう。神の領域に手を伸ばした人間が居るのです。裂け目を意図的に幾つも開き、時空に干渉しようと考えている者が居る。それが、貴方達が止めなければならない相手』
「あれって、開こうと思って開けるのか!?」
『ええ。だけど、開いて終わりじゃない』
「ねえ、裂け目を開いたら何か悪い事が起こるってことだよね!?」
『ある世界で裂け目を開けば、別の世界にも裂け目が開く。先ずは前提としてこれを覚えてほしいのです』
山にトンネルを貫通させれば、もう片方にも穴が出来る。
それと同じようなものだ、とセレビィは例えてみせた。
しかし、事はそれだけで済むような単純な話ではないようだった。
『ただ、非常に面倒なことに……ある世界で裂け目を
「傍迷惑な! 一体誰がそんな事を……? それじゃあ、色んな世界から色んなものが流れて来ない!?」
「まさか」
メグルは辺りを見回した。既に、この世界が滅んだ理由を示唆しているようだった。
「なあ、セレビィ……セレビィで良いのか? まあいいや、この世界は……何でこんな事になっちまったんだ」
『至極簡単。開いた裂け目から、運悪く災厄が運ばれた。例えば……ある世界へ飛んでくるはずだった巨大隕石とか。例えば……ある世界で蔓延するはずだった疫病とか。そういった無数の災禍がこの世界を襲って、あっという間に滅びた』
「……そうか」
「裂け目から、災禍が溢れて来たってこと……!?」
ぴたり、とメグルはもう一度東京タワーを見上げる。
そして確かめるように、セレビィに聞きたかったこと全部を問うことにした。
だが、あの東京タワーを見てしまった後だからか、嫌な汗が額を伝っていた。
「なあ、この際だから教えろよ。何で俺を転移させたんだ、セレビィ」
『貴方を連れて来た理由?』
「ああ。ハッキリ言って俺、ポケモン廃人って事以外は何の取柄もないんだぜ。そりゃあ、あっちで鍛えまくって前よりは色々出来るようになったけど……フツー以下の人間だ。何で俺を連れて来たんだ」
元々彼はそれが聞きたくてセレビィのようでセレビィではない、このポケモンを探していたのだ。
しかし、今は聞きたくないという気持ちも半ばだった。聞くのがとても怖くなっていた。
それでも、彼は問い詰める。
「……答えろよ。今度ははぐらかしたり、誤魔化したりとかナシだぞ」
『率直に言えば──気分を害するかもしれないけど、ポケモンが好きな人だったら誰でも良かった』
駆動音を鳴らしながらセレビィは言った。
誰でも良かった、という言葉に少しだけメグルは憤りを覚えたが──セレビィはふざけている様子は一切見せなかった。
『それくらいしか、選んでいられなかった。1人しか助けられなかったから。たまたまあの場に居たのが君だった』
「……待てよ。助けられなかったってことはやっぱり……」
『そう』
セレビィはくるり、と一回転すると──手を広げた。
『──此処が、メグル……貴方が居た世界。そして……裂け目を放置した先にポケモンの世界が辿る未来でもあります』